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終わりの始まり 6

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晴れのち桜乱。
花弁をのせて吹き荒れる。
並木を行く我等を拒むかの如く、重みを増して襲い掛かる。
「んで? その子は誰だジュン? 何でお前にくっついてるんだ?」
職員玄関に続く道のりを、頭のおかしい少年は強風など物ともせずに突き進む。
「この子はユイ。道中知り合ってなんやかんやだ。ちなみに5位な」
「……よろしく……です……」
ユイは俺を風除けにしながら確実に歩みを進める。それでも吹き飛ばされそうなので、ヴァニッシュは左に持ち替え、俺の傘の持ち手を掴ませてけん引しながら。
「5位? その子が?」
不正を疑うような目で見るユヤにユイはコクコクと頷いた。
「……どうぞよろしく」
ユヤも頭を下げる。
順位負けした腹いせか、話し方はフランクというより淡泊だった。
「っていうか、お前に勝手に動かれると迷惑なんだよ。俺等1番台なんだからさぁ」
退院直後の俺をたった2カ月で9位にさせた奴等だ。その学力が如何程に優れているか言うまでもない。
上から順に、ヒナタ、ミーティア、リディア、ユカ。5位のユイを挟んでラナ、ユリ、ユヤ、そして俺。……10位はどこの誰だろううな。
「最初から車で来てりゃ楽だったのによぉ」
「悪かったって。ばつが悪かったんだよばつが」
「その割には新しく女の子手懐けてんじゃねーか浮気野郎」
「手懐けているんじゃない。手を差し伸べているんだ」
「んでそのままベットに引きずり込むと......」
「しねーよ。分かるだろ」
ユヤが加入したことで、パーティの会話が一気にゲスくなった気がする。
ユイが白い目で見ているのが何よりの証拠だ。
「そうだよな。お前ヘタレ総受けだもんな」
「ヘタレじゃないし受けでもない」
「『総』を否定しろよ『総』を」
「……だって事実だもん」
「「「…………」」」

「――っ⁉」

虚無と殺意と素敵な何かで刺された気がした。
振り返えろうとした……その刹那、藍玉色の傘が俺の喉元に突き付けられる。
アクアマリンのパーカーは2人に増えていた。
「私というものがありながら、いい度胸してるじゃない? ……ジュン」
「姉さん……」
傘を降ろして「はぁ……」と嘆息を漏らした。
「あれ、ヒナじゃん。いつの間に?」
「……ジュンの……お姉さん……?」
「初めまして結衣さん。あなたの事は義父様(とうさま)から聞いてるわ」
「……あぁ……あなたが……」
見知った顔のように挨拶する2人。
1人は見降ろし、もう1人は見上げていた。
「此処へ来る前、あなたの荷物が運ばれてきたわ。懇親会が終わり次第、寮を案内するわね」
「……はい……」
「え? ユイうちに来るの? SSH(Sixth Sense House)に?」
「ええ。他に数名来るらしいけど、今入寮が決まっているのはこの娘(こ)だけ。入試5位の成績を考えれば当然の優遇措置ね。化物の私が言うのもなんだけど、この娘(こ)も相当な化物よ」
「あら、化物の自覚あったんだ」
俺達を遠目に視認したミリ……ミーティアが嫌味全開で煽ってきた。
リディアもユリも、ラナもユカも一緒だった。
「……ジュン……知り合い……?」
「こいつらも同居人なんだよ……」
「朝起きたら居なくなってたから心配したんですよジュン君? 連絡もつかなかったから、通り魔に刺されて死んでたりしないかと……」
「死なないから。……ごめん、帰ったら気の済むまで付き合うから」
姫君達はピンクパーカーに、姉は赤、妹は黒の傘を杖のように突いていた。
昨日の下着と同じ色だった。
「ジュン。遅い」
「帰ったら1戦付き合ってもらうぞ。そのくらいいいだろ?」
ユリとラナは新調したであろう黄と紫の長傘を自慢げに俺に向けた。
「悪い。待たせたな」
「待たせ過ぎ。まだ30分以上あるけど。肩慣らしに組手出来るくらいには待った」
「我々も早く行こう。……あぁ、途次(みちすがら)その女について色々聞かせてもらおうか? 浮気者」
絶えず笑顔のまま、石突きで心臓の位置をツンツンしてくる。
「ごめん。マジごめん」
「……許すよ。バカ」
「「……そこ、イチャイチャしない」」
川内兄妹が白い目で見ていたので、逃げるように職員玄関に入り、靴を履き替えた。
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