私、男になっちゃった!?~ネナベしようと思ったら、イケメンエルフに転生&騎士団入りして英雄になります!?~【改題版】

河内三比呂

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第五章 旅は続く

第七十六話 向き合う時間

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「だってそうだろう? 俺の人生を奪ったんだからよ?」

 責めるような口調とは裏腹な、淡泊な声色にゾッとした。

「う、奪ったって……言われても……?」

 恐る恐る口を開けば、イグナートが更に言葉を続ける。

「そうだな。お前は、ただ俺を生み出しただけだもんな?」

 呼応するかのように深南みなみも続く。

「だって、辛かったんだもんね? しょうがないよね?」

 はまたしても、何も言えなくなってしまう。だって、どっちも正しいから。現実が辛かったのも、だからイグナートをキャラメイクしたのも。
 だけど……。

「二人とも、ごめんなさい。……向き合わなくて。本来のイグナートがどうなったのかとか、考えたことなかった。そして……深南として死んだことも、どこかで他人事だった。本当に、ごめんなさい……」

 私は交互に二人へ向かって頭を下げる。何度も。しばらくして、二人の声が同時に聴こえてきた。

「やっと向き合ってくれたね」

「やっと向き合ってくれたな」

 その言葉でハッとする。そうか……サジタリウス様が言っていた『向き合え』ってこういうことだったんだ……。
 はやっと理解した。そして、覚悟を決めた。

「……向き合う! だから、イグナート! 深南! あなた達のことを教えてほしい!」

 力強くそう言うと、気づけば二人が目の前に並んでいて、そこから淡い光が発せられ、私を包みこむように降り注ぐ。

 入ってきたのは、イグナートの人生の記憶だった。

 ――アウストラリス山の奥にあった村で生まれたこと。
 ――両親と弟がいたこと。
 ――本来、イグナートは弓使いだったこと。
 ――村が魔物によって壊滅したこと。
 ――それが原因で家族も、友人も全てを失ったこと。
 ――唯一生き残り、あてもなくさまよっていたこと。
 ――そして、『』に浸食されたこと。

 初めて知る……いや、『思い出した』記憶に胸が苦しくなるが、それから逃げる事などしない。ありのまま受け入れてみると、ストンと胸に落ちてきた感覚がする。

「ふぅ……。待てよ? イグナートとしてはいいが、深南としては……両親はどうなったんだろうか?」

 そうだ。今まで逃げていたから思い至らなかったが、深南としての人生が終わった時、両親は健在だったはずだ。……二人はどうなったんだ?

 そう思い、目の前に浮いている二枚の鏡を見やると、深南の両親が映しだされる。

 ……二人の目は、悲しみに濡れていた。静かな食卓。二人だけの無言の時間。でも……。

「私が座っていた席に……食事があるな……」

 そう。丸テーブルにいつも三人で座っていたのだが、そこにはもういないはずの、私の分の食事まで置かれていたのだ。
 二人の思いに触れ、自然と涙が溢れてくる。ごめん……逃げてばかりで。先に死んでしまって……。

 『イグナート』と『深南』。二人分の人生。失ってから……気づく、家族への想い。あぁ、そうか。私は家族が好きだった――。

 一気に入ってきた二人分の人生の記憶と思いに、混乱と後悔……色々な感情がごちゃ混ぜになる。でも、それでいい。それが罰なのだろう。逃げ続けてきた私への。

〔そろそろよさそうね?〕

 『全てを見た魔女』さんの声に、私は涙を拭い頷く。

 すると、目の前が暗転し……気づけば、またしても白い空間にいた。

「どうだったかしら? 自分と向き合ってみて」

 試すようなでもどこか優しい声色に、私はルクバト式の挨拶をする。

「『全てを見た魔女』よ、感謝します。と向き合わせてくれて」

 素直にそう礼をつげると、『全てを見た魔女』は口元に手をやる。

「ふふふ、いいのよ? お礼は、身体で返してちょうだいな?」

 彼女の言葉に私は再び頷いた。

「その依頼、果たして見せます。それで、私の仲間達はどうしたのですか?」

 そうだ。リュドヴィック卿にオクト、ブリアック卿にアンドレアス殿の姿はここにはなかった。彼らはどこに?
 その疑問に『全てを見た魔女』が答えてくれた。

「彼らは彼らで、修行してもらっているわ。あのままじゃ、死んじゃうもの」

 ――あっさりと告げる彼女に不快感はなく。
 正しく向き合い新生したは、再度お礼を告げるのだった。
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