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異能との出会い 7

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……あれ以降、俺はリディアの暇潰しのお喋りに延々と付き合わされる事となった。
体は横になっているのに、脳だけが休まらない状態が続いた。
それでも、病室に1人という孤独感からは気を紛らわす事が出来たから、良い所悪い所で半々くらいかな。
彼女の話は、昔の俺に対する愚痴のようなものが殆(ほとん)どだった。
自分も人の事は言えないと卑下(ひげ)してもいたが、『僕』の傍若無人っぷりは常軌を逸していたとの事だった。
何もなければ非常に大人しい、模範的で礼儀正しく非常に優しい性格の子供だったという。
だが、ひとたび学校での出来事を思い出すと、恐ろしいまでの破壊衝動に駆られたそうな。
彼女曰く、怒りの感情を全く制御できていなかったらしい。
言葉は失われ、平気で物に奴当りして粉砕する暴走機関と化していたと。
力業で気絶させるか、体力切れで気絶するのを待つか、自身の涙を『僕』の目に落とす。俺を止める方法はその3つしかなかったようだ。
タチの悪い事に、俺には怒っている間の記憶が無かったと、彼女は言った。
破壊の限りを尽くした後、目覚めた時、ガンプラのフィギュアケースに大穴が開いているのと、血の付いたガラス片が散乱しているのを見て、何も言わず静かに泣いていたという。
小学校は皆別々だったらしいので詳しくは分からないが、死神だとか鬼だとか、破壊神、殺神鬼なんて不名誉なあだ名が沢山あったらしい。
恥ずかしくもカッコイイと思ってしまった『俺』の思考も彼女には筒抜けだった。
不思議と心を読まれるのに慣れるのは早かった。
この歳頃の男子が女子と頭の中で延々とお喋りしてたらどうなるか……100%惚れるね。
今の俺の状況が、隠し事由来の疚(やま)しい考えを起こさせないのは彼女にとってもまた好都合なのだろう。
性格的な相性もあるのだろうが、自然と……そう、自然と惹かれ合うようになっていた。
遠慮が無くなったのはお互い様だか、危惧した通りに彼女は夜も寝かせてくれなかった。
色々と……そう、色々と好き好きアピールが凄かった。
お風呂に入る時はどこからどう洗うとか勝手に実況プレイを始めるし、自作の恥ずかしいポエムを聞かせてきたりと、自分に友達がいないのを理由にめちゃくちゃ話し掛けてくる。
俺を監視し守るという大義名分を利用して、その名の通り僕(しもべ)にしやがったのだ。
部屋はミーティアと同室らしいが、俺達は思念だけで会話が出来てしまうので、所構わずやりたい放題だった。
きっとあいつの頭の中は、

『退院したら襲う絶対に襲う部屋に来た瞬間襲う確実に襲う押し倒して襲う何回も襲う気絶しない程度に襲う虜になるまで襲う依存するまで襲う朝まで襲う飽きるまで襲う尽きるまで襲う』

といった具合に黒一色な事だろう。
姉が隣で真面目に受験勉強しているというのに、なんて異次元な変態プレイをしているのだと……俺も共犯だから咎められないのが辛い所だ。
襲われて殺されないだけの体力は取り戻さなければ……。
 
病院では3日間、点滴だけで過ごした。
虫垂炎の摘出手術の際、麻酔が効き過ぎたようで、腸が動いていないらしい。
水を飲む事も禁止され、湿らせた脱脂綿で口元を拭く程度しか許されなかった。
一番大変だったのはトイレに行く事だった。
1日目は足が動かないので、専用のタンクに用を足し、それ以降は点滴フック付きバックスタンドを押してトイレまで歩いた。
腕の動きが制限されている上に、寝たきりなので筋肉の衰えが半端ではない。
とてもではないが、あの映像のような剣捌きは当分出来そうにない。
そもそも俺がユヤとボールを蹴っていた事も、ユリとラナと剣を交えていたことも、今の人格は覚えていない。
記憶が無い筈なのに、知識だけはあるから気持ち悪いんだよなぁ……。
リディア達もサッカーをしているらしいし、俺も退院次第、鍛える意味でもボールと竹刀に触れなくちゃいけないな。
 
この時点で検査でした事と言えば、毎朝と夕方の血液検査と俺の黒傘の精密検査だけだ。
園山院長の話では、黒傘については何も期待された結果は得られなかったそうだ。
総重量は一般的なビニール傘の約3倍……1.1キロと計測され、どう考えても100倍以上の重さを孕んでいる傘を運んで戻すだけの無駄な作業だったとボヤいていた。
 
4日目からも苦痛は続いた。
点滴とは別に、腸の働きを促すための流動食が始まったのだ。
重湯と呼ばれるただ甘いだけで味気の無い、とんでもなく不味い、もったりしたお湯を飲まなくてはならない。
俺の人格における人生初の食事があんな不味い食べ物になろうとは予想だにしなかった。
附属の梅ジャムや海苔の佃煮を混ぜて何とか飲み込める代物だ。
ただでさえ点滴生活で食欲が失われているのに、美味しくない食事というダブルパンチ。
早く退院して、CMに映っていたワックのアイダホバーガーなるものを食べてみたい。
5日目の夜からは、お粥に加えてすまし汁が付いてグレードアップした。
甘くなくなった分食べやすくはなったが、子供の口に合うかと聞かれればハッキリNOと断言しよう。
献立的にも悪意があると思うんだよ。
汁気に汁物重ねた所で食欲戻る訳ないし、無駄に重い食事になっただけだ。
……この時点で体の自由は取り戻していた。
目覚めた当時は並のボリュームだった髪もあっという間に肩に掛かるぐらい伸びてしまい、鏡を見るのが恥ずかしい程、俺は女の子のように可愛かった。
特に襟足は伸びるのが早い気がした……。
 
6日目にはお粥の汁気が飛んで柔らかいごはんに。
病院のリハビリ施設で時速25キロメートルのランニングマシンに1時間ぶっ通しで走れるぐらいには回復しており、ケアトレーナーさん達からは化物認定された。
院長からはもっと安静にしなさいと怒られた。
面会謝絶エリアを勝手に出たことも怒られた。
八つ当たりにトイレの扉を殴りつけたら、向こうの壁ごと大穴を開けてしまって更に怒られた。……どうやら俺は怒られるのが大嫌いらしい。

7日目、退院の日。大晦日の朝には普通の白米と通常の入院調整食が出された。
和風あんかけ豆腐ハンバーグと野菜小鉢、味噌汁が出たが、やはり味付けは薄かった。
俺の病院での最後の晩餐ならぬ、最後の朝飯にしては何とも味気ない質素なものだった。
お昼には、晴れて警部補となった赤塚さんと目黒さんがお見舞いという名目で聴取に来た。
ライオン義父(おやじ)が急な出張で来れない代わりに、寮への送迎も兼ねていた。
だが、事件当夜の記憶どころか、人格が変わっているらしい俺に話せる事はほとんど無く、前者の用事は無駄足にさせてしまった。
せめてものお詫びとして、俺がヒナタとミーティアの喧嘩を仲裁した際の出来事を話して聞かせた。
技を放つ瞬間に別人だった感覚、放った技が映像の中で〈奴〉や黒の少女が使用していた〈テンペスト〉だった事など、他にも感じた事の多くを話した。
最初こそ疑心暗鬼だったが、俺のフィクション話を現実として受け入れて聞いてくれた。
 
寮へ向かう車の中では、捜査の進捗を聞き出す事にも成功した。
事件発生を受けて、捜査一課と組対部で合同捜査本部が設置され、交番襲撃事件の実行犯が所属していた暴力団組織・黒龍会東京本部と周辺事務所にガサ入れが行われた。
激しい銃撃戦の末、警察側にも多数の死傷者が出たが、幹部を含めた構成員の殆どが死亡し、事実上の壊滅に追い込んだそう。
事務所内で発見されたのは、中国から密輸されたトカレフと3Dプリンターでコピー製造された模造銃、そして大量の覚せい剤等ドラック類だった。
生け捕りにした幹部の証言によると、交番襲撃の依頼はネットカフェにて警視総監自らが出向き取引したらしい。前金に500万と成功報酬も同額用意し、更に今後ガサ入れの情報を前もって知らせるなどの連携にも応じると言って、一番の鉄砲玉を寄こすよう要求したらしい。
その理由というのがバカ親過ぎて笑えない。
クリスマスに子供が拳銃を欲しがって聞かないからと……身勝手な言い分だったようだ。
仕事で帰れない事を考慮して23日の時点で手に入れたかったようで、そこから少年Aの手に渡ったと思われている。
鉄砲玉の男は組織の銃器等を横流しして、武器商人の真似事をしていた事も判明している。
少年Aが扱ったリボルバー2丁は殺された警察官達から、4丁のトカレフは男の部屋から持ち出されたと見られている。
元警視総監は逮捕後も黙秘を貫いており、本人の証言は未だ得られていない。
面倒な事に、被疑者死亡とはいえ拳銃が使用されたということで調書を作成する必要があるらしいが、磔の少女が弾いた銃弾によって少女B&Cが死んだという客観的事実、そして元俺に対しての発砲による少年B&Cの不自然な死亡事故も、同じ現象ではないかと疑問視する声が多数挙がって困っていると赤塚兄さんがぶちまけた。
他にも重要そうな話を聞けた。
配信が始まってすぐ警察が駆け付けたが、あの教室はもぬけの殻だった。
撮影機材や少年A達の死体は体育館に突如として無く出現し、俺と一緒に運ばれてきた少女Aを除いた教室の子供達も全員意識を失った状態で倒れていたという。
回復後、元磔の少女に事情聴取したが、事件自体を把握しておらず、
『悪夢を見ていた。気が付いたら病院のベットの上だった。学校から帰った後、急な眠気に襲われてベットに横になってからの記憶が無い。こんな事件が起こっていたなんて信じられない』
と答えたようだ。
他の子供達もほぼ同じ内容を証言したらしく、中には『パラレルワールドで死神の騎士と戦っている夢を見た』『影の国に行く夢を見た』『ブラックサンタに殺される夢を見た』と、記憶障害を疑う意味不明な内容を証言する子もいたらしいが、全員に共通していたのは夢を見ていたという事、そして事件の一切を覚えていない事だった。
事件映像全編を観た後も、
『〈奴〉なんて子は知らない。あんな子はクラスに居なかった。学校でも見たことがない。あれは一体誰なんだ』
と例外なく同様の感想を抱き、ショックのあまり嘔吐する者もいたのだとか。
元磔少女は、彼等からいじめを受けていた事実のみ肯定したが、〈奴〉と同じ異能を扱える事は完全否定し、『私は魔女じゃない‼』と赤塚の兄さんを思いっきり睨んだそう。
子供達全員にポリグラフ……嘘発見器による検査も実施されたが、証言に虚偽はなかった。
この事から彼らの証言に基づく証拠能力も完全に否定され、少年Aらいじめっ子達が今回の事件を起こした背景や、映像中に映った磔の少女や〈奴〉が使用した異能についての証言、少女Aと俺がこの病院に搬送されるに至った経緯、そして突如として出現したファントムと呼称される謎の敵について、何ら有力な情報は得られなかった。
 
そして事件発生から3日後……彼等を家に帰した後、警察やライオン達にとって恐れていた事態が現実になった。
事件映像の全編が子供達の手によって拡散され、ニュースでも報じられたからだ。
世間に黒い衝撃が走る中、元磔の少女から赤塚に電話が。拡散に至った経緯が伝えられた。

……保護された時点で元磔の少女は計5本のUSBを持っていた。
内4本は靴底と中敷きの裏、傘の骨の内側、そして下着に1本ずつ隠し持っており、どれも同じ内容の録画映像とテキストファイル、〈奴〉からのメッセージが入っていた。
ファイルには〈奴〉が少年Aの親族及び警察による証拠隠滅を危惧して行った幾つかの工作内容が記されていた。



『俺と事件に関する全ての記憶を思い出せないようにした。この指令もUSBを視認するまで忘れるように暗示を掛けた。……もう二度と会うことはないだろう。さらばだ』

※生存者全員に録画データとテキストファイルをコピーしたUSBを1本持たせる。

※USBは必ず、衣服のポケットに仕舞うようにする。

〇全員が保護された後、1人でもポケットからUSBが無くなっていた場合、証拠品として回収された可能性を考慮せず、隠滅工作が図られたものと見なして映像を拡散する。

〇全員がUSBを所持している状態で新年を迎えた場合に限り、物理的破壊をもってこれを処分する。

P.S.『少年Aによる配信の指示と、ファムトムの介入が唯二の誤算である』



病院から帰路に着いた折、元磔の少女はUSBの存在を思い出した。が、パーカーの内ポケットに入れた筈のUSBが1つ無くなっている事に気付き、他の子供達を集めて確認した結果、少女A以外には誰もUSBを持っていなかった。

つまりはUSBの中身を知った警察が〈奴〉のメッセージを鵜呑みにし、配信されなかった部分の映像を無かったものにする為、全員のポケットから1本ずつ回収して隠滅を謀ったという事だ。
確信に至った彼女達は、既に記憶には無い〈奴〉という居たかも知れない友達の意志を汲んで行動を起こしたという事だ。

……ここで1つ疑問が出てくる。
俺達が病室で見た映像のデータはどこから手に入れたものなのか。
答えは俺の父親だ。
元磔の少女は、俺の実の父親に直接手渡した6本目のUSBがある事、それを手渡した記憶が無い事、渡したという事実だけを思い出した事を白状した。
映像を見た俺の親父は、データ便で学長を始めとするあらゆる政府機関に送り付けた。
何故そんなことをしたか任意聴取に応じた親父だが、送り付けた事を否認するどころか、自分に息子がいる事自体を否定してきた。

『私には小学5年になる娘が1人、子息はいませんよ。……何故そんな事を聞くのです?』

と、ポリグラフにも反応がなかった。
……目黒さん曰く、何の目的も無く、愉悦の為だけに人を殺せる愉快犯みたいな印象を受けたらしい。
そんな父親に会いたくねぇよ。
母と実妹には会ってみたいが、こんな化物に堕ちた兄を受け入れてくれるだろうか。
そもそも向こうが俺の存在を把握しているか謎だが。
……俺は死んだことになっているのだから。
 
ここ7日間、ニュースはこの話題に持ちきりで、世論の声もどんどん厳しくなっていった。
情報操作のおかげで少年Aがあの場にいた生徒30人を殺したという事になっていたのに、俺の中二全開のトンデモパワーも、ファントムの介入で少年A達が死亡したことも何もかもが暴露されてしまった。幸いにも批判の矛先が少年Aからファントムに移っただけなのだが、バカなコメンテーターが〈奴〉こと俺が少年Aをマインドコントロールして意図的に事件を起こさせただなんてほざきやがったから、警視庁の次期トップ……ユリとラナの祖父に当たる人が異例の抗議声明を出し、番組に組織ぐるみで圧力を掛けた事までバレて事態は悪化の一途を辿っている。
年明けには番組内で直接対決するらしいし、俺も是非視聴したく思う。
映像を隠蔽しようとした組織が何を考えているのか、知る必要がある。
友好にすべきか敵対すべきか……場合によっては〈奴〉に責任を取らせる方法を模索するのも厭(いと)わない。
何を思って行動に移したかは知らないけれど、この俺を残して頭の奥底で眠ってるだなんて無責任にも程がある。さっさと起きて俺と変わるか、記憶を寄こすかしてくれよ、〈奴〉。

今できる限りの捜査は既にやり尽してしまったと言う赤塚兄さんと目黒さん。
今後の捜査方針としては、特別捜査官の2人で俺を含めた第六感能力保持者の警護に当たりながら、俺の人格の回復を気長に待つ事、そして俺達が学園入学後に問題を起こさないように監視する事が決定している。
本格的に学園生活が始まれば送り迎えの必要が出てくるからと、暫くは警備部から人員を回して寮の警護に当て、その間職務から離れて仙台に大型免許を取りに行くそう。
今日を含めた三箇日(さんがにち)までは連休を取り、そこから夜行バスで出発すると意気込んでいた。
目黒さんは当初、捜査に対し不安でしかなかったらしいが、階級が上がったことで署内で動きやすくなり活き活きしてきたと赤塚の兄さんが自慢気に話していた。
自分達も寮の空き部屋を仕事部屋として借りると言っていたので、他の信用ならない大人達と比べても……いやそれ以前に男の話し相手が増えるのは喜ばしい事だ。
車内での雑談が盛り上がった後、俺を乗せた捜査車両は世田谷成城にある寮らしき場所に着いた。
豪邸というよりは集合住宅と表現した方が適切な土地だった。
その内1軒の玄関から、ユヤやリディアをはじめとする子供達が出迎えに来てくれた。
ヒナタとミーティアはまだ喧嘩中らしく、お互いツンツンしていたが、他の子達が優しく迎えてくれたので嬉しかった。

ここで警察の2人と分れ、俺はこの寮に引き取られた。
既に夕刻時に差し掛かっており、年越しの準備に追われていたようだが、寮母さんらしい川内兄妹のママさんから「そのロン毛は暑苦しいから切らせなさい‼」と連行され、駐車場にビニールシートや新聞紙を敷いて作られた特設散髪場にてバッサリと髪を切られた。
ママさんは散髪には自信があるらしく、鼻歌を歌いながらご機嫌な様子でハサミを当てた。
このテンションの高さは歪みに歪められてユヤに遺伝したのだろうな。
散髪が一段落し、鏡を向けられると、そこには長かった襟足がバッサリと切り落とされ、女の子っぽかった髪形は男の子らしい短い髪になっていた。
とは言っても元の顔立ちがそもそも女の子っぽかったから、女装とかも行けちゃうんじゃないかレベルで可愛いんだけどね。
天使の輪の出来損ないみたいなアホ毛は健在。ママさん曰くチャームポイントらしい。
ママさんも俺の事は知っているようだったが、リディア以上の事は聞き出せず、手が掛かったけど優しい良い子だったと話していた。
散髪が終わった後、風呂に入ってゆっくりした。
病院でもシャワーは浴びたが、水圧の差が尋常ではない。
湯に浸かるのなんて何年ぶりだろう。およそ1週間ぶりか。
おまけに全面ガラス張りのお風呂‼ ゴージャスにも限度というものがある。
湯浴み中にリディアが押し掛けて当たり前のように入ってきたり、覗きに来たミーティアとヒナタがヤケを起こして脱ぎ始めたり、着替えを持ってきてくれたラナがそれを見て卒倒したり、騒ぎに気付いたユリが全員まとめて浴室から引きずり出して鉄拳制裁したりとハプニングもあったが、その後は皆でテーブルを囲み、元俺の思い出話を語り合いながら年越し蕎麦を啜(すす)り、俺の入居初日は終わる――

……はずだった。


ヤってしまったのだ。5人とも。

 
俺が健全な青少年として新年を迎えられる事は無かった。
誰のせいだ?
世界のせいだ。
不条理に溢れる世界のせいだ。
抵抗した。
けど抗えなかった。
既に確定された未来が変わる事はなかった。
これは因果律に定められし運命なのだと、自分を騙すしかなかった。
そして彼女達とこれからの事を考えて苦悩した。
答えが出てからは少し楽になった。
俺達は、全てをありのままに受け入れることにした。
不条理でもいい。
不平等でもいい。
地獄が待っていてもいい。
とにかく先へ進もうと。
そう思って手を伸ばして……いつか必ず後悔するんだ……。

 
寮に来て71日目。リディアの言うⅩデーがやってきた。
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