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幸せと欲求
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はぁーっと、深く大きな息をついた。
時刻は夜十時半。そろそろ寝てもいいし、まだ起きていてもいいし、という時刻だ。
先刻の深い息は、自分でも溜息なのか喪失感なのか、はたまた充足感のようなものなのか、うまく区別がつかない。
今日は楽しかったし、満ち足りたとも思うし、けれど今は、寂しさや物足りなさのようなものも多分にあって、なんとも形容し難かった。
胸の突起に触れると、一日中ゆるく擦れていたためか、いつもよりも少しだけ敏感なようだった。
そのまま指で円を描くように撫で、硬度を増していく感触を楽しむ。気持ちよさと物足りなさの両方が綯い交ぜになって、また正体のわからない息が漏れた。
昨日、今日と、奏輔さんと過ごした。
今日はみなとみらいの方まで行ってプラネタリウムも観たし、この前衝動買いしたエッチな下着とそれが透けて見える白いブラウスを着て、羞恥心を煽られながらのデートも楽しかった。みなとみらいの方には初めて行ったけれど、いろんなお店があって楽しかったし、人が多くてドキドキもした。
そうやって、十分に満足して帰ってきたつもりだったけれど、家まで送ってくれた奏輔さんとわかれて一人になると、その充足感は半減してしまった。
(明日はお互い仕事だし、仕方ないけど……)
そう、一日羞恥デートを楽しんだところまではよかったものの、明日は月曜日でお互い仕事だからと、奏輔さんは私を家に送って、玄関までで帰ってしまった。
一日中ゆるく擦れて中途半端に敏感な乳首。
今日一日でだいぶ慣れてしまったショーツのビーズ。
慣れたとはいえ、いつもより少し膨らんだクリトリス……
そういう、中途半端な自分の身体を認識したとき、なんともいえない気持ちに襲われてしまったのだった。
シャワーも浴びて、もうあとは寝るだけというところだけれど、私はまだ、自分の気持ちにうまく名前を付けられずにいる。
(楽しかった、けどな……)
幸福だと思う。
満ち足りていたと思う。
また行きたいと思う。
でも、もっと気持ちよくなりたい、もっと刺激が欲しい、とも思っていて、仕事だからと帰っていった奏輔さんを恨めしくも思う。
(せっかく下着も買ったのにな……)
そう思ってみると、名前の付かない気持ちにちょっとだけヒットした気がした。
そうか、そもそももっと刺激が欲しくて、奏輔さんを誘惑しようと買ったんだった。そう考えると、私の今週一週間の欲求は、まったく満たされていないことになる。
ふと、『御主人様』……井上さんと言ったか……あの人の言葉がよぎった。
『君はきっと自分で思っている以上のマゾヒストだ。今は身体がついていかないだけで、身体が慣れればもっと強い刺激が欲しくなる。だから恐らく、断ったとしても、君はされるはずだった『お仕置き』のことを忘れられないし、君の欲求不満は増幅していくよ』
あれはどんなタイミングで言われたのだったか。ああ、そうだ。一度目の体験の最後に、残ってしまった『お仕置き』をするかどうか問われたときだ。
(自分で思っている以上のマゾ、かぁ……)
悔しいけれど、井上さんの勘は当たっているのだと思う。
奏輔さんとの幸せな時間の中でどんなにノーマルな幸福に充足感を感じていても、ある瞬間には強い物足りなさを感じてしまう。
幸福な満ち足りた時間ももちろん嘘ではなくて、今日の奏輔さんとのデートも十分に楽しかったのだけれど、それとは切り離したところで、マゾヒストな自分が欲求不満を訴える。
正直なところ、自分は心的な意味でのマゾで、身体はそのおまけくらいに考えていた。
ちょっと痛いとかちょっと苦しいとか、そういう苦痛は「耐えている自分」に酔うものであって、苦痛自体に快楽はないとも思っていた。
でも、それならば今日の羞恥デートは十分なはずだ。
奏輔さんの選んだ白のブラウスは本当に薄くて、本来なら下にキャミソールなんかを着て、透け感も楽しむようなブラウスだ。だから、下着はレースの細工までわかるくらいにはっきり透けて見えていたし、わりと腕で隠してはいたけれど、見ればとても布の少ないブラだということは簡単にわかったはずだ。スカートだって短くて、エスカレーターなんかで下から覗かれれば、お尻や、ひょっとしたら食い込んだビーズなんかも見えたかもしれない。みなとみらいなんて人の多い場所で、誰にも気づかれなかったなんてことはきっとないと思う。
それはとても淫らで、恥ずかしくて、興奮する行為だ。
実際、奏輔さんはそれで十分に満足したからこそ、「明日は仕事」とあっさり帰れたのだとも思う。
でも、自分はそこで満足しきれなかった。
心だけじゃなくて、身体ももっと刺激を求めている。
そう考えると、今の気持ちがストンと落ちてきた。
奏輔さんのことは本当に好きで、一緒にいる時間は幸福で、別にノーマルな関係でも十分に満ち足りている。
けれど、その時間からほんのちょっと外れると、たちまち満たされない自分もいる。
今日もデートは楽しかったけれど、デートが終わればやっぱり身体を持て余してしまうのだ。
そして、はたと気づく。
(……私、奏輔さんに求めてるわけじゃない……?)
奏輔さんといる間には感じなかった欲求。
あれほど刺激が欲しくて、誘惑するために買った下着だったのに、羞恥デートで十分だった。
先週一週間、奏輔さんがうちに泊まっていた時だって、ノーマルな関係で不満なんてなかった。
今日のデートだって、普通の服を着て普通にデートに行っても、不満なんてなく楽しめたんじゃないだろうか。「羞恥で十分」ではなくて、「普通でも十分」だったんじゃないのか。
(そんなこと……)
ない、と否定しようとするのに、頭は答えを見つけてしまった。
『お仕事』と言い聞かせながら、三度も関係を持ち、一度も嫌悪感を抱いていないという事実が、それを裏付けていた。
時刻は夜十時半。そろそろ寝てもいいし、まだ起きていてもいいし、という時刻だ。
先刻の深い息は、自分でも溜息なのか喪失感なのか、はたまた充足感のようなものなのか、うまく区別がつかない。
今日は楽しかったし、満ち足りたとも思うし、けれど今は、寂しさや物足りなさのようなものも多分にあって、なんとも形容し難かった。
胸の突起に触れると、一日中ゆるく擦れていたためか、いつもよりも少しだけ敏感なようだった。
そのまま指で円を描くように撫で、硬度を増していく感触を楽しむ。気持ちよさと物足りなさの両方が綯い交ぜになって、また正体のわからない息が漏れた。
昨日、今日と、奏輔さんと過ごした。
今日はみなとみらいの方まで行ってプラネタリウムも観たし、この前衝動買いしたエッチな下着とそれが透けて見える白いブラウスを着て、羞恥心を煽られながらのデートも楽しかった。みなとみらいの方には初めて行ったけれど、いろんなお店があって楽しかったし、人が多くてドキドキもした。
そうやって、十分に満足して帰ってきたつもりだったけれど、家まで送ってくれた奏輔さんとわかれて一人になると、その充足感は半減してしまった。
(明日はお互い仕事だし、仕方ないけど……)
そう、一日羞恥デートを楽しんだところまではよかったものの、明日は月曜日でお互い仕事だからと、奏輔さんは私を家に送って、玄関までで帰ってしまった。
一日中ゆるく擦れて中途半端に敏感な乳首。
今日一日でだいぶ慣れてしまったショーツのビーズ。
慣れたとはいえ、いつもより少し膨らんだクリトリス……
そういう、中途半端な自分の身体を認識したとき、なんともいえない気持ちに襲われてしまったのだった。
シャワーも浴びて、もうあとは寝るだけというところだけれど、私はまだ、自分の気持ちにうまく名前を付けられずにいる。
(楽しかった、けどな……)
幸福だと思う。
満ち足りていたと思う。
また行きたいと思う。
でも、もっと気持ちよくなりたい、もっと刺激が欲しい、とも思っていて、仕事だからと帰っていった奏輔さんを恨めしくも思う。
(せっかく下着も買ったのにな……)
そう思ってみると、名前の付かない気持ちにちょっとだけヒットした気がした。
そうか、そもそももっと刺激が欲しくて、奏輔さんを誘惑しようと買ったんだった。そう考えると、私の今週一週間の欲求は、まったく満たされていないことになる。
ふと、『御主人様』……井上さんと言ったか……あの人の言葉がよぎった。
『君はきっと自分で思っている以上のマゾヒストだ。今は身体がついていかないだけで、身体が慣れればもっと強い刺激が欲しくなる。だから恐らく、断ったとしても、君はされるはずだった『お仕置き』のことを忘れられないし、君の欲求不満は増幅していくよ』
あれはどんなタイミングで言われたのだったか。ああ、そうだ。一度目の体験の最後に、残ってしまった『お仕置き』をするかどうか問われたときだ。
(自分で思っている以上のマゾ、かぁ……)
悔しいけれど、井上さんの勘は当たっているのだと思う。
奏輔さんとの幸せな時間の中でどんなにノーマルな幸福に充足感を感じていても、ある瞬間には強い物足りなさを感じてしまう。
幸福な満ち足りた時間ももちろん嘘ではなくて、今日の奏輔さんとのデートも十分に楽しかったのだけれど、それとは切り離したところで、マゾヒストな自分が欲求不満を訴える。
正直なところ、自分は心的な意味でのマゾで、身体はそのおまけくらいに考えていた。
ちょっと痛いとかちょっと苦しいとか、そういう苦痛は「耐えている自分」に酔うものであって、苦痛自体に快楽はないとも思っていた。
でも、それならば今日の羞恥デートは十分なはずだ。
奏輔さんの選んだ白のブラウスは本当に薄くて、本来なら下にキャミソールなんかを着て、透け感も楽しむようなブラウスだ。だから、下着はレースの細工までわかるくらいにはっきり透けて見えていたし、わりと腕で隠してはいたけれど、見ればとても布の少ないブラだということは簡単にわかったはずだ。スカートだって短くて、エスカレーターなんかで下から覗かれれば、お尻や、ひょっとしたら食い込んだビーズなんかも見えたかもしれない。みなとみらいなんて人の多い場所で、誰にも気づかれなかったなんてことはきっとないと思う。
それはとても淫らで、恥ずかしくて、興奮する行為だ。
実際、奏輔さんはそれで十分に満足したからこそ、「明日は仕事」とあっさり帰れたのだとも思う。
でも、自分はそこで満足しきれなかった。
心だけじゃなくて、身体ももっと刺激を求めている。
そう考えると、今の気持ちがストンと落ちてきた。
奏輔さんのことは本当に好きで、一緒にいる時間は幸福で、別にノーマルな関係でも十分に満ち足りている。
けれど、その時間からほんのちょっと外れると、たちまち満たされない自分もいる。
今日もデートは楽しかったけれど、デートが終わればやっぱり身体を持て余してしまうのだ。
そして、はたと気づく。
(……私、奏輔さんに求めてるわけじゃない……?)
奏輔さんといる間には感じなかった欲求。
あれほど刺激が欲しくて、誘惑するために買った下着だったのに、羞恥デートで十分だった。
先週一週間、奏輔さんがうちに泊まっていた時だって、ノーマルな関係で不満なんてなかった。
今日のデートだって、普通の服を着て普通にデートに行っても、不満なんてなく楽しめたんじゃないだろうか。「羞恥で十分」ではなくて、「普通でも十分」だったんじゃないのか。
(そんなこと……)
ない、と否定しようとするのに、頭は答えを見つけてしまった。
『お仕事』と言い聞かせながら、三度も関係を持ち、一度も嫌悪感を抱いていないという事実が、それを裏付けていた。
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