M嬢のM嬢によるM嬢のためのS執事の育て方

采女

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ダメな快楽

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 初めてSMデリヘルのプレイを見たあの後、先輩M嬢と部屋を辞した私は、彼女に連れられてスタッフ用のお風呂に行った。
 小さいけれどサウナもあって、水風呂も足を伸ばせる浴槽も完備されている。
「普通の仕事と違って、身体にだいぶ負荷のかかる仕事じゃない? こうして痕も残るし」
 彼女の身体には、まだ縄の痕が赤く残っている。
「放っておいても一日くらいでだいたい消えるんだけど、こうしてサウナに入って代謝を上げておけば、消えるのも早いし、美容にもいいし」
 だからって、普通は店に従業員用サウナなんてないだろう。
「肌のケアも仕事の内だから、この時間もちゃんと時給出るし」
「え?」
「もちろん、この時間の時給は安いよ? でも、ちゃんと出してくれる。化粧水なんかも家のよりイイやつが置いてあるから、仕事休むと肌の調子が悪くって」
 ずいぶん手厚いフォローだ。
 いったいお客様はいくら払っているのだろう。

「ヒメちゃんは、どうするの?」
 そんなことを聞かれても、答えに困る。
「……って、そんなに簡単じゃないかぁ。うん、でもね、ここはお店が絶対守ってくれるし、お客さんも変な人はいない。秘密も、私達以上にバレたらヤバイような社会的地位のある人ばかりだから、絶対守られる。会員登録はすごく厳しいし、高額な利用料を払える人しかいないし。嫌なことは事前に細かく申請してあって、絶対にされないしね」
「うん……それはなんとなく、わかるかな……」
「あとはさ、正直助かるんだよね」
「給料がいいから?」
 「それはもちろんだけど、」と笑う。
「そうじゃなくて……こういう性癖って、一般には理解されないじゃない? 彼氏できたって、カミングアウトできるようなものじゃないし。かといって、プレイパートナーを探すのは、リスクが高すぎて怖いし」
 それはよくわかる。
 今は奏輔さんがいろいろしてくれているけれど、そうなる前は、調教掲示板やSMパートナーの募集なんかも見ていた。
 ただ、合意で拘束をする以上、その後どうなっても抵抗は難しい。
 本番ナシだったのに挿れられる、くらいならマシな方だけれど、中には猟奇的な性癖の人もいるし、下手をすれば監禁や殺される可能性だってある。あるいは、SM好きを装った強盗の可能性もあるだろう。
 とにかくM側にリスクが高いのだ。

「『絶対イヤ』っていうわけじゃないなら、一度体験してみたらいいんじゃないかな」


 彼女にお礼を言って、博己のところへ戻ると、時刻はもう午前二時を回っていた。

「おかえり。どうだった?」
「……サウナは気持ち良かった」
 ははは、と笑われる。
「うん、それは良かった。それはそうと、ヒメちゃんにご指名が来てる」
 平然としていたいのに、ピクリ、と反応してしまう。
「さっき見学させていただいたお客様だ。まだ見学だけだとわかってはいるが、気に入ったからぜひ一度お願いしたい。こんな言い方は卑怯かもしれないが、見学をさせてあげたんだし、融通してはもらえないか。ちゃんと手は出さず我慢したから、なんとか説得してくれないか、ってな」
「…………」
「約束は守る。無理強いはしない。ただ、彼はうちの上お得意様なのも事実だ。オーナーとしては、是が非でも頼みたい」

 思った通りの切れ者だ、と思う。
 私が断りにくいように、上手に外堀を埋めてくる。
 そのくらいの頭がないと、こんなバカ高そうな風俗店に毎週通える収入は得られないのだろう。
 そしてきっと、博己もそうだ。
 客の要望が、私を引き込むための方便だとわかった上で、私に依頼をしているのだろう。

 そうわかったところで、私に「断る」という選択肢はないように思えた。

「そのまま入店しろとも言わない。一度だけ、頼めないかな?」


 翌日。
 奏輔さんは土曜日も出勤だというので、「今日は私も職場のお友達と出掛けてきます」とメッセージを送って、昼過ぎまで眠った。
 シャワーを浴び、迷って下の毛を剃り、つとめて普通の下着と服を選んで着た。
 まだ明るいうちに出掛けて、昨日のビルに入る。
 受付で声を掛け、キャストが待機できる個室に入った。
 待機が大部屋でないのも、この店の良いところらしい。ロッカーに荷物を入れて、衣装室へ向かう。
 昨日の先輩の服装を思い出し、品の良いドレスと、総レースの下着を選んだ。
 ちなみに下着は新品で、もらって帰ったり、お客様にお土産で渡したりするらしい。

 待機部屋で着替えてみると、総レースの下着は肌がうっすら透けて見えた。
 鏡に映る自分が恥ずかしくて、さっさとドレスを着る。
 メイクを少し直すと、なんだか「これからSMやるぞ」と気合いを入れているようで、余計に恥ずかしくなってしまった。

 早く来すぎたので、もう一度メイクを直してから部屋を出た。
 教えてもらった従業員用のエレベーターから、昨日と同じ部屋へ向かう。
 緊張で心臓がうるさい。
 仮面を付けると、ほんの少しだけ緊張が和らぐ気がした。

 ノックすると、内側からドアが開いた。
 中に招き入れられる。
「こんにちは……ヒメです。よろしくお願いします」
「いらっしゃい。来ると思ってましたよ」

 ああ、やっぱり、と思う。
 この人には、私の感情は筒抜けだ。
 時々、こういう敏い人がいる。
 私自身もどちらかといえば人の機微に敏感な方だけれど、もっと人の奥の奥まで見透かしてしまうような人がいるのだ。
 この人は、そういう種類の人だと思う。

「そんなに緊張しなくてもいいよ。まずは、ワインでも飲みながら話そう」
 ベッドの端に並んで座り、ワイングラスを受け取る。
 何かしていないと居られない気がして、ワインを口に運んだ。

「そんなに固くならなくても、嫌がることはしないから大丈夫。君はまだ仮登録すらしていない素人だし、僕が無理を言って来てもらったことになっているから、途中で『やっぱり無理』と逃げ出しても、誰も責めたりはしない。そもそも、君が楽しんでくれなければ意味がないしね。別に僕は加虐性愛者じゃないんだ」
 はい、と相槌を打つ。
 それは、昨日のプレイを見ても、博己と話しても、そう思う。
「まず確認したいんだけど、君は昨日のプレイを見て、何か嫌なことはあったかい?」
 ふるふると首を振る。
「そう。それは良かった。実はね、君はまだ登録している子じゃないから、本来ならあるNGリストがないんだ。何は良くて、何はダメっていうね。だから本来は、ひとつひとつ確認をしなきゃならないんだけど、もっと簡単な方法がある。わかるかい?」
「……昨日と、同じことを、する……?」
「そう。君はメイちゃんより頭がいいね。昨日と同じことをするのであれば、昨日の内容で嫌なことだけを聞けばいい。もちろん、君は素人だし、途中で限界になるかもしれないけれど、それはその時に言ってくれればいい。そういう可能性は、ちゃんと考慮してる。ただ、そもそもされて嫌なことはできないからね。それを踏まえてもう一度聞くけど、昨日のプレイの中で、嫌なことはないかな?」
「はい……ありません……」
「うん。じゃあ、今日は昨日見たことを、実際に体験してもらう。それでいいかな?」
 これが最終確認だ。
「はい……お願い、します……御主人様」

 立ち上がろうとすると、「さきに身体をほぐすから」と制された。
 ワインも持ったまま、御主人様の愛撫が始まる。
「まだガチガチだね。もっと力を抜いて……うん、触られていることだけ感じて」
 服の上から、ゆっくり、優しく身体中を触られる。
 それだけでドキドキするけれど、不思議と触られる前よりは力が抜けた。
「いいね……じゃあ、ドレスを脱ごうか」
 そう言いながら、すっと背中のファスナーを下ろし、流れるような動作で手の中のワイングラスを抜き取る。
 座っているので上半身だけだけれど、レースの下着と肌があらわになった。
「うん、綺麗だね」
 そう言いながら、手は肌の上を滑っていく。
 胸の上をゆっくり辿ると、指で乳首をくるくると触った。
「ここはもう苦しそうだね。まだ何もしていないのに立っちゃった?」
 レースの隙間から透けて見えるそこは、触られるとコリコリと固くなっていることが良くわかった。
「それとも……ここに来る前から、立ってたのかな?」
 羞恥に、ぶわっと赤くなる。
 そんなことない、と思っても、うまく言葉は出てこない。
「苦しそうだから、解放してあげようね」
 そう言って、今度はブラを外した。

 乳首はツンと立っていて、ブラを外してもまだ窮屈そうなくらいだった。
「ここは待ちきれないって感じだね」
 そう言って、鈴の付いたクリップを持って来る。
「順番は前後するけど、先にこっちを可愛がってあげようね」
 言いながら、ぎゅっと乳首をつまんで、クリップで挟む。
 奏輔さんが留めるよりはもう少し先端寄りで、だけど先端を潰してしまわない程度の絶妙な部分。
 痛くてたまらないほどでもなく、でも確かに痛みを感じる留め方だった。
「我慢できなくなったら、ちゃんと言うんだよ?」
 こくり、と頷く。

「じゃあ、次はこれだね」
 手枷を手にし、私を立ち上がらせた。
 チリリ、と胸の鈴が鳴り、するり、とドレスが床に落ちる。
 手首にぎゅっと手枷を嵌められると、両手はがっちりと動かなくなった。
 つづけて、天井からぶら下がる鎖のフックを、手枷の輪っかにひっかけられて、そのままグイグイと上に引っ張られていく。
 身体が一直線にピンと伸びて、さらに踵が床から浮くまで引っ張り上げられる。
 脚だけでは支えられなくなって、ぐっと手枷に体重がかかるのがわかった。

 ショーツも下ろされると、隠すこともできない羞恥に、身体が熱くなる。
「ふふ、ここ、剃ってきたんだね。丸見えでかわいい」
 割れ目をつう、となぞられると、思わず身体が揺れた。
 また鈴が、チリリと鳴る。
「さあ、ルールはわかっているね? 今からバイブを入れて、十分間計る。落としちゃダメだし、動いてもダメだ」
「はい」
「それじゃあ、バイブを入れよう」
 ただでさえ不安定な体勢で、片足を持ち上げられる。
 ぱっくりと開くくらいまで大きく脚を持ち上げられて、身体がグラグラと揺れる。
「ああ、ここももう我慢できなさそうだね。触ってもいないのに、びっちょり濡れているよ」
 バイブの先でつんつんと突かれると、ぴちゃぴちゃと音が聞こえた。
 「これならすぐに入るかな」と、バイブを秘部にあてがう。
 ゆっくり前後に揺らしながら、少しずつ中へと侵入してきた。
「んっ、ふう……ああっ、」
 あわせて声が漏れる。
 奥まで入ると、バイブがゆるく動き始めた。
(あ……これ、うねうね動く……)
 昨日は気付かなかったけれど、単に振動するだけではなくて、うねうねと中で蠢いている。
 脚を下ろされたので、太ももにぐっと力を入れてバイブを挟み込んだ。
「それじゃあ、十分計るよ」

 中でうねうねと動くものの、高く引っ張られているのもあって、脚がぴったりと閉じ、案外落とさずに済みそうだなと思っていた。
 でも……
「十分って、意外と長いでしょう? まだ半分経っていませんよ」
 バイブを落とさなくても、つま先立ちで、しかも太ももに力を入れて、ずっと腕を上げている状態というのは、それだけでかなりきつい。
(これを、まだ五分以上……違う、この後まだ続くから……最低でも十五分……?)
「はい、あと半分」
 御主人様は、ゆったり座ってワインを飲んでいる。
 目を細めて上機嫌だ。

 やっと十分を乗り切ると、もちろん次はアナルスティックだ。
「さすがに、こっちは簡単には入らないかもしれませんね。少しほぐしますよ」
 と、ローションをつけてアナルスティックの先端で菊座に触れる。
 その冷たさと敏感な場所への刺激に、思わず身体が跳ねた。
 鈴がチリリ、と鳴る。
「動いてはダメですよ」
 低い声で言われ、ぎゅっと力を入れようとするものの、そもそも菊座をほぐそうとしているので、うまく力が入らない。
 はじめは表面を撫でるようにしていたのが、少しずつ中へも侵入してくるようになって、やがてツプ、とボールが入るような感覚があった。
 アナルスティックの表面は串団子みたいにボコボコしていて、ひとつ入るたびに、ツプッ、ぬぷっ、という感触がある。
「んっ、ふうっ、ああっ……」
 その感触にじっとしていることは難しくて、何度も鈴が鳴ってしまった。
「動いてはいけないと言っているのに……そんなにお仕置きが楽しみですか?」
 耳元で囁かれると、ゾクゾクとして、蜜が溢れてくるのがわかった。
 バイブが抜けないように、ぎゅっと脚に力を入れ直し、お尻のスティックも抜けないよう、お尻にも力を入れる。
「うん、じゃあまた十分。大丈夫、今度はちゃんと触ってあげますから、そんなに長くは感じませんよ」
 御主人様は、ふわふわの羽根を出してにっこり笑う。
「ああ、忘れるところでした。バイブには慣れたと思いますから、もう少し強くしておきましょうね」
「んんんんっ!」
 急に強くなったバイブに、また鈴が鳴る。
「まだまだ、これからですよ?」

 十分が経って、ようやく羽根の愛撫が去ると、私はもう肩で息をするぐらいに疲れていた。
 下半身への刺激は腰で止められるけれど、上半身はそうもいかず、脇を羽根で撫でられると、何度も鈴が鳴った。
 不安定なつま先立ちで脚とお尻に力を入れ続けたために、ふくらはぎもぷるぷるする。
 しかもまだ、バイブはうねうねと動き続け、お尻にもスティックが入っているので、力を抜けない。

「さて。動いてはいけないと何度も言いましたが……何回、鈴をならしたかな?」
 そんなことを言われても、正直数える余裕はなかった。
 少なくとも、十回は超えていると思うけれど、二十には満たないと……思いたい。
「……たぶん、十五回、くらい……?」
「『たぶん』? 『くらい』? 絶対、ちょうど、じゃなくて?」
「はい……」
「そっかぁ、残念でした」
 当たるはずないと思ったけれど、御主人様の言葉は違った。
「実は僕も今日は数えていなくてね。君がちゃんと数えていて、自信をもって回数が言えるなら、その回数にしようと思ったんだ。でも、『たぶん十五回くらい』としか答えられなかったから、お仕置きは二倍の三十回になるね」
 そうだった。
 昨日も、正確に数を数えていなかった先輩は、倍の十二回お尻を叩かれたのだった。
 ごくり、と喉が鳴る。
「うん、そうだね。ちょっと多いよね。だから、僕から四つ目の選択肢をあげよう。乗馬鞭で三十回はかなりきついだろう? だから、四を選べば、手とバラ鞭と乗馬鞭の混合にしてあげる。乗馬鞭は十回確定になるけれど、その代わり乗馬鞭三十回という選択肢は消える。悪い話じゃないだろう?」
 回らない頭で考える。
 昨日は三択で、バラ鞭か、ヘラみたいな鞭――乗馬鞭というらしい――か、手かの三択だった。
 普通に考えれば、乗馬鞭は三分の一の確率だけれど、恐らく「三択なら真ん中を選ぶ確率が高い」ことを知っていて乗馬鞭を二番にしていたから、ちっとも三分の一ではない。
 だからきっと、今回も一から三を選んだときの乗馬鞭の確率は、三分の一ではないのだろう。心理戦だ。
 後ろでは、カードや鞭を置く音が聞こえる。
「さあ、準備できたよ。一から四、どれを選ぶ?」
 昨日、先輩は十二回だったけれど、お尻は真っ赤になっていた。
 どのくらい痛いのかは聞かなかったけれど、間違いなくこれまでに経験したどれよりも痛いと思う。
 それを三十回……?
「……四で、お願いします」
「うん、そうか。懸命な判断だね」
 くるりと身体を反転させられて見ると、一から三のトランプが、乗馬鞭と一緒に置かれていた。
 一から三を選べば、百パーセントの確率で乗馬鞭だったというわけだ。
「だって、君は乗馬鞭を使ったことがないだろう? 昨日、そういう顔をしていたからね。なら、今日はちゃんと乗馬鞭を体験して帰って欲しいじゃなか。だから、どれを選んでも乗馬鞭が使えるようにしておいたんだ」

「とはいえ、乗馬鞭初体験、手でも十回、バラ鞭でも十回、さらにその後乗馬鞭十回となると、この体勢ではちょっとキツイね。少しマシな体勢にしようか」
 そう言って、吊ってあった鎖を下ろし、フックを外す。
 手枷はしたままだけれど、手を下ろすだけでずいぶんと楽になった。
「そのまま、上半身をベッドに預けて……そう、お尻を突き出す感じに」
 鈴の付いたクリップがベッドに触れて、「んんっ、」と声が漏れる。
 他が大変すぎて意識が向いていなかったが、乳首もチリチリとした痛みが続いたままだ。
「脚は肩幅くらいに開いて」
「……開くと、バイブが……」
「うん、きっと落ちちゃうね。でも、この後とっても痛いから、バイブは諦めた方がいいと思うな」
 微笑んでそんなことを言われると、従う他はない。
 ゆっくりと脚を開くと、案の定ゴトリとバイブが落ちた。
「ああ、落ちちゃったね。後でお仕置きするから、心配しなくていいよ」
 そのお仕置きがどれだけハードなものだったか、昨日見て知っている身としては、ちっとも安心できない。
「そのまま、お尻の力は抜いて、でもしっかり突き出しておいてね。……それじゃあ、まずは手からだ」
 言って、お尻を丸く数回撫でると、「パシン!」と振り下ろされた。
 手とはいえ、痛くないわけではない。
 鞭の味を知らなければ、むしろ結構痛いものなのだ。
 パシン、パシン、と、ゆっくり丁寧に叩かれる。
 一回一回がしっかり身体に響く感じでたまらない。
 体勢もあって、途中でアナルスティックも落ちてしまったけれど、かまっている余裕はなかった。
「うん、手だけでももう真っ赤だね。でも、次はバラ鞭だよ」
 バラ鞭も、ゆっくり時間をかけて十回。
 そうして……
「ふふふ、よく頑張ったね。でも、次がメインだ。初めての乗馬鞭、味わうといいよ」
 もうすでにピリピリじんじんするお尻に、明らかに違う感触の鞭があてられる。
 ひゅっと軽く空を切る音がして、お尻に痛みが走った。
 音はバラ鞭の方が大きいのに、もっとしっかりとした痛みがある。
 たまらず、ベッドのシーツをぎゅっと握った。
「さっきまでよりだいぶ痛そうだね。あと九回あるけど」
 さっきまでよりもインターバルをとりながら、でも一打一打は丁寧にしっかりと叩き込まれる。
 そのたびに大きく声をあげ、シーツを握り、肩で息をした。

「ああ、君はすごいね。僕が見込んだとおりだ」
 お仕置き三十回を終え、乳首のクリップがベッドにつぶされてもベッドに突っ伏している私を見て、御主人様が言う。
「音をあげるかとも思ったんだけど、ちゃんと最後までやりきったね」
 よしよし、と頭を撫でてくれるのが気持ちいい。
 それから、手枷を外して、鈴の付いたニップルクリップも外して、ベッドにうつ伏せに寝かせてくれた。
 お尻は、見ていないのに赤いなと思うほどに熱を感じている。
 ひょっとしたら、少し腫れていたりするのかもしれない。
 長時間クリップを留めたままだった乳首もじんじんする。
 そんな状態なのに、膣からは時折ぽこ、と蜜が溢れてくるのがわかった。
(ここまで痛いことなんて初めてなのに……)
 「なのに」の先は、もうわかっているはずなのに、はっきり言葉にはなってくれない。
 何かが邪魔をして、うやむやにしようとする。

「そろそろ立つか座るかできるかな?」
 どれくらいうつ伏せになっていたのか、呼吸はだいぶ整っていた。
 身体を起こして座ってみると、まだ多少は痛むものの、ベッドの上にくらいなら座れそうだった。
「はい、大丈夫です」
「そう。じゃあ、後半戦だ。次はこれで、君の身体を縛り上げる」
 次にすることは、緊縛だ。
 ビニールテープややわらかいロープではない、しっかりとした縄。
 縄なんて、お正月のしめ縄くらいしか触ったことがない気がする。
 肌に縄の確かな感触が伝わってくる。
 それだけで、心臓は早鐘のように鳴った。
 最初はそんなにきつくないと思った縄が、進むにつれてぎゅっと食い込んでくる。
 あっという間に、上半身が完成してしまった。
 腕は後ろ手で縛られていて、まったく動かせない。
 かろうじて指が少し動くだけだ。

 そのまま私の身体を四つん這い……といっても腕は後ろに縛られているので、胸をベッドに付ける形にされた。
 お尻をぐっと突き出すような形になって、さっきのお仕置きを思い出す。
 思い出すだけで、少し腰が揺れた。
 ローションとアナルパールを持ってきた御主人様が、ローションをたっぷり垂らしてパールをぐい、と押し込んだ。
 昨日見たときには、スティックよりちょっと大きい程度だと思ったけれど、実際に入れられるとスティックなんかよりもだいぶ大きい感じがした。
 スティックの時は「ぼこぼこ」だったけれど、今度ははっきり「ボール」を入れられている感触だ。
 全部入ると、入り口ではなくて中がゴロゴロと違和感だった。
 さらにバイブも、さっきより太いものを挿入される。
 こちらは、表面はぷにぷにと柔らかいのに、その下にまるでパチンコの玉を仕込んだようなつぶつぶがあって、壁に擦れるたびに不思議な感じがする。
 それらの上に縄をかけると、股縄も完成だ。
 クリトリスの真上と、さらに菊座の真上には縄の結び目があって、少し動くだけでぐいぐいと食い込んでくる。
 そこからさらに、両足もガチガチに縛られて、膝を曲げることすら難しいくらいになった。
 身体を動かそうとしてもほとんど動けないのに、少しでも動けば、容赦なく縄が食い込んでくる。

「さて。次は何だったか覚えているかい?」
 御主人様に問われて考える。
 昨日、この後何があったのか。
「乳首を……引っ張ります……」
「うん、正解。これを使う」
 昨日ももちろんみたけれど、やはり天秤のような形をしている。
 天秤の皿があるべきところに、クリップが付いているという感じだ。
 もっとも、天秤のように傾いたりはしないけれど。
 「君は胸が大きいから、支柱を置くのが大変だね」と笑いながら、胸の間に立てると、クリップで乳首をしっかり挟んだ。
 ここまでは、普通のニップルクリップと変わらない。
 しかし、御主人様がネジのようなものをくるくると回すと、少しずつクリップが引き上げられていって、やがて引っ張られすぎて胸の形が三角になるほどになった。
 それでも、
「昨日と同じなら、ここからもう少し引き上げないとね」
と、さらにクリップを引き上げられる。
「ああああああ!」
 もうこれ以上はクリップの方が負けて外れてしまうなというギリギリのところまで引き上げられた。
 乳首を引っ張られたり、重りを限界までぶら下げてみたことはあるけれど、それらは基本的にそんなに長くはもたなかった。
 が、この器具は、その状態がずっと持続してしまうのだ。
 クリップ自体の挟む力も、洗濯バサミなんかよりずっと強そうだ。

「うん、痛いね。バイブのスイッチを入れてあげれば、少しは気が紛れるかな?」
 バイブが大きく振動するけれど、今は乳首の痛みの方が勝る。
 昨日先輩もこんなだったのかと思う。

「で、だ。君はバイブもアナルスティックも落としてしまっただろう? その分のお仕置きは、当然必要だよね? で、昨日メイちゃんは、バイブを落としただけだったけど、君のリクエストで二つお仕置きしたんだよね。宙吊りにして、蝋燭責めもするっていう。その二つはするとして、アナルスティック分のお仕置きも、別にすべきだと思うんだよ。しかも一つじゃ足りないだろう? バイブの分が二つなんだから、アナルの分も二つすべきだ」
 御主人様の声を、喘ぎながら聞く。
 お仕置きが二つになったのは私が『どっちも』と言ったからではあるけれど、どっちもして欲しいとは言っていないのだけれど。

「まあ、とりあえずはバイブの分のお仕置きをしよう。昨日をなぞるのは、これで最後だからね」
 そう言って、私の身体を軽々と抱き抱えて、まずは背中の縄に天井から垂れるフックを掛けて少し吊り上げ、別のフックを足首の縄にかけると、さらに両方の鎖を巻き取って吊り上げていく。
 宙で下を向く形になったけれど、ピンと吊り上げられた乳首はそのままだ。
 体重が縄にかかり、しかも大きく反るように足首を高く吊られているので、体勢もかなりきつい。
 でも、まだ蝋燭が待っている。
「さあ、もう少し頑張ってね」
 言い終わると、蝋燭が垂らされる。
 まだ少し痛いお尻にも、背中にも、太ももにも……
 落とされるたびに身体が跳ね、縄が食い込む。
 その間も、バイブはぐりぐりブルブルと蠢いているし、乳首は限界まで引っ張られたままだ。

 かなりあちこちにロウを落とされ、もうお尻なんかはロウを新しく落とされてもわからないほどロウ塗れになったところで、ようやく蝋燭責めも終わった。
 これで昨日は終わりだったけれど……
「これで、昨日君が見たことはひと通り体験したわけだけど、アナルスティックを落とした分のお仕置きが終わっていない。何をするかは悩むところだけれど、そもそも昨日のお仕置きは、宙吊りと蝋燭と鞭打ちの三択だっただろう? だったら、一つは鞭打ちでいいんじゃないかな」
「このまま……ですか?」
「うん、君がどうしても無理だと言わないならね。……もっとも、その質問は、すでにそうする覚悟の人間のものだから、意味を成さない回答だけどね」
 たしかにそうだ。
 本当にそうするのかと尋ねるのは、そうだと言われれば従う意思があるということだろう。
 少なくとも、本当に限界な人ではない。
「まあ、鞭はさすがにバラ鞭にしてあげるよ。まだお尻も痛むだろう?」
「はい……」
「じゃあ、お仕置きの一つは、このままバラ鞭でいいね?」
 はい、と許諾する。
 もう身体中が熱を持ったみたいに熱いのに、さらに鞭。
 ここまできついことは初体験だ。

 パシン!
 と鞭が振り下ろされる。
 今度はお尻ではなく、背中だった。
 お尻を叩かれるよりもだいぶ痛い。
 さらに、太ももや脚も。
(あれ……そういえば、何回で終わるの……?)
 たぶん十回くらい叩かれたところで、内線が鳴った。
 内線を切ると、「残念、時間切れだ」と言って、乳首のクリップを外し、フックから降ろし、縄を解いて、バイブも抜いた。
 アナルパールを抜くのはちょっと大変で、入れるとき以上に感じてしまった。

 全裸のまま、ベッドにうつ伏せで横たわる。
 御主人様は、あちこちに残ったロウを取ってくれているが、私は全身がすごい疲労感で、鉛のように身体が重かった。

 しばらく休んで、服を着ると、ワイングラスを渡された。
 大人しく受け取って飲む。
 一口飲むと、喉がとても渇いていることに気付いた。
 お酒じゃダメなのだろうけれど、いっきに半分くらいを煽った。
「さて、ヒメちゃん。今日はだいぶ無理をさせたし、時間も来てしまったからこれで終わりなんだけれども、実はまだひとつ、お仕置きが終わっていないよね」
 アナルスティックを落としてしまったことへのお仕置きだ。
 ひとつは鞭打ちだったけれど、もうひとつは決めてすらない。
「それでね、これは強制ではなくて提案なんだけれど、日をあらためてもう一度、僕と遊ばないかい?」
「え……」
「ひとつ残っているお仕置きをしよう。アナルのお仕置きだから、アナルがいいかな。たとえば……浣腸とか。もちろん、君が嫌でなければの話だけどね」
 浣腸は嫌かい、と尋ねられる。
「いえ……大丈夫、です……」
「うん、じゃあ、お仕置きは浣腸にしよう。君がもう一度来てくれるなら、お仕置きしてあげる」
 ああ、だめだ、と思う。
 正常な人なら、きっとこの理屈は通らない。
 だって、「お仕置きしてあげる」だ。
 どうしてお仕置きをされるために、自ら進んでやってくるのか。
 でも、この人は私をよくわかっている。
「もちろん、嫌なら断ってくれてかまわない。じっくり考えてもらっていい。ただ……僕の経験からいえば、君はきっと自分で思っている以上のマゾヒストだ。今は身体がついていかないだけで、身体が慣れれば、もっと強い刺激が欲しくなる。だから恐らく……」
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