あなたに嘘を一つ、つきました

小蝶

文字の大きさ
8 / 23
彼女が出ていくその前は

ユカリナの侍女は嘘を一つ、つきました

しおりを挟む
 この結婚は上手く行く。そう思った。それは私が仕えていた奥様、伯爵夫人のお心を知り尽くしている私の願望だったのかもしれない。


 私は、ユカリナ様の侍女だ。シルベスター伯爵家で奥様の侍女として働いていたが、ユカリナ様がお生まれになって以降は専属侍女となり、幼少からお世話をさせて頂いていた。お輿入れするさい一人侍女を連れて行くと聞いたので、ぜひ私を連れて行って下さいと立候補した。もう少し若い者をと渋るご当主を説得し、ユカリナ様の推薦もあり私が選ばれた。


 ディラン様と結婚されて以降。ユカリナ様は毎日とても幸せそうに過ごしておりました。戦争という悲劇により引き離されてしまいましたが、寂しさをごまかすように忙しくされ、立派に屋敷を守っておいででした。そして3年と言う月日を費やして、ディラン様の帰還日が伝えられました。それからの1か月、ユカリナ様は指折り数えて待っていらっしゃいました。

 予定通りにディラン様は帰還されました。可愛らしい女性を連れて。軽く紹介をされただけで、二人はすぐにその場を離れて行ってしまいました。お連れ様が、長距離移動でお疲れになっているからと。おそらく第2夫人として迎えるつもりでいらしゃるのでしょう。そうは仰いませんでしたが、それ以外は考えられませんでした。

 でも、まさかユカリナ様に告げることなく結婚式を挙げるとは…
なぜ言わなかったのかは分かりません。後ろめたい気持ちなんて持たなくていい。第2夫人は国が認めているのだから。いずれ誰かを娶る事はユカリナ様も私も分かっておりましたから。

 ユカリナ様はショックは受けたご様子でしたけれども、伯爵夫人のアドバイスもあり、必死に受け入れようとされていました。第2夫人に積極的に話かけ、時に優しく、時に厳しく侯爵家の決まり事を伝えていったのです。「広すぎて落ち着かない」突然こんな事を言い出して、一人別邸に籠ってしまったシェリー様にディラン様が付きっきりになっても。
 ディラン様はそれでも、ユカリナ様を蔑ろにされることはありませんでした。あの祝勝会までは…

 そして、この屋敷はユカリナ様派と、シェリー様派に完全に分裂しました。



 エルバード侯爵家のご当主か、シルベスター伯爵家のご当主が進言されたのでしょう。祝勝会の後、ディラン様は本邸で過ごされることが多くなりました。もちろんユカリナ様との夜の営みも。ユカリナ様は恥ずかしそうに、でも喜びを隠せないでいました。

 そして、ついにユカリナ様は妊娠しました。

 医師にそのことを伝えられると、お二人は手を取り合って喜んでいらっしゃいました。


 しかし、いつの頃からでしょうか。ディラン様がシェリー様と過ごす時間を優先されるようになったのは。なんなのでしょうあの男は。あっちにフラフラこっちにフラフラと…

 「きっと私が何かしてしまったのよ…」

 ユカリナ様が求めているのは、ディラン様の愛情です。でも、もしディラン様の愛情が、シェリー様に独占される事があったのなら、ユカリナ様を心を守るのは、正妻と言う立場と、ユカリナ様の産んだお子様となる。



 だから、私は嘘をつく。



「男の子でしょうか」

 できれば男児を…

「女の子でしょうか」

 奥様が無しえなかった悲願を、

「きっとどちらでも、お二人に似れば可愛いでしょう」

 念願を…
 
「大丈夫です」

 どうかユカリナ様が叶えられますように。


「きっとお子様が生まれれば」

 子供が生まれれば、ディラン様もユカリナ様に目を向けて下さるかもしれない。

「旦那様の愛情も」

 望みはきっと薄い。

「ユカリナ様と子供に戻るでしょう」

 伯爵家の旦那様の愛情は、戦場での燃え上がる恋から冷めることはなかった…

「それまでの辛抱です」



 ただ今はあなたと、その子供を守りたい。その一心だった。



 嘘を付いた事は後悔していない。ただ、『二人の間に隠し事はなしよ?』ユカリナ様がまだ幼い頃に交わした、この約束を破ってしまったことだけは後悔している。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

君を自由にしたくて婚約破棄したのに

佐崎咲
恋愛
「婚約を解消しよう」  幼い頃に決められた婚約者であるルーシー=ファロウにそう告げると、何故か彼女はショックを受けたように身体をこわばらせ、顔面が蒼白になった。  でもそれは一瞬のことだった。 「わかりました。では両親には私の方から伝えておきます」  なんでもないようにすぐにそう言って彼女はくるりと背を向けた。  その顔はいつもの淡々としたものだった。  だけどその一瞬見せたその顔が頭から離れなかった。  彼女は自由になりたがっている。そう思ったから苦汁の決断をしたのに。 ============ 注意)ほぼコメディです。 軽い気持ちで読んでいただければと思います。 ※無断転載・複写はお断りいたします。

理想の『女の子』を演じ尽くしましたが、不倫した子は育てられないのでさようなら

赤羽夕夜
恋愛
親友と不倫した挙句に、黙って不倫相手の子供を生ませて育てさせようとした夫、サイレーンにほとほとあきれ果てたリリエル。 問い詰めるも、開き直り復縁を迫り、同情を誘おうとした夫には千年の恋も冷めてしまった。ショックを通りこして吹っ切れたリリエルはサイレーンと親友のユエルを追い出した。 もう男には懲り懲りだと夫に黙っていたホテル事業に没頭し、好きな物を我慢しない生活を送ろうと決めた。しかし、その矢先に距離を取っていた学生時代の友人たちが急にアピールし始めて……?

幼馴染を溺愛する旦那様の前からは、もう消えてあげることにします

睡蓮
恋愛
「旦那様、もう幼馴染だけを愛されればいいじゃありませんか。私はいらない存在らしいので、静かにいなくなってあげます」

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

【完結】気味が悪いと見放された令嬢ですので ~殿下、無理に愛さなくていいのでお構いなく~

Rohdea
恋愛
───私に嘘は通じない。 だから私は知っている。あなたは私のことなんて本当は愛していないのだと── 公爵家の令嬢という身分と魔力の強さによって、 幼い頃に自国の王子、イライアスの婚約者に選ばれていた公爵令嬢リリーベル。 二人は幼馴染としても仲良く過ごしていた。 しかし、リリーベル十歳の誕生日。 嘘を見抜ける力 “真実の瞳”という能力に目覚めたことで、 リリーベルを取り巻く環境は一変する。 リリーベルの目覚めた真実の瞳の能力は、巷で言われている能力と違っていて少々特殊だった。 そのことから更に気味が悪いと親に見放されたリリーベル。 唯一、味方となってくれたのは八歳年上の兄、トラヴィスだけだった。 そして、婚約者のイライアスとも段々と距離が出来てしまう…… そんな“真実の瞳”で視てしまった彼の心の中は─── ※『可愛い妹に全てを奪われましたので ~あなた達への未練は捨てたのでお構いなく~』 こちらの作品のヒーローの妹が主人公となる話です。 めちゃくちゃチートを発揮しています……

もう何も信じられない

ミカン♬
恋愛
ウェンディは同じ学年の恋人がいる。彼は伯爵令息のエドアルト。1年生の時に学園の図書室で出会って二人は友達になり、仲を育んで恋人に発展し今は卒業後の婚約を待っていた。 ウェンディは平民なのでエドアルトの家からは反対されていたが、卒業して互いに気持ちが変わらなければ婚約を認めると約束されたのだ。 その彼が他の令嬢に恋をしてしまったようだ。彼女はソーニア様。ウェンディよりも遥かに可憐で天使のような男爵令嬢。 「すまないけど、今だけ自由にさせてくれないか」 あんなに愛を囁いてくれたのに、もう彼の全てが信じられなくなった。

【完結】没交渉の婚約者より、図書館で会った人の方が素敵でした

ぽぽよ
恋愛
レイチェルには、十年間一度も会ったことのない婚約者がいた。 名前しか知らない、奇妙な婚約。 ある日、図書館で出会った男性に、レイチェルは心を奪われる。 穏やかで優しい彼に惹かれていくが、レイチェルには婚約者がいた―― 見た目だけでは分からない、本当に大切なものとは? すれ違いを描く、短編ラブストーリー。 ショートショート全5話。

身代わりーダイヤモンドのように

Rj
恋愛
恋人のライアンには想い人がいる。その想い人に似ているから私を恋人にした。身代わりは本物にはなれない。 恋人のミッシェルが身代わりではいられないと自分のもとを去っていった。彼女の心に好きという言葉がとどかない。 お互い好きあっていたが破れた恋の話。 一話完結でしたが二話を加え全三話になりました。(6/24変更)

処理中です...