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彼女が出ていくその時は
ディランの帰還
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小競り合いが起こることもなかった。武器を集めていた隠れ家をこちらは無傷で制圧した。今回はベテランの上級騎士の部隊と共に行動していた。やはりベテランは違う。見事な手際だった。
あのような事故が起こった直後に3か月も屋敷を留守にしてしまった。シェリーからは手紙は来たが、ユカリナからはなかった。シェリーの手紙では、1月程前から文章に活気が感じられた。結局ユカリナとは顔を合わす事ができないまま出立となってしまった。後ろめたさから、まずはシェリーが待つであろう別邸に向かう。
なぜだろうか人気がなく静まり返った別邸に疑問を感じる。なぜ鍵がかかっているんだ。まさか噂通りユカリナが…私は速足で本邸に入ると、入口には屋敷中の人間が並んで立っていた。
「おかえりなさいませ旦那様」
使用人が頭を下げる。目はすぐにシェリーの姿をとらえ、私は大きく腕を広げた。
「おかえり!ディラン!」
愛しいシェリーが飛び込んでくるのを、私は抱き留める。
「ただいまシェリー。走ってはダメだろう?随分と大きくなったな」
優しく腹に触れる。あと3か月程で産み月となるはずだ。
「えぇ。この子が産まれる前にディランが無事に帰って来てくれてよかったわ」
出立前よりも元気なシェリーに安堵する。なぜかこの場にいない人物に気が付く。本当は今気づいたわけではない。入った瞬間探していた。
「ユカリナは?」
「ユカリナ様はいらっしゃいません」
彼女に付けていた侍女の一人が答える。私が帰還する日を知っているはずなのに出迎えないとは…まだあの事故を引きずっているのだろうか。この胸に大きく占めるのは罪悪感。やはり、あの時シェリーではなくユカリナの傍にいるべきだった。護衛に邪魔をされても、無理をしてでも傍にいるべきだった。
ユカリナの部屋に行こうとするが、まずは着替えをと執事に誘導された。久しぶりの私室は何も変わっていない。着替えを終え、隣にあるユカリナの部屋に行こうとした私の目に移ったのは机の上の腕輪だった。私の腕にはまっている腕輪と対になったその腕輪は、結婚当日にユカリナと互いに送りあった揃いの物だ。その封筒は、腕輪を重石にして置かれていた。嫌な予感がした。シルベスター伯爵家の封蝋が押された封蝋を剥がして開けると、中に入っていた1枚の書類を取り出す。ふとドアが開き、室内に微かな風が通る。
私の手にはユカリナのサインが書かれた離婚届。
なぜ…
どすんっと振動を感じると、シェリーが横から抱きついてきていて嬉しそうな顔をしていた。手にしていた封筒ははずみで床にパサリと落ち、反動でもう1枚入っていたらしい美しい模様の便箋が顔をのぞかせていた。拾おうとして、手が止まる。
それは細く、美しい字で
『お幸せに…』
と一言だけ書かれた手紙だった。
どうして…
シェリーは少し前からこの本邸で暮らしているのだと言う。回らない頭でなぜだか問うと、お腹の子供のためだと執事に説得されたそうだ。シェリーに離婚届を見せると顔色を悪くした。
「療養のために、ご実家に帰っているのだと執事に聞いていました。そんな…離縁だなんて…」
執事からは何も連絡はなかった。手紙でもなんでも私に知らせる事はできたはずなのに。何が起こっているんだ。妙な噂も耳にしていた。ユカリナがシェリーを追い出そうとしているとか、シェリーがユカリナの命を狙っているだとか。
そんなはずはない。二人とも心優しい女性だ。私が愛した女性だ。
あのような事故が起こった直後に3か月も屋敷を留守にしてしまった。シェリーからは手紙は来たが、ユカリナからはなかった。シェリーの手紙では、1月程前から文章に活気が感じられた。結局ユカリナとは顔を合わす事ができないまま出立となってしまった。後ろめたさから、まずはシェリーが待つであろう別邸に向かう。
なぜだろうか人気がなく静まり返った別邸に疑問を感じる。なぜ鍵がかかっているんだ。まさか噂通りユカリナが…私は速足で本邸に入ると、入口には屋敷中の人間が並んで立っていた。
「おかえりなさいませ旦那様」
使用人が頭を下げる。目はすぐにシェリーの姿をとらえ、私は大きく腕を広げた。
「おかえり!ディラン!」
愛しいシェリーが飛び込んでくるのを、私は抱き留める。
「ただいまシェリー。走ってはダメだろう?随分と大きくなったな」
優しく腹に触れる。あと3か月程で産み月となるはずだ。
「えぇ。この子が産まれる前にディランが無事に帰って来てくれてよかったわ」
出立前よりも元気なシェリーに安堵する。なぜかこの場にいない人物に気が付く。本当は今気づいたわけではない。入った瞬間探していた。
「ユカリナは?」
「ユカリナ様はいらっしゃいません」
彼女に付けていた侍女の一人が答える。私が帰還する日を知っているはずなのに出迎えないとは…まだあの事故を引きずっているのだろうか。この胸に大きく占めるのは罪悪感。やはり、あの時シェリーではなくユカリナの傍にいるべきだった。護衛に邪魔をされても、無理をしてでも傍にいるべきだった。
ユカリナの部屋に行こうとするが、まずは着替えをと執事に誘導された。久しぶりの私室は何も変わっていない。着替えを終え、隣にあるユカリナの部屋に行こうとした私の目に移ったのは机の上の腕輪だった。私の腕にはまっている腕輪と対になったその腕輪は、結婚当日にユカリナと互いに送りあった揃いの物だ。その封筒は、腕輪を重石にして置かれていた。嫌な予感がした。シルベスター伯爵家の封蝋が押された封蝋を剥がして開けると、中に入っていた1枚の書類を取り出す。ふとドアが開き、室内に微かな風が通る。
私の手にはユカリナのサインが書かれた離婚届。
なぜ…
どすんっと振動を感じると、シェリーが横から抱きついてきていて嬉しそうな顔をしていた。手にしていた封筒ははずみで床にパサリと落ち、反動でもう1枚入っていたらしい美しい模様の便箋が顔をのぞかせていた。拾おうとして、手が止まる。
それは細く、美しい字で
『お幸せに…』
と一言だけ書かれた手紙だった。
どうして…
シェリーは少し前からこの本邸で暮らしているのだと言う。回らない頭でなぜだか問うと、お腹の子供のためだと執事に説得されたそうだ。シェリーに離婚届を見せると顔色を悪くした。
「療養のために、ご実家に帰っているのだと執事に聞いていました。そんな…離縁だなんて…」
執事からは何も連絡はなかった。手紙でもなんでも私に知らせる事はできたはずなのに。何が起こっているんだ。妙な噂も耳にしていた。ユカリナがシェリーを追い出そうとしているとか、シェリーがユカリナの命を狙っているだとか。
そんなはずはない。二人とも心優しい女性だ。私が愛した女性だ。
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