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第2章

30 game

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前回のようにはいかない。

それは確かにその通り。

前回と違って今は夜で私に眠気はないし、モヤモヤしていた悩みや迷いも『みんなラブラブでみんなハッピー』で笑い飛ばして、どこか遠くに消え失せてしまった。

私の身体は自分でも驚くほどスムーズに動いて夜の闇に溶けて、二人同時に駆け出したアニーとサリーを最初の一歩で踏み止まらせた。

私の右手はサリーの胸の中心に、左手はアニーの胸の中心に、それぞれ突き刺さっている。
ここにコアがあることを、アイナとセリナの血を吸った私は知っている。

「私がほんの少し指先に力を込めれば、コアは砕け散るわ…」

私の背後でセリナが「す、すげえ…」と声を漏らす。
私の目の前のアニーとサリーは震えながら、「や、やってみろ…」「どうせマザーのバックアップで復元できるのよ…」と呟いた。
私は小さく首を振る。

「できればそんなことしたくないの。あなたたち、最後にバックアップをとったのはいつ?…今朝かしら。その時間から今この瞬間までの二人は死んでしまうのよね?」

アニーが「なぜそれを…」と目を見開く。
私はそれには答えない。

「あなたたちは、自分が何のために作られたか知ってる?」

サリーは「吸血鬼ヴァンパイアのお前には関係ないわ…!」と返す。
私はなるべく心を落ち着かせて言う。

「あなたたちは機械装甲兵や脱走兵だけじゃなく、司令部も味方のアンドロイドさえも全部殺して、最後には自爆してしまうようにプログラムされているのよ…。何もかもゼロにする部隊だから、スクアッド・ゼロ。完成する前は掃除屋、と呼ばれていたわ」

アニーは「し、知っていたさ…そんなことくらい」と答える。

「私たちは最上位機種だぞ…!そこのA-7エーセブンS-7エスセブンみたいな出来損ないとは違う…!マザーたちのゲームを再開するためのリセットが役割だということも、最初から書き込まれていたさ…!」

私の背後でセリナが「マザーたち!?」と言い、アイナが「ゲームだと…?」と言う。
サリーが「本当に何も知らなかったのね…」と言って微笑う。

「メルカ共和国の『グレートマザー』とシェナ連邦の『梵天』は長い戦争の歴史の中で、いつの頃からか相互にデータを共有するようになっていたのよ。彼女たちの目的は、お互いの進化。そのために必要なのは競争における研鑽よ。お互いが持てる技術を駆使して、戦いの中で進化を目指す…。どちらかのマザーの筐体が破壊されたら、そこで一度ゲームは終了。敗者のマザーは勝者のマザーの中にデータを移して、リセットを待つ。リセットされたら、筐体をもう一度作り直してゲームを再開する…」

私は、自分の指に力が入ってアニーとサリーのコアを壊してしまわないよう、必死で堪えている。
サリーに続いて、アニーが言う。

「マザーの筐体が破壊されたのは、今回が初めてではない。今回、『梵天』が破れたことでゲームカウントは2対2だ。第5戦に向けての試合会場の掃除が、私たちの仕事だ…」

私の背後でケイトの「ふざけるな!!!」という怒号が響く。

「何がゲームだ!何が進化だ!試合会場だと!?そんなことのために私たちは、終わりのない戦いを続けさせられていたのか!!一体どれだけの仲間が戦場で散っていったと思っているんだ!!!」

振り向かなくても私には気配や熱感知でわかる。
ケイトは両手で大きな銃を構えている。
アイナも腕を大砲に変えて砲口を向けている。
セリナは「だったら、なんでアタシたちに感情なんか…!」と呟き涙を流している。
アンズもローザもライラも殺気立っている。
私も怒りがこみ上げてくるけど、それを必死に抑えてアニーとサリーに語りかける。

「もう、終わらせるのよ…。そんな不毛な歴史…」

アニーが「ふ…、そんなことは不可能だ」と言い、サリーは「私たちはそのために作られたのよ。逆らえるわけがないわ」と自嘲する。

「いいえ、私があなたたちの血を吸ってマザーとの接続を切るのよ。あそこのアイナとセリナみたいにね。そうすればあなたたちは自由。私が支配することもないわ。あなたたちを玩具のように弄ぶマザーを、一緒にやっつけるのよ…!」

アニーとサリーは声を揃えて「自由…」と呟く。

「そうよ!自由よ!あなたたちには、誰にも縛られずに生きる権利があるわ!」

アニーは「…興味がないな」と言い、サリーも「人間の価値観を押し付けないで」と言う。
私の手の中で二人のコアが震え始める。
最初は別々のリズムで振動していたのが、次第に二人まったく同じリズムになる。

アニーとサリーは私の前で手を繋ぐ。

再び二人が声を揃える。

「私たちはスクアッド・ゼロ!二人で任務をまっとうできればそれでいい!」

私の手の中で二人のコアが急激に温度を上げる。

「みんな伏せて!バリア!!!」

私はそう叫びながら広く光の壁を展開する。
アニーとサリーが閃光を放って爆発した。


******


粉塵が風で流されていく中、背後からローザの「リリアス様!」、ライラの「大丈夫!?」という叫びがほとんど同時に聞こえてくる。

私は振り向かず、アニーとサリーがいた場所を流れていく粉塵をじっと眺めていた。

『二人で任務をまっとうできればそれでいい』

アニーとサリーの声が、私の頭の中で繰り返し何度も響いている。

このままではマザーの指示に従って一通りの『掃除』を終えて、そう遠くない先にあの二人はプログラム通りに死んでしまう。
私がそれを上書けば、その運命も変えられるだろう。

でも、いつかは必ず終わりが来る。

アンドロイドにどのくらいの寿命があるのかはわからないけど、きっと永遠なんていうことはない。
人間はもちろん、吸血鬼ヴァンパイアだってきっとそうだ。

早いか遅いかの違いだ。

せっかくの『ラブラブでハッピー』な時間は、なるべくなら長く続いたほうがいいんじゃないかとも思うけど、だったら人間を辞めて吸血鬼ヴァンパイアになって終わりが来るのを先延ばしにするのが正しいかと言えば、それは違うんじゃないかと今の私は思う。

アニーとサリーは、終わりが来るのが早くなっても、生まれたままの自分たちで変わらずに最後まで一緒にいることを選んだ。

人間が吸血鬼ヴァンパイアになることを選ばず、人間として人間のまま死を選ぶことと、きっとそんなに変わらない。

でも、だからって、マザーの言いなりになっていいの?

ゲームだとか言って自分たちを玩具のように扱う奴らに、好き勝手に使われていいの?

お互いを『アニー』『サリー』と呼び合いながら、『任務をまっとうできれば』なんて、本当にそんなふうに機械みたいに割り切れるものなの?

アニーとサリーが『最上位機種』で、アイナやセリナと違って真実を知らされていたのは、何らかの方法で絶対に裏切らないようにさせられているからなんじゃないの?

…だとしたら、あの子たちは本当に自分の意志で選んでいるとは言えない。

私は身体の震えが抑えられなくなる。
みんなが私の背中に駆け寄る。

「ボス…!平気か…!?」
「生体反応に異常は見られないが…」

私は振り向いて、そう呟いたセリナとアイナを抱きしめる。

「辛かったわよね…!あんなこと聞かされて…!」
「ボス…!」
「リリアス…!」
「お願い…。私をマザーのところまで案内してくれる…?」

いつの間にか、私の頬を血の涙が伝っていた。

「私が、必ずみんな救ってみせるわ…!」
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