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第2章

33 sneaking mission

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同行を希望していたアンドロイドのレジスタンスたちは、機械の村人たちを反重力モビリティに乗せて安全な場所に避難させることを優先し、マザー討伐には結局、私とローザとライラ、アイナとセリナ、ケイトとアンズだけで向かうことになった。

『私たちの分も、どうか頼む…!』
『他の球体世界スフィアの君たちに、何もかも任せて済まない…』

別れ際、アンドロイドのレジスタンスたちは口々にそう言って私たちとハグや握手をした。機械の村長パオランや村人たちも拙い言葉ながらエールを送ってくれた。

私は力強く『大丈夫!私に任せて!』と胸を張った。


******


「それにしても、もうちょっとマシな行き方はなかったのかしら…」

自動走行の輸送機が揺れるたびに、壊れたアンドロイドの脚のかかとがコツコツ私の頭を小突く。その脚をどけようにも、胴体やら腕やら頭やら、たくさんのアンドロイドの残骸が絡み合っていてどうにもうまくいかない。

マザーのもとへ向かうため、私たちは戦場で破壊されたアンドロイドの残骸を運ぶ輸送機のコンテナの中に潜んでいた。

マザーの居場所はメルカ共和国の首都、ニューバラッド。
その全域には、あらゆるステルスを無効化するセキュリティ障壁が張られているらしい。
それを潜り抜けるためのケイトの案が、これだった。

私は『そんな障壁、ぶっ壊して進んじゃえばいいじゃない』と言ったが、ケイトはため息混じりに『物理的な壁ではないので壊すとかいう話ではない。障壁を破って侵入すれば必ず発見され、大量のアンドロイド兵との戦闘になる。我々のターゲットはあくまでもマザーだ。消耗を避けるためにも戦闘は最小限に抑えたい』なんて言うし、ローザまで『感情任せで勝てる戦はありませんわよ、リリアス様』と言うものだから、私は『ぐぬぬ…』となりながらも従わざるを得なかった。

「仕方ありませんわ、リリアス様。魔力の温存のためには、わたくしの隠蔽シールはなるべく使わないでおくに越したことはありませんからね」

スクラップの山、壊れたアンドロイドのお尻の向こうでローザはそう言った。
その言葉にケイトが付け加える。

「この輸送機は高速だ。先ほど我々が乗り込んだ前哨基地からニューバラッドの中枢までそう長くはかからない。夜中のうちには着くだろう。確かに乗り心地は良くないが、もう少しの辛抱だ」

ケイトによれば、この輸送機は司令部に隣接するラボの義体処理場というところに向かっているらしい。なるべく資源を無駄にしないため、戦場で壊れてしまったアンドロイド兵の残骸は、可能な限り回収されて再利用されるのだそうだ。

コンテナに乗り込む前にライラが『この中はチェックされたりしないの?』と訊いたが、ケイトは『通常物資の搬送はエラーがないか内容物をスキャンされるが、スクラップをわざわざ確認することはない』と答えた。

なので、確かにこの移動方法は安全で効率がいいんだと思う。
乗り心地の悪さだけ我慢すれば。

私の頭を何度も小突くアンドロイドのかかとを「もう!」と私は払いのける。
その拍子に山積みになっていた残骸が崩れてドチャドチャドチャ!と私の上に降りかかって思わず「きゃ!」と短い悲鳴が漏れる。

「リリアス、何があった」
「わかったぞ。ボス、死体の山にいるみたいで怖いんだろ?」

アイナとセリナが私を見てそう言った。

「別に怖くはないけど、脚が邪魔だったのよ…」

セリナの言う通り、確かにアンドロイドの残骸は死体のように見えなくもない。でも、壊れた義体からは管やら何やら複雑な部品のようなものが飛び出ていて、やはり人間というより人形にしか見えず、無表情なのが不気味ではあったけどあまり怖いとは感じなかった。

「アイナとセリナも、中身はこんなふうになっているの?」

降りかかってきたアンドロイドの残骸を片付けながら私はそう尋ねた。
アイナとセリナは顔を見合わせてから答える。

「いや、ナノテクノロジーの結晶である我々の義体とはまったくの別物だな」
「こいつらは旧型のアンドロイド兵だよ。アタシたちと違って血も流れてないだろ?」

言われてみれば確かにそうだ。アンドロイドの残骸からは血が流れていない。
アイナやセリナとはまったく違う。
私は壊れた人形のようにしか見えないアンドロイドの残骸と、白いだけで普通の女の子にしか見えないアイナとセリナを見比べて呟いた。

「なんで、あなたたちだけそんなに人間っぽくしたのかしらね…」


******


「さあ、そろそろ到着だ。準備はいいか?」

輸送機にしばらく揺られると、ケイトがそう言った。

「それでは皆様に隠蔽シールをかけていきますわ」

ローザが両手から淡い光を放って、私たちに術をかけていく。
すべてのものから存在を隠すこの術は魔力消費が大きいらしいけど、私たち7人にかけても短時間なら問題ないそうだ。
この前は5人に4日でローザの魔力は空っぽになったから7人だと、えっと、ちょっと、よくわからないけど。

私たちはこの隠蔽シールで隠れて、到着した輸送機から義体処理場、ラボを抜けて、司令部の中枢まで潜入する。セリナがアイソレーターポッドを使ってマザーとネットワークを分断したら、みんなで一気に破壊する。
それが私たちの作戦だった。

「C-36輸送機、到着。処理槽へとスクラップの放出、開始」

ブザーとともに機械の音声が響いたと思った瞬間、私たちがいたアンドロイドの残骸の山が一気に崩れ落ちる。足場を失った私たちは、雪崩のように落ちていく壊れた腕や脚や胴体に流されて「わ!」「きゃ!」とそれぞれに短い悲鳴を上げる。

狂乱葛草クルイカズラ!」

ライラの声が響いて、私の身体にツタが絡みつく。

ドドドドドドド…!激しい衝撃のあとに轟音が響いて、混乱したまま状況を確認すると、私たちは全員ライラの出したツタに絡み取られ、輸送機のおなかにぶら下がっているようだった。私たちがいたコンテナの底が抜け、崩れ落ちたアンドロイドの残骸はその下の巨大な穴に飲み込まれている。穴の中では大きな刃のようなものが回転していて、バキバキバキと音を立て、義体が砕かれているようだ。

「ライラがいなければ、わたくしたちもミンチになるところでしたわね…!」

ローザのその言葉に私の背中に寒気が走る。

「危ないところだったね!さあ、飛べる人は飛んでね!」


******


ライラの機転で事なきを得た私たちは、処理場をあとにしてアイナとセリナの先導でラボへと向かった。

ラボにはアイナとセリナの血を吸った時に見た記憶の通り、ガラス製の大きな容器がいくつも並んでいたけど、その中には培養液は入っていなかったし、ラボで研究に勤しむエンジニアたちも見当たらなかった。

無人のラボを私たちは走る。

隠蔽解除アンチシール

突然、男の声が響き、私たちにかけられたローザの隠蔽シールが解除される。

「警報。ラボに侵入者を発見。ガードは即座に出動してください。警報。ラボに侵入者を発見。ガードは即座に出動してください」

機械の音声が鳴り響き、照明が赤く点滅する。

「な、なんで!?」
「くくく…」

うろたえる私たちを嘲笑いながら柱の陰からあらわれたのは真っ黒な服に赤い長髪の男。
闇騎士のクライブだった。
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