22 / 30
婚約破棄はパーティーで その6
しおりを挟む
『いたぞ』『あそこか』
扉の近くの集団にまぎれて何だか揉めているような三人がいた。三人ともそれなりの魔力だ。なぜ気がつかなかった? フェンリルが呼びかけるまで認識阻害でもかけていたんだろうか。
剣に風の属性。何だかじたばた暴れている男一人と女二人をまとめて浮かして、俺とフェンリルの前まで来させる。空中に浮かせて引き寄せたんだから床を引きずっちゃいないんだが、心情的には目の前に引きずり出したって感じ。
「結界の聖女、ステラと申します」
銀の髪に青い瞳。震える声で聖女が名乗る。
『もう片方が王女で、こちらは特に何の聖女でもないという事前情報あり。王女の外見は魅了の聖女とそっくりですが』と俺はフェンリルに念話する。
「君があの空間に裂け目を入れたのか? 裂け目を閉じることはできる?」
と俺が問うと、結界の聖女が泣きながら言う。
「わからないのです。王太子殿下がリデロ様との婚約を破棄するとおっしゃって、理由はわたしとリデロ様との不貞で、わたしは処刑だと言い渡されてからの記憶がなくて、きっ、気がついたら第二王子殿下が……」
『処刑宣告されて闇堕ちしたのが、第二王子の魔道具が破壊されたら正気に戻ったとか?』
『有り得るな。第二王子とやらが聖なる山からの道を通したとか申しておったが、その動力源の役割を果たしたのがこやつかのう』
「どうかお待ちを。発言をお許しください。わたくしは——」
なぜかここで王女様が前に出てきて声を上げる。
「わ、わたくしはっ」
うん? 頬を赤く染めて目を潤ませて……何かどこかで見たような。
『魅了の聖女の反応に似ているんですけど。俺に魅了をかけようとして、鎧に魅了を反射されたときの』
『うむ。この魅了の臭い匂いは駄女神とも似ておるわ』
『魅了の聖女には一年くらい引きこもってくれと頼みましたが、この王女様はお願い聞いてくれますかね』
「王女様、婚約破棄の経緯について洗いざらいしゃべってください。
あ、それは後からでいいか。あなたの力を全て使って、会場にいる人たちの持っている魔導具の回収をお願いします。勝手に起動させちゃだめですよ。俺が消えた後もフェンリルの指示に従ってくださいね」
「ぐがっ」
浮気男のリデロ公爵令息様がうめく。俺を攻撃して鎧の反射をくらったな。
闇の属性を纏わせた剣を彼の額にあてて命じる。
「眠れ。フェンリルが目覚めさせるまで」
そうそう、フェンリルと契約し損ねた少年が呆然とへたり込んでいたので、同じようにして眠らせた。他にも何人か、駄女神を復活せよとフェンリルに詰め寄っていた奴らも眠ってもらった。
そろそろ俺は消えるけど、次は瘴気の大陸で洞窟の中の祠を破壊かな。
次もこの会場で、今の続きをやるかもしれないけど。
「——とか思っていたら、どちらでもなかったぞ、と」
瘴気の大陸でもなく、卒業パーティー会場でもないところに俺はいた。
いつも夢で訪れる謁見室にふよふよと浮いているのだが、いつものケトン着用ではなく鎧を着たまんまというのは、これがはじめてだ。
ゲームマスターが俺に告げる。
「パーティー会場の方ではカプセルを連続して割るのを遠慮しているようです。
あなたが瘴気の大陸で祠を破壊するのを邪魔しないようにと。
一方、瘴気の大陸にいるピートの方は、これといった動きがあるまでカプセルを割るつもりはなさそうです」
「瘴気大陸が無事っぽいということは、洞窟を塞いだ石が壊されていないということですか?」と俺。
「はい。気になるようなら、カプセルが割られなくてもあなたを直接ここから顕現させることもできますし、わたしが直接出向いてカプセルを割っても良いのですけれど、どうしましょうか?」
扉の近くの集団にまぎれて何だか揉めているような三人がいた。三人ともそれなりの魔力だ。なぜ気がつかなかった? フェンリルが呼びかけるまで認識阻害でもかけていたんだろうか。
剣に風の属性。何だかじたばた暴れている男一人と女二人をまとめて浮かして、俺とフェンリルの前まで来させる。空中に浮かせて引き寄せたんだから床を引きずっちゃいないんだが、心情的には目の前に引きずり出したって感じ。
「結界の聖女、ステラと申します」
銀の髪に青い瞳。震える声で聖女が名乗る。
『もう片方が王女で、こちらは特に何の聖女でもないという事前情報あり。王女の外見は魅了の聖女とそっくりですが』と俺はフェンリルに念話する。
「君があの空間に裂け目を入れたのか? 裂け目を閉じることはできる?」
と俺が問うと、結界の聖女が泣きながら言う。
「わからないのです。王太子殿下がリデロ様との婚約を破棄するとおっしゃって、理由はわたしとリデロ様との不貞で、わたしは処刑だと言い渡されてからの記憶がなくて、きっ、気がついたら第二王子殿下が……」
『処刑宣告されて闇堕ちしたのが、第二王子の魔道具が破壊されたら正気に戻ったとか?』
『有り得るな。第二王子とやらが聖なる山からの道を通したとか申しておったが、その動力源の役割を果たしたのがこやつかのう』
「どうかお待ちを。発言をお許しください。わたくしは——」
なぜかここで王女様が前に出てきて声を上げる。
「わ、わたくしはっ」
うん? 頬を赤く染めて目を潤ませて……何かどこかで見たような。
『魅了の聖女の反応に似ているんですけど。俺に魅了をかけようとして、鎧に魅了を反射されたときの』
『うむ。この魅了の臭い匂いは駄女神とも似ておるわ』
『魅了の聖女には一年くらい引きこもってくれと頼みましたが、この王女様はお願い聞いてくれますかね』
「王女様、婚約破棄の経緯について洗いざらいしゃべってください。
あ、それは後からでいいか。あなたの力を全て使って、会場にいる人たちの持っている魔導具の回収をお願いします。勝手に起動させちゃだめですよ。俺が消えた後もフェンリルの指示に従ってくださいね」
「ぐがっ」
浮気男のリデロ公爵令息様がうめく。俺を攻撃して鎧の反射をくらったな。
闇の属性を纏わせた剣を彼の額にあてて命じる。
「眠れ。フェンリルが目覚めさせるまで」
そうそう、フェンリルと契約し損ねた少年が呆然とへたり込んでいたので、同じようにして眠らせた。他にも何人か、駄女神を復活せよとフェンリルに詰め寄っていた奴らも眠ってもらった。
そろそろ俺は消えるけど、次は瘴気の大陸で洞窟の中の祠を破壊かな。
次もこの会場で、今の続きをやるかもしれないけど。
「——とか思っていたら、どちらでもなかったぞ、と」
瘴気の大陸でもなく、卒業パーティー会場でもないところに俺はいた。
いつも夢で訪れる謁見室にふよふよと浮いているのだが、いつものケトン着用ではなく鎧を着たまんまというのは、これがはじめてだ。
ゲームマスターが俺に告げる。
「パーティー会場の方ではカプセルを連続して割るのを遠慮しているようです。
あなたが瘴気の大陸で祠を破壊するのを邪魔しないようにと。
一方、瘴気の大陸にいるピートの方は、これといった動きがあるまでカプセルを割るつもりはなさそうです」
「瘴気大陸が無事っぽいということは、洞窟を塞いだ石が壊されていないということですか?」と俺。
「はい。気になるようなら、カプセルが割られなくてもあなたを直接ここから顕現させることもできますし、わたしが直接出向いてカプセルを割っても良いのですけれど、どうしましょうか?」
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
おばさん、異世界転生して無双する(꜆꜄꜆˙꒳˙)꜆꜄꜆オラオラオラオラ
Crosis
ファンタジー
新たな世界で新たな人生を_(:3 」∠)_
【残酷な描写タグ等は一応保険の為です】
後悔ばかりの人生だった高柳美里(40歳)は、ある日突然唯一の趣味と言って良いVRMMOのゲームデータを引き継いだ状態で異世界へと転移する。
目の前には心血とお金と時間を捧げて作り育てたCPUキャラクター達。
そして若返った自分の身体。
美男美女、様々な種族の|子供達《CPUキャラクター》とアイテムに天空城。
これでワクワクしない方が嘘である。
そして転移した世界が異世界であると気付いた高柳美里は今度こそ後悔しない人生を謳歌すると決意するのであった。
日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊
北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です
葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。
王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。
孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。
王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。
働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。
何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。
隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。
そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。
※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。
※小説家になろう様でも掲載予定です。
王命を忘れた恋
須木 水夏
恋愛
『君はあの子よりも強いから』
そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。
強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?
そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。
巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!
あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!?
資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。
そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。
どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。
「私、ガンバる!」
だったら私は帰してもらえない?ダメ?
聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。
スローライフまでは到達しなかったよ……。
緩いざまああり。
注意
いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる