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【二章】『子育て』編
1 ” ぼくたち ” 2歳になりました! もうすぐ、お兄ちゃんになります!
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「まま」
小さく呼ぶ声が聞こえた。取り込んだ洗濯物を畳んでいた手を止めた俺は、声のした方を見る。ベッドの上に横たわる布団から顔だけを出した幼子が、2つの円な瞳でこっちを見ていた。
「紡、起っきしたの?」
どれどれ…と呟きながらベッドに体を寄せ、手の平を紡の額に当てた。
「まだ少しお熱があるね」
一般的にΩ性はすぐ体調を崩す。大人になってもその傾向は強いけれど、子供の頃はより顕著に現れる。俺も幼少期はすぐに熱を出していたらしい。らしい…というのは、幼い頃過ぎて俺自身は憶えていないから。物事が理解出来る年齢になってから聞いた話。で、シングルマザーのお母さんは頻繁に仕事を休めないから、少し離れた所に住んでたお祖母ちゃんが来て、泊まり込みで俺を看てくれた。2、3ヶ月に1回、数日間。お祖父ちゃんを放っておいてね。そんな生活が1年くらい続いたけれど、お祖母ちゃんも大変だからって、俺とお母さんはお祖父ちゃんとお祖母ちゃんの家に引っ越す事にしたんだって。これが同居の真相。まあ、俺も今は滅多に風邪引いたりしないけどな。
それで話は戻るけれど、例に漏れず、紡も乳児の頃からよく熱を出した。双子の片割れの絆は、2歳になった今まで風邪一つ引かないのに。αは幼児期から丈夫らしい。
俺は紡を抱き起こして座らせると、お茶の入ったストローマグを口元に持っていった。小さなお口でちゅーちゅー飲んで口を離す。
「まま、きじゅは?」
言うと思った…。君がいつも最初に訊くのは、ママでもパパでもなく、絆の所在だもんね。
「パパとお買い物に行ってるよ」
「…! つむもいくっ!」
絆がパパとお買い物に行った事にショックを受け、自分も行くと言いだした。うん。この子、絆がパパとお出掛け…が羨ましい訳じゃなくて、絆とお出掛けなんてパパ狡いのほう…。
「紡はお熱あるから我慢しようね。絆もパパももうすぐ帰って来るからね」
頭を撫でて宥めたけれど…。
「いやっ! つむもいくの!」
ぐずり出した。う~ん、どうしたものか…。
と、その時、控えめにドアがノックされた。
『ママ、ただいま。あけて?』
小さく囁く絆の声。大和が教えたんだな。紡には聞こえていない様なので、最後に背中を撫でてからドアまで移動してゆっくり開けると、大和と絆が立っていた。
とてとて…と中に入った絆は紡が起きているのを見ると…。
「つむ!」
片割れの名前を呼びながらベッドに駆け寄った。
「きじゅ!」
「あ…! 紡!」
俺は悲鳴にも似た声を上げた。
絆を見つけて嬉しそうに名前を呼んだ紡が、手を伸ばした反動でバランスを崩してベッドから落ちそうになったからだ。今の俺では間に合わないと転落を覚悟したけれど、いち早くベッドに駆け寄った大和が紡を抱き留めた。
「あっ…ぶな…」
「ぱぱ」
紡をベッドに戻し、絆を抱き上げてベッドに乗せる大和。
「きじゅ!」
「つむ!」
小さな体で抱き締め合う双子の姿に、俺と大和は苦笑い。見慣れた光景だけれども?
感動の再会みたいになってるけど、君達が離れていたのは、1時間にも満たないからね?
双子の様子を大和と2人で観察していると、頬をくっつけてすりすり。互いのほっぺにチュッてして体を離して、もう一度ハグ。ほんと、何処で覚えたの?
これ、いつもの一連の流れ。微笑ましいっちゃあ微笑ましいが、他所の双子ちゃんもこんなん? 違う気がするなぁ。まあ、仲が良いのは良いことだけれど、幼稚園に行く様になる前には止めさせたいなぁ。せめてハグだけにしてほしい。
「大和、お疲れ様。絆、大丈夫だった?」
「ああ。ずっと手を繋いでたし、紡の好きなものばっかり見てたな」
「ふふ…」
本当に、絆は紡が大好きだねぇ。
「紡はどうだった?」
「ずっと寝てたんだけど、大和と絆が帰って来る少し前に起きてね。まだ少しお熱はあるけど、微熱程度だよ。で、絆は?って。パパとお買い物だって言ったら、自分も行くんだってぐずりだしちゃって…。いいタイミングで帰って来てくれて助かった。
ねえ、絆に教えたの、大和? ノックして小さい声で「あけて」って」
いつもならドアをドンドン叩くか、いきなり入って来るからね。2歳児だから、気を利かせるなんて芸当は出来ないし。
「ん? ああ。紡がねんねしてるかも知れないから、トントンしてママに「あけて?」って小さい声で訊いて、って言ったからな」
「……………」
言ったからな…って。2歳児ってそんなに理解力あったかな? αだから? 凄いな、俺の息子…。
「さて、そろそろ昼だな。用意してくるよ。うどんにしようと思うんだけど」
「あ、俺が作るよ。大和、帰って来たばっかだし」
「大丈夫だよ。渚は今大変なんだから、此処で子供達見てて。紡はまだ熱あるみたいだし、出来たら持ってくるから」
「ん、解った。じゃあ、昨夜の天ぷらが残ってたから、親は天ぷらうどんにしない?」
「OK。んじゃ、子供達は玉子うどんだな」
大和は俺のお腹を撫でて、掠める様に唇を奪ってからキッチンに行った。
ベッドの方を向くと、絆と紡はベッドに並んで寝そべってお話中。相も変わらず2人の世界に入っているご様子。
俺は大きなお腹を撫でた。
「君も仲間に入れてもらえるかなぁ」
撫でながら話しかける。
俺は今、第三子を妊娠中。妊娠8ヶ月。
双子達はもうすぐ『お兄ちゃん』だ。
小さく呼ぶ声が聞こえた。取り込んだ洗濯物を畳んでいた手を止めた俺は、声のした方を見る。ベッドの上に横たわる布団から顔だけを出した幼子が、2つの円な瞳でこっちを見ていた。
「紡、起っきしたの?」
どれどれ…と呟きながらベッドに体を寄せ、手の平を紡の額に当てた。
「まだ少しお熱があるね」
一般的にΩ性はすぐ体調を崩す。大人になってもその傾向は強いけれど、子供の頃はより顕著に現れる。俺も幼少期はすぐに熱を出していたらしい。らしい…というのは、幼い頃過ぎて俺自身は憶えていないから。物事が理解出来る年齢になってから聞いた話。で、シングルマザーのお母さんは頻繁に仕事を休めないから、少し離れた所に住んでたお祖母ちゃんが来て、泊まり込みで俺を看てくれた。2、3ヶ月に1回、数日間。お祖父ちゃんを放っておいてね。そんな生活が1年くらい続いたけれど、お祖母ちゃんも大変だからって、俺とお母さんはお祖父ちゃんとお祖母ちゃんの家に引っ越す事にしたんだって。これが同居の真相。まあ、俺も今は滅多に風邪引いたりしないけどな。
それで話は戻るけれど、例に漏れず、紡も乳児の頃からよく熱を出した。双子の片割れの絆は、2歳になった今まで風邪一つ引かないのに。αは幼児期から丈夫らしい。
俺は紡を抱き起こして座らせると、お茶の入ったストローマグを口元に持っていった。小さなお口でちゅーちゅー飲んで口を離す。
「まま、きじゅは?」
言うと思った…。君がいつも最初に訊くのは、ママでもパパでもなく、絆の所在だもんね。
「パパとお買い物に行ってるよ」
「…! つむもいくっ!」
絆がパパとお買い物に行った事にショックを受け、自分も行くと言いだした。うん。この子、絆がパパとお出掛け…が羨ましい訳じゃなくて、絆とお出掛けなんてパパ狡いのほう…。
「紡はお熱あるから我慢しようね。絆もパパももうすぐ帰って来るからね」
頭を撫でて宥めたけれど…。
「いやっ! つむもいくの!」
ぐずり出した。う~ん、どうしたものか…。
と、その時、控えめにドアがノックされた。
『ママ、ただいま。あけて?』
小さく囁く絆の声。大和が教えたんだな。紡には聞こえていない様なので、最後に背中を撫でてからドアまで移動してゆっくり開けると、大和と絆が立っていた。
とてとて…と中に入った絆は紡が起きているのを見ると…。
「つむ!」
片割れの名前を呼びながらベッドに駆け寄った。
「きじゅ!」
「あ…! 紡!」
俺は悲鳴にも似た声を上げた。
絆を見つけて嬉しそうに名前を呼んだ紡が、手を伸ばした反動でバランスを崩してベッドから落ちそうになったからだ。今の俺では間に合わないと転落を覚悟したけれど、いち早くベッドに駆け寄った大和が紡を抱き留めた。
「あっ…ぶな…」
「ぱぱ」
紡をベッドに戻し、絆を抱き上げてベッドに乗せる大和。
「きじゅ!」
「つむ!」
小さな体で抱き締め合う双子の姿に、俺と大和は苦笑い。見慣れた光景だけれども?
感動の再会みたいになってるけど、君達が離れていたのは、1時間にも満たないからね?
双子の様子を大和と2人で観察していると、頬をくっつけてすりすり。互いのほっぺにチュッてして体を離して、もう一度ハグ。ほんと、何処で覚えたの?
これ、いつもの一連の流れ。微笑ましいっちゃあ微笑ましいが、他所の双子ちゃんもこんなん? 違う気がするなぁ。まあ、仲が良いのは良いことだけれど、幼稚園に行く様になる前には止めさせたいなぁ。せめてハグだけにしてほしい。
「大和、お疲れ様。絆、大丈夫だった?」
「ああ。ずっと手を繋いでたし、紡の好きなものばっかり見てたな」
「ふふ…」
本当に、絆は紡が大好きだねぇ。
「紡はどうだった?」
「ずっと寝てたんだけど、大和と絆が帰って来る少し前に起きてね。まだ少しお熱はあるけど、微熱程度だよ。で、絆は?って。パパとお買い物だって言ったら、自分も行くんだってぐずりだしちゃって…。いいタイミングで帰って来てくれて助かった。
ねえ、絆に教えたの、大和? ノックして小さい声で「あけて」って」
いつもならドアをドンドン叩くか、いきなり入って来るからね。2歳児だから、気を利かせるなんて芸当は出来ないし。
「ん? ああ。紡がねんねしてるかも知れないから、トントンしてママに「あけて?」って小さい声で訊いて、って言ったからな」
「……………」
言ったからな…って。2歳児ってそんなに理解力あったかな? αだから? 凄いな、俺の息子…。
「さて、そろそろ昼だな。用意してくるよ。うどんにしようと思うんだけど」
「あ、俺が作るよ。大和、帰って来たばっかだし」
「大丈夫だよ。渚は今大変なんだから、此処で子供達見てて。紡はまだ熱あるみたいだし、出来たら持ってくるから」
「ん、解った。じゃあ、昨夜の天ぷらが残ってたから、親は天ぷらうどんにしない?」
「OK。んじゃ、子供達は玉子うどんだな」
大和は俺のお腹を撫でて、掠める様に唇を奪ってからキッチンに行った。
ベッドの方を向くと、絆と紡はベッドに並んで寝そべってお話中。相も変わらず2人の世界に入っているご様子。
俺は大きなお腹を撫でた。
「君も仲間に入れてもらえるかなぁ」
撫でながら話しかける。
俺は今、第三子を妊娠中。妊娠8ヶ月。
双子達はもうすぐ『お兄ちゃん』だ。
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