14 / 28
疑⑥
しおりを挟む
中に入ると、鑑識官の制服に身を包んだ黒髪のショートヘアをした四十代くらいの女性が出迎えた。彼女の目つきは鋭く、睨んでいるかのように感じさせるものだった。だが、朝倉は気にせず彼女に声をかける。
「森野さん、ご苦労様です。こちらは進藤さん、協力して頂いている方です」
「進藤です。あの……?」
「わたしは森野。貴方がどこの誰かは知っているから、気にしないで」
「あ、ありがとうございます……?」
「二人の顔合わせも終えた事ですし、森野さん。早速ですが現状を教えて頂けますか?」
「最初からそのつもりでここへ来たんでしょ? 靴にこれを履かせてさっさと入って」
森野の指示で、靴にビニール製のカバーを装着する。慣れない感覚に困惑する識とは違い、朝倉は慣れた様子でカバーを履かせ終わると、識の方へと向き直る。
「進藤さん、大丈夫ですか?」
「えぇ、なんとか……」
「では、行きましょうか」
「はい」
中を見渡すと見慣れた洋壱の部屋に、見慣れない数人の鑑識官の姿があり識は違和感しかなかった。知っているのに知らない部屋。その感覚が拭い切れないのだ。
(知りたくなかった……感覚だな……)
「それじゃ、今の状況を説明するわよ? 二人とも良くて?」
「えぇ大丈夫ですよ。ね? 進藤さん」
「はい。……森野さんお願いします」
森野は頷くと洋壱の室内に視線を移し、話し始めた。洋壱の部屋は1DKだ。玄関から入って右にトイレと風呂があり、廊下を抜けるとダイニング、右側に寝室がある。
中は綺麗好きな洋壱らしく、整理整頓されておりアニメグッズ等も綺麗にケースに入れられて飾られている。
今は森野の部下であろう鑑識官の一人が黒色のソファーの近くで作業しており、ベランダにも一人、寝室の方にも一人いて同じく作業しているようだった。
「まず指紋についてなのだけど、朝倉君。貴方達が採取して来たもの以外に一つだけ身元不明の指紋が出たわ」
「ほう? 身元不明ですか?」
「えぇ、指紋の大きさからして女性だとは思うのだけれど……場所が不自然なのよね。ベッドの下だったりクローゼットの中だったり……」
「それは確かに不自然ですね。進藤さん、心当たりはありますか?」
「いえ……ただ。アイツはその、昔からストーカー被害にあいやすくて……室内に不法侵入された事が過去に一度ありました」
識からその話を聞いた朝倉は考え込むように顎に手を当てた。一方、識は洋壱のあの不穏な言葉の意味を考えていた。
(もしかして洋壱……お前はまた、女にストーカーされていたのか?)
「不自然なのはそれだけじゃないわ。寝室のベッドサイドの所から、こちらも身元不明の髪の毛が採取されたんだけど……普通ならバラバラだったり絡まっていたりするでしょう? でも、採取されたものは綺麗にまっすぐ落ちていたのよ」
「それは確かに不自然ですねぇ。髪の毛については森野さんお願いします。僕達はその身元不明の女性について調べる方が良いかもですねぇ……ん? 進藤さん? どうされました?」
声をかけられた識の視線はベッドの直ぐ傍の床に向けられていた。しばらくして、識がゆっくりと口を開く。その声は心なしか震えていた。
「その、洋壱は大学の時にメンタルを少し壊しまして。それ以来潔癖癖があるんですが、それで足元が汚れないようにとベッドから降りる時の位置に合わせてラグをいつも敷いているんです。でも……」
「ありませんねぇ、ラグ……」
「私達、鑑識が入った時には既にこの状態だったわ。床が綺麗すぎて気づけなかったけど……確かに他の所よりも念入りに掃除されているわね。……不自然よね?」
「えぇ森野さん、僕もそう思います。綺麗すぎる。つまり……ラグが何者かに持ち去られた可能性が高い。ということですねぇ、進藤さん?」
「はい。俺はそう思っています」
謎の女の指紋に不審な髪の毛……そしてなくなっていたラグ。これらの不自然が犯人に結び付いて欲しいと識は願っている自分に気が付いた。
(笑えねぇな。探偵が……物証が揃っていないのに決めつけようとするなんて、なぁ?)
「森野さん、ご苦労様です。こちらは進藤さん、協力して頂いている方です」
「進藤です。あの……?」
「わたしは森野。貴方がどこの誰かは知っているから、気にしないで」
「あ、ありがとうございます……?」
「二人の顔合わせも終えた事ですし、森野さん。早速ですが現状を教えて頂けますか?」
「最初からそのつもりでここへ来たんでしょ? 靴にこれを履かせてさっさと入って」
森野の指示で、靴にビニール製のカバーを装着する。慣れない感覚に困惑する識とは違い、朝倉は慣れた様子でカバーを履かせ終わると、識の方へと向き直る。
「進藤さん、大丈夫ですか?」
「えぇ、なんとか……」
「では、行きましょうか」
「はい」
中を見渡すと見慣れた洋壱の部屋に、見慣れない数人の鑑識官の姿があり識は違和感しかなかった。知っているのに知らない部屋。その感覚が拭い切れないのだ。
(知りたくなかった……感覚だな……)
「それじゃ、今の状況を説明するわよ? 二人とも良くて?」
「えぇ大丈夫ですよ。ね? 進藤さん」
「はい。……森野さんお願いします」
森野は頷くと洋壱の室内に視線を移し、話し始めた。洋壱の部屋は1DKだ。玄関から入って右にトイレと風呂があり、廊下を抜けるとダイニング、右側に寝室がある。
中は綺麗好きな洋壱らしく、整理整頓されておりアニメグッズ等も綺麗にケースに入れられて飾られている。
今は森野の部下であろう鑑識官の一人が黒色のソファーの近くで作業しており、ベランダにも一人、寝室の方にも一人いて同じく作業しているようだった。
「まず指紋についてなのだけど、朝倉君。貴方達が採取して来たもの以外に一つだけ身元不明の指紋が出たわ」
「ほう? 身元不明ですか?」
「えぇ、指紋の大きさからして女性だとは思うのだけれど……場所が不自然なのよね。ベッドの下だったりクローゼットの中だったり……」
「それは確かに不自然ですね。進藤さん、心当たりはありますか?」
「いえ……ただ。アイツはその、昔からストーカー被害にあいやすくて……室内に不法侵入された事が過去に一度ありました」
識からその話を聞いた朝倉は考え込むように顎に手を当てた。一方、識は洋壱のあの不穏な言葉の意味を考えていた。
(もしかして洋壱……お前はまた、女にストーカーされていたのか?)
「不自然なのはそれだけじゃないわ。寝室のベッドサイドの所から、こちらも身元不明の髪の毛が採取されたんだけど……普通ならバラバラだったり絡まっていたりするでしょう? でも、採取されたものは綺麗にまっすぐ落ちていたのよ」
「それは確かに不自然ですねぇ。髪の毛については森野さんお願いします。僕達はその身元不明の女性について調べる方が良いかもですねぇ……ん? 進藤さん? どうされました?」
声をかけられた識の視線はベッドの直ぐ傍の床に向けられていた。しばらくして、識がゆっくりと口を開く。その声は心なしか震えていた。
「その、洋壱は大学の時にメンタルを少し壊しまして。それ以来潔癖癖があるんですが、それで足元が汚れないようにとベッドから降りる時の位置に合わせてラグをいつも敷いているんです。でも……」
「ありませんねぇ、ラグ……」
「私達、鑑識が入った時には既にこの状態だったわ。床が綺麗すぎて気づけなかったけど……確かに他の所よりも念入りに掃除されているわね。……不自然よね?」
「えぇ森野さん、僕もそう思います。綺麗すぎる。つまり……ラグが何者かに持ち去られた可能性が高い。ということですねぇ、進藤さん?」
「はい。俺はそう思っています」
謎の女の指紋に不審な髪の毛……そしてなくなっていたラグ。これらの不自然が犯人に結び付いて欲しいと識は願っている自分に気が付いた。
(笑えねぇな。探偵が……物証が揃っていないのに決めつけようとするなんて、なぁ?)
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
リモート刑事 笹本翔
雨垂 一滴
ミステリー
『リモート刑事 笹本翔』は、過去のトラウマと戦う一人の刑事が、リモート捜査で事件を解決していく、刑事ドラマです。
主人公の笹本翔は、かつて警察組織の中でトップクラスの捜査官でしたが、ある事件で仲間を失い、自身も重傷を負ったことで、外出恐怖症(アゴラフォビア)に陥り、現場に出ることができなくなってしまいます。
それでも、彼の卓越した分析力と冷静な判断力は衰えず、リモートで捜査指示を出しながら、次々と難事件を解決していきます。
物語の鍵を握るのは、翔の若き相棒・竹内優斗。熱血漢で行動力に満ちた優斗と、過去の傷を抱えながらも冷静に捜査を指揮する翔。二人の対照的なキャラクターが織りなすバディストーリーです。
翔は果たして過去のトラウマを克服し、再び現場に立つことができるのか?
翔と優斗が数々の難事件に挑戦します!
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ARIA(アリア)
残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……
蠍の舌─アル・ギーラ─
希彗まゆ
ミステリー
……三十九。三十八、三十七
結珂の通う高校で、人が殺された。
もしかしたら、自分の大事な友だちが関わっているかもしれない。
調べていくうちに、やがて結珂は哀しい真実を知ることになる──。
双子の因縁の物語。
存在証明X
ノア
ミステリー
存在証明Xは
1991年8月24日生まれ
血液型はA型
性別は 男であり女
身長は 198cmと161cm
体重は98kgと68kg
性格は穏やかで
他人を傷つけることを嫌い
自分で出来ることは
全て自分で完結させる。
寂しがりで夜
部屋を真っ暗にするのが嫌なわりに
真っ暗にしないと眠れない。
no longer exists…
嘘つきカウンセラーの饒舌推理
真木ハヌイ
ミステリー
身近な心の問題をテーマにした連作短編。六章構成。狡猾で奇妙なカウンセラーの男が、カウンセリングを通じて相談者たちの心の悩みの正体を解き明かしていく。ただ、それで必ずしも相談者が満足する結果になるとは限らないようで……?(カクヨムにも掲載しています)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる