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第2章

12 no attention

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かっこよく『ついてきなさい!』と言った矢先だったけど、金属蝿の大群をひとしきり粉砕するとその先の東の空が白んできて私を強烈な眠気が襲った。

アイナとセリナは「また休憩か」「急ぐんじゃなかったのかよ」とぶつくさ言ったけど、ローザとライラも消耗していたのでみんなで説得して、ライラが植物魔術で木と草のドームを作るとそれにローザが隠蔽シールを唱えて敵から見つからないようにして、私はその中に入ってアルミラの血を吸って得た固有能力の底なしの棺フィニスアルカで左手から故郷の土が入ったマットを出してそれを敷いて寝転がって5秒で寝た。

目を覚ますともう夕方。

木と草のドームの外で警戒にあたっていたアイナが「睡眠というものか。不便だな人間は」と言い、セリナは「無防備にぐっすり寝てたよなぁ。リリアスは。もしローザに気付かれなかったら逃げ出してミッションに戻っちまおうかと思ったんだぜ?」と言った。

ローザは「ふふ、睡眠中でもわたくしの結界からは逃れられませんわ」と言ってあくびをした。

「そういえば、ローザの聖術って一体どういうものなの?」

長い黒髪をかきあげてライラが尋ねると、ローザは「う~ん」と少し唸ってから答えた。

「魔術の四元素論はご存知ですわよね?」

ライラが当然ように頷いて「あたしの植物魔術もベースは土系統だからね」と言ったが、私は腕を組んで首をひねる。
頭の上に「?」マークが浮かぶ。

「え、リリアス様は王立学園で習ったでしょう…?」
「いやぁ…」
「魔術の基礎中の基礎ですわよ!?」
「…えへへ」
「笑って誤魔化さないでくださいまし…!よく進級できましたわね…!」

ローザがため息をついて説明を始める。

「そもそも世界の物質は火・風・水・土の4つの元素で構成されているのです。その四元素を魔力で自在に操るのが魔術。聖術は魔術と対となる概念。魔力を…厳密には魔力の源となるエネルギーをですが、便宜上『魔力』と呼んでしまうことが一般的ですわね…それを体内で聖なる力に変換し、四元素にさらに聖属性を与えて操るのが聖術ですわ。消耗は激しいですがその分アンデッドに対しては絶大な威力を発揮しますし防御系や回復系の術も通常の魔術より大幅に効果が増幅されて…」

私はもう、ちょっとよくわからない。
『べんぎじょう』とか言い出した時点でよくわからない。
でもとりあえず質問をした本人であるライラが「なるほどね~」と納得しているみたいなので私も「うんうん」と頷いておく。

「絶対リリアス様は理解していませんわ…」

ローザにそう言われてギクリとして私は「と、とにかく先を急ぐわよ!」と言う。

早くシェナ連邦とかいう国に行って『梵天』とかいうのがあればぶっ壊して、なければメルカ共和国の司令部に殴り込んで、ゲートを開けてもらうんだから!

長ったらしい説明を聞いてるヒマはない!


******


ここから先、シェナ連邦に近付くほどに機械装甲兵たちの襲撃が増えるだろうというアイナとセリナの話を受けて、ローザが私たち全員に隠蔽シールをかけてくれた。

アイナとセリナは低空飛行で空を飛び、私とローザとライラはフェンリルの背中に乗ってそれに続いた。

途中、たくさんの機械の兵隊たちや金属蝿がうろついていたけど、ローザの隠蔽シールのおかげで私たちの姿は見えないらしく、まったく戦うことなく進むことができた。

ただ問題はローザの魔力残量。

5人に隠蔽シールをかけ続けていられるのは4日が限度とのことで、まさにちょうど4日後の夕方。

ローザの魔力が底をつく寸前、私たちはシェナ連邦の首都らしき場所に着いた。

首都と言っても、とてもそうは見えない。
どう見てもただの瓦礫の山。それも見渡す限りの瓦礫の山。
鉄クズや石などの破片が夕焼けのオレンジ色に染まっている。

「こ、これがシェナ連邦の首都…トゥジーン…」
「ウソだろ…こんな壊滅状態だなんて、データにないぜ…?」

アイナとセリナが愕然とそう呟いたから、街になんか見えないその場所で私は《あ、ここが首都なのね》と思うことができた。

「よかった…着いたのですね…」

ローザは青白い顔に脂汗を浮かべてそう呟いた。

「この辺は敵もいなさそうだし、もう隠蔽シールは大丈夫だよ…!」

ライラに言われてローザは隠蔽シールを解く。

私の聴覚や嗅覚、熱感知でも周囲に怪しい機械の存在は感じられない。

「アイナ、セリナ。少し休憩にするわよ」

私がそう声をかけると、セリナだけが振り向く。

「ちょっと待ってくれ…せめてアタシのサーチで調べさせてくれ…」

アイナはその横でわなわなと震えている。

「いいわ。でも私たちはローザを休ませるわ。セリナの警護はアイナだけでやってよね」

私はそれだけ言うと、ぐったりしたローザをフェンリルの背中から降ろして、瓦礫の山の中で安定している平べったい石の床の上に寝かせる。ライラが「ちょっと待ってて、魔力草を出すからね…」と言って手のひらからザワザワと紫色の草を伸ばし、それでローザの身体を覆った。

「たぶん、しばらくすれば動けるくらいには回復するはずだよ…」

ライラはそう言ってから「ごめんね、もっとこまめに回復してあげればよかった」とローザの髪を撫でたが、きっと悪いのは私だ。「先を急ぐわよ」と何度言ったことか。それでローザに無理をさせてしまったのだ。

背後から金属を引っ掻くような甲高い音が大音量で聴こえてくる。私はそれで耳を塞いでしまうがライラは何ともなさそうなところを見ると、セリナがサーチモードとかいうやつで機械の反応を探っているのだろう。

「くそっ!なんでないんだ!どういうことだよ!」
「ほ、本当にないのか…シェナのマザーAI『梵天』は…」
「信じられねえ!もう一度やってみる!サーチモード、起動!」

それからしばらくの間、何度も何度もセリナはサーチモードを起動し、その度に私は耳を塞いで激しい雑音に耐えた。ライラが「ローザ、ごめんね」と言う横で「悪いのは私だよ…」と呟くと、ライラは首を振って「でもリリアスも耳、大丈夫?」と気遣ってくれた。

私が「うん、何とか…」と答えた時、セリナが放つ甲高い音が突如として途切れ、「な!なんだお前は!」というアイナの声が響いた。

振り向くとそこには地に伏せるアイナとセリナ。
それを見下ろすようにして瓦礫の山の頂上に立つのは、真っ黒な服で赤い長髪を風になびかせる男。

「おいおい無防備すぎるぜ…!5回は殺せたぞ、リリアス・エル・エスパーダ…!」

赤い髪をかきあげて男が微笑うと、その口の中から鋭い犬歯が覗いた。
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