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第十話 竜の試練だよ、グシャート君

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「……うっそだろ……?」

 僕は竜から出された試練の難易度の高さに、思わずそんな情けない声を上げてしまった。だって……!
 身動きできずにいる僕の横で、サイルが目を潤ませながら竜に向かって声高に宣言する。

「わかったのん! 必ず……必ず! 竜たんの大事な人、探してくるのん!」
 
 そう。竜が出した試練は……人探しだった。それも……竜がまだ幼かった頃に出会ったという人間の。おいおい、嘘だろう!? この竜が今、成竜だとしてだ! 竜の成長速度は人間の百倍は遅い。つまり……この竜が幼竜だった頃なんて、何百年? いや、下手したら何千年も昔の話なんだぞ!? そんな時代の人間の足跡なんて、どう探せっていうのさ!?

 今日何度目かわからない、頭を抱える僕の肩をレナジェが静かに叩く。恨めしげに彼を睨めば、涼しい顔だ。完全に他人事である。思わず悪態を吐きたくなるが、サイルと竜の手前我慢した。

「……あー。その? き……あなたが出会った人間の情報、ある程度教えてもらえたりしないです? さすがになんの手がかりもないのは……僕達にはキツイんで……?」

 恐る恐る竜に訊けば、予想外にも素直な反応が返って来た。曰く、当時の人間の姿的におそらくは成人。そして、匂いからして雌もとい女性。名前は記憶が正しければ『ルルーシュタ』。
 ただ、出会った場所がこの竜の家族が当時住処にしていた巣の近辺であったが、その場所は既に海に沈んでいるらしい。

 つまり……土地から探し出すのは不可能になったわけだ。一手潰れたのは痛い。……かなり。
 だけど、サイルはそんなのお構いなしに意気込んでいる。その事実に僕は深いため息を吐いた。

 ****

「うーむ……。とりあえず図書館に来てはみたけど……!」

 僕達は今、近くの図書館に来ていた。『ルルーシュタ』について、少しでも情報を得るためだ。
 だけど、目論見は甘かったのだと、すぐに気づかされた。なにせ……小さい! この図書館、小さいのである!
 こんな小さな図書館に、竜と接触した人間の伝承なんてあるわけがない。いや、そもそもそう言った伝承自体はメジャーなんだ。ただ、特定の竜と個人となると……ねぇ?

 そんな諦めモードな僕とは対照的に、サイルは一生懸命に資料を漁っていた。その目には、熱意と希望がハッキリと見える。
 ……こんな頃が、僕にもあった……はずなんだ。
 いつからだろうか? こんな風に……なってしまったのは?

 ……僕は……ダメなヤツだよ、本当に。
 
 そんな、薄暗い感情を読み取るヤツがいるとは、この時は思っていなかった。
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