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終わりの始まり 7

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上履きに履き替え、専用受付に端末を通した後、俺達は新1年生の教室へと足を進める。
階段を登りながら、彼女達にユイの事を軽く他己紹介して聞かせた。
5位だと知った時には驚きを隠せない様子だったが、思っていたより受け入れるのが早く、中でもユリ、ラナ、ユカの3人はまるで娘でも出来たかのように少女を可愛がっていた。
特にオレンジ1色のユカは、
「にぃにより頭いいんだ……。ねぇ……この娘(こ)私の妹として貰ってもらっていい?」
なんてほざきやがった。
ダメな実兄を持つと大変なんだなぁ……。
案の定当の本人はキレていた。
「ダメに決まってるだろ‼ この俺という兄の中の兄が居ながら、更に妹を欲するだと⁉ この贅沢者‼」
「いや兄の中の兄って何だよ?」
「それは……あれだ。妹の事を誰よりも愛し守る‼ 兄妹愛に満ちた人格者の事だ‼ 人はこれをキングオブお兄ちゃんと呼ぶ‼」
「いやそれただのシスコンだろ粉うことなきシスコンだろ」
「キングオブ外道の間違いだろうお前は」
「くたばれ外道」
「自分だけは気付かないらしいですよ? ストーカーって」
「あなたに守ってもらう程私達は弱くない」
「……ドシスコン……」
「あの、皆さん。俺ドMだけど、痛みを伴わないただの罵倒は専門外だからさ、傷口に塩を塗るの止めてもらっていいですか?」
ユヤのテンションが100下がった。

こんな奴でも一応親友だからな。
話題を変えてフォローしてやろう。
「ま、こんなドシスコンは放っておいて……懇親会って何するのかね? 入学説明会が中止になったとは聞いたけど」
「14時から親睦を深めるためのゲームをするらしいわよ」
「ゲーム? 新入生200人で? クラス対抗のサッカー大会でもやるのかな……」
「皆が皆シューズを持ってきている訳ないでしょ? 私も部屋に置いてきちゃったし」
「分かってるって、言ってみただけ。精々、鬼ごっことかその辺りだろ?」
「うは~それ楽しそうだな‼ 丁度適役のジュンがいるしな」
ユヤのテンションが5に上がった
「は? 何で俺が鬼なんだよ。逃げる方やりたいんだけど」
「え? お前鬼だろ?」
「いや……そうなんだけどさ、199人も捕まえてられないだろ。疲れるわ」
「いいじゃん、サングラスあるんだし。まぁ俺等も持ってきてはいるんだけどな。目立つし何か恥ずかしいじゃん? ジュンがスーツと黒ネクタイ着て走ってくれればいいだけだよ」
「それ逃走中な」
と言いつつも伊達メガネをサングラスモードに変える俺、まんざらでもない。
「最初期の01KRみたいな髪型してるし丁度いいじゃん。好きだろ?」
「好きだけども。どうせコスプレするなら06TTがいい」
「いえ、07OFよ」
「にぃに、私は08TGを推すよ」
「「いえ、10HMは譲れませんわ」」
「私は初代四天王がいい」
「……界隈民が興奮してるが気にするなユイ。あんな限界オタクになってはダメだぞ」
「……?」

こうして語り合っていると、この2ヶ月の出来事を忘れられそうだ……。
俺がこいつ等と普通に仲良くなれていたら、こんな日が永遠に続いたのかな……。

哀愁に浸りながら、俺達は中等部4階に到着した。
階段を上りきると、目の前には大きな掲示板が。
クラス割りが張り出されており、他にも大勢の新入生で賑わっていた。
「私達全員同じクラスでしょうけど……一応確認しましょうか」
「ユヤ、見てきて下さいます?」
「OK。少々お待ちください、姉姫様」
そう言って突撃していったユヤは、揉みくちゃにされながらも最前線に向かって行った。
「なぁ姉さん、俺等が同じクラスかもって……何で分かるんだ?」
「己の立場を自覚しなさい。私は何度もそう言ったはずだけど?」
「……そうだった。俺を独りにする訳無いよな」
「叔父様の事ですから、1ヶ所にまとめて置いた方がいいと考えたのでしょうね」
「……ユヤだけ別のクラスだったらいいのにね」
「クラスが1つ丸ごとあいつの犠牲になるって考えたら……怖気が走るわ」
姉姫が冗談交じりに笑うのだが、あいつよりあなた達の方が怖いんですけど。
認識操作で自分を崇(あが)め奉(たてまつ)らせる事など秒。
魔眼の効かない反乱分子は排斥すればそれでいい……そういう考えが根底の彼女達だ。
だからこそヒナタとミーティア、リーティアも一緒にすることでお互いが抑止力となるように強制するのだろう。
「姉姫様~俺等は0クラスですね~」
大声で、ユヤから伝令が届いた。
うるせぇ。マジうるせぇ。
人の迷惑とか考えないんか?
満員電車でイヤホン付けずに大音量でアニソンを流す奴ぐらい迷惑だ。
 
……0?
 
大きな悩み事があると、小さな悩み事はそれに埋もれてしまうらしい。
違和感への反応が遅れた。
「……0クラス? 1じゃなくって?」
「えぇ姫様。@01から11までは一緒――」
その時、周囲がザワついた。
『姫様』という呼び声に反応したらしく、学徒達はミーハーかよってくらいに沸き立った。
「あの声のデカい子、今『姫様』って言った?」
「姫? 姫って……あの姫? プリンセス?」
「どこかの国のお姫様? この学校に⁉」
「まさか……って何だあの美女は‼」
「え⁉ どこどこ?? どこにいるの?」
「あれじゃない? 階段の所の……金髪⁉ しかも2人‼」
「可愛い‼ 肌白い‼ 足細っそい‼」
「っていうか……姫だけじゃない‼ 何あの美少女集団⁉」
「やべぇ……ボディーガードもいるぞ‼ サングラスの‼」
「なんか……小さいな。ていうか傘? 他の子達も持ってるぞ?」
小さい呼ばわりされてイラっとしたが、それどころではなくなってしまった。
あだ名とはいえ、姫なんて言うから……。
そのルックスも相まって、誤解が誤解を呼ぶのに苦労はしない。
当人達は『またか』という感じで呆れている様子、ユヤは「あ、やべぇ」とあからさまに焦ってこちらに逃げ帰って来た。
「何してくれてんだユヤ」
「あなたに頼んだのが間違いだったわ」
「申し訳ございません。姉姫様」
「家でならいざ知らず、こうなると分かっていたでしょう?」
「……ミーティア達は先に教室に行ってて。ユヤも連れて行って頂戴」
「……OK。行くわよ皆、あと下僕(げぼく)」
「行くぞ外道。ボディーガードとして役目を果たせ」
「やったぜ‼ 外道からボディーガードに昇格した‼」
「黙れ‼ 喜ぶな外道が‼」
「にぃに……お願いだから大人しくしてて」
滅茶苦茶ユリに蹴られてる。
「ジュン君、私も先に行っていますから、クラス割りを撮って送って下さいます?」
リディアが横で耳打ちしてきた。
「……了解しました。お嬢様」
「ふふっ。空気の読める殿方は好きですよ♡」
甘言に気を飛ばしそうになる。
Yourtube(ユアチューブ)にASMR動画を載せれば一躍人気になりそうだ。
エリーゼ姉妹に川内兄妹、それにユリは一足先に教室へと向かった。
彼等の歩みに釣られてか、野次馬共の半分は食いついていった。

が、まだ半分残っている。
「で? リーティアに何を頼まれたの?」
「写真撮って送れってさ」
「奇遇ね。私も同じ事考えてた。ユイ、肩車するから私ので写真撮ってくれる?」
「……へ? ……う、うん……」
「私も見たい。ジュン、肩貸して」
「え……うん。了解」
俺とヒナタは人目を恥じる事なく、ラナとユイを肩車して持ち上げる。
ユイがこちらを見て小声で「……いいなぁ……」と言った気がしたが触れないでおいた。
いいなぁじゃないよユイ。ラナだけじゃないけれど、皆、俺より高くて重いんだよ。デリカシーの無い奴と思われたくないから痩せ我慢してるだけなんだよ。
「サングラスも」
「あい」
ラナは伊達メだからな。
視力は良くもなければ悪くもないという感じらしいが。
側面のボタンを操作し、サングラスモードから望遠メガネモードに切り替えて交換した。
「0クラス……本当だ。席順は順位昇順で並んでるっぽい。けど0クラスから7クラスまで割振りはバラバラ。関係無さそう」
「なんで1~8じゃなく、0~7なんだ?」
「さぁ」
「……撮れた……」
「ありがとう。見せてくれる?」
ヒナタの肩を飛び降り、パーカーがふわりと揺れる。その身のこなしは軽かった。
「うん。良く撮れてる。皆に一斉送信しておくわ。それじゃあ行きましょうか」
「あぁ。……ねぇラナ、いつまで乗ってるの?」
「……怖い。降りられない」
あ……こいつ高所恐怖症なんだった。
たかだか1メートルちょいの高低差でも怖いものなのか……。
渋々、俺がしゃがむ事でラナを恐怖のアトラクションから解放した。
「ふぅ」
「ふぅじゃねーって。降りられないなら乗るなよな」
「いじわる」
「……置いていくわよ?」
姉が虚ろな目でこちらを見ている……。
後が怖いので、急ぎメガネを取り返して追いかけた。
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