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【一章】『運命の番』編
41 離れられない
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大和が俺を手招きする。
俺はおいでおいでと招く手に惹き寄せられて、大和の腕の中に再び収まった。
「渚、愛してる」
「俺も、大和を愛してる」
互いに愛の言葉を交わし、微笑み合う。
大和は俺を腕の中に閉じ込めたまま、今度はお兄様を呼んだ。
「兄さん、こっち来て」
それに応えてお兄様と、そして門脇さんも俺達の所に来た。
「兄さん、ありがとう。渚を見つけてくれて」
「あんなお前を見たら放っておけないだろう?」
「うん。俺、最悪だったね」
「遅過ぎる反抗期だと思えば、腹も立たんさ。お前には反抗期らしい反抗期は無かったからな。聞き分けが良い子過ぎたんだ。お前に反抗期が無かった代わりに、莉子が酷かった」
「そうでございましたねぇ…」
俺は大和に抱き竦められたまま三人の会話を聞いてたんだけど。だって、水差したくないし。
でも、りこ? 誰だろう? 妹さん…かな…。
初めて聞く名前だったから、そんな事考えてたんだけど。そしたら大和が「莉子は妹だよ」と耳打ちしてくれた。
お兄様も俺が頭の中で考えてた事の答え、俺何も訊いてないのに教えてくれたけど、大和もなの? 俺、考えてる事、顔に出てるの?
あとそれと! 大和! 耳元で囁かないで! 擽ったいし! ゾクゾクしちゃうし! 変な声、出ちゃうから!
そんな俺の様子を他所に、彼らの会話は続く。
「莉子といえば…。兄さん、俺が入院した事、父さんと母さんには…」
「ああ。まだ言ってない。そもそも、今アメリカにいるから。年末からアメリカ支社に出張中。連絡してもすぐには帰って来られないし、私自身が状況を把握してなかったからな。まず、お前に何があったのか確認しようとすれば、頑なに何も語らないから困った」
「ごめん、て。反省してます」
「ん? えらく殊勝だな。ああ、渚君の前だからか。
ああ、ちなみに、父さんと母さんだけじゃなくて、誰にも言ってないからな。私と門脇だけしか知らない」
「え? そうなの? ああ、だからか。兄さんと門脇以外、誰も来ないから。別にお見舞いに来てほしい訳じゃないけどさ。莉子も朝陽も俺の入院を知れば、絶対突撃して来そうだもん。大智兄さんも電話くらいしてくるだろうし」
「まあ、否定は出来ないな」
兄弟は頷き合い、俺はといえば…。
また、知らない名前が出てきたけど、家族かな?
すると再び大和が俺の耳元に唇を寄せ、「大智は俺のすぐ上の兄さん。で、朝陽は雄大兄さんの奥さん」と、囁き声で教えてくれた。
けど!
だから! 耳元で囁かないで!
顔を上げて大和を睨み付ければ、目に飛び込んできたのは「どうしたの?」と無言で語る大和の笑顔。
~~~~~!
おまっ…! わざとっ…!? わざとなのっ!?
更に強く睨み付ければ、ちゅっ、とおでこにチューされた。
「なっ……!」
誤魔化したなっ! 大和めっ…!
「大和、止めて上げなさい」
呆れがちな溜め息を付きながら、お兄様が大和を窘めてくれる。さすが兄。弟の所業をよく見ていらっしゃる。
「ごめんごめん。あんまり可愛いからつい…」
つい…じゃないっ…!
せめて…せめてっ…二人きりの時にして!!
さっきは二人の前で堂々とキスした事を棚に上げて、心の中で叫んだ俺だったー。
でも、嬉しさも感じていたんだ。
何日も無気力だったという大和が、俺が会いに来ただけで感情を取り戻して、泣いたり笑ったり。それと、ほんの少しの意地悪…。俺は大和を酷く傷付けたのに、それでも俺を求めてくれる。
αだからすぐに立ち直る…なんて間違いだった。αではなく、一人の男として俺を愛してくれた大和は、Ωじゃない『渚』という一人の男をずっと求めてくれていた。俺達がαとΩである事実は変わらないけれど、別に分けて考える必要なんかなかった。だって『愛してる』んだから。体だけを求める本能じゃなく、心もお互いを求めてるんだから。
それで良いんじゃない?
大和はそれを伝えてくれたのに拒んだのは俺だから、今更調子がいいのは解ってるよ? でもさ、こんな俺でも大和が求めてくれるんなら、今度こそ傍にいようって思うんだ。赤ちゃん達もいるしね。
「渚、怒ってる?」
無言になった俺に不安を感じたのか、大和が俺を見つめて訊く。しゅんとする大和の頭に、へにゃんと垂れた犬の耳が見える…様な気がする。
俺は腕を伸ばして彼の頭を撫でた。
「怒ってないよ。怒ってはないんだけどね…」
「う…うん…」
「意地悪はしないでほしいかなぁ。俺、泣いちゃうよ? 暫く口聞かないかも知んない」
「!!!」
大和の顔が青くなる。俺の言葉にショックを受けた様だ。
ほんの少しの意趣返し。これくらいは許してね。
「しない! もうしないから!」
「うん」
俺が笑顔で頷けば、大和は安堵の息を吐いた。
「渚に嫌われたら、俺、生きていけない…」
「俺もだよ」
本当にそう思う。今となっては、どうして二度も大和から離れられたのか…とすら思うくらいだ。
大和からは変わらずフェロモンは感じられないのに、彼の腕の中はこんなにも落ち着く。
結局俺は、お兄様に声を掛けられるまで、大和の両腕に包まれていたー。
俺はおいでおいでと招く手に惹き寄せられて、大和の腕の中に再び収まった。
「渚、愛してる」
「俺も、大和を愛してる」
互いに愛の言葉を交わし、微笑み合う。
大和は俺を腕の中に閉じ込めたまま、今度はお兄様を呼んだ。
「兄さん、こっち来て」
それに応えてお兄様と、そして門脇さんも俺達の所に来た。
「兄さん、ありがとう。渚を見つけてくれて」
「あんなお前を見たら放っておけないだろう?」
「うん。俺、最悪だったね」
「遅過ぎる反抗期だと思えば、腹も立たんさ。お前には反抗期らしい反抗期は無かったからな。聞き分けが良い子過ぎたんだ。お前に反抗期が無かった代わりに、莉子が酷かった」
「そうでございましたねぇ…」
俺は大和に抱き竦められたまま三人の会話を聞いてたんだけど。だって、水差したくないし。
でも、りこ? 誰だろう? 妹さん…かな…。
初めて聞く名前だったから、そんな事考えてたんだけど。そしたら大和が「莉子は妹だよ」と耳打ちしてくれた。
お兄様も俺が頭の中で考えてた事の答え、俺何も訊いてないのに教えてくれたけど、大和もなの? 俺、考えてる事、顔に出てるの?
あとそれと! 大和! 耳元で囁かないで! 擽ったいし! ゾクゾクしちゃうし! 変な声、出ちゃうから!
そんな俺の様子を他所に、彼らの会話は続く。
「莉子といえば…。兄さん、俺が入院した事、父さんと母さんには…」
「ああ。まだ言ってない。そもそも、今アメリカにいるから。年末からアメリカ支社に出張中。連絡してもすぐには帰って来られないし、私自身が状況を把握してなかったからな。まず、お前に何があったのか確認しようとすれば、頑なに何も語らないから困った」
「ごめん、て。反省してます」
「ん? えらく殊勝だな。ああ、渚君の前だからか。
ああ、ちなみに、父さんと母さんだけじゃなくて、誰にも言ってないからな。私と門脇だけしか知らない」
「え? そうなの? ああ、だからか。兄さんと門脇以外、誰も来ないから。別にお見舞いに来てほしい訳じゃないけどさ。莉子も朝陽も俺の入院を知れば、絶対突撃して来そうだもん。大智兄さんも電話くらいしてくるだろうし」
「まあ、否定は出来ないな」
兄弟は頷き合い、俺はといえば…。
また、知らない名前が出てきたけど、家族かな?
すると再び大和が俺の耳元に唇を寄せ、「大智は俺のすぐ上の兄さん。で、朝陽は雄大兄さんの奥さん」と、囁き声で教えてくれた。
けど!
だから! 耳元で囁かないで!
顔を上げて大和を睨み付ければ、目に飛び込んできたのは「どうしたの?」と無言で語る大和の笑顔。
~~~~~!
おまっ…! わざとっ…!? わざとなのっ!?
更に強く睨み付ければ、ちゅっ、とおでこにチューされた。
「なっ……!」
誤魔化したなっ! 大和めっ…!
「大和、止めて上げなさい」
呆れがちな溜め息を付きながら、お兄様が大和を窘めてくれる。さすが兄。弟の所業をよく見ていらっしゃる。
「ごめんごめん。あんまり可愛いからつい…」
つい…じゃないっ…!
せめて…せめてっ…二人きりの時にして!!
さっきは二人の前で堂々とキスした事を棚に上げて、心の中で叫んだ俺だったー。
でも、嬉しさも感じていたんだ。
何日も無気力だったという大和が、俺が会いに来ただけで感情を取り戻して、泣いたり笑ったり。それと、ほんの少しの意地悪…。俺は大和を酷く傷付けたのに、それでも俺を求めてくれる。
αだからすぐに立ち直る…なんて間違いだった。αではなく、一人の男として俺を愛してくれた大和は、Ωじゃない『渚』という一人の男をずっと求めてくれていた。俺達がαとΩである事実は変わらないけれど、別に分けて考える必要なんかなかった。だって『愛してる』んだから。体だけを求める本能じゃなく、心もお互いを求めてるんだから。
それで良いんじゃない?
大和はそれを伝えてくれたのに拒んだのは俺だから、今更調子がいいのは解ってるよ? でもさ、こんな俺でも大和が求めてくれるんなら、今度こそ傍にいようって思うんだ。赤ちゃん達もいるしね。
「渚、怒ってる?」
無言になった俺に不安を感じたのか、大和が俺を見つめて訊く。しゅんとする大和の頭に、へにゃんと垂れた犬の耳が見える…様な気がする。
俺は腕を伸ばして彼の頭を撫でた。
「怒ってないよ。怒ってはないんだけどね…」
「う…うん…」
「意地悪はしないでほしいかなぁ。俺、泣いちゃうよ? 暫く口聞かないかも知んない」
「!!!」
大和の顔が青くなる。俺の言葉にショックを受けた様だ。
ほんの少しの意趣返し。これくらいは許してね。
「しない! もうしないから!」
「うん」
俺が笑顔で頷けば、大和は安堵の息を吐いた。
「渚に嫌われたら、俺、生きていけない…」
「俺もだよ」
本当にそう思う。今となっては、どうして二度も大和から離れられたのか…とすら思うくらいだ。
大和からは変わらずフェロモンは感じられないのに、彼の腕の中はこんなにも落ち着く。
結局俺は、お兄様に声を掛けられるまで、大和の両腕に包まれていたー。
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