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第10話「茜のグルーミング」
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「どうした?」
入り口にたたずむ茜にそう声をかけると、後ろ手に持っていたドライヤーを見せてきた。
「陽菜さんが達也にブラッシングしてもらえって、飼い主なんだから」
ブラッシング、ね。
あの態度だ、わざわざ彼女を部屋に寄越すということは何かしらの意図があるんだろう。
ただ陽菜がなにを考えているのか全く分からない。
そんな状態であいつにやってもらえって追い返すのもできないよな。
また飼い主の責任が、とかうるさそうだし。
「わかった、おいで」
そう言うと、さっきまで寝転んでいたベッドの端を叩く。
ドライヤーやブラシを手渡すと、少し緊張した様子でベッドに腰かけた。
スイッチを入れると、ブオォーっという若干耳障りな音と共にしっとりとした黒髪が少しだけ揺らめく。
「なんか懐かしいな、髪乾かすの」
数か月ぶりでもやりかたは覚えているらしい。
付き合っていた時を思い出しながら夜の闇のように美しい髪に慣れた手つきでブラシをかけていく。
「別れてから乾かしてもらってないしね……」
そう言う彼女の後悔が滲む顔は別れを切り出されたときにそっくりだった。
あの日はどうしても話したいことがあるから来てほしいと言われ、夜十一時の閑散とした街の中、自転車を全速力で漕いだのを覚えている。
そしたら今と同じ泣きそうな顔をした茜に「ごめんなさい、これからも彼女として扱ってもらえる自身がないです」と言われ振られたんだ。
振った方が振られたような顔をしていたのが強く心に引っ掛かっていた。
「あんなこと言わせてごめん」
「こちらこそごめんなさい」
そう言って顔を見合わせフフっと互いに笑うと、またいつもの表情に戻っていた。
振られて絶望の淵に居た俺に伝えてやりたい。
「三か月後お前を振った元カノを飼うことになるぞ」と。
そんなことを思いながら、ブラシで整えていると、茜は言った。
「ねえ梳かし終わったら、今度は私がやってもいい?」
「けどまだ風呂入ってないからな……。風呂上りでもいい?」
「ハイ終わり」とブラシを彼女に手渡すと、彼女は見るものすべてを飲み込みそうな目をしながら言った。
「別にブラシを掛けるだけがすべてじゃないんだよ」
彼女は俺の手を触ると、ゆっくりと指を絡め始めた。
「……どういうこと?」
「グルーミングって知ってる?」
そう言いながら彼女は、突然指を口に含む。
さっきまで少し乾燥気味だった肌は、唾液によって湿り気を帯びていく。
ピチャッやクチャっという音を時折響かせながら、丁寧に指を舐め続ける。
粗方舐め終わったのだろう。
「達也の味がする」と言いながら今度は指に吸い付いてきた。
口内の暖かさを感じ感じつつも、どうしたらいいのかわからず、声を掛けることしかできない。
「お、おい茜?」
今まで見たことがない彼女に少し動揺しながら、舐めるのを止めさせようと指を引いたがそれが気に入らなかったらしい。
再び押し倒された。
馬乗りの体勢になりながら彼女は言った。
「ねえまだ終わってないよ」
そう言いながら今度は首元を舐め始める。
妙に生暖かいが心地のいい温度が何度も首筋を往復する。
「ちょっと待って!」
このままではまずいとどかそうと肩に手を掛けた時、彼女は俺がキスマークを付けた位置に思い切り吸いついてきた。
皮膚の一部部だけが吸い取られるような違和感が首を襲う。
戸惑いでなにも出せずにいると彼女は恍惚な表情を浮かべ、首輪に指をかけながら言った。
「ねえ、達也は猫と人、どっちとがいい?」
入り口にたたずむ茜にそう声をかけると、後ろ手に持っていたドライヤーを見せてきた。
「陽菜さんが達也にブラッシングしてもらえって、飼い主なんだから」
ブラッシング、ね。
あの態度だ、わざわざ彼女を部屋に寄越すということは何かしらの意図があるんだろう。
ただ陽菜がなにを考えているのか全く分からない。
そんな状態であいつにやってもらえって追い返すのもできないよな。
また飼い主の責任が、とかうるさそうだし。
「わかった、おいで」
そう言うと、さっきまで寝転んでいたベッドの端を叩く。
ドライヤーやブラシを手渡すと、少し緊張した様子でベッドに腰かけた。
スイッチを入れると、ブオォーっという若干耳障りな音と共にしっとりとした黒髪が少しだけ揺らめく。
「なんか懐かしいな、髪乾かすの」
数か月ぶりでもやりかたは覚えているらしい。
付き合っていた時を思い出しながら夜の闇のように美しい髪に慣れた手つきでブラシをかけていく。
「別れてから乾かしてもらってないしね……」
そう言う彼女の後悔が滲む顔は別れを切り出されたときにそっくりだった。
あの日はどうしても話したいことがあるから来てほしいと言われ、夜十一時の閑散とした街の中、自転車を全速力で漕いだのを覚えている。
そしたら今と同じ泣きそうな顔をした茜に「ごめんなさい、これからも彼女として扱ってもらえる自身がないです」と言われ振られたんだ。
振った方が振られたような顔をしていたのが強く心に引っ掛かっていた。
「あんなこと言わせてごめん」
「こちらこそごめんなさい」
そう言って顔を見合わせフフっと互いに笑うと、またいつもの表情に戻っていた。
振られて絶望の淵に居た俺に伝えてやりたい。
「三か月後お前を振った元カノを飼うことになるぞ」と。
そんなことを思いながら、ブラシで整えていると、茜は言った。
「ねえ梳かし終わったら、今度は私がやってもいい?」
「けどまだ風呂入ってないからな……。風呂上りでもいい?」
「ハイ終わり」とブラシを彼女に手渡すと、彼女は見るものすべてを飲み込みそうな目をしながら言った。
「別にブラシを掛けるだけがすべてじゃないんだよ」
彼女は俺の手を触ると、ゆっくりと指を絡め始めた。
「……どういうこと?」
「グルーミングって知ってる?」
そう言いながら彼女は、突然指を口に含む。
さっきまで少し乾燥気味だった肌は、唾液によって湿り気を帯びていく。
ピチャッやクチャっという音を時折響かせながら、丁寧に指を舐め続ける。
粗方舐め終わったのだろう。
「達也の味がする」と言いながら今度は指に吸い付いてきた。
口内の暖かさを感じ感じつつも、どうしたらいいのかわからず、声を掛けることしかできない。
「お、おい茜?」
今まで見たことがない彼女に少し動揺しながら、舐めるのを止めさせようと指を引いたがそれが気に入らなかったらしい。
再び押し倒された。
馬乗りの体勢になりながら彼女は言った。
「ねえまだ終わってないよ」
そう言いながら今度は首元を舐め始める。
妙に生暖かいが心地のいい温度が何度も首筋を往復する。
「ちょっと待って!」
このままではまずいとどかそうと肩に手を掛けた時、彼女は俺がキスマークを付けた位置に思い切り吸いついてきた。
皮膚の一部部だけが吸い取られるような違和感が首を襲う。
戸惑いでなにも出せずにいると彼女は恍惚な表情を浮かべ、首輪に指をかけながら言った。
「ねえ、達也は猫と人、どっちとがいい?」
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