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第1章

39 ぐちゃぐちゃ

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私に表情を読み取られたくなかったからか何なのか、「行くぞ!」と急いで駆け出したアルミラを追って私も上階への階段を駆け上がる。

「カミーユの居室はこの薔薇の不死城ロサカステルムの第4塔の最上階だ!」
「待ってよアルミラ!」

アルミラの背中を追って必死に走る私の頭の中は、もう何が何だかぐちゃぐちゃだった。

まずさっきの大オカマのマリーゴールド。
怪しすぎて信じられる気がしない。
でもそこを疑い始めたら余計わけがわからなくなってしまいそうで、とりあえず本当のことを言っているものとして考えることにする。

まず、お父様たちは茨の街の酒場にいる吟遊詩人によって他の球体世界スフィアへ行ったのだそうだ。
そして、『早く助けに行ってあげたほうがいい』らしい。
どうも聖都法皇庁サンクティオに追われているようだ。

次に私が人間に戻る方法。
具体的に何をどうすればいいかは教えてくれなかったけど、私が本当に好きな相手がわかった時に会いに行けば教えてくれるという。
それと、『その子の血は吸わないでおいたほうがいい』とも。

それから『私の友達』がピンチらしく、カミーユの部屋に急いだほうがいいのだそうだ。
私の友達なんてローザくらいしか思いつかない。
マリーゴールドがなんで知ってるのか知らないけど…!
それにローザならアルミラの勧めで、茨の街の魔具屋で待っているはずなのに。

でも最後にマリーゴールドは『アルミラに気をつけろ』とも言った。

思い返してみれば、ローザを魔具屋に預けてこの薔薇の不死城ロサカステルムに最初に着いた時、カミーユと何か話していたような気がする。

だとすると、ローザはアルミラの策略か何かでカミーユに攫われてしまった?

でも、何のために?
わからない。

「ねえアルミラ!」
「なんだ!」

私は城の階段を駆け上がりながらアルミラに話しかける。

「さっきのマリーゴールドって、一体何者なの!?」
「本人が言ってただろう!闇騎士の大オカマだ!」
「それはそうだけど!そうじゃなくて、その…信用できるの!?」
「…わからん」

私たちは1階の大広間を抜けて最初に来た時とは別の階段を駆け上がり、長い回廊に差し掛かった。そこで私は立ち止まる。

「アルミラ…」

アルミラがようやくこちらを振り返る。

「どうした」

アルミラは真剣な顔で私を見つめている。

「私…アルミラのことは、信じていいの……?」

その言葉にアルミラは「ふ」と微笑い、こちらに歩み寄って私の頭にポンと手を置く。

「当たり前だ…。アタシの血を吸って、もうお前も気付いているはずだ」
「………」

アルミラは私を優しく抱きしめ、耳元で囁いた。

「リリアス、アタシはお前を愛している」
「―――……!!」

私は背中に電撃が走ったようになって小刻みに震えた。
いつの間にか私はアルミラの腰に両腕を回してしがみついてしまっている。

「で、でも、マリーゴールドが『気をつけろ』って……!」

アルミラは私にふわりと頬ずりした。
え…こんなスベスベなの…?

「…確かに、アタシが欲深いのは奴の言った通りだ。お前のことを自分だけのものにしたいと思い始めてしまっている。でもな」

アルミラは少し顔を離して、私の瞳を見つめて言った。

「愛するお前を裏切るようなことは絶対にしない」

誘惑魅了チャームではない。
そうじゃないけど、私はアルミラの透き通った瞳に吸い込まれそうになって、ただ小さく「うん…」としか言えなかった。

アルミラは爽やかな笑顔を見せて私の頭を撫でた。

「急ぐぞ」

そしてアルミラはまた駆け出した。
私も頭を振って気を取り直して何とかまた走り出す。

―――……待って…!
また胸がドキドキしてる気がする…!

だって…!
愛してるなんて、生まれて初めて言われたんだよ……!?


******


ずいぶん走って辿り着いた塔の最上階は、いくつかの蝋燭の灯りだけで照らされた広い部屋だった。かなり古いものと思われる調度品とともに、半裸の女性の彫刻像がいくつも立ち並んでいる。
部屋の奥の大きな窓は開け放たれていて、そこからファルナレークの夜空が見える。
窓の手前に月明かりを浴びて、椅子に座った女性と剣を腰に携えた騎士風の男のシルエットが浮かび上がっている。

「…ローザ?」

私がそう言いながら近付くと、椅子の女性の姿が明らかになる。

スラリと長い手足で大きな胸に細いウエスト、肉付きの良い腰回り。
体型は確かにローザによく似ていたけどもっと筋肉質で服装もロングドレスではなくむしろ真逆の方向性。
ゴツゴツしたブーツとピッタリした短いズボンの間はムチムチの太ももが剥き出しで、上も短いシャツのようなものからおへそが見えてしまっている。
髪の毛もゆるいウェーブの金髪じゃなくて真っ直ぐな黒髪だし、顔立ちもローザのふんわりゴージャスな感じではなくて目は大きいけど鼻も口も小さめで、なんか小動物っぽい。間違いなくローザではない。

「えっと、あなた…誰?」

戸惑う私の質問にその女性は答えず、代わりに隣りに立っていた闇騎士のカミーユが質問を返した。

「突然なんだ貴様らは」

不機嫌丸出しの低く冷たい声に「う…」となった私に代わってアルミラが答える。

「ローザを迎えに来た」
「誰だ、それは」
「…誰だだと?ユークレアからアタシたちに同行してきた聖女だ。ここにいるはずだとマリーゴールドからの情報だ」
「…ふ、あんなオカマの言うことを真に受けるのか貴様は。そんな女はここにはいない。見ればわかるだろう」

アルミラはそう言われて「くっ…」と言葉を詰まらせた。
やっぱり闇騎士の間でもマリーゴールドの信用度は低いらしい。
でも私はもう一度カミーユに確認する。

「本当に、ここにローザはいないの?」
「同じことを言わせるな」
「じゃあローザがここに来たことは?」
「ない」
「どこにいるかも知らない?」
「知るわけがないだろう。しつこいぞ、半人め」

久しぶりに『半人』と呼ばれて、私は少しイラッとした。

「じゃあ質問を変えるわ。その女の人は誰?」

カミーユは私の感情の変化に気が付いたのか少し身構えて言った。

「…魔具屋の娘、献上姫候補のライラだ」
「ああ、あの行方不明だった子?それがどうしてここにいるのよ」
「このファルナレークから他の球体世界スフィアに脱走しようとしていたのを確保したのだ」
「本当に?最初からあんたが攫ってたんじゃないの?」
「何を言うか。そこのアルミラからの報告を受けて見つけてやったのだぞ」

私がアルミラのほうを見ると、アルミラは静かに頷いた。

「…確かにアタシはカミーユにライラの失踪を報告した。奴の言う通りだろう」

私は「ふうん」と言って再びカミーユに向き直った。

「でも、脱走しようとしてたってことはやっぱり血なんか吸われたくないってことなんじゃないの?」
「だったら何だというのだ」

私はカミーユとライラのほうにゆっくりと歩みを進める。

「ねえライラ、そうなんでしょ?」
「………………」
「ライラ?」
「………………」

アルミラが私の前に出て私の歩みを妨げる。

「無駄だ。おそらく洗脳催眠ヒュプノシスだろう。自由意志で話すことはできない」
「……じゃあ、やっぱり無理やり。許せない」

アルミラを押し退けようとする私に「ま、待て!」とアルミラが立ちふさがる。
カミーユが腰の剣の柄に手をかけて言う。

「貴様が許さなかったら何だというのだ」

私はその言葉にまたしてもイラッとする。
…そういえばコイツ、最初に会った時から偉そうでムカついてたのよね。

「そんなの決まってるじゃない。ぶっ飛ばすのよ」

カミーユが臨戦態勢になり、アルミラは「おいリリアス!」と狼狽える。

「そういえばハルバラムも言ってたわよね。聞きたいことがあればぶちのめせ、だっけ?あいつのことは嫌いだけど、ここはそうさせてもらうわ…」

私の身体から真っ黒な魔力の炎が立ち昇り始め、静かに私は呟いた。

「覚悟しなさい…悪魔王の憤怒サタニックイーラ………」
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