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第1章
13 侯爵令嬢は雷竜王に八つ当たりする
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「何なのよ…アンタは………!!!」
私は髪の毛が逆立つような怒りを感じながら立ち上がった。
竜は私の質問には答えずに独り言を呟いた。
「ふむ…我に捧げる供物が女一匹だけとはふざけた話だが、よくよく見ればそれなりに位のある聖女のようだな…。まあ許してやるか」
広場を取り囲む二階建ての建物よりも大きな竜は、額の紋章を輝かせ、硬そうな鱗に覆われた尾にバチバチと光を放っている。
「ただ、邪魔な子鬼が二匹たかってしまっているな」
竜が口を開けて咆哮すると、そこから雷が放たれ、私の身体に激しい電流が走る。
「ああぁぁあぁっ!!!」
「リリアス様!」「リリアス!」
「貴様もだ!」
竜は続けてアルミラにも電撃を放つが、アルミラは素早く背中の大剣を抜いて電撃を受け流す。
「ほう、子鬼にしてはできるようだな」
「ちっ…闇騎士を舐めるなよ…!」
アルミラは大剣を正眼に構えている。
電撃を受けて膝をついた私は、痺れた身体に喝を入れてどうにか立ち上がる。
私の身体中から黒い煙が上がっている。
アルミラは私を横目で見て早口で言う。
「アタシが引きつけている間に貴様は逃げろ。竜の、それも王級ともなれば吸血鬼と言えどこの人数では勝負にならん」
それを聞いた竜が「くくく…」と笑う。
「子鬼と思えば吸血鬼であったか。まあ、この雷竜王ヴァルゲス様にとっては同じことよ」
私は腰のサーベルも抜かず、わなわなと身体の震えを感じている。
腹の奥底から燃え上がる黒い魔力をどうにも抑えきれない。
「だから、何をしに来たのよ、アンタは…!」
雷竜王ヴァルゲスとかいう竜は、尻尾をビタン!と地面に打ちつけて答える。
「ふん、人間どもが用意した生贄、その聖女を食いに来たのだ」
「太陽の光の矢!」
私の後ろからローザが放った光の矢が竜の脇腹に突き刺さる。
「ぐおっ!」
竜は一瞬その身をよじったが、刺さった光の矢はすぐに消え、その傷跡も輝きとともにあっという間に再生した。
「生贄の分際で…、しかし悪竜でもない我に聖属性の攻撃は通用せんぞ」
ズシン、とこちらに一歩踏み出した竜に立ちはだかるように私は両手を広げた。
「下がってて、ローザ…」
「でも、リリアス様…わたくしも一緒に…!」
「いいから早く逃げて!」
「貴様も逃げるのだ!リリアス!」
アルミラが横から竜に斬りかかる。
ギィン!
竜は鱗に覆われた前脚でアルミラの大剣を受け止める。
「効かぬなあ、子鬼の斬撃など」
「くっ…!」
大剣に力を込めてギリギリと竜の前脚を抑えつけるアルミラだったが、シュルッと鞭のように鋭く振り抜かれた竜の尾撃に弾き飛ばされた。
アルミラは広場の隅に積まれていた樽の山の中に猛スピードで突っ込み、ガラガラガラと大量の樽が崩れて転がった。
「アルミラ様!」
ローザが呼びかけると巻き上がる砂埃の中からアルミラはよろめきながら立ち上がる。
「早く、リリアスを連れて逃げろ…!アタシでもそう長くはもたんぞ…!」
竜はアルミラのほうを向いて言った。
「小賢しい子鬼め、我の食事を邪魔するな。せっかくの美味そうな聖女なのだ」
――食事?
―――美味そうな聖女?
ずっと腹ペコで喉もカラカラで、それでもどうにか耐えて、耐えて耐え抜こうとしたけど我慢できなくなった私に、見かねて自分の身体を差し出したローザのことを、突然やってきた訳のわからないアンタが食うだって?
私は一気に正気を失ってしまった。
「どうしてアンタに食わせなきゃいけないのよっ!!!」
私は牙を剥き出しにして飛びかかった。
アルミラの「やめろ!」という声が聞こえたが知ったことか。
竜が電流を纏った尻尾を振り抜く。
「リリアスっ!」
アルミラが叫んだが私は竜の尻尾をガシッと左手で受け止めた。
私の身長と同じくらいの直径の尻尾に、いつの間にか妙に伸びていた私の爪が食い込み竜の青い血が流れる。竜の尻尾から私の身体にも電撃が流れるがもう痺れはない。
私は尻尾を両手で掴み、全身の筋肉から魔力を爆発させる。
「うおああぁぁあぁぁぁあぁぁぁぁぁぁっ!!!」
私は尻尾を掴んだまま身体を軸に回転を始める。
雷竜王の巨体がブンブンと振り回される。
私はさらに回転の速度を上げていき、最後には渾身の力で地面へ叩きつけた。
ドゴォオォン!!!
轟音が鳴り響き広場の石畳が砕かれ、地面が陥没する。
私はすぐさま飛び上がり、仰向けになった竜の腹を上から思い切り殴り抜ける。
「ぐはぁっ!!!」
竜が口から大量の血を吐き、その血が私に降りかかる。
青い血にまみれて私は竜の腹の上で叫ぶ。
「おなか減ってイライラしてるのよ私は!!!」
そのまま竜の首筋に飛びついてかぶりつく。
「や!やめろおぉぉおぉぉぉおぉぉぉぉぉっ!!!」
のたうち回り暴れる竜の首にしがみついたまま私は血を吸い上げる。
ゴクゴクゴクと凄まじい勢いで私の喉から身体中に竜の血が入ってくる。
ああ…ああ………、私の中に力がみなぎる。
身体が熱くなり燃えるように欲望が次から次へと湧き出てきてたまらなくなり、私は思わず竜の首の肉を食いちぎる。
「ぐわあぁっ!!!」
私に食いちぎられた傷跡が光に包まれ立ちどころに再生される。
雷竜王ヴァルゲスには吸血鬼を凌ぐほどの再生能力と様々な属性攻撃への耐性がある。
血を吸い、今まさに肉を咀嚼して飲み込んだ私の中に、彼の力と記憶の一部が入り込んでいる。
記憶の一部。
それを得た結果、私はすぐさま吸血をやめ首筋から離れ、地に叩きつけんばかりに頭を下げて叫んだ。
「ご!ごごごごめんなさい!何もかも私のせいでしたっ!!!」
私は髪の毛が逆立つような怒りを感じながら立ち上がった。
竜は私の質問には答えずに独り言を呟いた。
「ふむ…我に捧げる供物が女一匹だけとはふざけた話だが、よくよく見ればそれなりに位のある聖女のようだな…。まあ許してやるか」
広場を取り囲む二階建ての建物よりも大きな竜は、額の紋章を輝かせ、硬そうな鱗に覆われた尾にバチバチと光を放っている。
「ただ、邪魔な子鬼が二匹たかってしまっているな」
竜が口を開けて咆哮すると、そこから雷が放たれ、私の身体に激しい電流が走る。
「ああぁぁあぁっ!!!」
「リリアス様!」「リリアス!」
「貴様もだ!」
竜は続けてアルミラにも電撃を放つが、アルミラは素早く背中の大剣を抜いて電撃を受け流す。
「ほう、子鬼にしてはできるようだな」
「ちっ…闇騎士を舐めるなよ…!」
アルミラは大剣を正眼に構えている。
電撃を受けて膝をついた私は、痺れた身体に喝を入れてどうにか立ち上がる。
私の身体中から黒い煙が上がっている。
アルミラは私を横目で見て早口で言う。
「アタシが引きつけている間に貴様は逃げろ。竜の、それも王級ともなれば吸血鬼と言えどこの人数では勝負にならん」
それを聞いた竜が「くくく…」と笑う。
「子鬼と思えば吸血鬼であったか。まあ、この雷竜王ヴァルゲス様にとっては同じことよ」
私は腰のサーベルも抜かず、わなわなと身体の震えを感じている。
腹の奥底から燃え上がる黒い魔力をどうにも抑えきれない。
「だから、何をしに来たのよ、アンタは…!」
雷竜王ヴァルゲスとかいう竜は、尻尾をビタン!と地面に打ちつけて答える。
「ふん、人間どもが用意した生贄、その聖女を食いに来たのだ」
「太陽の光の矢!」
私の後ろからローザが放った光の矢が竜の脇腹に突き刺さる。
「ぐおっ!」
竜は一瞬その身をよじったが、刺さった光の矢はすぐに消え、その傷跡も輝きとともにあっという間に再生した。
「生贄の分際で…、しかし悪竜でもない我に聖属性の攻撃は通用せんぞ」
ズシン、とこちらに一歩踏み出した竜に立ちはだかるように私は両手を広げた。
「下がってて、ローザ…」
「でも、リリアス様…わたくしも一緒に…!」
「いいから早く逃げて!」
「貴様も逃げるのだ!リリアス!」
アルミラが横から竜に斬りかかる。
ギィン!
竜は鱗に覆われた前脚でアルミラの大剣を受け止める。
「効かぬなあ、子鬼の斬撃など」
「くっ…!」
大剣に力を込めてギリギリと竜の前脚を抑えつけるアルミラだったが、シュルッと鞭のように鋭く振り抜かれた竜の尾撃に弾き飛ばされた。
アルミラは広場の隅に積まれていた樽の山の中に猛スピードで突っ込み、ガラガラガラと大量の樽が崩れて転がった。
「アルミラ様!」
ローザが呼びかけると巻き上がる砂埃の中からアルミラはよろめきながら立ち上がる。
「早く、リリアスを連れて逃げろ…!アタシでもそう長くはもたんぞ…!」
竜はアルミラのほうを向いて言った。
「小賢しい子鬼め、我の食事を邪魔するな。せっかくの美味そうな聖女なのだ」
――食事?
―――美味そうな聖女?
ずっと腹ペコで喉もカラカラで、それでもどうにか耐えて、耐えて耐え抜こうとしたけど我慢できなくなった私に、見かねて自分の身体を差し出したローザのことを、突然やってきた訳のわからないアンタが食うだって?
私は一気に正気を失ってしまった。
「どうしてアンタに食わせなきゃいけないのよっ!!!」
私は牙を剥き出しにして飛びかかった。
アルミラの「やめろ!」という声が聞こえたが知ったことか。
竜が電流を纏った尻尾を振り抜く。
「リリアスっ!」
アルミラが叫んだが私は竜の尻尾をガシッと左手で受け止めた。
私の身長と同じくらいの直径の尻尾に、いつの間にか妙に伸びていた私の爪が食い込み竜の青い血が流れる。竜の尻尾から私の身体にも電撃が流れるがもう痺れはない。
私は尻尾を両手で掴み、全身の筋肉から魔力を爆発させる。
「うおああぁぁあぁぁぁあぁぁぁぁぁぁっ!!!」
私は尻尾を掴んだまま身体を軸に回転を始める。
雷竜王の巨体がブンブンと振り回される。
私はさらに回転の速度を上げていき、最後には渾身の力で地面へ叩きつけた。
ドゴォオォン!!!
轟音が鳴り響き広場の石畳が砕かれ、地面が陥没する。
私はすぐさま飛び上がり、仰向けになった竜の腹を上から思い切り殴り抜ける。
「ぐはぁっ!!!」
竜が口から大量の血を吐き、その血が私に降りかかる。
青い血にまみれて私は竜の腹の上で叫ぶ。
「おなか減ってイライラしてるのよ私は!!!」
そのまま竜の首筋に飛びついてかぶりつく。
「や!やめろおぉぉおぉぉぉおぉぉぉぉぉっ!!!」
のたうち回り暴れる竜の首にしがみついたまま私は血を吸い上げる。
ゴクゴクゴクと凄まじい勢いで私の喉から身体中に竜の血が入ってくる。
ああ…ああ………、私の中に力がみなぎる。
身体が熱くなり燃えるように欲望が次から次へと湧き出てきてたまらなくなり、私は思わず竜の首の肉を食いちぎる。
「ぐわあぁっ!!!」
私に食いちぎられた傷跡が光に包まれ立ちどころに再生される。
雷竜王ヴァルゲスには吸血鬼を凌ぐほどの再生能力と様々な属性攻撃への耐性がある。
血を吸い、今まさに肉を咀嚼して飲み込んだ私の中に、彼の力と記憶の一部が入り込んでいる。
記憶の一部。
それを得た結果、私はすぐさま吸血をやめ首筋から離れ、地に叩きつけんばかりに頭を下げて叫んだ。
「ご!ごごごごめんなさい!何もかも私のせいでしたっ!!!」
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