【完結】君と紡ぐ未来〜愛しい貴方にさよならを。この『運命』を受け入れますか?〜

Kanade

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【一章】『運命の番』編

閑話 ・・・〈 side雄大 〉

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『離婚だ!』と叫ばれた時は血の気が引いた。
  勿論、私が悪いのだという事は解ってはいたが、あんなに怒るとは思わなかった。
  私は、隣で眠る愛しい妻を見つめた。結婚して五年が経ったが、愛しさは募るばかりだ。

  ーーーーーーーーーーーーーーー

  私は一ケ瀬家の長男として生まれた。我が一ケ瀬家は代々α家系で、それなりの資産を有している。両親は共にα、当然私も生後すぐにαと診断され、義務とされる三回全ての検査を経て、αと確定診断された。
  父に似たのか体格は良く、経済に興味があった私は、それなりに勉強は出来た。両親が息子の私から見ても美形なので、自分で言うのも…だが、顔の造形は悪くなかったと思う。
  学生時代はそれなりに告白もされた。それこそ、男女、α、β、Ω…。全ての性の人から。けれど、中高生の頃は恋愛事に興味はなく、交際経験は皆無。大学で初めて交際というものを経験しその相手で童貞喪失もしたが、長続きしなかった。相手の告白から始まった交際だったが、相手は私自身というより、私の『一ケ瀬』という背景が目的だったらしい。ちなみにα男性だった。それから何人かと付き合ってみたが、全員と上手くいかなかった。ので、二十代前半で早々に自分は恋愛事には向いていないのだな、と見切りをつけ、若さゆえに溜まる性欲は、後腐れない相手を選んで解消した。
  大学を卒業して父の会社に入社すると、今度はあからさまに言い寄ってくる人が増えた。私が次期社長である事は周知の事実だったからだろう。見合い話を持ってくる親戚まで現れる。私の両親は恋愛結婚で、両親は四人の子供達にも恋愛結婚を望んでいたから、見合いは全て拒否してくれていた。
  それから年月が過ぎ、三十を過ぎた頃ー。
  とうに結婚は諦めていた時、私は運命の出逢いをしたー。

  その日は仕事が早く終わり、大和を高校まで迎えに行った。迎えに行く旨を連絡した際に「友達も一緒でも大丈夫?」と返ってきたから、了解の返事をして駐車場に車を停め、車の横に立って待っていた。下校する子供達がちらちらと見ていくが気にはならない。暫くすると「兄さん」と後ろから可愛い弟の声が聞こえ、「おかえり」と振り返った瞬間、私の時間は止まり、目は釘付けになった。大和の隣を歩く少年を見て…。
  周りから雑音が消え、彼以外が見えなくなる。可愛い弟でさえも。自分の心臓の鼓動音だけがやけに大きく耳に響いた。
『一目惚れ』ー。人はそう呼ぶのだろう。隣に立つ大和よりひと回り小柄だが、少年がαである事はすぐに判った。だが、バース性など関係ない。
  私、三十一歳。朝陽、十七歳の出逢い。
  一ケ瀬雄大、遅過ぎる『初恋』だった。

  想いを伝えようにも流石に高校に押し掛ける訳にもいかず、大和にだけ胸の内を打ち明け、朝陽を呼び出してもらう事にした。大和は当然、驚いた。ひと回り以上も歳の離れた兄が、自分の友達に告白しようとしてる…など、気持ち悪いだろう。それでも、大和を介してしか彼との接点はなく…。大和は私を軽蔑する事なく「朝陽は良い子だよ」と言って、彼を呼び出してくれた。大和は彼に正直に「兄さんが会いたいんだって」と言ったらしい。「親友に嘘は吐きたくないんだ」と。だから、朝陽は呼び出された理由に薄々は気付いていたのかも知れない。
  我が家を訪ねて来た彼を庭に誘い、想いを告げた。当然、断られた。想定内だった。
  一度断られたからといって、諦めるつもりはない。彼を逃したら自分はきっと一生独り身だという自信がある。ただ、強引に距離を詰めないほうがいい事は解った。年齢差もさることながら、彼もαだ。同じαの、しかも『おじさん』と言える歳の男(自分で言ってて哀しいが)に「好きだ。付き合ってほしい」と言われて、戸惑いしかないだろう。軽蔑の眼差しを向けられなかっただけマシと思うべきだ。返事は『ノー』だったが、

「お兄さん、僕の事何も知らないでしょ。僕も知らないし。交際はちょっと…だけど、一緒に遊ぶのは大丈夫ですよ? 勿論、大和も一緒にです。でないと、お兄さん犯罪者になりますからね。だから、僕達の足になりません? 車あったら、僕達のお出掛け範囲も広がるしね」

と、朝陽は小悪魔さながらに言った。なかなか強かだが、そんな所も好ましい。今一度、チャンスを与えられた気がした。私は一も二もなく頷いた。
  それからは月に一、二度程度、大和と朝陽を連れて遠出した。私はいつも、少年達がはしゃいで笑い合うのを少し離れた場所から眺めていた。大和に向けられる自然な笑顔を私にも向けてほしい。そう思う度、まるで心の内を読まれたかの様に、朝陽がこちらを向いて微笑んでくれた。年甲斐も無く、心の中で小躍りした。愛しさは募った。

  私の想いが報われたのは、出逢いから約一年経った翌年の夏。朝陽のほうから、

「好きです。貴方の誠実さに惹かれました。雄大さん、付き合って下さい」

と、告白してくれたのだ。私は、彼が卒業するまでは二度目の告白はしない、と決めていた。まさか、朝陽からしてくれるとは思わなかった。
  当然、私の答えは『イエス』だ。私達はこの日、触れるだけのキスを交わしたー。

  こうして交際は始まったが、三人で出掛ける…というスタイルに変化はなかった。朝陽は高校生。私と彼が二人で出掛ければ、下手をすれば私が捕まってしまうから。接触も軽いキスだけに留めた。急くあまり取り返しのつかない事にならない様に。
  そして、高校の卒業式の日。私は、初めて外泊を許された朝陽と結ばれ、本格的な交際が始まったー。

  朝陽は大和と同じ専門学校に進学した。パティシエになるのが夢だという。学校に通い始めた朝陽は、「学校でお菓子作りを基礎から学ぶのは楽しい!」と、デートの度に学校での事を話す。楽しそうな朝陽の様子を見ると、私も楽しい気持ちになった。

  大人の交際を始めて一年の三月、朝陽が妊娠した。
  その半年程前に結婚を前提とした交際をしている事を両家の親に報告と挨拶はしていたものの、朝陽はまだ学生で、私が避妊を怠ったとして、両家の親にはかなりお叱りを受けた。ただ、諦めるという選択だけはしたくなかった。朝陽が『産みたい』と言ってくれたから。
  朝陽は学校を辞めるのではなく一年間の休学を選び、予定を早めて入籍した。秋に長男の葵斗(あおと)を出産し、翌年復学。一年遅れで卒業。夏に再び妊娠。翌年の春に長女の彩良(さら)を出産した。
  朝陽のパティシエになる夢は、二人目の妊娠出産により、更に先延ばしになってしまった。私は朝陽の夢の邪魔をするつもりなどなかったのに、結果として難しいものにしてしまった。
  ある日、そんな罪悪感を抱く私に朝陽は、

「僕、後悔なんてしてないからね? 葵斗も彩良も産みたくて産んだの。貴方の子だから。パティシエになれなくてもお菓子は作れるよ。僕、家族専属のパティシエになるから大丈夫」

と。
  私は朝陽を抱き締め、何度も「愛してる」と言葉にした。「僕も愛してるよ」と朝陽が返してくれる。

  結婚して五年。私の心の中心にはいつも朝陽がいる。
  朝陽がいないと息が出来ない……ー。
  
  
  
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