私、男になっちゃった!?~ネナベしようと思ったら、イケメンエルフに転生&騎士団入りして英雄になります!?~【改題版】

河内三比呂

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第五章 旅は続く

第七十五話 彼女の名は

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「あなたは……?」

 私が双剣を構えながらそう言うと、美女は妖艶に笑いながら答えた。

「わたしを尋ねてきたのではなくて? わたしは『魔女』。『全てを見た魔女』」

 その言葉に私の思考が止まる。……え?

「あらあら、驚きすぎじゃなくて? せっかくのなんですもの。もう少し気楽に話しましょうよ?」

「え、あ、え? 今なんて?」

 訊き返すと『全てを見た魔女』さんは再び口を開いた。

「わたしは『全てを見た魔女』なのよ? あなたが転生……それも、女から男になった事くらいわかるわよ」

 あっさりとそう言われた。え、嘘でしょ?

「ふふふ。いいリアクションね? そうわかるのよ。本当は、協力する気なんてなかったんだけどねぇ。あなたがあまりにも情けないから、ついついちょっかい出したくなってしまったわ?」

「なっ! 私だって頑張ってるんだけれど!」

 反論すると、『全てを見た魔女』さんは目を細めた。

「頑張ったからといって、それがになるとは限らないのよ? それはあなたが一番知っているのではなくて?」

 思わず黙ってしまう。だって……。

「仕方ない後輩ねぇ。お節介お姉さんが、さらなるお節介をしてあげましょう。さぁ、向き合ってきなさいな!」

 そう言われた瞬間、視界が暗転し、気づけば宙に浮いた鏡がたくさんある空間にいた。
 とくに、目の前にある鏡は大きくて、全身が映っている。と、ハッとする。後ろにある鏡には……『前世』の私が映っていた。

 茶髪に貧相な身体。今にも死にそうな、いや、死んだ『私』が。『轟深南とどろきみなみ』がそこにはいた。

「えっ? えっ?」

 困惑する『私』に、深南とそしてイグナートが語りかけてくる。

「私は誰?」

「お前は誰だ?」

 その言葉に固まってしまう。え? 私は……。

 ……確かに、誰なんだろうか?

 だって、深南の記憶はあってもイグナートの記憶はなくて。でも、身体は深南ではなくてイグナートで。あれ? 混乱してきた……。

 思考が巡る。でも混乱するばかりで、まとまらない。
 その時。深南の方から、こんな言葉が飛んできた。

「苦しかったよね? 病気。治らないって言われた時、ショックだったよね?」

 重い。重いものがずっしりと胸に落ちてくる。そうだ、そうだった。
 深南は、不治の病でMMORPG『サジタリウス』をプレイしようとした時には、余命わずかだったんだ……。

 そう。治らないって言われて、絶望して、治療を拒否して自宅療養になって……。そして、現実の身体の自由がきかないから、せめて、ゲームの世界だけでは自由に動きたかったんだ。

 ……現実逃避。そう、そのためだった。それだけのために、始めたはずなのに。

 今度はイグナートが語りかけてきた。

「だがお前は死に、俺として転生した。いや、正確には、俺をにしてこの世界に転生した。そうだろう?」

 ――何も言葉が出てこなかった。
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