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第4話「茜との散歩」
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「じゃあ行こうか」
「うん」
並んで歩きながら茜の横顔を見るが、やはり彼女は俺が惚れた千島茜その人であった。
陽菜から離れ恐怖が減ったせいだろうか、彼女の表情からは緊張した様子が消え、付き合っていたころの活発だった顔に少し戻っている。
胸まで伸びた絹のような黒髪。
高すぎず低すぎずかといって主張しすぎない鼻。
覗いたものをすべて飲み込んでしまいそうな魔性の瞳。
どこを取ってもやはり茜は美しかった。
じっと見ていると、突然彼女はフフっと笑った。
「達也は変わらないね」
なにを言っているのかわからずきょとんとしていると彼女は続けた。
「二人で歩いてるときにずっと私の顔見てくるその癖」
「そんな茜の顔見てた?」
「見てたよ~、あーこの人私の顔が本当に好きなんだなって思えてうれしかった」
そう言いながらニーっと嬉しそうに笑う。
茜の顔が好きだという自覚はあったが、まさかそんな癖があるとは知らなかった。
「なあなんか買っていい」
他人から指摘されると少し恥ずかしい癖に対しなんとコメントしたらいいのかわからない。
たまらず話題を変えようと自販機を指さす。
「いいよ」
自販機を見てから意識したが、もう一滴も唾液が出ないくらいカラカラに乾いていた。
久しぶりに二人きりで歩く緊張のせいだろうか、さっき水を飲んだのが嘘のようだ。
「茜は何飲む? 奢るよ」
少し悩んだような仕草を見せた後、言った。
「達也が飲んだのもらえればいいから買わなくていいよ」
「ん-わかった、これは嫌とかある?」
「甘いのかな」
「オッケー」と言いながらざっと何が並んでいるのか確認する。
お茶、スポドリ、コーヒー、清涼飲料水などが目に入ったが、水にした。
これなら甘くないし、いいだろう。
コーヒーみたいに匂いもきつくないしな。
ガコンっという音を出して落ちてきたペットボトルを手に取ると、何口か飲んで手渡す。
ただ受け取ってもすぐに口を付けず、ペットボトルを初めて見た少女のようにまじまじと観察していた。
「どうかした?」
なかなか飲もうとしない茜を不思議に思い、何気ない様子でそう尋ねる。
「いや、飲んでいいのかなって思って……」
脳裏に先ほどのぺちゃぺちゃと音を立てながら舌で水を飲む姿が浮かんだ。
「もしかして皿に移したほうがいい?」
意地悪な顔をしながらそう聞くと、言いたいことを察したのか、ボッ!と効果音が付きそうなくらい瞬時に顔を真っ赤にした。
「あれ、恥ずかしいんだからね……」
「ごめんごめん、普通に飲めばいいよ。陽菜が見てるわけじゃないし」
「うん、そうだよね」
軽く笑うと茜は俺と同じようにボトルを傾け飲みだした。
あれ、そういや俺口付けたペットボトル渡した気が……。
「なああか――」
そう言いかけようとしたその時、茜はガっと俺の唇を奪い、口内に水を流し込んできた。
反射的に体温ほどのぬるさになった水を飲み干す。
「間接キス、って言いたいんでしょ……」
顔を見せないためだろう。
しっかりと抱きつきながら耳元でそう言った。
「これでもう間接キスとか関係ないよね」
「あかね?」
抱きつくのをやめると、少し朱の残った頬で、愛おしそうに手を触りながら呟くように言った。
「ねえ、今だけ恋人に戻っちゃダメかな?」
その言葉を聞いた瞬間、心臓が早鐘をうち始めた。
触られている手から心音が伝わってしまうのではないかと思うくらい頭の中にドクンっ!ドクンっ!という音が響く。
そんな動揺が茜にばれないよう、なるべくいつもと同じようにスマホをつける。
「15:12」
画面の中央には無機質な文字でそう表示されている。
覗き込んできた茜は耳元で「まだ晩御飯まで時間あるね……」とそっとささめいた。
ふと、出かける前にされた陽菜の耳打ちが頭をよぎる。
『茜ちゃんが獣だってこと、忘れないでね』
茜に引っ張られ街をさまよっていると、いつの間にか歓楽街に連れてこられた。
まだ陽が高いにも関わらず、多種多様なカップルが溢れている。
三分の一ぐらいは商売だろうか。
「なあ茜?」
「ここ覚えてる?」
そう指さす先には付き合っているとき愛用していたホテルがあった。
忘れるものか。
この近くに来ると思い出してしまうからわざわざ避けていたほどだ。
「覚えているよ」
そう答えると、待ってましたとばかりに悪魔のささやきのような妖艶な声で誘ってきた。
「入っちゃおっか」
「うん」
並んで歩きながら茜の横顔を見るが、やはり彼女は俺が惚れた千島茜その人であった。
陽菜から離れ恐怖が減ったせいだろうか、彼女の表情からは緊張した様子が消え、付き合っていたころの活発だった顔に少し戻っている。
胸まで伸びた絹のような黒髪。
高すぎず低すぎずかといって主張しすぎない鼻。
覗いたものをすべて飲み込んでしまいそうな魔性の瞳。
どこを取ってもやはり茜は美しかった。
じっと見ていると、突然彼女はフフっと笑った。
「達也は変わらないね」
なにを言っているのかわからずきょとんとしていると彼女は続けた。
「二人で歩いてるときにずっと私の顔見てくるその癖」
「そんな茜の顔見てた?」
「見てたよ~、あーこの人私の顔が本当に好きなんだなって思えてうれしかった」
そう言いながらニーっと嬉しそうに笑う。
茜の顔が好きだという自覚はあったが、まさかそんな癖があるとは知らなかった。
「なあなんか買っていい」
他人から指摘されると少し恥ずかしい癖に対しなんとコメントしたらいいのかわからない。
たまらず話題を変えようと自販機を指さす。
「いいよ」
自販機を見てから意識したが、もう一滴も唾液が出ないくらいカラカラに乾いていた。
久しぶりに二人きりで歩く緊張のせいだろうか、さっき水を飲んだのが嘘のようだ。
「茜は何飲む? 奢るよ」
少し悩んだような仕草を見せた後、言った。
「達也が飲んだのもらえればいいから買わなくていいよ」
「ん-わかった、これは嫌とかある?」
「甘いのかな」
「オッケー」と言いながらざっと何が並んでいるのか確認する。
お茶、スポドリ、コーヒー、清涼飲料水などが目に入ったが、水にした。
これなら甘くないし、いいだろう。
コーヒーみたいに匂いもきつくないしな。
ガコンっという音を出して落ちてきたペットボトルを手に取ると、何口か飲んで手渡す。
ただ受け取ってもすぐに口を付けず、ペットボトルを初めて見た少女のようにまじまじと観察していた。
「どうかした?」
なかなか飲もうとしない茜を不思議に思い、何気ない様子でそう尋ねる。
「いや、飲んでいいのかなって思って……」
脳裏に先ほどのぺちゃぺちゃと音を立てながら舌で水を飲む姿が浮かんだ。
「もしかして皿に移したほうがいい?」
意地悪な顔をしながらそう聞くと、言いたいことを察したのか、ボッ!と効果音が付きそうなくらい瞬時に顔を真っ赤にした。
「あれ、恥ずかしいんだからね……」
「ごめんごめん、普通に飲めばいいよ。陽菜が見てるわけじゃないし」
「うん、そうだよね」
軽く笑うと茜は俺と同じようにボトルを傾け飲みだした。
あれ、そういや俺口付けたペットボトル渡した気が……。
「なああか――」
そう言いかけようとしたその時、茜はガっと俺の唇を奪い、口内に水を流し込んできた。
反射的に体温ほどのぬるさになった水を飲み干す。
「間接キス、って言いたいんでしょ……」
顔を見せないためだろう。
しっかりと抱きつきながら耳元でそう言った。
「これでもう間接キスとか関係ないよね」
「あかね?」
抱きつくのをやめると、少し朱の残った頬で、愛おしそうに手を触りながら呟くように言った。
「ねえ、今だけ恋人に戻っちゃダメかな?」
その言葉を聞いた瞬間、心臓が早鐘をうち始めた。
触られている手から心音が伝わってしまうのではないかと思うくらい頭の中にドクンっ!ドクンっ!という音が響く。
そんな動揺が茜にばれないよう、なるべくいつもと同じようにスマホをつける。
「15:12」
画面の中央には無機質な文字でそう表示されている。
覗き込んできた茜は耳元で「まだ晩御飯まで時間あるね……」とそっとささめいた。
ふと、出かける前にされた陽菜の耳打ちが頭をよぎる。
『茜ちゃんが獣だってこと、忘れないでね』
茜に引っ張られ街をさまよっていると、いつの間にか歓楽街に連れてこられた。
まだ陽が高いにも関わらず、多種多様なカップルが溢れている。
三分の一ぐらいは商売だろうか。
「なあ茜?」
「ここ覚えてる?」
そう指さす先には付き合っているとき愛用していたホテルがあった。
忘れるものか。
この近くに来ると思い出してしまうからわざわざ避けていたほどだ。
「覚えているよ」
そう答えると、待ってましたとばかりに悪魔のささやきのような妖艶な声で誘ってきた。
「入っちゃおっか」
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