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第2章
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森。
マザーとの接続を断った機械装甲兵の村やアンドロイドの集落がある森に向かい、私とローザとライラはフェンリルの背に乗り、アイナとセリナはその横を低空飛行で移動した。
私たちは周囲を警戒しながら移動したが、機械装甲兵の気配もアンドロイドの気配も感じ取ることはできなかった。
機械装甲兵はたくさんいたはずなのに一体どこに行ってしまったのだろうか。
途中で馬を何頭か見つけることができたので、それを私が捕らえてローザとライラ、それからフェンリルとケルベロスの食事とした。アイナとセリナに食事は必要ないし、私もアイナとセリナの血を吸ったことで喉の渇きは満たされていた。
「それにしても、この球体世界には動物も少ないし魔物も見ないわね」
私がそう言うと、セリナが答えた。
「昔はエントロクラッツにもいろんな魔物がいたらしいんだけど、いつの間にか消えちまったみたいなんだよな。もともとこの球体世界を支配してた水竜の王様と一緒に魔法みたいにいなくなっちまったらしいぜ」
水竜の王。
私の左手の甲にはヴァルゲスから譲り受けた雷竜王の紋章が刻まれている。
何か関係があるのだろうか。
******
「やっぱり、村の場所が変わってるね」
森の入口に着くとライラが双葉九里葎で様子を探り、そう言った。
「村の場所って…前に来てからまだ数日よ?」
「うん、この森、やっぱり普通の森じゃないんだよ。森全体が生きてるっていうか。嘆きの森によく似てる。あたしがいなかったら誰も辿り着けなかったと思うよ」
不思議なことを言うライラの案内で、私たちは再び深い森の中に足を踏み入れた。
******
「何をしに来た。『梵天』が存在しないことは確認できたか」
私たちが向かったのは機械装甲兵たちの村だったが、そこで最初に出迎えてくれたのは警戒心たっぷりのアンドロイド、ケイトだった。
「安心して。『梵天』がないこともわかったし、それにもうアイナとセリナもマザーとの接続を切っているのよ」
私が一歩前に出てそう言うと、ケイトは隣りのアンズと顔を見合わせてから言った。
「まさか、最新型のスクアッド・ゼロが…でも一体どうやって…」
「私が吸血鬼の力で、ちょっとね…」
ケイトとアンズは無言で私を見つめた。
その奥から機械装甲兵の村長、パオランが出てきて言った。
「ソレデハお二人もコノ村に住むのデスカ?」
アイナとセリナは二人揃って首を振る。
「我々は、このリリアスに従うことにした」
「で、アタシたちのボスはマザーをぶっ飛ばすって言ってるんだけどさ、マザーをネットワークから引き剥がすいい方法がないかと思ってここに来たんだ」
セリナはそう言い終わると「ま、そんな都合のいい話はないよな」と言った。
「…ある」
ケイトが目を丸くしてポツリと呟いた。
「何が、あるというんですの?」
「マザーを、ネットワークから分離させる方法だ…」
******
都合のいい話というものにはたいてい罠や厄介事がくっついてくるもので、今回の話もまさにその典型例そのものだった。
ケイトとアンズ、それからパオランの案内で進んだ村の奥、一番大きな鉄の塊の建物の中にはたくさんのアンドロイドや機械装甲兵が所狭しとひしめき合っていた。
その部屋の中央の台の上には、人間の胴体くらいの大きさの箱が置かれている。
「あれはアイソレーターポッド。サポーター型アンドロイドの機能を拡張し、マザーAIのような巨大な筐体でも全体を包んで周囲とのネットワーク接続を完全に遮断する機能を持つ」
ケイトがその箱の前に立って説明をしてくれる。
「そもそも私たちはただの脱走兵の集団ではない。マザーに支配されたこの球体世界を解放するために活動するレジスタンスなのだ」
ケイトがその部屋に集まった大勢のアンドロイドや機械装甲兵たちを見渡している。
それを見てライラが呟く。
「レジスタンス…。それにしてもアンドロイドって、みんな女の人なんだね…」
ライラのその呟きに、アンズが「そういえばそうね」と答えた。
「アタッカーやサポータータイプは関節の可動域の広さと柔軟性、それに人格データに起因する直感力の高さから女性型が多いのよ。人間と違って筋力差はないしね。ただ、私たち旧型アンドロイドにはタンクという役割もあって、それは男性型が主流だったんだけどね。でも役割上、彼らのほとんどが死んでしまったわ」
アンズが少し寂しそうにそう言うと、その横でケイトが「まあとにかく」と言う。
「私たちは長年、本当に長年の共同研究の末、このアイソレーターポッドを完成させた。ただし足りないものが2つあった」
アイナとセリナが声を揃えて「足りないもの?」と聞く。
ケイトは頷いて答える。
「1つ目はこのアイソレーターポッドを使いこなせるほどの強力な演算機能を持ったサポーター型アンドロイド。私たちの中ではアンズが最も優れたサポーターだったが、それでも充分ではなかった。ただし」
ケイトはセリナを指差す。
「最新型のスクアッド・ゼロのサポーターが味方についてくれるなら話は別だ。アンタならきっとこのアイソレーターポッドの機能を最大限に引き出せるはずだ」
ローザが「では、2つ目は?」と聞く。
「2つ目は、こいつを起動させられるだけの高エネルギー体だ。アンドロイドや機械装甲兵のコアを遥かに凌ぐ莫大な出力が必要なんだ」
「その高エネルギー体を手に入れる目星はついていますの?」
「どこにあるかはわかっている。この森を抜けて北西に約1025km。北海沿岸部にすでに廃墟となった発電所がある。その中枢に今も眠っている反陽子キューブを入手する必要がある…が」
ケイトは一呼吸おいてから言った。
「その発電所には私たちも何度も行こうとして辿り着くことができなかったのだ」
ライラが首を傾げて「どうして?」と聞く。
「その発電所の周囲には人間たちの大きな街があった。かつて発電所の大規模な事故で死んだ人間たちがアンデッドとなり、今も大量に巣食っているのだ。奴らには我々アンドロイドの物理攻撃は効き目が薄く、これまで突破できずにいたのだが、まあ、それも今や心配ないだろう」
ケイトは私を見て言った。
「こちらにはアンデッドの頂点、吸血鬼がいるのだからな」
…私?
お化けとか一番苦手なんだけど。
マザーとの接続を断った機械装甲兵の村やアンドロイドの集落がある森に向かい、私とローザとライラはフェンリルの背に乗り、アイナとセリナはその横を低空飛行で移動した。
私たちは周囲を警戒しながら移動したが、機械装甲兵の気配もアンドロイドの気配も感じ取ることはできなかった。
機械装甲兵はたくさんいたはずなのに一体どこに行ってしまったのだろうか。
途中で馬を何頭か見つけることができたので、それを私が捕らえてローザとライラ、それからフェンリルとケルベロスの食事とした。アイナとセリナに食事は必要ないし、私もアイナとセリナの血を吸ったことで喉の渇きは満たされていた。
「それにしても、この球体世界には動物も少ないし魔物も見ないわね」
私がそう言うと、セリナが答えた。
「昔はエントロクラッツにもいろんな魔物がいたらしいんだけど、いつの間にか消えちまったみたいなんだよな。もともとこの球体世界を支配してた水竜の王様と一緒に魔法みたいにいなくなっちまったらしいぜ」
水竜の王。
私の左手の甲にはヴァルゲスから譲り受けた雷竜王の紋章が刻まれている。
何か関係があるのだろうか。
******
「やっぱり、村の場所が変わってるね」
森の入口に着くとライラが双葉九里葎で様子を探り、そう言った。
「村の場所って…前に来てからまだ数日よ?」
「うん、この森、やっぱり普通の森じゃないんだよ。森全体が生きてるっていうか。嘆きの森によく似てる。あたしがいなかったら誰も辿り着けなかったと思うよ」
不思議なことを言うライラの案内で、私たちは再び深い森の中に足を踏み入れた。
******
「何をしに来た。『梵天』が存在しないことは確認できたか」
私たちが向かったのは機械装甲兵たちの村だったが、そこで最初に出迎えてくれたのは警戒心たっぷりのアンドロイド、ケイトだった。
「安心して。『梵天』がないこともわかったし、それにもうアイナとセリナもマザーとの接続を切っているのよ」
私が一歩前に出てそう言うと、ケイトは隣りのアンズと顔を見合わせてから言った。
「まさか、最新型のスクアッド・ゼロが…でも一体どうやって…」
「私が吸血鬼の力で、ちょっとね…」
ケイトとアンズは無言で私を見つめた。
その奥から機械装甲兵の村長、パオランが出てきて言った。
「ソレデハお二人もコノ村に住むのデスカ?」
アイナとセリナは二人揃って首を振る。
「我々は、このリリアスに従うことにした」
「で、アタシたちのボスはマザーをぶっ飛ばすって言ってるんだけどさ、マザーをネットワークから引き剥がすいい方法がないかと思ってここに来たんだ」
セリナはそう言い終わると「ま、そんな都合のいい話はないよな」と言った。
「…ある」
ケイトが目を丸くしてポツリと呟いた。
「何が、あるというんですの?」
「マザーを、ネットワークから分離させる方法だ…」
******
都合のいい話というものにはたいてい罠や厄介事がくっついてくるもので、今回の話もまさにその典型例そのものだった。
ケイトとアンズ、それからパオランの案内で進んだ村の奥、一番大きな鉄の塊の建物の中にはたくさんのアンドロイドや機械装甲兵が所狭しとひしめき合っていた。
その部屋の中央の台の上には、人間の胴体くらいの大きさの箱が置かれている。
「あれはアイソレーターポッド。サポーター型アンドロイドの機能を拡張し、マザーAIのような巨大な筐体でも全体を包んで周囲とのネットワーク接続を完全に遮断する機能を持つ」
ケイトがその箱の前に立って説明をしてくれる。
「そもそも私たちはただの脱走兵の集団ではない。マザーに支配されたこの球体世界を解放するために活動するレジスタンスなのだ」
ケイトがその部屋に集まった大勢のアンドロイドや機械装甲兵たちを見渡している。
それを見てライラが呟く。
「レジスタンス…。それにしてもアンドロイドって、みんな女の人なんだね…」
ライラのその呟きに、アンズが「そういえばそうね」と答えた。
「アタッカーやサポータータイプは関節の可動域の広さと柔軟性、それに人格データに起因する直感力の高さから女性型が多いのよ。人間と違って筋力差はないしね。ただ、私たち旧型アンドロイドにはタンクという役割もあって、それは男性型が主流だったんだけどね。でも役割上、彼らのほとんどが死んでしまったわ」
アンズが少し寂しそうにそう言うと、その横でケイトが「まあとにかく」と言う。
「私たちは長年、本当に長年の共同研究の末、このアイソレーターポッドを完成させた。ただし足りないものが2つあった」
アイナとセリナが声を揃えて「足りないもの?」と聞く。
ケイトは頷いて答える。
「1つ目はこのアイソレーターポッドを使いこなせるほどの強力な演算機能を持ったサポーター型アンドロイド。私たちの中ではアンズが最も優れたサポーターだったが、それでも充分ではなかった。ただし」
ケイトはセリナを指差す。
「最新型のスクアッド・ゼロのサポーターが味方についてくれるなら話は別だ。アンタならきっとこのアイソレーターポッドの機能を最大限に引き出せるはずだ」
ローザが「では、2つ目は?」と聞く。
「2つ目は、こいつを起動させられるだけの高エネルギー体だ。アンドロイドや機械装甲兵のコアを遥かに凌ぐ莫大な出力が必要なんだ」
「その高エネルギー体を手に入れる目星はついていますの?」
「どこにあるかはわかっている。この森を抜けて北西に約1025km。北海沿岸部にすでに廃墟となった発電所がある。その中枢に今も眠っている反陽子キューブを入手する必要がある…が」
ケイトは一呼吸おいてから言った。
「その発電所には私たちも何度も行こうとして辿り着くことができなかったのだ」
ライラが首を傾げて「どうして?」と聞く。
「その発電所の周囲には人間たちの大きな街があった。かつて発電所の大規模な事故で死んだ人間たちがアンデッドとなり、今も大量に巣食っているのだ。奴らには我々アンドロイドの物理攻撃は効き目が薄く、これまで突破できずにいたのだが、まあ、それも今や心配ないだろう」
ケイトは私を見て言った。
「こちらにはアンデッドの頂点、吸血鬼がいるのだからな」
…私?
お化けとか一番苦手なんだけど。
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