【二章まったり更新中】君と紡ぐ未来〜愛しい貴方にさよならを。この『運命』を受け入れますか?〜

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【一章】『運命の番』編

28 大和に会いたい

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「渚先生、貴方に面会希望です」
「?  面会…?」

  洗濯したシーツを干す手を止めて、俺は首を傾げた。
  俺はシェルターに来る時、数少ない知人との連絡の一切を絶った。連絡先の入った携帯も解約した。
  シェルターに避難してきたΩは、国の援助でシェルターを出た後も、徹底してその存在が護られる。Ω本人が所在を教えない限り、今後の交流を拒否する相手として登録した人物には、決して所在は明かされない。
  俺は『全て』の人物との接触を拒否した。知り合いでも知り合いでなくても。
  その俺に面会…?  何故…?  本人の希望がない限り、所在は教えないのではなかったのか…?

  施設長は朝早くから役所に出掛けていた。呼び出されたからだ。施設の責任者として役所に出向く事はよくあるから、俺も同僚の先生も不思議に思わず送り出したのだけれど、もしかして今日の呼び出しは…。

「今日の呼び出しは、俺への面会の打診ですか?」
 
  率直に訊けば、施設長は頷いた。

「何故?  俺は拒否登録してある筈ですけど…」
「それは承知していますが…。ちなみに、面会を希望している方はα性の方です」
「…!  …α……」

  まさか、大和…?

「αですが、五十代の方です」

  あ、違った…。でも、そんな年代のαの知り合いなんかいなかった筈だけど…。というか、そもそも親しいαは大和しか知らないけれども…。

「俺に元彼以外のαの知り合いなんていませんけど」
「ええ。相手の方も貴方とは直接の面識はないと仰っていました」
「会われたんですか?」
「はい。男性ですが、とても紳士的な方で、服装にもどこか品があったので、それなりの家の方ではないかと…」
「………。心当たりはありませんが…。何故、俺に会いに来たのでしょう?  それ以前に、俺の居場所を探したって事ですよね?」

  俺の所在は秘匿されている筈なのに…。

「私も詳しくは聞いていませんが、貴方がΩである事を知ったうえで、貴方を捜した様です。国の上層部にも顔が効くらしく…。貴方を捜していた理由は聞いていません。
  渚先生、貴方には拒否する権利があります。強制ではありません。お相手がどんな権力を使おうと、貴方はΩ保護法に護られます。誰にも…たとえ国でさえも、強制出来ません。貴方が了承しても拒否しても、貴方の居場所を誰にも絶対に公表しない旨の公的誓約書をお相手の方に書かせて、違反したら罪に問われます。それは理解なさっています。そのうえで、貴方に訊いてみてほしい、と…」
「……………」

  無理して会う必要はないと思う。俺には、その紳士的なα?に心当たりはないし…。
  ……………。
  実は、全く心当たりがない訳でもない。確信がある訳じゃないし、もしかしたら…程度だけど。あ、面会希望の人は知らないよ。ただ、関係性が…。

「会います」

  会ってみようと思った。

「いいのですか?」
「はい。会って訊いてみようと思います。その紳士な人には心当たりはないし、αとは出来れば関わりたくないですけど。でもその人、国の力を借りてまで俺を捜したんでしょう?  だったら、理由くらいは訊いてみてもいいかな、って。あ、でも、場所は人の多い場所で。中年といえど、αと二人で密室はお断りします」

  Ωは四十過ぎた頃から発情期は徐々に無くなっていくけど、αやβの男は五十代でも男盛りだからな。

「当然です。先方にはそう伝えましょう。人目のある場所以外では会えない、と。面会を了承してもらえたら可能な限り早く…との事でしたので、明日はちょうど渚先生は休息日でしょう?  明日会える段取りをつけます」
「お願いします」

  面会希望の人とは、翌日の午前十時に会う事になった。

          ❈❈❈❈❈❈❈❈❈❈❈❈❈❈❈

  待ち合わせは駅前のカフェ。駅前だから店内にはそれなりに客は多いし、駅前通りに面しているから人通りも多い。指定したのは施設長だ。
  どんな話かは知らないし、他人に聞かれて良いのか悪いのかも判らないけれど、俺の知ったこっちゃない。いくら紳士的とはいえαはα。こっちはΩなんだから、自衛くらいする。

  カフェに到着した俺は、店内をさっと見渡した。

「あの人…かな?」

  隅の方のテーブル席にそれらしき人を見つけて視線を止めると、相手も俺に気付いたらしく席を立ち、頭を下げた。確かに紳士的…ではある。一月だからコートを着ていたけれど、なんか、コートの下はビシッとスーツを着こなしているっぽい。
  対して俺は、ニットのセーターとジーンズで、上着はダッフルコート。思いっ切り、普段のお出掛けスタイルだ。
  俺はそれらしき人を見つけただけだけど、相手はきっと俺の顔を知っている。
  俺は相手に近付くと、改めて会釈した。相手も返してくれて、すすめられるままに向かいの椅子に座る。
  先に注文を済ませ、二人の前にそれぞれ頼んだ飲み物が置かれてから、相手かわ先に口を開いた。

「急な面会の申し込みに応じていただき、ありがとうございます。御崎渚様でございますね?」
「はい。あの…貴方は……」
「失礼いたしました。私は一ケ瀬家筆頭執事の門脇と申します」

  名刺を差し出しながら名乗る。

「……………」

  一ケ瀬……。繋がった気がした。

「単刀直入に伺います。大和様をご存知ですね?」
「……………。…はい」

  頷いた。確信があるみたいだし、誤魔化す意味なんかないと即座に理解した。

「大和様とのご関係をお伺いしても?」
「…元…恋人です…」
「………。やはり、そうですか……」
「でも、別れたんです。なのに、何故…。もしかして、大和が俺を捜してるんですか?」

  円満な別れ方だとは言い難いのは確かだけれど…。

「いいえ。貴方を捜したのは、私と大和様のお兄様の一存でございます」
「大和のお兄様の?  どうしてですか?  俺は新たな生活を求めて此処に来たんです。何故、権力を使ってまで捜すんですか。秘匿事項じゃないんですか」

  はっきり言って、プライバシーの侵害である。

「それについては、後ほど如何様にも罰をお受けします。今は私の話を聞いて頂きたく存じます」
「…話ってなんですか?」

  元から話を聞くのが目的だ。俺は訊いた。

「今、大和様は入院されているのです」
「…!  えっ…?」

  唖然とした。
  大和が入院…?  どこか悪いのだろうか…。
  嫌いで別れた訳じゃない。入院していると聞けば心配にもなる。そんな権利、無いのだろうけれど。

「病気…なんですか…?」
「……………。ある意味では…」
「…?  ある意味?」
「大和様は自宅のベッドの上で衰弱した状態で発見されました。発見したのは私です」
「なっ…!?  どっ…どうして……」

  悲痛な面持ちの門脇さんが首を横に振る。

「判りません。大和様は意識は取り戻されましたが、何も語らないのです。枕元に、貴方に宛てたと思しきメモがありました。そのメモには『渚』としか書かれていなかったので、当時の大和様の身辺を調べ、貴方のフルネームとΩである事を突き止めました。ですが、貴方の所在は不明。Ωならもしかして…と一縷の望みを掛けて居場所を突き止めました。貴方なら何かご存知かも知れない、と…」

  知らない…と言えたらどんなに良かったか…。
  もし俺が一方的に告げた別れが原因なら、『関係ない』とは言えないから…。
  本当に関係ない可能性もあるけれど……。
  
  門脇さんは「一緒に来て頂けませんか?」と言った。
  断る事も出来た。けれど、聞いてしまったら「会わなければ…」と思った。今更会ってどうするのか…と言われれば、どうすればいいのか、自分でも解らない。
  でも今は、どうしようもなく大和に会いたかったー。
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