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最終話「猫になった元カノが今カノになったのだが」
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「結構色々売ってるな」
表からは見えなかったが、中には財布やトートやビジネス用などの何種類ものバッグにキーホルダーからベルトなどの小物までありとあらゆるものが売っていた。
「なにかほしいものあった?」
「財布がほしいんだけどね、ちょっといいのが悩み中。茜もバッグとかあったし見てくれば?」
「そうしようかな」
店員と話しながら横目で茜を追っていると、色々な表情を見せてくれて面白かった。
「じゃあすみませんこれをお願いします」
「かしこまりました、お包みするので少々お待ちください」
「ありがとうございます」
店員と話終わるのを待っていたのか、さっきまでそわそわとあたりを見ていた茜が手招きをしていた。
「なにかいいのあった?」
「ねえ達也、ここって首輪もあるんだね」
「ほんとだ」
そう言って茜が指さす先にはペット用の首輪がいくつか並んでいた。
「ねえ前買ってくれるって言ったじゃん。私これがいいな」
「ならこれにしようか」
まあ多分もう使わなくはなるけど、旅行の思い出の一つとしていいよね。
「ありがとう、前使ってたのは陽菜さんに返さないとね」
「返されても迷惑なんじゃない?」
「けどもともとは陽菜さんから借りてたものだからさ」
「なら陽菜が受けとるなら返せばいいか」
若干革の首輪の金額の高さに驚きながらも店を出るとすでに日は落ち、客足もばまらになっていた。
「そろそろ帰る?」
「そうだね、お土産とかは帰る日に選べばいいし」
◇
「なあ茜、夕飯って何時だっけ?」
「10時ぐらいまでこっちの都合のいい時間に持って来てくれるみたい」
「なら、せっかくだし今から入らない?」
「いいね入ろうか!」
改めて見ると、露天風呂からの景色を見るとすごいな。
うるさすぎず、かといって全くの無音ではない波の音と、時折波に反射する旅館の光が豪華さを演出している。
家の風呂もこんな感じだったらなと思いながら露天風呂に足を踏み入れると、ヒシっと後ろから抱きしめられた。
「ねえ達也」
「どうした?」
「だめ、振り向かないで」
目の端でとらえられた茜は耳まで真っ赤に染まっており、背中にぴったりと顔をくっつけていた。
「わかったよ」
「あのね、今までいっぱいわがまま言ってごめん。達也はなにもしてないのに一方的に振ってごめん。いきなり押しかけたのに受け入れてくれてありがとう。猫として飼うなんて無茶なお願い聞いてくれてありがとう。達也のことが大好きです」
こういう時なんていうのがいいんだろう。
寝たふりが出来れば楽なのかもしれないけど、今はそんなことできない。
それに茜が真っ赤になるくらい勇気を出して言ってくれた以上、今が最適のタイミングかもな。
そう背中に茜の体温を感じながら覚悟を決めると、ゆっくりと口を開いた。
「俺も茜のこと大好きだよ。あのさ、茜が嫌じゃなければ恋人に戻りたいんだけど、いいかな?」
「私も、戻りたいです、けどまた迷惑かけちゃうかも」
「大丈夫だよ、迷惑だなんて思ってないし。至らない彼氏かもしれないけどこれからもよろしく」
「こちらこそ、お願いします……」
そう茜が言い終わると背中に暖かい雫が伝うのがわかった。
◇
「ただいま」
「おかえり。ゆっくりできた?」
「できたよ。部屋の件ありがとう。これお土産」
陽菜にずっしりとした紙袋を手渡すと二階に上がる。
「やっぱ旅館もよかったけど部屋も落ち着くな」
「ね、なんか家に帰ってきたんだなって感じがする」
ベッドの上に寝転がりたい衝動に駆られながら服をいつもの位置に戻していると、茜がバッグの中を探り始めていた。
「何探してるの?」
「首輪~」
「ああ返すやつ?」
正直陽菜も返されても困るだろ。
俺だったらどんな顔したらいいかわかんないよ。
「それはもう返してきた。もういいの?って言いたそうな顔してたけどね」
「受け取ったんだ……」
返してもらってどうする気なんだろうな。
正直処分にも困るだろ。
バッグの中身を半分ほどひっくり返したとき、ようやく探していたものが発掘できたらしい。
バックの周りには同心円状にバックの中身が散らばっていた。
「達也、あったよ」
そう言って新しい首輪を手渡すと、かしこまったようにベッドの上で正座になった。
「本当にいいの? 付き合えたのに猫のままで」
「うん、恋人なら猫になれないわけじゃないし、猫なら恋人になれないわけでもないでしょ」
「そうだね」
「前付き合えた時楽しかったし、恋人っていう安心感があれば猫も楽しめると思うのだから私は両方がいいな」
「わかった、じゃあ着けるよ」
柔らかな笑顔を向けながら顎を上げる茜の首にそっと首輪を巻く。
いつも見慣れた赤い首輪ではなく、一度も使われたことのない新品の首輪だ。
「はいつけ終わり」
「ありがとう!」
「似合ってるよ、茜」
鏡を見ながら満足そうな笑みを浮かべている茜にそう声を掛ける。
元カノが家に来たときはどうしたもんかと思ったけど、また付き合えてよかった。
ほかの人とは違う形に落ち着いたけど、これっていう模範解答があるわけではないし、他人から何を言われても二人が満足出来てるならこれが俺たちの正解だろう。
愛おしそうに首輪を撫でる茜をぎゅっと抱きしめると、耳元でそっと囁いた。
「大好きだよ茜。これからもずっとよろしく」
「にゃぁ!」
<完>
表からは見えなかったが、中には財布やトートやビジネス用などの何種類ものバッグにキーホルダーからベルトなどの小物までありとあらゆるものが売っていた。
「なにかほしいものあった?」
「財布がほしいんだけどね、ちょっといいのが悩み中。茜もバッグとかあったし見てくれば?」
「そうしようかな」
店員と話しながら横目で茜を追っていると、色々な表情を見せてくれて面白かった。
「じゃあすみませんこれをお願いします」
「かしこまりました、お包みするので少々お待ちください」
「ありがとうございます」
店員と話終わるのを待っていたのか、さっきまでそわそわとあたりを見ていた茜が手招きをしていた。
「なにかいいのあった?」
「ねえ達也、ここって首輪もあるんだね」
「ほんとだ」
そう言って茜が指さす先にはペット用の首輪がいくつか並んでいた。
「ねえ前買ってくれるって言ったじゃん。私これがいいな」
「ならこれにしようか」
まあ多分もう使わなくはなるけど、旅行の思い出の一つとしていいよね。
「ありがとう、前使ってたのは陽菜さんに返さないとね」
「返されても迷惑なんじゃない?」
「けどもともとは陽菜さんから借りてたものだからさ」
「なら陽菜が受けとるなら返せばいいか」
若干革の首輪の金額の高さに驚きながらも店を出るとすでに日は落ち、客足もばまらになっていた。
「そろそろ帰る?」
「そうだね、お土産とかは帰る日に選べばいいし」
◇
「なあ茜、夕飯って何時だっけ?」
「10時ぐらいまでこっちの都合のいい時間に持って来てくれるみたい」
「なら、せっかくだし今から入らない?」
「いいね入ろうか!」
改めて見ると、露天風呂からの景色を見るとすごいな。
うるさすぎず、かといって全くの無音ではない波の音と、時折波に反射する旅館の光が豪華さを演出している。
家の風呂もこんな感じだったらなと思いながら露天風呂に足を踏み入れると、ヒシっと後ろから抱きしめられた。
「ねえ達也」
「どうした?」
「だめ、振り向かないで」
目の端でとらえられた茜は耳まで真っ赤に染まっており、背中にぴったりと顔をくっつけていた。
「わかったよ」
「あのね、今までいっぱいわがまま言ってごめん。達也はなにもしてないのに一方的に振ってごめん。いきなり押しかけたのに受け入れてくれてありがとう。猫として飼うなんて無茶なお願い聞いてくれてありがとう。達也のことが大好きです」
こういう時なんていうのがいいんだろう。
寝たふりが出来れば楽なのかもしれないけど、今はそんなことできない。
それに茜が真っ赤になるくらい勇気を出して言ってくれた以上、今が最適のタイミングかもな。
そう背中に茜の体温を感じながら覚悟を決めると、ゆっくりと口を開いた。
「俺も茜のこと大好きだよ。あのさ、茜が嫌じゃなければ恋人に戻りたいんだけど、いいかな?」
「私も、戻りたいです、けどまた迷惑かけちゃうかも」
「大丈夫だよ、迷惑だなんて思ってないし。至らない彼氏かもしれないけどこれからもよろしく」
「こちらこそ、お願いします……」
そう茜が言い終わると背中に暖かい雫が伝うのがわかった。
◇
「ただいま」
「おかえり。ゆっくりできた?」
「できたよ。部屋の件ありがとう。これお土産」
陽菜にずっしりとした紙袋を手渡すと二階に上がる。
「やっぱ旅館もよかったけど部屋も落ち着くな」
「ね、なんか家に帰ってきたんだなって感じがする」
ベッドの上に寝転がりたい衝動に駆られながら服をいつもの位置に戻していると、茜がバッグの中を探り始めていた。
「何探してるの?」
「首輪~」
「ああ返すやつ?」
正直陽菜も返されても困るだろ。
俺だったらどんな顔したらいいかわかんないよ。
「それはもう返してきた。もういいの?って言いたそうな顔してたけどね」
「受け取ったんだ……」
返してもらってどうする気なんだろうな。
正直処分にも困るだろ。
バッグの中身を半分ほどひっくり返したとき、ようやく探していたものが発掘できたらしい。
バックの周りには同心円状にバックの中身が散らばっていた。
「達也、あったよ」
そう言って新しい首輪を手渡すと、かしこまったようにベッドの上で正座になった。
「本当にいいの? 付き合えたのに猫のままで」
「うん、恋人なら猫になれないわけじゃないし、猫なら恋人になれないわけでもないでしょ」
「そうだね」
「前付き合えた時楽しかったし、恋人っていう安心感があれば猫も楽しめると思うのだから私は両方がいいな」
「わかった、じゃあ着けるよ」
柔らかな笑顔を向けながら顎を上げる茜の首にそっと首輪を巻く。
いつも見慣れた赤い首輪ではなく、一度も使われたことのない新品の首輪だ。
「はいつけ終わり」
「ありがとう!」
「似合ってるよ、茜」
鏡を見ながら満足そうな笑みを浮かべている茜にそう声を掛ける。
元カノが家に来たときはどうしたもんかと思ったけど、また付き合えてよかった。
ほかの人とは違う形に落ち着いたけど、これっていう模範解答があるわけではないし、他人から何を言われても二人が満足出来てるならこれが俺たちの正解だろう。
愛おしそうに首輪を撫でる茜をぎゅっと抱きしめると、耳元でそっと囁いた。
「大好きだよ茜。これからもずっとよろしく」
「にゃぁ!」
<完>
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