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第2章

9 eruption

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その銀色の女の人はアイナとセリナよりも背が高くて大人っぽい顔や体つきだったけど、明らかに怯えた表情をしていて、両手で大きな銃のようなものを抱えて身構えていた。

「本当に、攻撃の意志はないのか…?」

銀色の女の人のその言葉に、ライラは「安心して。あなたたちに手出しはさせないよ」と言って振り返り、セリナとアイナを見据えた。

「わかってる、よね?」

セリナは「…ああ」と頷いたが、アイナは一歩前に出て言った。

「その前に所属と識別番号、そしてここに至った経緯を答えてもらおう」

銀色の女の人は眉根を寄せて身を固くして、より一層の警戒心をあらわにして答えた。

「…メルカ共和国陸軍、第4軍、第5師団、歩兵第11連隊所属、識別番号はMYK-10378。通称はケイト。現在は、この旧型アンドロイドの集落のリーダーをしている」
「経緯は。なぜ部隊を離れた」

アイナが無機質に畳み掛け、ケイトを名乗った銀色の女の人は後ずさりをした。

「…け、経緯は」
「話しても無駄よ、ケイト」

ケイトの横にもう1人、銀色の女の人があらわれてそう言った。

「司令部との通信を傍受して確認済みよ。こいつらはスクアッド・ゼロ。こいつらが私たちを見逃すはずがないわ」

それを聞いてアイナが身構える。

「見逃す…?お前たち、脱走兵か」

臨戦態勢に入ろうとするアイナの気配を察知してすぐさま私は動いた。
トプン…。
影の中に沈み込み、アイナとセリナの目の前に回り込む。

吸血鬼ヴァンパイアの移動手段、潜影移動スニークだ。

突然目の前にあらわれた私に驚いて、アイナとセリナはのけぞる。

「アイナ…黙ってあの女の人の話を聞いて…!セリナも…いいわね…?」

湧き上がりそうになる魔力を抑えながらそう言った私に、アイナとセリナは焦りの表情を浮かべて頷いた。

森に入る前より、私のイライラは大きくなってしまっていた。

さっさとゲートとやらを開けてもらってお父様たちのいるロドンゴに行きたいっていうのに、機械装甲兵の村に行ったりこのアンドロイドたちに会ったり…なんでこんなまだるっこしいことしなきゃいけないわけ…?

機械装甲兵がどうとか、アンドロイドがどうとか、私には何の関係もないじゃない…!

私はそのイライラを抑えながら、ケイトともう1人のほうに振り向く。

「はじめまして…。私はリリアス・エル・エスパーダ。ユークレアという球体世界スフィアから来た…吸血鬼ヴァンパイアよ。ケイトと、それから…」
「あ、アンズよ…」

ケイトの隣りでもう1人の銀色の女の人がそう名乗る。
ケイトとアンズは私から目を離さずに小声で「吸血鬼ヴァンパイア…」「ファルナレークの不死の化け物よね…」などとささやきあっている。

聞こえてるわよ失礼ね…!化け物らしく吠えてやろうかしら…!

「な、なぜ吸血鬼ヴァンパイアがこのエントロクラッツに…?」
「…手違いよ。本当は早くこの球体世界スフィアを出てロドンゴに行きたいの。この二人には手出しさせないから、あなたたちの知る限りの情報を教えてちょうだい」

ケイトとアンズは顔を見合わせて頷き、ケイトが話し始めた。

「じ、実は、この球体世界スフィアの戦争は、もう終わっているはずなのだ…」

アイナとセリナが目を丸くして「何!?」と声を揃える。

「今から23年前、私たち歩兵第11連隊はシェナ連邦のマザーAI『梵天』の破壊に成功した」

アイナが悲鳴のような声で言う。

「で、デタラメを言うなっ!それならなぜ機械装甲兵が戦闘を継続できる!」

ケイトが首を振る。

「…わからない。私たちは確かに『梵天』の筐体を破壊したが、それでも機械装甲兵はネットワーク接続を維持したまま戦闘を継続し、それどころか味方のはずのアンドロイド兵たちも我々第11連隊を襲撃し始めたのだ。それを逃れて私たちはこの森に潜伏している」

セリナは半笑いを浮かべながら頭を抱えて言った。

「い…いやいや、さすがに滅茶苦茶すぎるぜ、何もかも…!もうシェナのマザーAIが破壊されてる…?それに理由もなくアンドロイドがアンドロイドを攻撃…?はは、そんなこと、あるわけないじゃないか…!!」

アンズがセリナに強い眼差しを向ける。

「本当よ。私たち第11連隊は連隊長のケイトと私を除いて全滅させられたわ。『梵天』破壊で消耗しきっていたところを機械装甲兵とアンドロイドの猛攻撃にあってね。信じられないというならシェナ連邦の首都、トゥジーンに行ってみればいいわ」

アイナがわなわなと震え始める。

「信じられるか…!信じられるはずがあるか…!だったら、だったら一体わたしたちは何のために…!」

アイナはセリナのほうを見て「S-7エスセブン!!」と叫ぶ。

「連携しろ!デマを流す脱走兵どもを殲滅するぞっ!!」

セリナが「え!でも!」とうろたえるのを横目にアイナは身体中から光を放ち始める。
その瞬間。

「黙って聞けと言ったでしょう!!!」

私のイライラが爆発してしまい、強烈な電撃がアイナとセリナに直撃する。
バチィッ!と弾かれて、二人とも後方の木の幹に激突する。

「アンタたちの無駄なゴチャゴチャに付き合ってるヒマはないのよっ!!」

アイナとセリナは木の幹を背にズルズルと尻もちをつく。

「そ、そんなこと言ったって、どうしろってんだよ…!」

電流で痺れながら、セリナが何とか声を絞り出した。
それに向かって私が「案内しなさい!」と言うと、アイナは「あ、案内…?」とオウム返しに答えた。

私はイライラに任せて叫ぶ。

「まずはシェナとかいう国よ!もしケイトとアンズの話がウソでそこに『梵天』とかいうのがあればぶっ壊す!それならそれで戦争は終わりでしょ!そしてもし『梵天』がなければ今度はメルカ共和国に行って司令部とか全員とにかく片っ端からぶっ飛ばしてやるわ!あとはゲートを無理やりこじ開けてこの話は終わりよ!」
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