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第五章 旅は続く
第八十一話 勇者と聖女と仲間達
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「こうなっては……!」
そうぼやくリュドヴィック卿に、ゼナイドが言う。
「仕方ないでしょうね? 騎士様方? 覚悟はよろしくて?」
「あぁ! 頼みますよ、聖女様!」
リュドヴィック卿の変わりに私がそう叫ぶと、目の前にいたオクトが言う。
「やっぱお前、キャラ変わりすぎだって! ま、それはそれで悪くねぇけどさ……」
……なんだか複雑なんだが……?
私は邪念を捨てるべく、首を左右に振ると、双剣を構え直す。
「サテュロス! 覚悟!」
そう叫び、リュドヴィック卿とオクトとともに、足元が凍ったままのサテュロスに向かって行く。
《来ルカ》
サテュロスは全身に青い焔を纏う。そして、蹴りをいれた体勢のままのブリアック卿の足をつかもう……としたのを察知したブリアック卿が慌てて後方へと下がる。
《ホウ? 反応速度ガ上ガッテイルカ?》
愉快そうなサテュロスへ、まずリュドヴィック卿とオクトが先程とは比べ物にならない速度で斬りつけていく。
そして、そこへ私の『ギフト』が炸裂した。
「いまよ! サテュロスを後ろに思い切り吹き飛ばしなさい!」
ゼナイドの言葉で、アンドレアス殿を除く四人で一気に燃え盛るサテュロスを押し、そこへアンドレアス殿の風魔法が直撃する。
《ヌ!?》
「今ね! 後輩、『ギフト』を全力でぶつけなさい!」
「はい!」
私は【怒焔の矢】を最大火力で。後方へ吹き飛んでいくサテュロスに向かって放つ。サテュロスが真っ暗な断崖へと落ちていくのが見えた。
「そこぉ! いざ、封印魔法! 後輩とその仲間達、魔力を注ぎなさい!」
……女性の勢いは怖い。深南の頃でさえ、こんな圧され方はなかったな……。
そう思いながら、全員で言われるがままゼナイドが放った封印魔法へと魔力を注いだ。
しばらくして、黒い魔力の気配が……消えた。
****
「はぁ……まさか調査の予定が元凶を倒しちまうなんてよ……」
あれから。
封印魔法が完了し、私達は魔力の使い過ぎで気を失い、気付けばアウストラリス山の馬達を置いてきた洞窟で寝ていた。
そして、『全てを見た魔女』ことゼナイドは姿を消しており、私達は下山できるくらいまで回復してから、山を下りた。
アルベリク団長にメディアから通信で報告して、ルクバトへと戻ることになった。
途中でアンドレアス殿とはわかれ、やっとの思いでルクバトへと帰り着いた頃には、私達は……『英雄』になっていた。
アルベリク団長含んだルクバト聖騎士団に出迎えられ、涙を流すベルちゃんにリュドヴィック卿がタジタジとなったのは言うまでもなく。
その後、ジャン=バティスト教王によって教王庁へと招かれた。
「よくぞやってくれた。リュドヴィック・エアラ卿、オクタヴィアン・クラヴリー卿、ブリアック・アランブール卿、そして『勇者』イグナート・アウストラリス卿。全世界を代表して礼を言おうぞ」
私達は今、教王から勲章を頂く式へ出席していた。いつもの団員服ではなく、白基調の襟詰めの服にマント、帽子を被った正装でだ。
祝賀ムードの中で、教王が落ち着いた声で言う。
「しかし、魔物達が脅威であることは変わらず。故に、これからも励んでいただきたい」
私達は挨拶をして、勲章を受け取った。当然ながら階級も上がる。それぞれ一階級だ。私も『勇者』とは言え未だ新参者。扱いは同等だ。
……それが無償に嬉しかった。
****
「リュド兄~!」
式が終わってすぐに、ベルちゃんがリュドヴィック卿に駆け寄っていく。それを受け止めると、リュドヴィック卿が苦笑しながらベルちゃんをたしなめる。
「ベル。はしたないぞ?」
言葉ではとがめているが、その実優しい声色のリュドヴィック卿に、相変わらずだなと思わず笑ってしまう。
「イグナート、なにがおかしい?」
射貫くような視線に、ああ昔の私は失礼な感情を抱いていたなとさらにおかしくなる。
「イグナート、笑いすぎだって……」
私の笑いっぷりに軽く引いたような声を出すオクトのせいで、笑いがとまらない。
「あはは! も、申し訳ない! つい! あはは!」
等々腹を抱えだす私に、リュドヴィック卿の手刀が入る。……いや本当に申し訳ない。
しばらくして、ようやく笑いが収まった私と、それを睨みつけるリュドヴィック卿とあきれ顔のオクトとベルちゃんの元へ、アルベリク団長がやってきた。
「ずいぶんと賑やかにしていたね? 遠方にいても響いてきたよ。さて、ところでイグナート卿、ちょっといいかな?」
そう言われて頷けば、式が行われていた広場を抜け、エントランスへ移動する。
「さて。リュドヴィック卿からも聞いていると思うけれど……今後のことを……ね?」
アルベリク団長の言葉に、私は『自分と向き合って』から決めていたことを口にする。
「そのことなのですが、もし、よろしければこのままルクバト聖騎士団にいさせていただけませんか? 報告した通り、私『イグナート』の故郷はすでになく……」
すると、アルベリク団長が目を細める。
「こちらとしては大歓迎なのだけれど、本当にいいのかな? 旅をするというのも悪くはないと思うけれどね?」
「いえ、それには及ばず。私はここルクバトで居場所を見つけました。仲間、友人……。それに、拾っていただいた恩をまだ返しておりません。ですから……何卒、これからもよろしくお願い致します!」
そう言って挨拶をすると、アルベリク団長は優しい声で返してきた。
「そこまで考えているなら、もう口出しはやめるとしよう。では、これからもよろしく頼むよ? イグナート卿」
そう言われ、差し出された手と握手を交わし、みんなのもとへと戻ることにした。
「お、戻ってきたな! イグナート! これから祝賀会らしいぜ!」
「そうか、ありがたい」
「ホント、キャラ変わったよなー! ま、男らしくなってなによりだけどよ!」
からかうようなオクトを連れて、私はじゃれているエアラ兄妹に声をかける。
「お二人も行かれるでしょう? 一緒にどうですか?」
「まぁいいだろう。行くぞベル」
「やったー!」
二人の答えに満足すると、私は歩きだした。
――生きていく。
――私はここで生きていく。
――だから悲しまないでほしい。イグナートの父さん、母さん、弟のルイ。深南のお父さんとお母さん。
二人分の家族と人生を背負いながら、新生した私はこの世界で生きる。
騎士として、勇者として。
――そして、英雄として。
そうぼやくリュドヴィック卿に、ゼナイドが言う。
「仕方ないでしょうね? 騎士様方? 覚悟はよろしくて?」
「あぁ! 頼みますよ、聖女様!」
リュドヴィック卿の変わりに私がそう叫ぶと、目の前にいたオクトが言う。
「やっぱお前、キャラ変わりすぎだって! ま、それはそれで悪くねぇけどさ……」
……なんだか複雑なんだが……?
私は邪念を捨てるべく、首を左右に振ると、双剣を構え直す。
「サテュロス! 覚悟!」
そう叫び、リュドヴィック卿とオクトとともに、足元が凍ったままのサテュロスに向かって行く。
《来ルカ》
サテュロスは全身に青い焔を纏う。そして、蹴りをいれた体勢のままのブリアック卿の足をつかもう……としたのを察知したブリアック卿が慌てて後方へと下がる。
《ホウ? 反応速度ガ上ガッテイルカ?》
愉快そうなサテュロスへ、まずリュドヴィック卿とオクトが先程とは比べ物にならない速度で斬りつけていく。
そして、そこへ私の『ギフト』が炸裂した。
「いまよ! サテュロスを後ろに思い切り吹き飛ばしなさい!」
ゼナイドの言葉で、アンドレアス殿を除く四人で一気に燃え盛るサテュロスを押し、そこへアンドレアス殿の風魔法が直撃する。
《ヌ!?》
「今ね! 後輩、『ギフト』を全力でぶつけなさい!」
「はい!」
私は【怒焔の矢】を最大火力で。後方へ吹き飛んでいくサテュロスに向かって放つ。サテュロスが真っ暗な断崖へと落ちていくのが見えた。
「そこぉ! いざ、封印魔法! 後輩とその仲間達、魔力を注ぎなさい!」
……女性の勢いは怖い。深南の頃でさえ、こんな圧され方はなかったな……。
そう思いながら、全員で言われるがままゼナイドが放った封印魔法へと魔力を注いだ。
しばらくして、黒い魔力の気配が……消えた。
****
「はぁ……まさか調査の予定が元凶を倒しちまうなんてよ……」
あれから。
封印魔法が完了し、私達は魔力の使い過ぎで気を失い、気付けばアウストラリス山の馬達を置いてきた洞窟で寝ていた。
そして、『全てを見た魔女』ことゼナイドは姿を消しており、私達は下山できるくらいまで回復してから、山を下りた。
アルベリク団長にメディアから通信で報告して、ルクバトへと戻ることになった。
途中でアンドレアス殿とはわかれ、やっとの思いでルクバトへと帰り着いた頃には、私達は……『英雄』になっていた。
アルベリク団長含んだルクバト聖騎士団に出迎えられ、涙を流すベルちゃんにリュドヴィック卿がタジタジとなったのは言うまでもなく。
その後、ジャン=バティスト教王によって教王庁へと招かれた。
「よくぞやってくれた。リュドヴィック・エアラ卿、オクタヴィアン・クラヴリー卿、ブリアック・アランブール卿、そして『勇者』イグナート・アウストラリス卿。全世界を代表して礼を言おうぞ」
私達は今、教王から勲章を頂く式へ出席していた。いつもの団員服ではなく、白基調の襟詰めの服にマント、帽子を被った正装でだ。
祝賀ムードの中で、教王が落ち着いた声で言う。
「しかし、魔物達が脅威であることは変わらず。故に、これからも励んでいただきたい」
私達は挨拶をして、勲章を受け取った。当然ながら階級も上がる。それぞれ一階級だ。私も『勇者』とは言え未だ新参者。扱いは同等だ。
……それが無償に嬉しかった。
****
「リュド兄~!」
式が終わってすぐに、ベルちゃんがリュドヴィック卿に駆け寄っていく。それを受け止めると、リュドヴィック卿が苦笑しながらベルちゃんをたしなめる。
「ベル。はしたないぞ?」
言葉ではとがめているが、その実優しい声色のリュドヴィック卿に、相変わらずだなと思わず笑ってしまう。
「イグナート、なにがおかしい?」
射貫くような視線に、ああ昔の私は失礼な感情を抱いていたなとさらにおかしくなる。
「イグナート、笑いすぎだって……」
私の笑いっぷりに軽く引いたような声を出すオクトのせいで、笑いがとまらない。
「あはは! も、申し訳ない! つい! あはは!」
等々腹を抱えだす私に、リュドヴィック卿の手刀が入る。……いや本当に申し訳ない。
しばらくして、ようやく笑いが収まった私と、それを睨みつけるリュドヴィック卿とあきれ顔のオクトとベルちゃんの元へ、アルベリク団長がやってきた。
「ずいぶんと賑やかにしていたね? 遠方にいても響いてきたよ。さて、ところでイグナート卿、ちょっといいかな?」
そう言われて頷けば、式が行われていた広場を抜け、エントランスへ移動する。
「さて。リュドヴィック卿からも聞いていると思うけれど……今後のことを……ね?」
アルベリク団長の言葉に、私は『自分と向き合って』から決めていたことを口にする。
「そのことなのですが、もし、よろしければこのままルクバト聖騎士団にいさせていただけませんか? 報告した通り、私『イグナート』の故郷はすでになく……」
すると、アルベリク団長が目を細める。
「こちらとしては大歓迎なのだけれど、本当にいいのかな? 旅をするというのも悪くはないと思うけれどね?」
「いえ、それには及ばず。私はここルクバトで居場所を見つけました。仲間、友人……。それに、拾っていただいた恩をまだ返しておりません。ですから……何卒、これからもよろしくお願い致します!」
そう言って挨拶をすると、アルベリク団長は優しい声で返してきた。
「そこまで考えているなら、もう口出しはやめるとしよう。では、これからもよろしく頼むよ? イグナート卿」
そう言われ、差し出された手と握手を交わし、みんなのもとへと戻ることにした。
「お、戻ってきたな! イグナート! これから祝賀会らしいぜ!」
「そうか、ありがたい」
「ホント、キャラ変わったよなー! ま、男らしくなってなによりだけどよ!」
からかうようなオクトを連れて、私はじゃれているエアラ兄妹に声をかける。
「お二人も行かれるでしょう? 一緒にどうですか?」
「まぁいいだろう。行くぞベル」
「やったー!」
二人の答えに満足すると、私は歩きだした。
――生きていく。
――私はここで生きていく。
――だから悲しまないでほしい。イグナートの父さん、母さん、弟のルイ。深南のお父さんとお母さん。
二人分の家族と人生を背負いながら、新生した私はこの世界で生きる。
騎士として、勇者として。
――そして、英雄として。
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