24 / 62
第24話「達也との出会い」
しおりを挟む
やばいまた遅刻してしまった……。
私――冬木真帆は小さい頃から遅刻魔だった。
八時に来いと言われると八時半に行き、九時半に来いと言われると、十時半に着く。
あまりの遅刻にほかの人より早めの時間を告げられたこともある。
そんな私でもようやくバイトに受かることができた。
ただ、今の時刻は午前九時十五分。
来いと言われた時間は八時四十分。
やっぱり怒られるよね。
いや怒られるだけで済めばいい、その場でもう来なくていいと言われてしまうかもしれない。
せっかく受かったのに……。
なんてことを考えながら店の前をうろうろしていると、制服姿の人に話しかけられた。
「あ、今日初めて来る人だよね? 場所わからなかった?」
「遅れてごめんなさい、冬木真帆と言います」
その男の人に首がもげるのではないかという速度で頭を下げる。
もう何回連続で不意にしたかわからないバイト。
わがままなのは百も承知だが、これ以上クビになるのは避けたかった。
「別に気にしてないから大丈夫だよ」
その人はすごいおかしそうに笑った。
かっこいい顔だったけど、かわいい顔して笑う人だな……。
「じゃあちょっとついて来てもらおうかな」
「わかりました」
「ここがトイレで、これが荷物の搬入口、でこれが女性用の更衣室。じゃあ着替えが終わったら店の方来てね」
そう言うとあっちねと指さしながら去っていこうとする。
あ、お礼言わなきゃ。
「あの、ありがとうございました。えっとー……」
「ああ達也でいいよ、みんなそう呼んでるから。俺は冬木さんでいいかな?」
なんか同年代なのにすごい立派そうな人だな。
ちゃんと働いてて、人望もありそう。
私なんかと大違いだし、呼び捨てなんかおこがましいな。
「わかりました。呼び捨ては申し訳ないので達也クンにします」
「まあいいけど。ただ敬語はやめてよ、敬われるほどの人間じゃないし、なんかこそばゆいんだよね」
「わかった。私も呼び捨てでいいよ」
「じゃあ冬木ね」
真帆でもいいですとはどうしても言えなかった。
その時の私はゆでだこの様に真っ赤だったと思う。
恥ずかしさのあまり比喩ではなく本当に体から湯気が噴出していても、不思議ではなかった。
それになにか慣れ慣れしいとかで嫌われそうで、呼び捨てにしてもらえるのが精いっぱいだった。
「ああいう人には素敵な彼女とかできるんだろうな……」
誰もいないのをいいことにひときわ大きなため息を吐いた。
今まで生きてきてあんな人がいい人あったことなかったな。
ずっと遅刻して、愚図とか呼ばれてろくに人扱いされた記憶がない。
達也クンは私を人として扱ってくれた初めての人な気がする。
「って、やばもう五分以上経ってる早くいかなきゃ」
◇
「すみませんまた遅れました」
「大丈夫だよ、人間ミスするもんだし、この時間は一人ぐらいいなくても回るしね」
「ところでほかの従業員の人は?」
カウンターの中を見渡すと、達也クンのほかにだれも居なかった。
「この時間二人だけなんだよね、大丈夫?」
「大丈夫です……、多分」
こんなカッコイイ人と二人きりなんて……。
緊張でミスの数が倍になりそう……。
彼はぱっと見た限り私の人生と縁遠い人だ。
バイトなんかしなければ関わることはなかっただろう。
だからこの人と一緒に生きたいなんて思わない。
ただ彼が幸せであることがわかればそれでいい。
そんな彼に彼女ができたと聞いたのは、私と知り合ってしばらく経ってからだった。
私――冬木真帆は小さい頃から遅刻魔だった。
八時に来いと言われると八時半に行き、九時半に来いと言われると、十時半に着く。
あまりの遅刻にほかの人より早めの時間を告げられたこともある。
そんな私でもようやくバイトに受かることができた。
ただ、今の時刻は午前九時十五分。
来いと言われた時間は八時四十分。
やっぱり怒られるよね。
いや怒られるだけで済めばいい、その場でもう来なくていいと言われてしまうかもしれない。
せっかく受かったのに……。
なんてことを考えながら店の前をうろうろしていると、制服姿の人に話しかけられた。
「あ、今日初めて来る人だよね? 場所わからなかった?」
「遅れてごめんなさい、冬木真帆と言います」
その男の人に首がもげるのではないかという速度で頭を下げる。
もう何回連続で不意にしたかわからないバイト。
わがままなのは百も承知だが、これ以上クビになるのは避けたかった。
「別に気にしてないから大丈夫だよ」
その人はすごいおかしそうに笑った。
かっこいい顔だったけど、かわいい顔して笑う人だな……。
「じゃあちょっとついて来てもらおうかな」
「わかりました」
「ここがトイレで、これが荷物の搬入口、でこれが女性用の更衣室。じゃあ着替えが終わったら店の方来てね」
そう言うとあっちねと指さしながら去っていこうとする。
あ、お礼言わなきゃ。
「あの、ありがとうございました。えっとー……」
「ああ達也でいいよ、みんなそう呼んでるから。俺は冬木さんでいいかな?」
なんか同年代なのにすごい立派そうな人だな。
ちゃんと働いてて、人望もありそう。
私なんかと大違いだし、呼び捨てなんかおこがましいな。
「わかりました。呼び捨ては申し訳ないので達也クンにします」
「まあいいけど。ただ敬語はやめてよ、敬われるほどの人間じゃないし、なんかこそばゆいんだよね」
「わかった。私も呼び捨てでいいよ」
「じゃあ冬木ね」
真帆でもいいですとはどうしても言えなかった。
その時の私はゆでだこの様に真っ赤だったと思う。
恥ずかしさのあまり比喩ではなく本当に体から湯気が噴出していても、不思議ではなかった。
それになにか慣れ慣れしいとかで嫌われそうで、呼び捨てにしてもらえるのが精いっぱいだった。
「ああいう人には素敵な彼女とかできるんだろうな……」
誰もいないのをいいことにひときわ大きなため息を吐いた。
今まで生きてきてあんな人がいい人あったことなかったな。
ずっと遅刻して、愚図とか呼ばれてろくに人扱いされた記憶がない。
達也クンは私を人として扱ってくれた初めての人な気がする。
「って、やばもう五分以上経ってる早くいかなきゃ」
◇
「すみませんまた遅れました」
「大丈夫だよ、人間ミスするもんだし、この時間は一人ぐらいいなくても回るしね」
「ところでほかの従業員の人は?」
カウンターの中を見渡すと、達也クンのほかにだれも居なかった。
「この時間二人だけなんだよね、大丈夫?」
「大丈夫です……、多分」
こんなカッコイイ人と二人きりなんて……。
緊張でミスの数が倍になりそう……。
彼はぱっと見た限り私の人生と縁遠い人だ。
バイトなんかしなければ関わることはなかっただろう。
だからこの人と一緒に生きたいなんて思わない。
ただ彼が幸せであることがわかればそれでいい。
そんな彼に彼女ができたと聞いたのは、私と知り合ってしばらく経ってからだった。
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
僕の彼女は婦人自衛官
防人2曹
ライト文芸
ちょっと小太りで気弱なシステムエンジニアの主人公・新田剛は、会社の先輩の女子社員に伊藤佳織を紹介される。佳織は陸上自衛官という特殊な仕事に就く女性。そのショートカットな髪型が良く似合い、剛は佳織に一目惚れしてしまう。佳織は彼氏なら職場の外に人が良いと思っていた。4度目のデートで佳織に告白した剛は、佳織からOKを貰い、2人は交際開始するが、陸上自衛官とまだまだ底辺エンジニアのカップルのほのぼのストーリー。
僕が美少女になったせいで幼馴染が百合に目覚めた
楠富 つかさ
恋愛
ある朝、目覚めたら女の子になっていた主人公と主人公に恋をしていたが、女の子になって主人公を見て百合に目覚めたヒロインのドタバタした日常。
この作品はハーメルン様でも掲載しています。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
【完結】年収三百万円台のアラサー社畜と総資産三億円以上の仮想通貨「億り人」JKが湾岸タワーマンションで同棲したら
瀬々良木 清
ライト文芸
主人公・宮本剛は、都内で働くごく普通の営業系サラリーマン。いわゆる社畜。
タワーマンションの聖地・豊洲にあるオフィスへ通勤しながらも、自分の給料では絶対に買えない高級マンションたちを見上げながら、夢のない毎日を送っていた。
しかしある日、会社の近所で苦しそうにうずくまる女子高生・常磐理瀬と出会う。理瀬は女子高生ながら仮想通貨への投資で『億り人』となった天才少女だった。
剛の何百倍もの資産を持ち、しかし心はまだ未完成な女子高生である理瀬と、日に日に心が枯れてゆくと感じるアラサー社畜剛が織りなす、ちぐはぐなラブコメディ。
形而上の愛
羽衣石ゐお
ライト文芸
『高専共通システムに登録されているパスワードの有効期限が近づいています。パスワードを変更してください。』
そんなメールを無視し続けていたある日、高専生の東雲秀一は結瀬山を散歩していると驟雨に遭い、通りかかった四阿で雨止みを待っていると、ひとりの女性に出会う。
「私を……見たことはありませんか」
そんな奇怪なことを言い出した女性の美貌に、東雲は心を確かに惹かれてゆく。しかしそれが原因で、彼が持ち前の虚言癖によって遁走してきたものたちと、再び向かい合うことになるのだった。
ある梅雨を境に始まった物語は、無事エンドロールに向かうのだろうか。心苦しい、ひと夏の青春文学。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
学園の美人三姉妹に告白して断られたけど、わたしが義妹になったら溺愛してくるようになった
白藍まこと
恋愛
主人公の花野明莉は、学園のアイドル 月森三姉妹を崇拝していた。
クールな長女の月森千夜、おっとり系な二女の月森日和、ポジティブ三女の月森華凛。
明莉は遠くからその姿を見守ることが出来れば満足だった。
しかし、その情熱を恋愛感情と捉えられたクラスメイトによって、明莉は月森三姉妹に告白を強いられてしまう。結果フラれて、クラスの居場所すらも失うことに。
そんな絶望に拍車をかけるように、親の再婚により明莉は月森三姉妹と一つ屋根の下で暮らす事になってしまう。義妹としてスタートした新生活は最悪な展開になると思われたが、徐々に明莉は三姉妹との距離を縮めていく。
三姉妹に溺愛されていく共同生活が始まろうとしていた。
※他サイトでも掲載中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる