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第2章
34 take double the payback
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「なんで吸血鬼のアンタがこんなところに!」
そう叫んだ私に、鋭い犬歯を覗かせてクライブは微笑う。
「相変わらず甘ったれだな…。知りたきゃ俺を捕まえてみな、お嬢ちゃん…」
私が「待て!」と言った瞬間、クライブは闇に消える。
「ローザ!あんなヤツ無視してもう1回さっきの隠蔽かけられない!?」
「隠蔽解除の術者を倒すか解除させない限り再発動はできませんわ!」
けたたましい警告音が鳴り響くラボに、次々とアンドロイド兵があらわれる。
その中には左右逆のサイドポニーに髪をまとめた白い少女、アニーとサリーもいる。
「私たち、あいつらに殺されたらしいよ、アニー」
「ああ、今度は慎重に行こう、サリー…」
アイナとセリナが臨戦態勢に入る。
「ここはアタシたちに任せて、ボスはアイツを追ってくれ!」
セリナがそう言って、アイナとともに右腕を刃物に変える。
ケイトとアンズも銃を構える。
ライラが無言でパンッ!と私の背中を叩き、ローザは私を見て頷く。
「わかったわ!みんな、死なないでよ!」
私はそう言ってクライブのあとを追って闇と同化しながら駆け出す。
背後で銃声や爆発音とともにライラの「当たり前でしょ!」という声やアイナの「指令を承った!」という声が響く。
クライブの血なまぐさい匂いは、私の嗅覚で捉えている。
きっと、わざと私が追ってこれるようにしているんだと思う。
******
クライブを追いながら、私は先ほど頷いたローザの眼差しの意味を考える。
《もう、あんなヤツに負けてはなりませんわ》
たぶん、そう言いたかったんだと思う。
前にアイツと戦った時は、戦いにさえならなかった。
偽りの夜明けとかいう固有能力の光で眠らされて、自分の力を出すことができないまま胸を触られて私は泣いた。悔しい。むかつく。
でもローザに言われた通り、私はすぐ感情に任せて突っ込んでしまうせいで、吸血鬼との戦いではこれまで良いように振り回されてばかりだ。
ハルバラムの城で戦ったカミーユにも血まみれの茨とかいう固有能力で縛られて私一人では何もできなかったし、そう言えばハルバラムにも『吸血鬼の闘争にはもう少し知性がなくては』みたいなことを言われた。
きっと、機械や魔物との戦いとは違って、力比べじゃなくて騙し合い。
そういうことなんだと思う。
…苦手だけど。でも。
私だってやられっぱなしじゃいられない。
倍にして、やり返してやるわ。
私はラボを抜けて細い通路を通って、次々にあらわれるアンドロイド兵を最小限の動きで破壊しながら、クライブを追いかけた。
******
クライブの匂いが行き着いた先は、アイナとセリナの記憶の中で見た訓練場だった。
広大な空間は室内なのに土煙が舞う荒野のようで、壁や天井には青空が映し出されている。
「おやおや、お嬢ちゃん。一人で大丈夫か?」
クライブはキザったらしく長髪をかきあげて微笑う。
「…言い遺す言葉はある?」
私の言葉に、クライブは眉根を寄せて「は?」と言う。
「アンタは今から死ぬのよ。最後の言葉があるなら聞いてあげるわ」
クライブは身体を折り曲げて「くっくっく…」と笑い声を漏らす。
「はっはっはっは!面白い冗談だな!前回どんな目にあったか、もう忘れたのか!?」
クライブは下卑た笑顔で私を見て「つまらなかったぜぇ?」と言う。
何のことかわからず何も答えない私にクライブは指を差す。
「お前の胸、小さすぎて男かと思ったよ」
――――……!!!!!
私の身体中から魔力が燃え上がって背中から雷竜の翼が、おしりから尻尾が生えて全身を電流がバチバチとほとばしる。
「もう許さないわ!悪魔王の憤怒!!!」
私は全力で地面を蹴って駆け出す。
「バカのひとつ覚えだな!偽りの夜明け!」
クライブの身体から眩い光が放たれ、私はガクッと膝をつく。
全身を纏っていた電流も消えて、ふらふらと頭を振る。
「まったく、学習能力ってもんがないのかお前は…」
クライブは一歩一歩、ゆっくりこちらに歩いてくる。
「パワーはそれなりにありそうだが、そんなことじゃ吸血鬼としては下級に毛が生えたくらいのもんだぜ?」
四つん這いの姿勢になった私の襟首を掴んでクライブは私の身体を引き上げる。
「しかしまあ、『あの方』も何だってこんな小娘に血をお与えになったのか…」
クライブは呆れ顔を浮かべ、もう片方の手で私の髪の毛を掴む。
「まあ、それも今から俺のもんになるなら文句はないが…」
そう言ってニチャアッとクライブは牙を剥き出しにする。
私の首筋に噛みつこうと口を大きく開き、顔を近付けたその瞬間。
ドスッ!
私の右手がクライブの胸を貫いた。
「――――な、なんだと…!?」
目を丸くするクライブの腹を私は蹴って身体ごと吹っ飛ばす。
ズシャアッ!
地面を転がったクライブが私を見上げて息を呑んだ。
私の右手には血の滴る真っ赤な塊。
クライブの心臓だ。
「な…なぜだ…!お前は、偽りの夜明けで、む、無力化させたはず…!」
私の身体は薄っすらと透明な膜で覆われている。
怒ったふりでバチバチさせた激しい電流のあとでは気付かないほど薄い膜。
アイナとセリナの血を吸って得たバリア。
そこにローザの血で得た聖なる力を混ぜている。
うまくいくかどうかイチかバチかだったけど、どうやらうまくいったみたい。
でも私は教えてやらない。
地面に這いつくばったクライブを見下ろして言う。
「訊いて教えてもらおうなんて、甘ったれてるんじゃないわよ」
クライブは口から血を流して歯ぎしりをする。
それを見て私は右手の手のひらの上にあるクライブの心臓をひとかじりする。
「――あっ…!」
クライブが愕然とした表情を浮かべる。
生臭い血の味が私の口中に広がる。
吐き出してしまいそうだったけど我慢して飲み込む。
私の身体の中にクライブの記憶の一部と偽りの夜明けが溶け込むのを感じる。
それで私は実感する。
血液は情報であり、その中心である心臓にはそれが特に集中している。
ひとかじりで、固有能力のほとんどを手に入れることができた。
もうひとかじりしてもう少し深い記憶も入りかけたけど、もう充分。ていうか臭すぎ。
私は口の中の血をベッと吐き出す。
「不味いわね…。アンタの血、生ゴミみたいな味しかしないわ」
クライブは地面から起き上がれないまま私のほうに手を伸ばし「か、返せ…」と声を絞り出した。
私は右手から心臓を地面に落とす。
クライブは腹這いになってズリズリと近寄り自分の心臓に手を伸ばす。
グシャッ!!!
私はクライブの目の前で心臓を踏み潰した。
「あッ…!ひ、酷い…っ!」
クライブは泣き出しそうな顔になって両手で自分の髪を掻きむしった。
その指先からボロボロと灰になって崩れていく。
「ふん…私を怒らせた罰よ…」
クライブは「あアァあぁ、アァァァああァァあぁぁァ………!!!」と泣き喚きながら灰になって、最後に真顔でポツリと呟いた。
「やはり、悪魔の子か…」
どこからともなく風が吹いて、サァァァ…とクライブは砂埃とともに崩れ去った。
私は最後にわけのわからない憎まれ口を叩かれて頬を膨らます。
「何よ、吸血鬼に悪魔だなんて言われる筋合いはないわよ…」
そう叫んだ私に、鋭い犬歯を覗かせてクライブは微笑う。
「相変わらず甘ったれだな…。知りたきゃ俺を捕まえてみな、お嬢ちゃん…」
私が「待て!」と言った瞬間、クライブは闇に消える。
「ローザ!あんなヤツ無視してもう1回さっきの隠蔽かけられない!?」
「隠蔽解除の術者を倒すか解除させない限り再発動はできませんわ!」
けたたましい警告音が鳴り響くラボに、次々とアンドロイド兵があらわれる。
その中には左右逆のサイドポニーに髪をまとめた白い少女、アニーとサリーもいる。
「私たち、あいつらに殺されたらしいよ、アニー」
「ああ、今度は慎重に行こう、サリー…」
アイナとセリナが臨戦態勢に入る。
「ここはアタシたちに任せて、ボスはアイツを追ってくれ!」
セリナがそう言って、アイナとともに右腕を刃物に変える。
ケイトとアンズも銃を構える。
ライラが無言でパンッ!と私の背中を叩き、ローザは私を見て頷く。
「わかったわ!みんな、死なないでよ!」
私はそう言ってクライブのあとを追って闇と同化しながら駆け出す。
背後で銃声や爆発音とともにライラの「当たり前でしょ!」という声やアイナの「指令を承った!」という声が響く。
クライブの血なまぐさい匂いは、私の嗅覚で捉えている。
きっと、わざと私が追ってこれるようにしているんだと思う。
******
クライブを追いながら、私は先ほど頷いたローザの眼差しの意味を考える。
《もう、あんなヤツに負けてはなりませんわ》
たぶん、そう言いたかったんだと思う。
前にアイツと戦った時は、戦いにさえならなかった。
偽りの夜明けとかいう固有能力の光で眠らされて、自分の力を出すことができないまま胸を触られて私は泣いた。悔しい。むかつく。
でもローザに言われた通り、私はすぐ感情に任せて突っ込んでしまうせいで、吸血鬼との戦いではこれまで良いように振り回されてばかりだ。
ハルバラムの城で戦ったカミーユにも血まみれの茨とかいう固有能力で縛られて私一人では何もできなかったし、そう言えばハルバラムにも『吸血鬼の闘争にはもう少し知性がなくては』みたいなことを言われた。
きっと、機械や魔物との戦いとは違って、力比べじゃなくて騙し合い。
そういうことなんだと思う。
…苦手だけど。でも。
私だってやられっぱなしじゃいられない。
倍にして、やり返してやるわ。
私はラボを抜けて細い通路を通って、次々にあらわれるアンドロイド兵を最小限の動きで破壊しながら、クライブを追いかけた。
******
クライブの匂いが行き着いた先は、アイナとセリナの記憶の中で見た訓練場だった。
広大な空間は室内なのに土煙が舞う荒野のようで、壁や天井には青空が映し出されている。
「おやおや、お嬢ちゃん。一人で大丈夫か?」
クライブはキザったらしく長髪をかきあげて微笑う。
「…言い遺す言葉はある?」
私の言葉に、クライブは眉根を寄せて「は?」と言う。
「アンタは今から死ぬのよ。最後の言葉があるなら聞いてあげるわ」
クライブは身体を折り曲げて「くっくっく…」と笑い声を漏らす。
「はっはっはっは!面白い冗談だな!前回どんな目にあったか、もう忘れたのか!?」
クライブは下卑た笑顔で私を見て「つまらなかったぜぇ?」と言う。
何のことかわからず何も答えない私にクライブは指を差す。
「お前の胸、小さすぎて男かと思ったよ」
――――……!!!!!
私の身体中から魔力が燃え上がって背中から雷竜の翼が、おしりから尻尾が生えて全身を電流がバチバチとほとばしる。
「もう許さないわ!悪魔王の憤怒!!!」
私は全力で地面を蹴って駆け出す。
「バカのひとつ覚えだな!偽りの夜明け!」
クライブの身体から眩い光が放たれ、私はガクッと膝をつく。
全身を纏っていた電流も消えて、ふらふらと頭を振る。
「まったく、学習能力ってもんがないのかお前は…」
クライブは一歩一歩、ゆっくりこちらに歩いてくる。
「パワーはそれなりにありそうだが、そんなことじゃ吸血鬼としては下級に毛が生えたくらいのもんだぜ?」
四つん這いの姿勢になった私の襟首を掴んでクライブは私の身体を引き上げる。
「しかしまあ、『あの方』も何だってこんな小娘に血をお与えになったのか…」
クライブは呆れ顔を浮かべ、もう片方の手で私の髪の毛を掴む。
「まあ、それも今から俺のもんになるなら文句はないが…」
そう言ってニチャアッとクライブは牙を剥き出しにする。
私の首筋に噛みつこうと口を大きく開き、顔を近付けたその瞬間。
ドスッ!
私の右手がクライブの胸を貫いた。
「――――な、なんだと…!?」
目を丸くするクライブの腹を私は蹴って身体ごと吹っ飛ばす。
ズシャアッ!
地面を転がったクライブが私を見上げて息を呑んだ。
私の右手には血の滴る真っ赤な塊。
クライブの心臓だ。
「な…なぜだ…!お前は、偽りの夜明けで、む、無力化させたはず…!」
私の身体は薄っすらと透明な膜で覆われている。
怒ったふりでバチバチさせた激しい電流のあとでは気付かないほど薄い膜。
アイナとセリナの血を吸って得たバリア。
そこにローザの血で得た聖なる力を混ぜている。
うまくいくかどうかイチかバチかだったけど、どうやらうまくいったみたい。
でも私は教えてやらない。
地面に這いつくばったクライブを見下ろして言う。
「訊いて教えてもらおうなんて、甘ったれてるんじゃないわよ」
クライブは口から血を流して歯ぎしりをする。
それを見て私は右手の手のひらの上にあるクライブの心臓をひとかじりする。
「――あっ…!」
クライブが愕然とした表情を浮かべる。
生臭い血の味が私の口中に広がる。
吐き出してしまいそうだったけど我慢して飲み込む。
私の身体の中にクライブの記憶の一部と偽りの夜明けが溶け込むのを感じる。
それで私は実感する。
血液は情報であり、その中心である心臓にはそれが特に集中している。
ひとかじりで、固有能力のほとんどを手に入れることができた。
もうひとかじりしてもう少し深い記憶も入りかけたけど、もう充分。ていうか臭すぎ。
私は口の中の血をベッと吐き出す。
「不味いわね…。アンタの血、生ゴミみたいな味しかしないわ」
クライブは地面から起き上がれないまま私のほうに手を伸ばし「か、返せ…」と声を絞り出した。
私は右手から心臓を地面に落とす。
クライブは腹這いになってズリズリと近寄り自分の心臓に手を伸ばす。
グシャッ!!!
私はクライブの目の前で心臓を踏み潰した。
「あッ…!ひ、酷い…っ!」
クライブは泣き出しそうな顔になって両手で自分の髪を掻きむしった。
その指先からボロボロと灰になって崩れていく。
「ふん…私を怒らせた罰よ…」
クライブは「あアァあぁ、アァァァああァァあぁぁァ………!!!」と泣き喚きながら灰になって、最後に真顔でポツリと呟いた。
「やはり、悪魔の子か…」
どこからともなく風が吹いて、サァァァ…とクライブは砂埃とともに崩れ去った。
私は最後にわけのわからない憎まれ口を叩かれて頬を膨らます。
「何よ、吸血鬼に悪魔だなんて言われる筋合いはないわよ…」
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