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悪鬼の目覚め 2

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ベットから右向け右。

テレビの電源を入れると丁度番組が始まったようで、軽快なリズムのオープニングが流れ始めた。
独特な曲調……これが『じぇー・ぽっぷ』ってやつなのか?
これから俺にとってショックな何かが始まるというのに、なんだこのふざけた曲は。
明らかにバラエティ向きであり、仮にも民放の報道番組には似合わない。そんな曲だった。

だがこの怒りは一瞬一時の感情。単発消費型コンテンツなのである。
一視聴者である俺なんかと比べて、毎日毎日飽きもせずスタジオで愛想良く振舞っている司会者や気象予報士、コメンテーター、キャスター達の気持ちを考えると、このオープニングは約2時間に渡る、生放送という名の羞恥系の拷問への序曲なのかもしれない。日々の生放送の積み重ねで、地上波全国ネットの視姦プレイに耐え抜く強靭なドMボディが形成されつつあるのかもしれない。

なんて……もはやオープニングを耳障りな雑音程度の認識にしか感じなくなった浅はかで短慮な精神を反省しつつ、俺は真剣にテレビの画面を見つめていた。

体を起こした状態で観ようと思ったが、点滴に繋がれた右腕が思った以上に重く辛い。
体に針という異物がねじ込まれている時点でだいぶ気持ちが悪いのだが、加えて血が足りないらしく、貧血の症状によくある目まいまでしてきた。
気を抜いているとコロっと気を失って目が覚めたらそこは天国か地獄、現世(うつしよ)にまだ存在を確立できているか、あるいは異世界に転生しているかの4択だったりして。

でも正夢になるのは嫌だから、俺は考えるのを止めた。


「2011年12月25日土曜日『サタデー14』のお時間です。本日のこの時間は番組の内容を変更してお送り致します」

深いお辞儀に定型文のような挨拶。だが表情はどこか固いものが感じられた。
BGMは切られ、如何にも訃報の知らせが予感される雰囲気であった。

「……昨晩発生した事件は世間を震撼させました。少年犯罪史史上最悪と目される事件の最新情報をお伝えしていきます」
事件の映像が流れます。気分を害される方がおられると思いますのでご視聴の際は十分にご注意下さい」


〈小学生30人死亡 いじめ生配信の悪夢〉


というテロップが画面左上に表示され、ナレーションの音声が。

『この映像は、昨夜19時に動画配信サイトYourtube(ユアチューブ)にライブ配信されたものです』

事件の一部始終を撮影したと思われる映像が流され始めた。
 
……そこには学校の教室が映し出されていた。

非常に暗いが、電気は使われておらず、ロウソクの火が暗い部屋に不気味な雰囲気をもたらしている。

そして1人の少女の姿が。
黒いパーカを羽織った長い黒髪の少女だ。
少女は鎖で両手足を縛られ、黒板の前に置かれた椅子に磔にされていた。
フードを被っている上に、俯(うつむ)いて前髪が掛かってしまっており、表情が読めない。

それをとり囲むように子供が10人。ケタケタと笑い声が聞こえる。
廊下側に少年が5人、内1人はナイフを持ち、もう1人は腕を組んで目を閉じていた。
窓側にも少女が5人、内1人は男子の1人と同じように腕を組み、黒板に凭(もた)れていた。


……見るからにいじめの映像だ。


机の類(たぐい)は部屋の隅に寄せられ、教室前方に大きなスペースを確保している。
そしていじめっ子達を取り囲むようにカメラや携帯、スマートフォンやPCを持った子達がちらほらと確認できる。

今流れている映像以外に撮影している人間が複数存在するということか?

磔(はりつけ)の少女は抵抗するでも泣き叫ぶでもなく、ただ大人しく座っているのが恐ろしいまでに不気味だった。
揺蕩(たゆた)う前髪の隙間からは一片の光も通っていない虚ろな瞳が覗き込んでいるようだった。

『……まだ来ねぇの? ……早く殺(や)りたいんだけど』

いじめっ子のリーダー格と目(もく)される少年Aの台詞に字幕が付いて流れる。

『このまま来なかったらどうするの? マジでこの女、殺(や)るつもりなの?』

少女Aがどこか他人事のように答える。
この子は女子のリーダー格なのだろうか?

『でもなぁ……折角なら〈奴〉の目の前で殺してやりたいんだよねぇ……こいつを人質にすりゃあ、流石の〈奴〉も手は出せないだろぉ? 無抵抗になったところを縛り上げて、目の前で解体してやるんだぁ……」

少年Aは狂気に満ちた顔で話す。

『なんだかんだ〈奴〉とは長い付き合いだ。〈あいつ〉の性格を考えれば確実に来る。もしバックレでもしたら……こいつの首を家まで届けてやるだけだ』

ケタケタと、いじめっ子達の卑(いや)しい笑い声が教室に満ちる。

内2人、目を閉じる少年と他人事の少女を除いて。

撮影している子供達は黙したまま、ただその様子を撮影しているだけ。
この異常な光景に対して咎める者は誰1人としていない。
勇気ある少年少女が止めに入ろうだとか、囚われの姫を救いだそうだとか、そんな正義はこの映像の中には存在しておらず、少年Aの狂気が伝染したかのように、狂い、叫び、吠える姿、倫理観のタガが外れた様子は悪夢そのものだった。

『よくよく考えてみたらさぁ……なんで本人を痛めつけなきゃならないって思い込んでたんだろうね? 手段なんて選ばなければ、簡単に〈奴〉を貶(おとし)められたのに……ねぇ‼』

思いついたかのように少年Aは磔の少女目掛けてナイフを持った右腕を振りかぶった。
離にして1.5メートル程の至近距離からの投擲(とうてき)。
そのナイフはダーツの矢の如く少女目掛けて飛んでいき……
 

 ガギィィィン‼ 
 グシャッッッ‼
 ガンッッッッ‼
 

3つの衝撃音が重なった.

刃が突き刺ささり肉を抉(えぐ)った生々しい音がカメラの映像越しにハッキリ聞こえる程リアルに録音されていた。

だがそれは、的であったはずの磔の少女から発せられた音ではない。
その左隣、少し離れた位置に立っていた少女Aからのものだった。
何故か左から横腹に刺さったナイフは、その向きのままに少女Aの体を吹き飛ばし、窓際の転落防止用の手すりに打ち付けた。


『ぎゃあああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼』


撮影している子供達の悲鳴が上がる。

床に倒れた少女Aは、左腹部横に突き刺さった刃の痛みに耐えられずにもがいていた。
かなり深く刺さったようで、床にはかなりの血量が流れ出ていた。

『う……嘘……何これ……何なの……これ……私は……この……の…………』

少女Aは何とか意識を保ちながら、ギリギリ聞き取れる声量で口にした。

『……なんで……私……』

映像を見ている視聴者には分かる。だが他人事だった少女Aにとっては何が起こったのか理解できていないようだった。

一瞬の出来事ではあったが、一視聴者である俺も見逃すことはなかった。

磔の少女に直撃する瞬間、稲妻の如き軌跡で黒く輝く光が刃を直撃した。
そしてナイフの軌道は左向きに、近くにいた少女Aの左横腹を直撃して吹き飛ばしたのだ。
ナイフが弾かれる音、ナイフが少女Aを突き刺す音、吹き飛ばされ手すりに直撃した音。
投げつけられてから1秒にも満たない時間の中で発生した音が脳裏に焼き付いて離れない。
生配信であること、そして特別な機材が存在せず、モザイク以外の編集が施されていないことを考えると、今の映像はCGでも何でもない。
正真正銘、現実の出来事だ。
信じ難いが、磔の少女は何らかの非科学的な力によって守られたのだ。

そして彼女は沈黙したまま、少女Aの方を見ている。

「………………………………………………………………。………………………………」

少年Aはナイフを投げた後悔か、右手で顔を覆った。

「………………。……くっくっく」

少年Aの様子がおかし――


「ふはっ‼ うぇははっ‼ あはははははははははははははっ‼ ぎゃーはっはっはっはっはっはっはぁ‼」


それは、疑いようのない光景だった。

少年Aは壊れていた。

目は狂人のソレだった。

取り巻き達もまた、壊れたオーディオのように笑い狂っている。


男子1人を除いて。


『何で……笑っていられるの?』

映像の遠くから、女の子と思われる小さな声が。

『はっはっはっ……はぁ……いいんじゃない? 死んじゃえば。俺は何も困らない』

狂気は冷め、見下したような視線で切り捨てた。
狂気の反対が正気なら、少年Aのそれは少し違った。

『それよりも……今の見た? あり得ないよねぇ今の? 確実に命中するはずだったけど、まさかこの女まで使えたとは思わなかったなぁ……魔法』

室内を行ったり来たりしながら、磔の女の子を晒し物にする勢いで少年Aの口調は強まる。

『……魔女狩り。俺等の命を脅かす敵を殺す。どこに問題があるんだい? なぁ‼』

『がぁぁぁぁぁぁぁ‼』

狂った正義を振り翳(かざ)す。
踏みつけられた少女Aは苦痛に対して周囲の悲鳴を誘発し、泣き叫ぶ事しか出来なかった。

『いつから〈奴〉と通じてた? お前以外に有り得ないんだよ』



『……ははっ。自業自得じゃないのか』



第三者の少年の声が割って入った。

発音の正確さと声量から、恐らくこの映像を撮影している主の声だと思う。

少年Aは足を退け、口を止め、俺を……いや恐らくは映像の撮影主の方を向いた。
怒りか、憎しみか、そこに映る少年Aは目を赤く、血走らせていた。

『頭下げに来た時は〈あいつ〉も俺も笑っちまったよ。お前にはもう付いていけないとさ』

『だからって裏切るかなぁ……バレないとでも思ったのかなぁ……腹立たしいなぁ……』

『……先に仕掛けておいて報復が卑怯だなんて言わないよな?』

『あははっ、君は何を言っているのかなぁ? あの〈化物〉を生み出した事に関して言えば俺達は皆同罪。……いいや、君等はもっと酷いかな?』

『それは〈あいつ〉を助けなかったって意味か?』

『分かってる癖に一々確認を取るあたり、君は本当に性格が悪いねぇ』


『……滑稽だな』


静寂。

調子づいていた少年Aはその口を止め、撮影者を激しく睨みつけた。

『……何か言った?』

『聞こえなかったか? 滑稽だなって言ったんだよ。お前の本質は人を貶(おとし)めて精神的優位に立ち続けたいだけの、ただの臆病者だよ』

教室中に嘲笑(ちょうしょう)の声が充満する。
いじめっ子達ではない、その周りで撮影している子供達の声だ。

『……なんだと?』

『おかしいとは思わなかったのか? 俺等が何故素直に従うのかを』

いじめっ子達を嘲笑(あざわら)う声が一層強くなった。


……状況が変わったようだ。

いじめっ子の少年少女達はその異変を感じ取り、動揺を隠せないでいる。
思えば始めからこの状況は可笑(おか)しかったのかもしれない。
10人のいじめっ子達を取り囲むように撮影している大多数の子供達、これが共犯であると決めつけて観ていた。その前提から間違っていたのかもしれない。
そう考えれば、真に数的優位なのは撮影者側ということになる。
少年Aを小馬鹿にした撮影者の少年の態度といい、いじめっ子達に対して嘲笑(あざわら)い続ける周りの子供達といい、この状況は始めから狂っていた。


『……だから、何だ?』

『今からでも遅くない。やめておけ……死ぬぞ』

『〈奴〉を殺せればそれでいい。君達の邪魔が入った所で俺の計画は狂わない。こっちには人質がいるんだぞ‼』

磔の少女を指差し、開き直ったかのような口調で話す。

『この女がいる限り〈奴〉もお前等も指一本――』



『触れられないとでも?』



教室中にどよめきが走った。
そして皆、少年Aの話を遮った方向に振り向いた。
教室前方でスマホを構えていた子供達の目線が映像よりも後ろに向けられている。

『君の道化ぶりが頗(すこぶ)る面白かったからさ、暫く観察してようかなって思ったんだけど……流石に2時間以上前からスタンバってると疲れてきちゃってね。そろそろ参戦したいなって』


『――〈規制音〉――~~‼‼』


怒号が教室の後ろの方に向けられ、少年Aは懐から拳銃を抜いて撃ち放った。
バーン‼ 
という銃声は撮影者達の嘲笑を一瞬悲鳴に変えたが、それだけ。


『あはははは! 残念、ハズレ~』


余裕の笑い声が聞こえた。
銃を仕舞い、カメラの後ろへ駆ける少年A。
ガタン、と勢いよく何かの戸が開いた音がした。

『てめぇ……何のつもりだ‼ 今どこに居やがる‼‼』

再びカメラに映った少年Aは右手にスマホを持っていた。
少年Aは激しい怒りを通話越しの相手にぶつける。

……どうやらその相手が〈奴〉らしい。

『――〈規制音(撮影者)〉――にスマホを返せ。でなきゃ右腕を斬り飛ばす。3……2――』

〈奴〉は淡々と、少年Aを脅迫する。
恐怖が狂気を上書きして刻み込まれたようで、いじめっ子達は目が泳いでしまっている。
少年Aはチッと舌打ちをしながら拳銃を仕舞い、撮影者であろう少年にスマホを投げた。

『うんうん。いい子だねぇ――〈規制音(少年A)〉――君。さて……何から話そうか……ここは君の大好きなクイズ形式で行こうかな♪』

『俺の質問に答えろ‼ 今どこに――』

『第1問! つい先日――〈規制音〉――で発生した交番襲撃事件……警察官2名を殺害し、彼等の拳銃を奪わせた挙句、嗾(けしか)けたその男すらも口封じに殺した真犯人は誰でしょうか?』

少年Aの話を無視して〈奴〉はクイズを始めた。

『お……お前……何を言っているんだ――』

『正解は、――〈規制音(少年A)〉――君なのでした~‼』

殺人の暴露。
ほとんどは規制音にかき消されてしまったが、物騒な内容であることだけは理解出来た。

教室にいる者の視線の矛先は容疑者Aに向けられた。

『だから……さっきから何を――』

少年Aはあからさまに動揺し、口元と足元がガクブル震えていた。

『続いて第2問! ――〈規制音(少年A)〉――君が拳銃を手に入れるために雇った男、彼に若き警察官2名の命を金で売った教唆犯は誰でしょうか?』

『……やめろ』

『正解は――』


『やめろおぉぉぉ‼』


少年Aは焦りを隠しきれなくなったようで、撮影者のスマホ目掛けて飛び掛かった。


 ズシャッッッ‼
 ゴンッッッッ‼


投げだした身は、何かにぶつかったような鈍い衝撃音と共に進行方向を左に変え、壁に激突して落ちた。
挙動は少女Aがナイフに突き飛ばされた現象と酷似していた。

動揺は留まる事を知らず、少女B~Eに至っては感情が壊れ、声もなく涙し始めた。

床に倒れた少年Aだったが、受け身を取っていたようで、大きなダメージは負っていないようだ。

『正解は、君のお父さんなのでした~‼ たしか……警視庁のトップだっけ? ざまぁw』

『あぁ……あぁ……』

再び少年Aは崩れ落ちた。

〈奴〉は少年Aが自身を殺すための武器を調達した事実を全て把握しているようだった。
この映像に映る、教室という名の空間で起こっている事象全てが〈奴〉の思惑通りに進んでいるかのように感じられた。

『警察は既に揉み消そうと動き出してるみたいだけど……そうはさせないよ。クズ親共々、それを庇おうとする奴等も、全てを破滅に導こう』

『ふ、ふざけるな‼ 俺と親父は関係な――』

『それを踏まえて第3問。俺が今、考えていることは何でしょうか』

〈奴〉の声色が3段階低くなり、一人称も変わった。
……激しい怒りが籠っていた。
それまでの少年Aを食ったような喋り方とは似ても似つかない純粋な怒りだった。

『もういい‼ もう沢山だ‼ ――〈規制音〉――、今すぐここへ来い‼ でなきゃこの女を撃ち殺す‼』

少年Aは懐(ふところ)から2丁の拳銃を握り、磔の少女に向けて構えた。

『無駄だよ。殺せやしない』

『黙れぇぇぇ‼ さっさと来やがれぇぇぇ‼』

『だから、そんな玩具(おもちゃ)じゃ殺せないって言ってんだよ』

『来ないならいい‼ お前の代わりにこいつが死ぬだけ――』

『拳銃はリボルバー。装填(そうてん)できる玉は6発。強奪時に警官2名を射殺するので2発、実行犯の口封じにも1発。さっきまた1発撃ったから、残りは8発かな? どちらに何発残ってるかまではわからないけど――』
 

 バーン‼ バーン‼
 ガガギィィン‼
 ズグシャッッ‼


〈奴〉の話を無視して引き金は引かれ、左右に握られた拳銃から1発ずつ、磔の少女目掛けて放たれた。

だが例にもよって銃弾は何かに当たったような音と共に軌道を変えて着弾した。


『ぎゃあああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼』


白と、水色を基調とした可愛らしい子供服が、一瞬にして赤く染まっていく。
重症の少女Aの傍で泣いていた少女B、Cの左胸に着弾し倒れ、そのまま事切れた。

阿鼻叫喚の嵐。

2人の少女の命がいとも簡単に散ってしまっては無理もない。



『『……殺せやしないとは言ったけど、本当に防げるとは思わなかったなぁ……』』



畏怖すべき無垢なる悪意の二重奏。


それは教室前方の戸を開けて正体を現した。


咄嗟(とっさ)に銃口を構える少年Aだが、手は酷く震えており全く狙いが定まっていない。

『『脅しにもならないよ。分かっているだろう? ――〈規制音(少年A)〉――君』』


声の主は長い黒髪に天使の輪の出来損ないのようなアホ毛と、磔の少女とお揃いの黒いパーカー、黒いグローブ、左手に通話中のスマホ、右手には刀身の長い黒い傘を装備していた。伸びた黒髪のお陰で、声が無ければ女の子と見間違えてしまいそうなほどの美少年だった。


『『こんばんは、殺人鬼さん♪ どうだい? 人間を辞めた気分は』』

ニッコリとした笑顔で〈奴〉は少年Aを煽る。
かと思えば、先程までの悪意とはまるで別人、変声機でも使っているかのようなあざといぐらいのきゃわわな女の子声で話し始めた。

『『でもぉ、女の子ばっかり殺すなんて感心しないにゃ~。もっと好き嫌いせずに男の子も殺さなきゃダメにゃ~。それともぉ~そういうヤバい性癖の持ち主なのかにゃ~? その血で汚れた姿に興奮しちゃったりする悪い趣味がおありなのかにゃ~?』』

〈奴〉は通話を切り、歩み寄った。

それを許さない少年Aは右手の拳銃を発砲、2発の弾丸が〈奴〉を襲う。

が、〈奴〉は半身(はんみ)の体勢で初弾を、さらに顔を傾けて次弾を軽々避けてみせた。


……およそ人に有り得ない反射速度だった。


獲物を見失った弾丸は何故か〈奴〉の右後ろで固まっていた少年B、Cの脳天を貫通して落ち着きを取り戻した。
バタバタと倒れていく少年達。誰が見ても分かる……即死だ。


胃酸が登ってきそうなのを何とか堪えた。


『性癖については来世で聞くとしてぇ……君の処遇について僕から提案があるんだ』

声色の変わり様は多重人格を疑うレベルのものだった。

『君に残された選択肢は3つ。全ての罪を認め自首する。あるいはこの場で自殺する。無謀にも僕に……いや、俺達に挑み、無様に叩き伏せられ、惨めな最期を世に晒すか……どれにせよ、君はとっくに終わってる』

〈奴〉は放流された稚魚(ちぎょ)のように活き活きと、まるでこの状況を楽しんでいるかのように口を動かしていた。

『何様のつもりだこの野郎‼ お前こそ立場が分かってないみたいだなぁ‼』

少年Aは再び磔の少女に目を付け、今度は頭に直接銃口を突き付ける。

『……人の話聞いてた? 君はもう終わってるんだって。抵抗しても虚しいだけだよ』

『ゼロ距離からじゃ防げないだろ? こいつを殺されたくなければ言うこと――』


『殺しなよ』


耳を疑った。だがそれは少年Aも同じだった。

『お、お前、何言ってんだ?』

『殺していいって言ったんだけど、聞こえなかった? 耳悪いの?』

『え、ちょっ、なっ……え?』

虚を突かれたような戸惑いの反応、少年Aは〈奴〉を何1つ理解できていなかった。


『分からないかなぁ。僕にとってその女は彼女でもなければ親友でもなく、友達ですらない。ただのクラスメイトだよ。他人も同然。他人に対して人質の価値があるとでも? 情なんて微塵も、欠片も無いのに……勘違いって怖いよねぇ。そもそも前提から間違ってるんだよ。俺みたいな自分大好き人間が、どうして他人なんかのために命張れると思ったのかなぁ』


僕なのか俺なのかハッキリしないが、〈奴〉はなおも平然としていた。


『……悲しいなぁ。かれこれ6年の長い付き合いだってのに、俺の性格何1つ分かってねぇんだから。それでもいじめっ子の首領(あたま)なの? バカなの? マジでバカなの? まぁ分かってたけどさ(笑)』


死人が出ている状況で、人命の掛かったこの状況で、それを軽視……いや、興味すら無い。
いじめっ子達の計画を根本から否定し、磔の少女に対する裏切りに等しい行為だった。

もはや清々しいまでの悪。

〈奴〉は本当にいじめられっ子なのか? そんな疑いすら出てきた。

真に虐げられている人間は、この極限状態を傍観者気取りで、ましてや相手を煽って楽しむ余裕など持てるはずがない。

少年Aは自身を遥かに超越した真の狂人を目の前に、遂に目に涙を滲ませた。

『お前……どうかしてるぞ……』

〈奴〉は教室の扉近くまで一気に飛び退(の)き、黒傘を左手に持ち替えて斜め下に構えた。

『僕をどうかしていると思うのは、君の方こそどうかしているからだよ』

〈奴〉は薄ら笑いのまま口を閉じない。

『成人なら、3人殺せばほぼ確実に死刑だよ? 4人撃ち殺してる君に今さら正義を説かれても響かないよ。でも少年法はどうだろ? 無期刑くらいにはなるのかなぁ? 良かったね、君は少年法のおかげで死を免れるんだよ? 可哀そうに‼ あはははははは‼』

聞いているこっちの気が狂いそうだった。
見てはいけないようなものを見ている自分への嫌悪感と、その状況を楽しんでいる〈奴〉を見て楽しんでいる自分への背徳感がごちゃ混ぜになったような、そんなタチの悪い感情に押し潰されそうだった。

『そろそろ答えを聞かせてくれるかな。自首する? 自殺する? まさか僕等と戦うの? あと4発しか残ってないのに? 言ったろ? 君は終わってるって』

磔の少女に突き付けた左の拳銃をそのままに、右を〈奴〉に向けて、少年Aは震える口で返答した。

『だ、だったら、お、お前だけでも……み、道連れにしてやる……‼』

『……なんで君みたいな無意味で無価値な人間の為に死んでやらななくちゃならないのさ』
 

 ガギィィィン‼ ガギィィィン‼ 
 

〈奴〉が黒傘を振り上げるのと同時同刻であった。
異音と共に、黒く輝く闇が少年Aの右手に握られた拳銃を一閃した。
そのまま空(くう)に飛ばされたと思った瞬間、再び黒闇(こくあん)がその衝撃音とともに拳銃を弾いて〈奴〉の手元に収まった。

少年Aはすぐさま左手の拳銃を持ち替えて構えるが、ブレて狙いが定まっていない。
定まっていないのは手元だけではない。表情も、立ち姿も、何もかもが狂い疲れていた。

拳銃を奪った〈奴〉は怖じる事もなく、冷静にシリンダーを開いた。

『あれ、弾入ってないじゃん。空の拳銃を突き付けてたの?』

〈奴〉は拳銃を少年Aに投げ返した。
が、少年Aには受け取る余裕など無く、そのまま床に落ちた。
潤んだ涙はボロボロ零(こぼ)れ、今にも爆発しそうだった。

そんな彼の心情を知ってか知らずか、助け船のつもりなのか、〈奴〉は大きく溜息をついてこう言い放った。

『はぁ……もう……いいや。飽きた。疲れた。帰る』

突然の興冷め。
拳銃が空だった事に気分を害したのだろうか。

銃口を向けられながら、あろうことか〈奴〉は背を向け戸に手を掛けた。

『イブにまでこんな血生臭い暇潰しをするものじゃないよ。知ってるだろ? 悪い子の所にサンタさんは来ないって』

『おい、冗談だよな? この状況放ったらかして本気で帰るつもりじゃないだろうな?』

撮影者の少年が苦言を呈する。
飽きれたというトーンではなく、どう収拾すべきか判らないといった反応だった。

『僕はいつでも本気だよ? ケーキが家で待ってるんだ。帰らせてもらう』

『……命よりケーキの方が大事なのかよ』

『君にもあるだろう? 命よりも大切なものくらい。あぁ、電話は繋いでおいてあげるから、――〈規制音(少年A)〉――君も早く答えを出してね。……警告しておくけど、戦うのは本気で止めたほうがいい。死人が増えるだけだ。第一、今や彼女の力は僕を凌ぐ。その気になればいつでも君を殺せるはずだよ? ではでは。良い夜を』

そう吐き捨てて〈奴〉は教室を出て行ってしまった。

流石は自分大好き人間を自称するだけのことはある。
周囲の注目、自身に向けられる殺気など、まるで無いものとして行動している。

ていうか、どんだけケーキ食べたいんだよ。


〈奴〉の消えた教室は落ち着きを取り戻すどころか、より一層の大混乱に陥った。


『あ……あんたのせいよ――〈規制音(少年A)〉――‼』

『うわーん‼ ――〈規制音(少女B)〉――達を返してよぉー‼』

『もうどうにもできないよ……――〈規制音(少女A)〉――だけでも助けなきゃ……』

呪縛から解き放たれたように、いじめっ子の少年E、少女D、Eが寄ってたかって主犯の少年Aを責め立てる。
暴威が消え去った空間は、混沌に包まれていた。

『ちくしょう……配信さえしてなきゃ、幾らでも揉み消せるのに……え? は? あれ? ……何で配信してるんだ? 何で配信しようと思ったんだ⁉』


『君はどうしようもないクズだね。あの親にしてこの子ありとはこの事だよ』


電話越しに再び悪意が漏れる。
悪意の矛先はやはりと言うべきか少年Aだった。

『本当につまらない。ねぇ……君、どうして生まれてきちゃったの? 神様の失敗作なの?』

『黙れ化物‼』 

『虚しい。虚しい。すべては虚しい……』

『黙れって……』

『無意味。無価値』


『黙れぇぇぇぇぇ‼』


少年Aは〈奴〉の精神攻撃に耐えきれず襲い掛かった。
悪意の源泉・通話中のスマホを持つ撮影主を銃撃するも、4発全て黒光(くろびかり)に撃ち落され、弾切れのの銃の引き金を引く音が虚しく聞こえる……。

『……ダメか。やっぱり君、才能無いよ』

『だ……黙れって……言ってるだろ……』

『嫌だよ。君を虐めるの楽しいんだもん♪』

血の通った人間とは思えない、乾き冷めた〈奴〉の声。

少年Aの顔は酷く窶(やつ)れてしまっていて、もはや原型を留めていない。

『脆(もろ)いよね、人間って。感情ひとつ制御出来ないとこうなる。んで? 君等はどうするの?』

『……?』

『――〈規制音(少女D)〉――、君達に言っているんだよ。自分に都合の悪いことは親の力で何でもかんでも揉み消すゴミみたいな独裁者を処刑台にかけるなら、今じゃないかな? そのクズの母親から君等が脅されていた事も、僕は全て知っている。もう楽になりなよ……』

『聞くな! 洗脳されるぞ‼』

少年Aは〈奴〉の声をかき消すように叫ぶが、効果は無いようだった。

『脳を洗うなんて安っぽい表現止めてくれないかな。僕は彼等の僅かばかりの勇気を奮い立たせているだけなんだ。君みたいな人殺しの恐怖政治から革命を起こす為にね』

『化物の話なんざ誰が――』


『化物はてめぇだよ――〈規制音(少年A)〉――。芝居は終わりだクズ野郎』


『……は? ――〈規制音(少年D)〉――、お前……何言って――』

『馴れ馴れしく話しかけんじゃねぇよクズが。好きでお前の家臣演じてた訳ねぇだろうが』

沈黙を守っていた少年Dが口を開いたと思えば、衝撃のカミングアウトだった。

『……てめぇ……』

『今すぐにでも殺してやりたいが……〈あいつ〉との約束なんでな。お前が死んだ後、気が済むまで死体蹴りさせてもらうとするか』

『わぁ楽しそう。首落としてサッカーでもしようか。君もやるだろ? あはははは‼』

ギリギリ、と、少年Aの歯の軋(きし)む音が聞こえた。

『――〈規制音(少女A)〉――だけじゃない……我が親友――〈規制音(少年D)〉――もまたこちら側のスパイだ。彼らの親とも話はついてる。……君たちはどうするの?』

これも全てシナリオ通りだと考えると〈奴〉は恐ろしいまでの切れ者だ。
戦力分析も情報収集も怠ることなく、結果として〈奴〉側には一切損害を出していない。
そして何より、精神的にも肉体的にも攻撃手段を併せ持つ圧倒的強者としての存在感。
前世は軍師か、はたまた魔王か。足して2で割って魔軍司令か。

そんな〈奴〉の慈悲に、いじめっ子達は縋(すが)らずにはいられなかった。
実際何でも良かったのだろう。
死人が出ているこの状況で、どうすることもできないこの状況で、彼等はただひたすらに救いを求めていた。

『助けてくれ――〈規制音(奴)〉――‼ ――〈規制音(少年D)〉――の言う通り、 俺等はずっと脅されてたんだ‼ こいつの母親、好き勝手やりたい放題なの知ってるだろ⁉』

『わ、私達、親まで脅されて無理矢理付き従わされてたんだよ‼ 逆らったら潰すって‼』

『お願いします‼ 助けて下さい‼』

泣きながら彼等は〈奴〉に縋(すが)る。
聞くに堪えない自分勝手な言い分けに、また吐き気がした。


『散々虐め抜いた相手に対する命乞いとは思えない図々しさだね。自分達を正当化したいという魂胆が見え見えだよ。……謝罪が先だろ謝罪がァ……‼』


『さっきからふざけたことばっか抜かしてんじゃねぇぞ‼ 堂々と裏切りやがって……俺が許す訳ねぇだろうが‼』


『残念だけど、君の意思は関係ないんだ。既に警察が敷地を囲んでる。見世物はここまでだ。……GAME OVER』


計画が完全に頓挫(とんざ)し、全ての罪過(ざいか)を暴露され、仲間にも見限られた彼にはもはや退くことなどできなかった。
衣服の内に隠し持ったナイフを両手に持ち、熱(いき)り立った。


『皆殺――』


 ブツッ


「……映像は以上となります。えー、大変ショッキングな映像でしたね」

唐突に映像は切れ、司会者の強張った表情とスタジオの風景が戻ってきた。

「まさか小学生がいじめの様子を生配信するだなんて――」


……嘘だろ⁉ キリが悪いにも程がある。
続きが気になってしょうがないじゃないか。


編集の悪意に憤慨していると、また頭がくらくらしてきた。
激しい目まいが体力を奪う。
俺は力なく床に伏した。

「神奈川県警の発表によりますと、小学生計30人が死亡したとのことです」

やはり今の不自然過ぎる映像の途切れ方は……そういうことなのか。
あの流れでいくと、少年Aが教室に残った子供達を皆殺しにした……いや、違うな。
磔の少女が殺されたとは思えない。
少女は自身を凌ぐ程の強さだと〈奴〉は言っていた。
殺される可能性は万にひとつもありはしないだろう。

……磔の少女が殺(や)ったのか?

……〈奴〉は結局何がしたかったんだ? 

何が目的だったんだ?

「いじめの様子はYourtube(ユアチューブ)上で配信されました。映像にありました通り、今回の事件は複数の子供達が共謀して撮影を行ったものと思われます。撮影された映像は今もなお拡散され続けており、事態は悪化の一途を辿っています」

「いや、言葉が出ないね。いじめの様子を生配信ってだけで十分タチの悪い映像だけど……まさか小学生が拳銃をねぇ」

「今回の事件で使用された2丁の拳銃は、一昨日横浜市で発生した希望ヶ原駅前交番襲撃事件の被害者である警察官2名が所持していたものである事が、先程の警視庁と神奈川県警の合同記者会見で明らかになりました。また一連の事件に関与したとして、警視庁警視総監・稲垣浩介(いながき こうすけ)容疑者が殺人教唆及び死体遺棄の疑いで逮捕されました。さらに、交番襲撃事件の実行犯である暴力団員を西垣容疑者に仲介した者がいるとして、組対部に所属する警察官全員に監察官聴取が行われていることも明らかにされました」

「警視庁のトップに立つ人間が若い警察官の命を金で売るだなんて、前代未聞のスキャンダルですよ。警察に対する国民の信用は完全に失われたと思います。近頃は警察庁が警察省に格上げされるなんて話も挙がっていましたが、今回の事件を受けて白紙になるか……あるいは事態が鎮静化するまでの間は遠退きそうですね」

「先程の会見の中で、警視庁は事件発生の要因を生み出した事を認め、謝罪しました」

画面が切り替わり、警視庁の会見の映像が流れる。
左瞼(まぶた)に切り傷のある、見るからに厳(いか)つい初老男性がセンターに立っていた。
警視庁副総監・時雨十三(しぐれ じゅうぞう)の名前がテロップで表示され、サイドにも沢山の警察関係者が。
テロップには出ないが、机上のネームプレートはハッキリと映っていた。
公安部長、刑事部長、警備部長、総務部長、地域部長、生活安全部長と、各部部長クラスが一堂に会しており、今回の事件の重大性を物語っていた。
副総監が重い腰を上げてマイクを手に取った。

「一昨日から発生しました一連の事件につきまして、警察組織のトップに立つ者が計32名もの死者を出す重大事件の引き金となりました事は誠に遺憾であります。公安の根幹を揺るがす最悪の事件であります。国民の皆様への信頼を裏切り、失墜させる結果に至りました事を、警察組織を代表し、深く、深く、謝罪申し上げます」

深々と頭を下げる副総監と部長の面々。
大量に焚かれるフラッシュは、彼らの下げた顔に映る口元の緩みすら逃さなかった。
如何にも意味深な笑みだ。
階級社会ってそんなに窮屈なのか。

そんなテレビの映像に釘付けだった俺だが……不意に殺意を感じて振り返った。
それは病室の扉の方から向けられた気がしたが、気のせいだったようだ。

再びテレビに目をやるが……何やら気が散ってそれどころではない。

やはり誰かが殺気を飛ばしている。

病室の扉一枚挟んだ向こう側に……いる。

俺を観察しているのか、監視しているのか定かではないが、気分の良いものではない。


それが女の子だったとしても。


「出歯亀(でばがめ)趣味は嫌われるぞ」

「……バレちゃった? 流石はジュンだね」

俺の呼びかけに対し、まるで知り合いかのような口振りで返してきた。
戸の隙間から1人の少女が姿を現し、さも当たり前かのように病室に入ってきた。
藍玉色(アクアマリン)のパーカーを羽織り、紫陽花色のアイドルリボンタイ&ヘアピンが可愛いらしい、ショルダーバックを掛けた少女は、俺が横たわるベットに一直線に向かってきた。

「…………」

少女は俺の目を覗き込むように、ただじっとこちらを見ている。
距離にして10センチ。近い。うっとおしい。馴れ馴れしい。
何これ? 何この状況? 何か言った方がいいの? 
仲間になりたそうにこちらを見ているの?
見ず知らずの女の子に突撃急接近されてるなぅ。
こう近くで覗き込まれると、ニュースの内容が入ってこないのだが。

それになにより、この子めちゃくちゃ可愛い……。

整った綺麗な顔立ちに、透き通るような肌。紫陽花(あじさい)色に影が刺したような暗い眼、塗り潰したような純黒と紺混じりのサラサラロングヘアが浮世離れした美しさを放っている。

少女は尚も俺を覗き込んだまま、先程とは一変した猫撫で声で話し始める。

「あれぇ~本当にジュンだよねぇ? なんで抵抗しないのぉ?」

「……抵抗?」


……身も凍るような気配がする。
彼女の口調から、知り合いであることは間違いなさそうだが信用には全く足りない。
俺を挑発するような物言いも余計に疑いと謎を呼ぶ。

脳内コンピューターをフル稼働させて、彼女の真意を読み解こうとする――


「君……ジュンじゃないんだね」


が、彼女の気は酷く短かった。ほんの数秒の思考時間も許されなかった。


「……はぁ……もういいや。死んじゃえ」


彼女の紫陽花色の双眸(そうぼう)は、強いアルカリ性の感情で赤く染まった。
深紅の眼光が瞳の中で交差したのが分かったが、その瞬間……意識が……遠――
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