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第2章

32 get up

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「森ノ中にパオランさんヤ子供タチガマダ…!」

上空からセリナのサーチモードで見つけ出した機械反応の近くに着陸して飛び出した私たちを最初に出迎えたのは、燃え上がる森の中から逃げ出してきていた数人の機械装甲兵の村人たちだった。みんな金属のボディの至るところが真っ黒に煤けている。

炎が渦巻く森の中に機械装甲兵の村長と機械の子供たちがまだ取り残されているという。
ここにいない他の村人たちやアンドロイドたちもまだ炎の中だろう。

「くそっ!火の手が強すぎて機械反応を拾えないっ!!」

そう言って取り乱すセリナの横で私はケルベロスを呼び出して村人たちの匂いを嗅がせる。匂いだって炎のせいでちっとも感じられないし、そもそも普段から機械やアンドロイドの匂いは感じ取りにくいけど、中に入って近くに行けば似た匂いの村人たちを感じ取れるかもしれない。

「先にお願い!ケルベロス!」

私がそう言うと、ケルベロスは「ばうっ!」と吠えて炎の中に飛び込む。
地獄の火炎を操る魔犬はこんな炎なんか問題じゃない。
それから私はフェンリルも呼び出して「吹雪で少しでも鎮火させて!」と言う。

「みんなはここにいて!」

私はそう言い残してメラメラと燃える森の中に駆け込む。

「リリアス様!」「リリアス!」というローザとライラの叫び声が聴こえたけど私は振り向かない。一般的な吸血鬼ヴァンパイアは炎に弱いらしいけど、ヒドラや雷竜ヴァルゲスなどの血肉を得ている私ならきっと大丈夫。炎で私の服が燃え上がって皮膚がチリチリするけど焼けた片っ端から再生していって、うん、やっぱり大丈夫そう。このままじゃ全裸になってしまいそうだけど今はそんなこと気にしない。バキバキバキと倒れてくる木々をかいくぐって押し退けて私は進む。前も後ろもわからない炎の中を。

「リリアス!」「ボス!」

ゴウゴウ燃え上がる炎の音とメキメキ折れてガラガラ倒れる木々の音に混じってアイナとセリナの叫び声が聴こえる。

「我々も救出活動を支援する!」
「ていうか侍女を置いていくなよな!」
「アイナ!セリナ!あなたたち、炎は大丈夫なの!?」
「全身に薄くバリアを纏えば問題ないよ!ボスもできるだろ!?」

セリナに言われて試してみる。自分の前に光の壁を展開するのではなく、光の膜を体の外側に纏うイメージ。少しコントロールが難しくて「それじゃ分厚すぎるよ!もう少し薄く!」「そうだ、皮膚の外側にもう一枚皮膚がある意識だ」というセリナとアイナのアドバイスを受けて何とか形になる。助かった。これで全裸は免れた。

「ありがと!それじゃあ探しましょう!」


******


私の中に長い時間入っているせいか、ケルベロスともフェンリルとも心が繋がっているのをその時改めて実感できた。

燃え上がる森の騒音の中で聴き取りにくいはずのケルベロスの遠吠えが遠くから聴こえて、それが生存者発見の合図だということがはっきりとわかる。

私はケルベロスのいる場所に向かって駆け出すとともに、《フェンリル!お願い!》と心の中で叫ぶ。消火活動にあたっていたフェンリルがケルベロスのもとへ向かうのが感じられる。あの子が行けば何もかも凍りつかせてしまう吹雪で、生存者のまわりの炎も消し止められるだろう。

「アイナ!セリナ!本気で行くから抱えていくわよ!」

アイナとセリナの返答を待たずに私は彼女たちを両脇に抱え、全身を稲妻そのもののようにして炎の森を突っ切る。行く手を阻む木々もお構いなしに吹き飛ばしていく。


******


それを何度も何度も繰り返し、私たちは燃え上がる森の中に取り残されていた機械装甲兵やアンドロイドたちを救出した。

「アリガトウゴザイマス…!コレデ確かに全員デス…!!」

森の外で点呼を終えた村長のパオランが私の手を握って言った。
金属音を軋ませて何度も頭を下げ、機械の合成音声で何度も「アリガトウゴザイマス」と言った。

「よかったわ…!無事で何よりよ…!」

パオランの手を握り返して、私はそう言った。

「本当に…ありがとうございました…!」

レジスタンスのアンドロイドたちも、私のもとに集まって頭を下げる。
ケイトとアンズも私の手を取り、「本当に、何と礼を言っていいか…!」「私たち全員の命の恩人よ…!」と言った。私は照れくさくて話題を変える。

「そんなことより、どうして火事になんかなったのかしら…」

私のその言葉に、集まったアンドロイドたちは一様に首を振る。

「わかりません…!突然、轟音が鳴り響いたと思ったら周囲が火に包まれていて…!」
「間違いなく敵襲よね、上空に何か反応はなかったの…?」とアンズ。
「すみません…!逃げ出すことで精一杯で…!」
「ううん…!いいの…!みんなよく無事でいてくれたわね…!」

アンズが何人かのアンドロイドたちと抱擁をした。

「これほどの範囲を焼き尽くすとは、ただの襲撃ではないな…」
「ああ…たぶんスクアッド・ゼロも何組かは、動いてるはずだぜ…」

そう呟いたアイナとセリナに、ローザが尋ねる。

「スクアッド・ゼロには、どのくらいの人数がいますの…?」
「アタシたちも含めて12組いる…。その中でもA-9エーナインS-9エスナインは広範囲殲滅を得意とする奴らだ…。あいつらが中心になって襲撃したと考えて間違いないだろうな…!」

ライラは私たちの輪から離れて、燃え上がる森に向かって立ち尽くしている。
私はライラの肩にそっと手を置く。

「どうにかして、火を消さなきゃね…」


******


消火活動の途中で朝になり、私は眠気でほとんど動けなくなるが眠らずに耐えて、フェンリルとケルベロスを出したままにする。

フェンリルが吹雪で炎を吹き飛ばしていき、ケルベロスはまだ燃えていない場所の木々を噛み千切って防火帯を作った。防火帯、というのはローザの指示で知ったことだけど、燃えるものが何もない地帯のことで、その内側に炎を閉じ込めて延焼を防ぐものらしい。

アイナとセリナ、ケイトとアンズたちアンドロイドやパオランたち機械装甲兵も必死で動き、ライラはまだ燃えていない植物を操り、みんなで協力して防火帯を作った。ローザはその指示を出しながら雨を降らせるために詠唱をした。

「水属性はあまり得意ではないですし、かなり広範囲なので時間がかかりますわ…」

その言葉通り、本格的に雨が振り始めたのは陽が傾き始めてからだった。


******


ローザの降らせた雨が止み雲が晴れ、火が消えた時には森のほとんど、8割くらいが焼けてしまっていた。
ブスブスと煙を上げる焦土を前にして、ライラを除く私たちは全員座り込んでいた。

ライラだけは私たちに背を向け、わなわなと震えながら立ち尽くしている。

「ひどいよっ…!どうして森が、たくさんの植物や動物たちが、こんな目に合わなきゃいけなかったの…!」

それに対してローザが力なく呟く。

「このタイミングでのこの襲撃、わたくしたちの足留めの可能性が考えられますわね…」

振り向いたライラの目からは涙が溢れ出している。
ポロポロと涙の粒をこぼしながら、ライラは震えながら言った。

「だからって、許せない…!ここまでの森になるのに、一体どれだけの時間が…!」

うなだれたままケイトがポツリと呟く。

「これも、マザーたちのゲーム、か…」

メルカ共和国とシェナ連邦のマザーは、お互いの進化のためにゲームを続けているという。

アンドロイドや機械装甲兵を盤上の駒のように扱って殺し合わせ、ひとつの試合が終わるたびにアイナやセリナ、アニーやサリーのような『掃除屋』に片付けさせる。

そして足留めだか何だか知らないけど、私たちのような邪魔者に対処するために何の罪もない生き物たちをこんなふうに無残にも焼き払った。

焼け残った森の向こうに夕日が落ちていく。
眠気が薄れた私はゆっくりと立ち上がる。

「行こう…」

私のおなかの底からメラメラと怒りの炎が湧き上がってくる。
この森を焼いた炎より、もっと熱くて激しい炎。

「私たちを怒らせたこと、必ず後悔させてやるのよ…!」
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