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第22話「冬木とデート」
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「おはよ~!」
バイト先に着くとすぐ、待ち構えていたかのように普段の十割増しのテンションの冬木が飛びついてきた。
「おい離れろよ!」
ぞわっとした不快感を覚えると急いで振り払う。
「達也クンって人前でイチャイチャしたくないタイプだっけ?」
不気味な笑みを浮かべながらじわりじわりと距離を詰めてくる。
「そうだよ……」
「ならこれなーんだ?」
一枚の紙を手渡されると、耳元でそっと囁いた。
「首輪とか変態だね」
昨日の茶封筒の中に入っていたものと同じ写真が入っていた。
なんとか距離を取ろうとするが、がっしりと腕を掴まれ動ける気がしない。
「じゃあデートしようか?」
腕を掴んだまま彼女はすたすたとどこかに歩き始めた。
「おい、バイト!」
「大丈夫休みってことにしておいたから」
そう言って店長とのLINEを見せてくるとニコッと笑った。
「なに勝手に……」
「いいじゃんバイト後だけなんて時間なくて楽しめないよ」
「それに積もる話もあるみたいだしね」と言いながら車に押し込もうとしてくる。
「やめろって!」
力いっぱい振りほどこうとすると、思った以上にあっさりと手を放した。
「そんなに達也クンが嫌なら今日は諦めるけど、これ誰の番号だ?」
そう言って冬木が掲げた画面に映っていたのは間違いない、茜の番号だった。
「おいそれ!」
スマホを取り上げようと慌てて近づくが、ダンスでも踊っているかの様にヒラリと躱す。
「おい、待ってって!」
「楽しいね達也クン!」
全然楽しくない……。
翻弄され過ぎたせいか前日の酒が抜けていないせいかわからないが、俺の動きに合わせて、世界も踊り始めた。
その動きに足を取られると、転ぶようにしてその場にへたり込む。
「ねえ、達也クンどうしたらいいかわかるでしょ?」
笑顔でそう尋ねてくる彼女の指は、通話ボタンの真上に置かれていた。
下手な動きをすると茜に掛けるぞと言う素振りは、心臓に直接銃口を向けられた気分だ。
少しでもこいつの機嫌を損ねたら死ぬ。
この圧倒的に不利な状況下で、従う以外の選択肢は残されていなかった。
「どこ連れて行くつもりだ?」
脅されるように車に乗り込むと、想像以上に丁寧な運転を始めた。
「どこがいい? 水族館デートとかしたいな、あとは温泉とか?」
そう言って無邪気に笑う冬木を見ると無性にイラついてくる。
「ふざけんな!」
肩を掴み思い切り怒声を飛ばすが、全く動じる気配を見せない。
「もうそろそろ着くから静かにしててよ、それとも地獄までドライブする?」
彼女が指さす先を見ると、小奇麗な一軒家が見えた。
「あれは?」
「私の家」
丁寧に車を止めると、ドアを開けながら言った。
「とりあえず中で話そう」
やはり拒否権はないらしい、そう冬木の目が物語っていた。
小さく首を振ると、諦めて家の中へ歩を進める。
「飲み物はお茶とコーヒーどっちがいい?」
リビングに通すと、楽しそうにキッチンに立ち始めた。
「どっちもいらない」
盗撮写真を送り付けてくるやつのことだ、飲み物になにか入れられていても不思議じゃない。
「って言ってもお客さんに何も出さないのは悪いしな」
少し考えるような素振りを見せると、冷蔵庫の中から何本かのペットボトルを取り出してきた。
目の前に色とりどりのラベルが並ぶ。
ぱっと見た感じどれも口は開いていなさそうだ。
「カフェオレ、コーラ、コーヒー、ミルクティーどれがいい?」
「コーヒーで」
「んーなら私はカフェオレにしようかな」
念には念を入れておくか。
耳を澄ましていると、冬木の手の中からパキパキっと封を破る音が聞こえた。
「やっぱカフェオレくれ」
「もーしょうがないなー、けどそういうわがままな達也クンも大好きだよ」
冬木が返されたコーヒーを四分の一ほど飲んだのを見ると、カフェオレに口を付けた。
よかった、変な味も臭いもない。
口いっぱいに濃厚な牛乳の香りと、優しい甘さが広がる。
「おいしい?」
「ああ」
何かを飲んでいるところをじっと見られるのは少し気恥ずかしかった。
「よかった、じゃあ本題に入ろうか。私に何言いに来たの?」
昨日陽菜とのやりとりを思い出し、口を開こうとしたとき、冬木が「しっ」と俺の唇に人差し指を当ててきた。
一瞬なにをされたのかわからず、混乱していると、口を開く。
「『茜ちゃんがいるからうちではお前のこと飼えない』って言うんでしょ?」
冬木は一字一句間違うことなく、昨日のセリフを抑揚やその場の雰囲気までそのままに発して見せた。
「なんでそれを……」
「大好きだからだよ、達也クンのことが。あんな女よりね」
思わず身じろぎしてしまいそうな雰囲気を携えながら、一歩、また一歩と近づいてくる。
思わず後ろに下がろうとするが、うまく体が動かない。
恐怖に当てられたせいだろうか。
脳は動けと命令してる。
心は逃げろと叫んでいる。
ただ体だけが糸の切れた操り人形のようにピクリともしなかった。
呼吸が浅くなり、冷や汗は止まらない。
狩られる側はこういう気分なんだろうか。
張り付けた笑顔の冬木が真っ黒な影のように見える。
氷の様に冷たい手が頬を撫でると、耳元に顔を近づけた。
「ハハッ、やっと効いてきたね」
その言葉を最後に、世界は一瞬で闇に堕ちた。
バイト先に着くとすぐ、待ち構えていたかのように普段の十割増しのテンションの冬木が飛びついてきた。
「おい離れろよ!」
ぞわっとした不快感を覚えると急いで振り払う。
「達也クンって人前でイチャイチャしたくないタイプだっけ?」
不気味な笑みを浮かべながらじわりじわりと距離を詰めてくる。
「そうだよ……」
「ならこれなーんだ?」
一枚の紙を手渡されると、耳元でそっと囁いた。
「首輪とか変態だね」
昨日の茶封筒の中に入っていたものと同じ写真が入っていた。
なんとか距離を取ろうとするが、がっしりと腕を掴まれ動ける気がしない。
「じゃあデートしようか?」
腕を掴んだまま彼女はすたすたとどこかに歩き始めた。
「おい、バイト!」
「大丈夫休みってことにしておいたから」
そう言って店長とのLINEを見せてくるとニコッと笑った。
「なに勝手に……」
「いいじゃんバイト後だけなんて時間なくて楽しめないよ」
「それに積もる話もあるみたいだしね」と言いながら車に押し込もうとしてくる。
「やめろって!」
力いっぱい振りほどこうとすると、思った以上にあっさりと手を放した。
「そんなに達也クンが嫌なら今日は諦めるけど、これ誰の番号だ?」
そう言って冬木が掲げた画面に映っていたのは間違いない、茜の番号だった。
「おいそれ!」
スマホを取り上げようと慌てて近づくが、ダンスでも踊っているかの様にヒラリと躱す。
「おい、待ってって!」
「楽しいね達也クン!」
全然楽しくない……。
翻弄され過ぎたせいか前日の酒が抜けていないせいかわからないが、俺の動きに合わせて、世界も踊り始めた。
その動きに足を取られると、転ぶようにしてその場にへたり込む。
「ねえ、達也クンどうしたらいいかわかるでしょ?」
笑顔でそう尋ねてくる彼女の指は、通話ボタンの真上に置かれていた。
下手な動きをすると茜に掛けるぞと言う素振りは、心臓に直接銃口を向けられた気分だ。
少しでもこいつの機嫌を損ねたら死ぬ。
この圧倒的に不利な状況下で、従う以外の選択肢は残されていなかった。
「どこ連れて行くつもりだ?」
脅されるように車に乗り込むと、想像以上に丁寧な運転を始めた。
「どこがいい? 水族館デートとかしたいな、あとは温泉とか?」
そう言って無邪気に笑う冬木を見ると無性にイラついてくる。
「ふざけんな!」
肩を掴み思い切り怒声を飛ばすが、全く動じる気配を見せない。
「もうそろそろ着くから静かにしててよ、それとも地獄までドライブする?」
彼女が指さす先を見ると、小奇麗な一軒家が見えた。
「あれは?」
「私の家」
丁寧に車を止めると、ドアを開けながら言った。
「とりあえず中で話そう」
やはり拒否権はないらしい、そう冬木の目が物語っていた。
小さく首を振ると、諦めて家の中へ歩を進める。
「飲み物はお茶とコーヒーどっちがいい?」
リビングに通すと、楽しそうにキッチンに立ち始めた。
「どっちもいらない」
盗撮写真を送り付けてくるやつのことだ、飲み物になにか入れられていても不思議じゃない。
「って言ってもお客さんに何も出さないのは悪いしな」
少し考えるような素振りを見せると、冷蔵庫の中から何本かのペットボトルを取り出してきた。
目の前に色とりどりのラベルが並ぶ。
ぱっと見た感じどれも口は開いていなさそうだ。
「カフェオレ、コーラ、コーヒー、ミルクティーどれがいい?」
「コーヒーで」
「んーなら私はカフェオレにしようかな」
念には念を入れておくか。
耳を澄ましていると、冬木の手の中からパキパキっと封を破る音が聞こえた。
「やっぱカフェオレくれ」
「もーしょうがないなー、けどそういうわがままな達也クンも大好きだよ」
冬木が返されたコーヒーを四分の一ほど飲んだのを見ると、カフェオレに口を付けた。
よかった、変な味も臭いもない。
口いっぱいに濃厚な牛乳の香りと、優しい甘さが広がる。
「おいしい?」
「ああ」
何かを飲んでいるところをじっと見られるのは少し気恥ずかしかった。
「よかった、じゃあ本題に入ろうか。私に何言いに来たの?」
昨日陽菜とのやりとりを思い出し、口を開こうとしたとき、冬木が「しっ」と俺の唇に人差し指を当ててきた。
一瞬なにをされたのかわからず、混乱していると、口を開く。
「『茜ちゃんがいるからうちではお前のこと飼えない』って言うんでしょ?」
冬木は一字一句間違うことなく、昨日のセリフを抑揚やその場の雰囲気までそのままに発して見せた。
「なんでそれを……」
「大好きだからだよ、達也クンのことが。あんな女よりね」
思わず身じろぎしてしまいそうな雰囲気を携えながら、一歩、また一歩と近づいてくる。
思わず後ろに下がろうとするが、うまく体が動かない。
恐怖に当てられたせいだろうか。
脳は動けと命令してる。
心は逃げろと叫んでいる。
ただ体だけが糸の切れた操り人形のようにピクリともしなかった。
呼吸が浅くなり、冷や汗は止まらない。
狩られる側はこういう気分なんだろうか。
張り付けた笑顔の冬木が真っ黒な影のように見える。
氷の様に冷たい手が頬を撫でると、耳元に顔を近づけた。
「ハハッ、やっと効いてきたね」
その言葉を最後に、世界は一瞬で闇に堕ちた。
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