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虚無なる殺意の回顧録

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かつて……言われた記憶がある……。
『少しは人の気持ちを考えなさいよ』……と。


【拒絶】は笑いながら、確かに私にそう言った。


……私は人としての何かが欠落している。
それは周りの反応を見れば明らかだった。
独りの時間が長かった私は……それに気付くまでに時間を掛け過ぎてしまったのだけれど、『彼』以外、誰も許してはくれなかった。


『死ね』『くたばれ』『消え失せろ』


そんな暴言が当たり前になったある時、その言葉は私の内に体現し、概念となった。
ある者は羨み、ある者は妬み、またある者は排除を試みた。


けれど……


全ての人間の弱点たる概念をその身に宿した私の前では全て等しく無に帰した。


それは私自身も例外ではない。

1度は世界の記憶から失われ、【虚無】となりかけた。
その時、私の存在を現世に証明してくれたのも『彼』だった。

『彼』はとても優しくて……私の事を1番に考えてくれる人だった。
私の安全を保障する為に、悪い大人達と何らかの取引をしてくれていたのも知っている。
だからこそ、私は『彼』の為なら何でもしてあげたいと思った。
『彼』の為なら心も身体も血も臓物も、1つ残らず捧げられると、そう思っていた。
そう思っていた……はずなのに……


『彼』は私を残して死んでしまった。

『彼』は私に隠し事をしていた。

『彼』は私以外とも仲が良かった。


私は……『彼』の事を……何も知らなかった……。
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