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【幕間】
3 " 邂逅 " ②
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「陸…」
俺は、陸の頭を何度も撫でた。
ゆっくりと体を離す陸。
「陸、どうして此処に…」
「お嫁さんだってなぎ先生が紹介されてたから…」
「「……………」」
思いっきり被った…。
何だか可笑しくて互いに苦笑していると、
「陸」
別の方向から陸を呼ぶ声がした。
陸と一緒にそちらを見れば、赤ちゃんをを腕に抱いた男性。で、何でか大和も一緒にいるんだけど!?
「駿佑さん」
陸の知り合いらしく、男性に駆け寄る陸。
男性は、抱いていた赤ちゃんを陸に渡した。慣れた手付きで赤ちゃんを抱く陸。
「陸、その子は…」
「あ、はい。僕の旦那様と、3月に産まれた娘の結です」
「………。娘…」
「都倉駿佑です。貴方は陸がいた施設の…」
はっ…!
驚き過ぎて唖然としていた俺は、陸の旦那様に自己紹介されて、慌てて自身も自己紹介した。
「あ、はい。御崎…いえ、一ケ瀨渚です」
やば…。旧姓で名乗るとこだった…。
俺達が挨拶を交わしている間に、俺の隣に来て並び立つ大和。
「大和…」
隣の大和を見上げ、視線で説明を求める。
「駿兄のお父さんがウチの主治医でさ。今は駿兄もなんだけど。駿兄がΩの人と結婚した事は聞いてたけど、駿兄とは何年も会ってなかったし、まさか、こんなに若い子だとは思ってなかったけど」
「……………」
なるほど…。
都倉さんと大和の実家の関係は解った。
やっぱり、この4年で陸が結婚してて子供までいる理由は本人に聞くしかないか。
いや、俺に訊き出す権利は無いよ? 陸にだって話す義務はないし。でも、二人はどう見てもひと回りは年齢差がありそうだし、我が子の様に世話をしていた子だから気になるんだ。望まない結婚…だとは思わない。二人を見れば、互いを大切に思っているのが解るから。
本来、施設職員が子供達に関われるのは18歳で退所するまで。その後には関与しない。てか、会う事もまず無い。俺と陸は偶然再会したけれど、俺はもう『先生』じゃないから。
でも、俺の勝手な想いだけれど、こうして今此処で再会した事に縁を感じずにはいられない。
「少し話したらどうだ?」
大和が言う。
「え?」
「俺もびっくりしたけどな。駿兄の奥さんが渚が世話してた子なんてさ。久し振りに会ったんだろ? 子供達は俺が見てるから。離乳食頼んだから、向こうで食べさせるよ」
「あ、もうそんな時間…。だったら俺も…」
「いいからいいから。あっちで、じいじやらばあばやらが手ぐすね引いて待ってるから、人手は十分。せっかく会えたんだからさ」
「で…でも…」
「陸もそうしたらどうだ? 結にミルク飲ませとくよ」
大和の申し出は嬉しいけれどなぁ…。大和の実家に遊びに行くと、いつも奪い合う勢いで子供達の世話をしてくれるし、いつもなら喜んでお任せするんだけど、今日は流石に…。なんて俺が迷っていると、都倉さんが同じ様に陸に勧めてた。
「そうしようかなかな」
陸はあっさり返事してるし。
「なぎ先生、お話しよ?」
俺の所に戻って来て、上目遣いで言う陸。
う……。やめなさい、そんな目で見るのは…。
「分かった」
俺は溜息と共に頷いたのだったー。
✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻
〈回想〉
Ω性の子供達が養護施設に保護される理由は、主に生後すぐのバース性検査でΩと判明した事により捨てられるケース、育児放棄や性暴力を含む家族による虐待で保護されるケースがほとんどである。ほとんどの子供が、乳幼児期…未就学の内に保護される。
けれど、日下陸という少年は、そのどれにも当て嵌まらない特殊なケースとして、施設に身を寄せる事になった。保護された当時、既に12歳。
子供達が施設に引き渡される時、子供と一緒にその子の個人情報ファイルが国から渡される。そのファイルには、名前と生年月日、生い立ちから施設に保護された理由など、一人一人の情報が記されており、重要書類として施設内の金庫で厳重に管理される。それを見る事が出来るのは、各施設の職員だけ。生い立ちや保護された理由によって子供達の精神状態が違い、更にそれによって職員の対応…接し方も臨機応変に変える必要が出てくる為、職員には子供が預けられる度に開示されるのだ。
俺は就職したその日、出入りするドアがあるだけの窓の無い部屋で、子供達全員分の個人情報ファイルを見せてもらったのである。
俺は、陸の頭を何度も撫でた。
ゆっくりと体を離す陸。
「陸、どうして此処に…」
「お嫁さんだってなぎ先生が紹介されてたから…」
「「……………」」
思いっきり被った…。
何だか可笑しくて互いに苦笑していると、
「陸」
別の方向から陸を呼ぶ声がした。
陸と一緒にそちらを見れば、赤ちゃんをを腕に抱いた男性。で、何でか大和も一緒にいるんだけど!?
「駿佑さん」
陸の知り合いらしく、男性に駆け寄る陸。
男性は、抱いていた赤ちゃんを陸に渡した。慣れた手付きで赤ちゃんを抱く陸。
「陸、その子は…」
「あ、はい。僕の旦那様と、3月に産まれた娘の結です」
「………。娘…」
「都倉駿佑です。貴方は陸がいた施設の…」
はっ…!
驚き過ぎて唖然としていた俺は、陸の旦那様に自己紹介されて、慌てて自身も自己紹介した。
「あ、はい。御崎…いえ、一ケ瀨渚です」
やば…。旧姓で名乗るとこだった…。
俺達が挨拶を交わしている間に、俺の隣に来て並び立つ大和。
「大和…」
隣の大和を見上げ、視線で説明を求める。
「駿兄のお父さんがウチの主治医でさ。今は駿兄もなんだけど。駿兄がΩの人と結婚した事は聞いてたけど、駿兄とは何年も会ってなかったし、まさか、こんなに若い子だとは思ってなかったけど」
「……………」
なるほど…。
都倉さんと大和の実家の関係は解った。
やっぱり、この4年で陸が結婚してて子供までいる理由は本人に聞くしかないか。
いや、俺に訊き出す権利は無いよ? 陸にだって話す義務はないし。でも、二人はどう見てもひと回りは年齢差がありそうだし、我が子の様に世話をしていた子だから気になるんだ。望まない結婚…だとは思わない。二人を見れば、互いを大切に思っているのが解るから。
本来、施設職員が子供達に関われるのは18歳で退所するまで。その後には関与しない。てか、会う事もまず無い。俺と陸は偶然再会したけれど、俺はもう『先生』じゃないから。
でも、俺の勝手な想いだけれど、こうして今此処で再会した事に縁を感じずにはいられない。
「少し話したらどうだ?」
大和が言う。
「え?」
「俺もびっくりしたけどな。駿兄の奥さんが渚が世話してた子なんてさ。久し振りに会ったんだろ? 子供達は俺が見てるから。離乳食頼んだから、向こうで食べさせるよ」
「あ、もうそんな時間…。だったら俺も…」
「いいからいいから。あっちで、じいじやらばあばやらが手ぐすね引いて待ってるから、人手は十分。せっかく会えたんだからさ」
「で…でも…」
「陸もそうしたらどうだ? 結にミルク飲ませとくよ」
大和の申し出は嬉しいけれどなぁ…。大和の実家に遊びに行くと、いつも奪い合う勢いで子供達の世話をしてくれるし、いつもなら喜んでお任せするんだけど、今日は流石に…。なんて俺が迷っていると、都倉さんが同じ様に陸に勧めてた。
「そうしようかなかな」
陸はあっさり返事してるし。
「なぎ先生、お話しよ?」
俺の所に戻って来て、上目遣いで言う陸。
う……。やめなさい、そんな目で見るのは…。
「分かった」
俺は溜息と共に頷いたのだったー。
✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻
〈回想〉
Ω性の子供達が養護施設に保護される理由は、主に生後すぐのバース性検査でΩと判明した事により捨てられるケース、育児放棄や性暴力を含む家族による虐待で保護されるケースがほとんどである。ほとんどの子供が、乳幼児期…未就学の内に保護される。
けれど、日下陸という少年は、そのどれにも当て嵌まらない特殊なケースとして、施設に身を寄せる事になった。保護された当時、既に12歳。
子供達が施設に引き渡される時、子供と一緒にその子の個人情報ファイルが国から渡される。そのファイルには、名前と生年月日、生い立ちから施設に保護された理由など、一人一人の情報が記されており、重要書類として施設内の金庫で厳重に管理される。それを見る事が出来るのは、各施設の職員だけ。生い立ちや保護された理由によって子供達の精神状態が違い、更にそれによって職員の対応…接し方も臨機応変に変える必要が出てくる為、職員には子供が預けられる度に開示されるのだ。
俺は就職したその日、出入りするドアがあるだけの窓の無い部屋で、子供達全員分の個人情報ファイルを見せてもらったのである。
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