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彼女が出ていったその後は
ユカリナは嘘を一つ、ついていました
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私は最後にあなたに嘘を一つ、つきました。最初で最後の嘘でした。
今、私はとある男爵領の外れに建てられた真新しい小ぶりな屋敷に住んでいます。お腹に宿った子供を亡くし失意の中、命すら絶とうかと考えていた私を支えてくれた医師の男性と。傷ついた心に沁みこむ優しいお薬のようなその男性と少し時間はかかったけれど、思い合いました。まだ心の片隅にあなたはいるけれど、今は前を向いて生きて行きたい。そして、気づいたのです。二人の人を愛することもあるのだと。
もしかしたら、ディラン様は私の事も思って下さっていたのかも知れないなんて思うのは傲慢でしょうか。
なぜか侯爵邸を出て以降、父は私に優しい。第2夫人とは打ち解けていませんが、第3夫人とその子供とは互いに屋敷を行き来しています。
私のお相手は軍医の家系の侯爵家の三男。離縁が成立し、正式に婚姻したいと報告したけれど父に結婚を反対されてしまいました。
『嫡男ではない者と結婚すると苦労するから。正妻でなくとも、どこかの嫡男と…』
彼は頑張りました。不治の病とされていた病気の特効薬を開発し、その功績を認められて男爵位と小さな領地を国王陛下より賜り、父はようやく認めてくれました。
私は男児を二人産みました。今も妊娠中です。
侯爵邸を出る日に持ち出した、生まれてくる子供のために刺繍した産着は、今度生まれてくる子供にも使おうと思っています。生まれてくることのできなかったあなたの事を私は決して忘れません。
穏やかに過ごしていたある日、夫は第2夫人を娶ると言い出しました。私の脳裏には私だけを愛すと言ったのに、シェリー様に心を奪われたディラン様が浮かびました。でも夫が娶ったのは未亡人でした。彼の兄、侯爵家の次男の妻であった彼女は、夫が亡くなってからは彼のご実家から金銭的な援助があるだけで、二人のお嬢さん一人で育てているのだとか…
「彼女と兄は心底愛して合っていてね、男児が生まれるまでは第2夫人は娶らないつもりだったんだ。でも、兄は男児が生まれる前にはやり病で亡くなってしまった。彼女はまだ兄を愛しているから、私なんて眼中にないよ。兄の子供だから侯爵家の血は継いでいるから、問題ないしね」
私の心を見透かすかのように、私の頬に触れながら夫は言いました。
私は彼女ととても仲良くなることが出来ました。物事をはっきりと言うので誤解されがちですが、彼女はとても正直でさばさばとしていて、傷がついた女として社交界で様々な噂に晒されていた私を励ましてくれました。
「ユカリナ様は優しすぎるわ。陰謀渦巻く社交界ではもっと強かに生きなくては」
「そんな事ないわ?だって私、嘘つきなのよ?」
「ユカリナ様でも嘘をお付きになるの?以外だわ」
「私、前の夫と離縁する時、お幸せにって手紙に書いたの」
「そう…」
「そんな事、思っていなかったのに…」
「ふふっ…かわいらしい嘘ね。やっぱり心配だわ。あっ旦那様!旦那様からも言って下さいな」
「ユカリナはそのままでいいよ。心無い噂からは私が守るから」
夫は私の額に唇を落としました。
*******************************
くしくもディランが付いた嘘は、ユカリナがついた嘘と同じものでした。でも、その事実はユカリナは知らない。
あと一話でラストです。
今、私はとある男爵領の外れに建てられた真新しい小ぶりな屋敷に住んでいます。お腹に宿った子供を亡くし失意の中、命すら絶とうかと考えていた私を支えてくれた医師の男性と。傷ついた心に沁みこむ優しいお薬のようなその男性と少し時間はかかったけれど、思い合いました。まだ心の片隅にあなたはいるけれど、今は前を向いて生きて行きたい。そして、気づいたのです。二人の人を愛することもあるのだと。
もしかしたら、ディラン様は私の事も思って下さっていたのかも知れないなんて思うのは傲慢でしょうか。
なぜか侯爵邸を出て以降、父は私に優しい。第2夫人とは打ち解けていませんが、第3夫人とその子供とは互いに屋敷を行き来しています。
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私は男児を二人産みました。今も妊娠中です。
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私の心を見透かすかのように、私の頬に触れながら夫は言いました。
私は彼女ととても仲良くなることが出来ました。物事をはっきりと言うので誤解されがちですが、彼女はとても正直でさばさばとしていて、傷がついた女として社交界で様々な噂に晒されていた私を励ましてくれました。
「ユカリナ様は優しすぎるわ。陰謀渦巻く社交界ではもっと強かに生きなくては」
「そんな事ないわ?だって私、嘘つきなのよ?」
「ユカリナ様でも嘘をお付きになるの?以外だわ」
「私、前の夫と離縁する時、お幸せにって手紙に書いたの」
「そう…」
「そんな事、思っていなかったのに…」
「ふふっ…かわいらしい嘘ね。やっぱり心配だわ。あっ旦那様!旦那様からも言って下さいな」
「ユカリナはそのままでいいよ。心無い噂からは私が守るから」
夫は私の額に唇を落としました。
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くしくもディランが付いた嘘は、ユカリナがついた嘘と同じものでした。でも、その事実はユカリナは知らない。
あと一話でラストです。
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