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婚約破棄はパーティーで その6

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『いたぞ』『あそこか』
 扉の近くの集団にまぎれて何だか揉めているような三人がいた。三人ともそれなりの魔力だ。なぜ気がつかなかった? フェンリルが呼びかけるまで認識阻害でもかけていたんだろうか。
 剣に風の属性。何だかじたばた暴れている男一人と女二人をまとめて浮かして、俺とフェンリルの前まで来させる。空中に浮かせて引き寄せたんだから床を引きずっちゃいないんだが、心情的には目の前に引きずり出したって感じ。

「結界の聖女、ステラと申します」
 銀の髪に青い瞳。震える声で聖女が名乗る。

『もう片方が王女で、こちらは特に何の聖女でもないという事前情報あり。王女の外見は魅了の聖女とそっくりですが』と俺はフェンリルに念話する。

「君があの空間に裂け目を入れたのか? 裂け目を閉じることはできる?」
 と俺が問うと、結界の聖女が泣きながら言う。

「わからないのです。王太子殿下がリデロ様との婚約を破棄するとおっしゃって、理由はわたしとリデロ様との不貞で、わたしは処刑だと言い渡されてからの記憶がなくて、きっ、気がついたら第二王子殿下が……」

『処刑宣告されて闇堕ちしたのが、第二王子の魔道具が破壊されたら正気に戻ったとか?』
『有り得るな。第二王子とやらが聖なる山からの道を通したとか申しておったが、その動力源の役割を果たしたのがこやつかのう』

「どうかお待ちを。発言をお許しください。わたくしは——」
 なぜかここで王女様が前に出てきて声を上げる。
「わ、わたくしはっ」
 うん? 頬を赤く染めて目を潤ませて……何かどこかで見たような。

『魅了の聖女の反応に似ているんですけど。俺に魅了をかけようとして、鎧に魅了を反射されたときの』
『うむ。この魅了の臭い匂いは駄女神とも似ておるわ』
『魅了の聖女には一年くらい引きこもってくれと頼みましたが、この王女様はお願い聞いてくれますかね』

「王女様、婚約破棄の経緯について洗いざらいしゃべってください。
 あ、それは後からでいいか。あなたの力を全て使って、会場にいる人たちの持っている魔導具の回収をお願いします。勝手に起動させちゃだめですよ。俺が消えた後もフェンリルの指示に従ってくださいね」

「ぐがっ」
 浮気男のリデロ公爵令息様がうめく。俺を攻撃して鎧の反射をくらったな。
 闇の属性を纏わせた剣を彼の額にあてて命じる。
「眠れ。フェンリルが目覚めさせるまで」

 そうそう、フェンリルと契約し損ねた少年が呆然とへたり込んでいたので、同じようにして眠らせた。他にも何人か、駄女神を復活せよとフェンリルに詰め寄っていた奴らも眠ってもらった。

 そろそろ俺は消えるけど、次は瘴気の大陸で洞窟の中の祠を破壊かな。
 次もこの会場で、今の続きをやるかもしれないけど。





「——とか思っていたら、どちらでもなかったぞ、と」
 瘴気の大陸でもなく、卒業パーティー会場でもないところに俺はいた。
 いつも夢で訪れる謁見室にふよふよと浮いているのだが、いつものケトン着用ではなく鎧を着たまんまというのは、これがはじめてだ。

 ゲームマスターが俺に告げる。
「パーティー会場の方ではカプセルを連続して割るのを遠慮しているようです。
 あなたが瘴気の大陸で祠を破壊するのを邪魔しないようにと。
 一方、瘴気の大陸にいるピートの方は、これといった動きがあるまでカプセルを割るつもりはなさそうです」

「瘴気大陸が無事っぽいということは、洞窟を塞いだ石が壊されていないということですか?」と俺。
「はい。気になるようなら、カプセルが割られなくてもあなたを直接ここから顕現させることもできますし、わたしが直接出向いてカプセルを割っても良いのですけれど、どうしましょうか?」
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