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【一章】『運命の番』編
30 大和に会いに…
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翌朝、俺は電車に揺られながら、一ヶ月前に『もう此処に来るのは止めよう』と決めた故郷に向かっていた。何故なら、大和が入院しているという病院の最寄り駅が『そこ』だから。
昨日、門脇さんから話を聞いた俺は、「大和に会わなければ…」と思った。その場の勢いで、すぐにでも…と言い出しそうだった俺を、門脇さんは止めた。大和は病院に搬送された後も丸一日意識がなかったが、診断は栄養不良による衰弱で、二日目には目を覚まし、少しずつ回復しつつあるから、慌てる必要はない、と。
大和が回復しつつある事に安堵しつつ、俺は少し冷静になって考えた。行けば恐らく数日は帰ってこられない。確かに勢いで行動する訳にはいかないと覚った俺は、施設に戻り、施設長に話をして数日の休みをもらった。先月からこっち、不測の事態で休みばかりもらう事に申し訳無さが募る俺に、状況次第では何日でも延長しますからね、と快く送り出してくれた彼には、本当にいつも感謝しかない。
ちなみに、門脇さんに「明日の朝出発する」と連絡したら、「車でお迎えに伺います」と言われ、俺は即座に固辞。電車で行くと伝えた。
だってさぁ、目的地までは順調にいっても車で約三時間。運転手はβらしいが、三時間もの長時間を車内という狭い空間にαと一緒…など、耐えられない。だから、俺は電車で行くから最寄り駅までの迎えをお願いした。そこからなら、そう長い時間でもないだろうから。
約束通り、門脇さんは駅前のパーキングで待っていてくれた。運転手付きで。
いや、確かに待ち合わせ駅前に指定したのは俺だけどさ。駅前のパーキングに似つかわしくない黒塗りの外車…。俺、車の事は詳しくないけど、うん、何となく判る。テレビとかで良く見るやつ。すっごい高価な外車だって事は…。何か、周りの人、チラチラ見てるし…。運転手付きの外車の脇に、ビシッとスーツを着て姿勢正しく立つ紳士。そりゃあ、見るよね? 俺だってただの通りすがりだったら見るわ。なんなら、二度見するわ。
けど、残念ながら俺のお迎え…。庶民服の俺……。
周りの視線が居た堪れなくて、俺は挨拶もそこそこに車に乗り込んだ。門脇さんが乗ったのを確認して、運転手さんに即出発を促す。何様だよ、俺…。
車は無事パーキングを出たけど、車の乗り心地は最高の一言に尽きる。シートふかふかだし、エンジン音も静かだし、あんまり揺れない。流石、一ケ瀬家…。
目的を考えれば、俺のこの態度は有り得ないとは思う。緊張感も焦燥感が感じられなく見えるかも知れない。でも、それくらい明るく前向きに考えたり振る舞ってないと、『何か』に押し潰されそうなんだ。意識を取り戻して回復しつつあるって聞いても、もしかしなくても大和がそうなった原因は俺なんじゃないか、とか、会いたいけれど何もかも今更なんじゃないか、とか……。
不安…。そう、不安なんだ……。
内に秘めた緊張からの精神的な疲労と、ふかふかのシートの心地良さが相まって、朝早かった俺は、気が付くと寝ていた…らしい。
「到着しました」との声で目を覚ました俺は、車窓から周りを見回した。病院に着いたらしい。
車から降りる前に、大和の現状を教えてもらった。
大和が入院しているのは上階のVIPルーム…もとい特別個室である事。入院二日目で目を覚ました事には安堵したものの、衰弱からの体力低下で更に一日、起き上がれなかった事。発見される前の数日は水以外口にしていなかったらしく、胃に負担をかけない為に柔らかいものから少しずつ食事を摂る様にして、今は少ないながらも普通の食事が摂れる様になった事。今はまだ起きてもぼんやりしている事が多く、一日何度も寝ては起きて…を繰り返しているのだという。目覚めて五日。栄養状態は回復しつつあるが、歩いていない為、多少は脚の筋力も落ちているだろうが、それ程長い期間ではない為、体力が回復すれば歩行も含めて普通の生活に戻るのは直ぐだろうと言われている事。
ただ、問題なのは『心』。何故この様な事態になったのか、何があったのかを大和は何一つ語らず、大和の兄は困り果てた。解決しなければ同じ事の繰り返し。
そこで、メモに書かれた『渚』という名前に焦点を当てた。『渚』とは一体誰なのか。男性か、女性なのか。バース性は? 友達か、それとも恋人なのか…。
『渚』という人物を捜す事にした。何かを知っているのではないか、と。
大和の交友関係をあたり、当時のバイト先だったカフェを訪ね、『渚』とは大和の恋人だった事を聞いた。バース性はΩ。そして、ある日突然姿を消した…という事も。理由も原因も判らないが、自ら姿を消したΩの行き先に粗方の目星をつけ、そして、若干の権力を使って俺を捜し出した…という事らしい。しかも僅か三日で。権力のある人って怖い…と思った。俺がシェルターに身を寄せた意味って……。
俺と門脇さんは車を降りた。当たり前だけど、運転手さんは待機らしい。
病院の正面玄関から入り、そのまま大和が入院している病室に向かうのかと思ったら、先に大和のお兄様に会ってほしいとの事で、通されたのは、院長室の隣の応接室。いや、間違いなく関係者以外立ち入り禁止のエリアだろ…。そこを借りられるって……。
うん。考えるのは止めよう。怖いから。
門脇さんがドアをノックする。中から低音ボイスで返事が返ると、ドアが開かれた。
入り口から中を伺えば、ソファーに座る一人の男性。恐らく彼が大和の兄だろう。大和に似ているから。
俺は「失礼します」と軽く会釈してから、室内に足を踏み入れた。
この時俺は、自分が妊娠している事を忘れていたー。
昨日、門脇さんから話を聞いた俺は、「大和に会わなければ…」と思った。その場の勢いで、すぐにでも…と言い出しそうだった俺を、門脇さんは止めた。大和は病院に搬送された後も丸一日意識がなかったが、診断は栄養不良による衰弱で、二日目には目を覚まし、少しずつ回復しつつあるから、慌てる必要はない、と。
大和が回復しつつある事に安堵しつつ、俺は少し冷静になって考えた。行けば恐らく数日は帰ってこられない。確かに勢いで行動する訳にはいかないと覚った俺は、施設に戻り、施設長に話をして数日の休みをもらった。先月からこっち、不測の事態で休みばかりもらう事に申し訳無さが募る俺に、状況次第では何日でも延長しますからね、と快く送り出してくれた彼には、本当にいつも感謝しかない。
ちなみに、門脇さんに「明日の朝出発する」と連絡したら、「車でお迎えに伺います」と言われ、俺は即座に固辞。電車で行くと伝えた。
だってさぁ、目的地までは順調にいっても車で約三時間。運転手はβらしいが、三時間もの長時間を車内という狭い空間にαと一緒…など、耐えられない。だから、俺は電車で行くから最寄り駅までの迎えをお願いした。そこからなら、そう長い時間でもないだろうから。
約束通り、門脇さんは駅前のパーキングで待っていてくれた。運転手付きで。
いや、確かに待ち合わせ駅前に指定したのは俺だけどさ。駅前のパーキングに似つかわしくない黒塗りの外車…。俺、車の事は詳しくないけど、うん、何となく判る。テレビとかで良く見るやつ。すっごい高価な外車だって事は…。何か、周りの人、チラチラ見てるし…。運転手付きの外車の脇に、ビシッとスーツを着て姿勢正しく立つ紳士。そりゃあ、見るよね? 俺だってただの通りすがりだったら見るわ。なんなら、二度見するわ。
けど、残念ながら俺のお迎え…。庶民服の俺……。
周りの視線が居た堪れなくて、俺は挨拶もそこそこに車に乗り込んだ。門脇さんが乗ったのを確認して、運転手さんに即出発を促す。何様だよ、俺…。
車は無事パーキングを出たけど、車の乗り心地は最高の一言に尽きる。シートふかふかだし、エンジン音も静かだし、あんまり揺れない。流石、一ケ瀬家…。
目的を考えれば、俺のこの態度は有り得ないとは思う。緊張感も焦燥感が感じられなく見えるかも知れない。でも、それくらい明るく前向きに考えたり振る舞ってないと、『何か』に押し潰されそうなんだ。意識を取り戻して回復しつつあるって聞いても、もしかしなくても大和がそうなった原因は俺なんじゃないか、とか、会いたいけれど何もかも今更なんじゃないか、とか……。
不安…。そう、不安なんだ……。
内に秘めた緊張からの精神的な疲労と、ふかふかのシートの心地良さが相まって、朝早かった俺は、気が付くと寝ていた…らしい。
「到着しました」との声で目を覚ました俺は、車窓から周りを見回した。病院に着いたらしい。
車から降りる前に、大和の現状を教えてもらった。
大和が入院しているのは上階のVIPルーム…もとい特別個室である事。入院二日目で目を覚ました事には安堵したものの、衰弱からの体力低下で更に一日、起き上がれなかった事。発見される前の数日は水以外口にしていなかったらしく、胃に負担をかけない為に柔らかいものから少しずつ食事を摂る様にして、今は少ないながらも普通の食事が摂れる様になった事。今はまだ起きてもぼんやりしている事が多く、一日何度も寝ては起きて…を繰り返しているのだという。目覚めて五日。栄養状態は回復しつつあるが、歩いていない為、多少は脚の筋力も落ちているだろうが、それ程長い期間ではない為、体力が回復すれば歩行も含めて普通の生活に戻るのは直ぐだろうと言われている事。
ただ、問題なのは『心』。何故この様な事態になったのか、何があったのかを大和は何一つ語らず、大和の兄は困り果てた。解決しなければ同じ事の繰り返し。
そこで、メモに書かれた『渚』という名前に焦点を当てた。『渚』とは一体誰なのか。男性か、女性なのか。バース性は? 友達か、それとも恋人なのか…。
『渚』という人物を捜す事にした。何かを知っているのではないか、と。
大和の交友関係をあたり、当時のバイト先だったカフェを訪ね、『渚』とは大和の恋人だった事を聞いた。バース性はΩ。そして、ある日突然姿を消した…という事も。理由も原因も判らないが、自ら姿を消したΩの行き先に粗方の目星をつけ、そして、若干の権力を使って俺を捜し出した…という事らしい。しかも僅か三日で。権力のある人って怖い…と思った。俺がシェルターに身を寄せた意味って……。
俺と門脇さんは車を降りた。当たり前だけど、運転手さんは待機らしい。
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うん。考えるのは止めよう。怖いから。
門脇さんがドアをノックする。中から低音ボイスで返事が返ると、ドアが開かれた。
入り口から中を伺えば、ソファーに座る一人の男性。恐らく彼が大和の兄だろう。大和に似ているから。
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