【完結】君と紡ぐ未来〜愛しい貴方にさよならを。この『運命』を受け入れますか?〜

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【一章】『運命の番』編

49 結婚の挨拶と入籍

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  五月末頃、俺と大和は街に戻り、築十六年の賃貸マンションでの新生活を始めた。住居は、閑静な住宅街に建つ五階建てマンションの三階。セキュリティは万全! Ωの俺は安心! 子供達にとっても安全安心!
  立地はなかなかに良いと思う。スーパーやドラッグストア、コンビニが徒歩三十分圏内にあるし、マンションのすぐ目の前にはあまり大きくないけれど公園がある。いずれ子供達が通うだろう学校も、わりと近くにある。駅は遠いけれど、利用する予定は無いから全く問題はない。
   遠出は車になるけれど、一番気にしていた病院までは車で二十分くらい。別荘からだと一時間以上かかるから、大幅な時間短縮。それだけでかなり安心だ。
  大和の実家…つまり、一ケ瀬家までは車で二十分くらいらしい。俺は行った事ないけれど。病院と方向が違うけど、距離的には同じくらい。
  
  そんな、かなり俺的には気に入った場所で、俺達の新しい生活が始まったってわけ。
  間取りは3LDK。親子四人で暮らすには十分な広さ。
  引っ越してすぐ、大和は「ウチで働かないか」と言ってくれた例の先輩のお店に、挨拶を兼ねた面接に行った。なんと、車で十分! 歩いて行ける距離ではないけれど、わりとご近所さんだった。驚いた俺に大和が言う。勤務先が近い事もこのマンションに決めた理由らしい。すぐに駆け付けられるから。
  採用はほぼ決定らしいけれど、他の従業員の手前、やっぱりケジメとして面接という形を取りたいって。相手の許可をもらって俺も付いて行ったよ。だって、採用の経緯が経緯だし、妻になる身としてはね。双子妊娠だから、勤務早々に迷惑をかけるかも知れないから。
  凄く『気さくな良い人』だった。大和の先輩だから、二十六歳。その若さでお店を持つなんて凄いよね。先輩…オーナーはαで、女性Ωで番の奥さんがいた。奥さんは二十三歳。去年お子さんが生まれて、今は保育園に預けて日中はお店に出てるんだって。凄く綺麗な人だった。で、優しい。お腹の大きな俺を気遣ってくれた。第一性は違うけれど、仲良くなれそうで嬉しい。
  ママ友二人目、ゲットだぜ!  一人目は勿論、朝陽ね。
  大和は形ばかりの面接をして(ほぼ雑談だった…)、五日後から働く事になった。オーナー側は翌日からでもOKだったらしいけれど、何せ、引っ越しが二日前。一応、生活出来るだけの必要最低限の生活用品は用意したけれど、まだまだ足りない物だらけ。大和と二人、買い物に行って家の中をもう少し整えたいし、そろそろベビー用品も揃えたいから。その為の猶予期間だ。

  ✯✯✯✯✯✯✯✯✯✯✯✯✯✯✯

  引っ越しから十日程が経ち、俺は妊娠七ヶ月になり、双子だからか、単胎妊娠の臨月間近と同じくらいにお腹が膨らんでいた。先日の健診では二人共元気だった。自分じゃ靴下履けないし、トイレやお風呂に入って気付く。俺のお粗末で細やかなおちんちんが、股間を見下ろしても見えない…。お風呂は毎日大和が一緒に入ってくれるから、問題はないんだけどさぁ…。
  
「父さんと母さん、明後日帰国するって」

  ある日、いつもの様に一緒に入浴中に大和が言った。

「ほんと?」
「ああ。今日の昼、レストランに兄さんが来て教えてくれた。ほんとあの人、暇なのか? 電話で良いだろ」
「もう~。そんな事、言わないの」

  お兄様は大和の働いてるとこを見たかったんじゃないかと思う。男性秘書と昼食を食べに来たんだって。
  大和、ご飯に来たんなら立派な『お客様』だからね? 冷やかしにならない様に、お客様として来てくれたんだからね?
  って、あえて言葉にしなくても大和は解ってると思う。でも、身内に働いてる姿見られるのって、何だか気恥ずかしいよね。

「ご両親にやっと挨拶出来るね」

  俺が言った。
  大和が入院してた事、お兄様は朝陽に話したタイミングでご両親にも話したらしい。テレビ電話でこってり絞られてた、とは朝陽の弁。それからはご両親から、定期的に大和に電話がある。心配でたまらないのだろう。離れているから尚更。仕事だからすぐに帰国も叶わないらしい。俺の事は大和が自分から話してた。「結婚したい子がいて、今双子を妊婦してるんだ。Ωの男性で、順番は逆になったけど、出産したら番になろうって約束してる」と。
  すぐ傍で話を聞いていた俺。
  大和『も』言わなかった。入院の原因が俺にある事。それと、自分がαフェロモンを発しなくなったばかりかΩフェロモンを感じられなくなった事を。確かに出産後に番になる約束はしたけれど、現実として現状ではどうなるかは判らない。けれど、大和が『言わない』選択をしたのなら、俺も言わないだけだ。
  俺自身はまだご両親に挨拶をしていない。一度大和に「電話で話すか?」と訊かれたけれど、俺は断った。だって、結婚のご挨拶だよ? 電話で…なんてイヤじゃない? ビデオ通話でもさ。まだ暫く帰国しないのなら、出産前には入籍したいから電話でも仕方ないかなぁ、って思うけれど、近々帰国する事は判ってたから、なら、直接会って挨拶したいじゃん。これ、大事だよね。

「あ~、でも、服どうしよう? スーツ、着れないしな。でも、ご挨拶に伺うなら、おしゃれなマタニティ…でも良いかなぁ…。……………」
  
  おしゃれなマタニティってなんだ? と、自分でツッコミを入れてしまう。
  そして、着ていく服の心配をしている俺に、大和がツッコむ。

「普段着で大丈夫だぞ。実家には行かないから。此処に来てくれるってさ。てか、おしゃれなマタニティって何だよ? いつも着てる『普通』のマタニティウェアで良いからな?」

  …大和にツッコまれた…。
  いや、そうじゃなくて…!

「普通は挨拶に『行く』もんだろ? 外で会うならともかく、家に来てもらうなんておかしいだろ」
「普通はな。渚、最近は動くの大変だろ?  長時間の車移動と、着いたら着いたで慣れない場所はストレスになるんじゃないか、って母さんが言ってくれてさ」
「いや、長時間の移動…って…。病院も同じくらい…」
「それは『病院』だからだ。な、俺も心配だし、甘えても良いと思う」
「…………。…分かった」

  俺は頷いた。実際、動くのが大変なのは事実。引っ越しで別荘から此処に来る時だって、結構大変だった。うん。やっぱり大和が言うように甘えるのがベストかなぁ。俺個人としてはやっぱり失礼だよなって思うけど、今は『赤ちゃん第一』だしな。
  割り切りも大事だよな。

  ✯✯✯✯✯✯✯✯✯✯✯✯✯✯✯

  大和のご両親が我が家を訪ねてくれたのは三日後。なんと! 帰国した次の日! 申し訳ないやら、有り難いやら…。ちなみにこの日、大和は休みを取った。
  
  大和のご両親を見た俺の第一印象は…。
  若い! 超美形夫夫! もうね、ビックリ。還暦過ぎてるって聞いてたけど、全然見えないんだもん! 四十代でも通用しそう。なんなら、お兄様と兄弟でも…。あと、大和とお兄様はお義父様似だな…と思った。

  お義父様もお義母様も、とても優しく俺に接してくださった。特にお義母様は俺の大きなお腹を優しく撫でながら、赤ちゃん達に声をかけてくださって…。
  お二人は俺達の結婚を認めて、喜んでくださった。俺の事『家族』だって言ってくれた。嬉しくて、不覚にも俺は泣いてしまった。そんな俺を大和がそっと抱き締め、お義父様とお義母様が温かな微笑みを浮かべて見つめてくれる。
 
  俺が泣き止むと、既に記入済みで保証人の欄にお兄様の署名がしてある婚姻届のもう一人の保証人の欄に、お義父様が署名してくださった。
  お義父様とお義母様が帰られた後、俺達は婚姻届の提出に役場に向かった。大和は俺の体の事を考えて一人で出して来るって言ったけれど、俺は一緒に出しに行きたいの!

  役場に着いて窓口で婚姻届を提出すると、職員さんが「おめでとうございます」と言ってくれた。

  この日俺は、『一ケ瀬 渚』になったー。
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