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甘い執事様
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「瑞姫!」
キャンプから帰宅すると、家の前に奏輔さんがいた。
アパートの廊下だというのに、駆け寄ってきてぎゅうっと抱きしめられる。
「……どうしたんですか……?」
「博己と残してきたから心配で……大丈夫だった? 何かされてない?」
そう問われて、昨晩の『お仕事』を思い出す。
外で全裸の上、玩具責めでの散歩、さらに木に吊るされたり縛りつけられたり……
「あいつは約束は守る奴だから、何もしてないとは思うけど……」
たしかに、博己自身には何もされていない。
博己がしたのは、客とのセッティングだ。
「……何もされてないですよ」
だから、これは嘘じゃない。
とりあえず部屋に、と招き入れたものの、部屋はキャンプの準備をした名残で散らかっていた。
いつ行ってもピシッときれいにしている奏輔さんの部屋と比べると、だいぶだらしなく見えて恥ずかしい。
座る場所を確保して、紅茶を淹れるためにキッチンへ行って戻ると、奏輔さんは出しっぱなしだった服を畳んだりハンガーに掛けたりしてくれていた。
ありがたいけれど、余計に恥ずかしい。
「仕事は、大丈夫でした?」
「ああ、データを取り出して、ロックの解除をして引き継いだだけだからすぐ終わったよ」
カップをテーブルに並べると、片付ける手を止めて座ってくれた。
私もほっとして座る。
こういう羞恥プレイは望んでいない。
「セキュリティ強化も面倒なものね……」
「普段はそんなに困らないんだけど、休日で上役がいなくてさ。平日なら、本部長以上が誰もいないなんてことはないから。そもそも、ここまで急なスケジュール変更も珍しいし」
「そうなの?」
訊ねながら考える。
そもそも、これは偶然なんだろうか。
キャンプに行って、急に奏輔さんが帰って、そこに『御主人様』が来た。
奏輔さんが帰ったから博己が『御主人様』を呼んだと思っていたけれど……
(東京から車で3時間もかかるのに?)
いくらなんでも、早過ぎはしないだろうか。
もしかすると……
「そんなに心配しなくても、そんなブラックな会社じゃないよ」
逡巡していた私に、奏輔さんが声を掛ける。
「そう?」
「うん。休日出勤も続いてたけど、その分今週は全部休みになった」
「明日から今週いっぱい?」
「来週月曜まで。だから……」
不意に、チュッとキスをする。
「今週は瑞姫の家に泊まろうと思って」
奏輔さんは、部屋の片付けと掃除をテキパキと終わらせて、キャンプから持ち帰った物もあっという間に整理して、洗濯機まで稼働中だ。
さらに、冷蔵庫に残っていたものと、持ち帰ったキャンプの余り食材を使って夕飯も作ってくれている。
手伝いを申し入れてみたけれど、「瑞姫は明日仕事でしょ?」と座らされてしまった。
『人をダメにするクッション』に寄りかかって、『彼女の家で家事をこなす彼氏の図』を眺めているというのは、どうにも落ち着かない。
思考がぐるぐると回る。
たぶん、キャンプ場での出来事も奏輔さんの呼び出しも、『御主人様』に仕組まれたものだったのだろうと思う。
普通は無理だろうけれど、そんなことができるほどの権力と、人を巧みに動かす心理術を持つ人だということは想像に難くない。
ましてや、博己の協力があるのだ。
(たぶん、全部計画されていたことなんだ……)
「疲れちゃった?」
話し掛けられてはっと目を開けると、目の前には夕飯が並んでいる。
「うん、そうかも?」
内心ドキドキしながら答えて、テーブルの前に座り直した。
(もう、忘れよう……)
そう決めて、「いただきます」と手を合わせた。
奏輔さんのいる一週間は、意外と穏やかに過ぎていった。
『御主人様』も博己も何も言ってこなかったし、奏輔さんは休みでも自分は仕事だし。私に仕事があるからか、奏輔さんは特にエッチなことをしてくるわけでもなく、掃除や洗濯は帰宅すれば全部終わっていて、さらに朝食、弁当、晩御飯付きだ。
(執事がいるみたい)
日曜だというのに、今朝も朝食のいい香りがしている。本当にお姫様みたいだと思う。
奏輔さんに「S執事になってください」と言ったのを思い出す。言ってみてよかった。
(ちょっと甘すぎるけど)
布団の中で、一人ふふっと笑う。
いじめてくれるSな執事が欲しかったけれど、こうして甘々な執事も悪くない。
今週は別段アブノーマルなプレイもしていないけれど、それでも十分満たされていると思う。
ふと、博己の言葉を思い出す。
「ヒメちゃんが性癖抜きでソウを愛してるって証明して」と博己は言っていた。
(ほら、大丈夫じゃない……)
ちゃんと、性癖抜きで付き合えている。
奏輔さんとの時間は、こうして満ち足りていると、そう思った。
キャンプから帰宅すると、家の前に奏輔さんがいた。
アパートの廊下だというのに、駆け寄ってきてぎゅうっと抱きしめられる。
「……どうしたんですか……?」
「博己と残してきたから心配で……大丈夫だった? 何かされてない?」
そう問われて、昨晩の『お仕事』を思い出す。
外で全裸の上、玩具責めでの散歩、さらに木に吊るされたり縛りつけられたり……
「あいつは約束は守る奴だから、何もしてないとは思うけど……」
たしかに、博己自身には何もされていない。
博己がしたのは、客とのセッティングだ。
「……何もされてないですよ」
だから、これは嘘じゃない。
とりあえず部屋に、と招き入れたものの、部屋はキャンプの準備をした名残で散らかっていた。
いつ行ってもピシッときれいにしている奏輔さんの部屋と比べると、だいぶだらしなく見えて恥ずかしい。
座る場所を確保して、紅茶を淹れるためにキッチンへ行って戻ると、奏輔さんは出しっぱなしだった服を畳んだりハンガーに掛けたりしてくれていた。
ありがたいけれど、余計に恥ずかしい。
「仕事は、大丈夫でした?」
「ああ、データを取り出して、ロックの解除をして引き継いだだけだからすぐ終わったよ」
カップをテーブルに並べると、片付ける手を止めて座ってくれた。
私もほっとして座る。
こういう羞恥プレイは望んでいない。
「セキュリティ強化も面倒なものね……」
「普段はそんなに困らないんだけど、休日で上役がいなくてさ。平日なら、本部長以上が誰もいないなんてことはないから。そもそも、ここまで急なスケジュール変更も珍しいし」
「そうなの?」
訊ねながら考える。
そもそも、これは偶然なんだろうか。
キャンプに行って、急に奏輔さんが帰って、そこに『御主人様』が来た。
奏輔さんが帰ったから博己が『御主人様』を呼んだと思っていたけれど……
(東京から車で3時間もかかるのに?)
いくらなんでも、早過ぎはしないだろうか。
もしかすると……
「そんなに心配しなくても、そんなブラックな会社じゃないよ」
逡巡していた私に、奏輔さんが声を掛ける。
「そう?」
「うん。休日出勤も続いてたけど、その分今週は全部休みになった」
「明日から今週いっぱい?」
「来週月曜まで。だから……」
不意に、チュッとキスをする。
「今週は瑞姫の家に泊まろうと思って」
奏輔さんは、部屋の片付けと掃除をテキパキと終わらせて、キャンプから持ち帰った物もあっという間に整理して、洗濯機まで稼働中だ。
さらに、冷蔵庫に残っていたものと、持ち帰ったキャンプの余り食材を使って夕飯も作ってくれている。
手伝いを申し入れてみたけれど、「瑞姫は明日仕事でしょ?」と座らされてしまった。
『人をダメにするクッション』に寄りかかって、『彼女の家で家事をこなす彼氏の図』を眺めているというのは、どうにも落ち着かない。
思考がぐるぐると回る。
たぶん、キャンプ場での出来事も奏輔さんの呼び出しも、『御主人様』に仕組まれたものだったのだろうと思う。
普通は無理だろうけれど、そんなことができるほどの権力と、人を巧みに動かす心理術を持つ人だということは想像に難くない。
ましてや、博己の協力があるのだ。
(たぶん、全部計画されていたことなんだ……)
「疲れちゃった?」
話し掛けられてはっと目を開けると、目の前には夕飯が並んでいる。
「うん、そうかも?」
内心ドキドキしながら答えて、テーブルの前に座り直した。
(もう、忘れよう……)
そう決めて、「いただきます」と手を合わせた。
奏輔さんのいる一週間は、意外と穏やかに過ぎていった。
『御主人様』も博己も何も言ってこなかったし、奏輔さんは休みでも自分は仕事だし。私に仕事があるからか、奏輔さんは特にエッチなことをしてくるわけでもなく、掃除や洗濯は帰宅すれば全部終わっていて、さらに朝食、弁当、晩御飯付きだ。
(執事がいるみたい)
日曜だというのに、今朝も朝食のいい香りがしている。本当にお姫様みたいだと思う。
奏輔さんに「S執事になってください」と言ったのを思い出す。言ってみてよかった。
(ちょっと甘すぎるけど)
布団の中で、一人ふふっと笑う。
いじめてくれるSな執事が欲しかったけれど、こうして甘々な執事も悪くない。
今週は別段アブノーマルなプレイもしていないけれど、それでも十分満たされていると思う。
ふと、博己の言葉を思い出す。
「ヒメちゃんが性癖抜きでソウを愛してるって証明して」と博己は言っていた。
(ほら、大丈夫じゃない……)
ちゃんと、性癖抜きで付き合えている。
奏輔さんとの時間は、こうして満ち足りていると、そう思った。
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