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【一章】『運命の番』編
5 大和のアパート
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「…俺、何やってんだろ…」
ラグの上に膝を抱えて座り、俺は独りごちた。
今俺は、大和が一人暮らしをしているアパートのリビングにいる。
突如降り出した雨は止むどころか、どんどんその勢いは増した。慌てて二人で雨宿り出来る所に避難したものの、一向に止む気配はなく…。
雨具を持参しなかった事を俺が内心で悔いていると、大和が「泊まるとこは?」と訊いてきたから、「決まってない」と実際に決めてなかったから正直にそう返せば、「じゃあウチに来い。そんなに遠くないから」と、半ば強引に大和の家に連行されてしまった。嘘でも「決まってる」と言えば良かったかも…と不意に思ったが、その考え自体が無駄だったかも…と思い至った。大和の事だ。「決まってる」などと言えば「送ってく」って言いそうだ。いや、絶対言う…。
そんなわけで、有無を言わさず連行された俺は、真っ先に風呂場に押し込まれた。大概、二人とも濡れネズミだったから、「先に風呂に入れ」というやや冷めた言葉とともに…。
なので、有り難く先に風呂を使わせてもらった俺。家主の大和に先を譲ろうとしても、彼は頷かないだろうから。
手早くシャワーを浴びて浴室から出た俺は、着替えがない事に気付いた。風呂場に押し込まれた時に手にしていたバッグに下着は入っている。荷物を最小限にする為に圧縮袋に入れてあるから無事だろう。だが、寝間着はホテルのを拝借するつもりだったし、一泊だから今日着ていた服を明日も着るつもりだったから、着替えは持参していない。
困った…。困ったが、このまま風呂場を占領するわけにもいかず、仕方なく、ボクサーパンツと肌着代わりのTシャツのみを身に着けてリビングに向かった。
下着姿で登場した俺に一瞬、訝しげな表情をした大和は察したらしく、奥の寝室らしき部屋から一組のスウェットを持ってきてくれ、俺にそれを手渡すと、自身もシャワーを浴びる為に風呂場に消えた。
一人残されたリビングで手渡された服を着ようと広げた俺は…。泣きそうになった。
だって、この服は…。スウェットは……。
まだ俺が大和の傍にいた頃、大和の家に泊まる時に着る為に大和の家に置いていたものだったから…。
俺が連行されて今居る部屋は、『あの頃』住んでいた部屋じゃない。いつ引っ越したかは知らないが、引っ越しの際にも捨てずに持ってきたのだろう。俺の私物なんか捨ててくれてもよかったのに…。
この六年、本当に俺を待っていたというのだろうか。
そんな価値、俺にはないのに……。
「…大和…」
小さく、愛しい人の名前を呟いた…。
「…あったかいな…」
膝を抱き込むように抱え直した時、大和が風呂場から戻って来た。
そしてー。
「メシは?」
「…え?」
「メシだよ。ご飯。あそこでメニュー見てたって事は、腹減ってたんだろ?」
「…あ…」
ぐぅ~………
大和に指摘されて思い出した瞬間に、空腹を訴えて腹の虫が鳴いた。
…は…恥ずかしい………
「…朝食べてから、何も食べてない…」
俺が白状すると、大和はわざとらしく大きな溜め息を吐き、「ちょっと待ってろ」と言って、リビングと一体の対面キッチンに立った。
冷蔵庫から食材を出して手際良く調理していく大和。話の流れから、俺の為に何かを作ってくれているのだろう。程なくして良い匂いが漂ってくると、僅か十分足らずで完成した料理が、ダイニングテーブルに並べられた。
メニューはチャーハンと生野菜サラダ。
「有り合わせで悪いが、食べろ」
俺は素直に席に着いた。
「いただきます」、と手を合わせてから食べ始める。
空腹だった事を抜きにしても、美味しかった。夢中で食べ進め、完食。「ごちそうさまでした」、ともう一度手を合わせてから箸を置いた。「お粗末様」、と大和も返してくれた。
ラグの上に膝を抱えて座り、俺は独りごちた。
今俺は、大和が一人暮らしをしているアパートのリビングにいる。
突如降り出した雨は止むどころか、どんどんその勢いは増した。慌てて二人で雨宿り出来る所に避難したものの、一向に止む気配はなく…。
雨具を持参しなかった事を俺が内心で悔いていると、大和が「泊まるとこは?」と訊いてきたから、「決まってない」と実際に決めてなかったから正直にそう返せば、「じゃあウチに来い。そんなに遠くないから」と、半ば強引に大和の家に連行されてしまった。嘘でも「決まってる」と言えば良かったかも…と不意に思ったが、その考え自体が無駄だったかも…と思い至った。大和の事だ。「決まってる」などと言えば「送ってく」って言いそうだ。いや、絶対言う…。
そんなわけで、有無を言わさず連行された俺は、真っ先に風呂場に押し込まれた。大概、二人とも濡れネズミだったから、「先に風呂に入れ」というやや冷めた言葉とともに…。
なので、有り難く先に風呂を使わせてもらった俺。家主の大和に先を譲ろうとしても、彼は頷かないだろうから。
手早くシャワーを浴びて浴室から出た俺は、着替えがない事に気付いた。風呂場に押し込まれた時に手にしていたバッグに下着は入っている。荷物を最小限にする為に圧縮袋に入れてあるから無事だろう。だが、寝間着はホテルのを拝借するつもりだったし、一泊だから今日着ていた服を明日も着るつもりだったから、着替えは持参していない。
困った…。困ったが、このまま風呂場を占領するわけにもいかず、仕方なく、ボクサーパンツと肌着代わりのTシャツのみを身に着けてリビングに向かった。
下着姿で登場した俺に一瞬、訝しげな表情をした大和は察したらしく、奥の寝室らしき部屋から一組のスウェットを持ってきてくれ、俺にそれを手渡すと、自身もシャワーを浴びる為に風呂場に消えた。
一人残されたリビングで手渡された服を着ようと広げた俺は…。泣きそうになった。
だって、この服は…。スウェットは……。
まだ俺が大和の傍にいた頃、大和の家に泊まる時に着る為に大和の家に置いていたものだったから…。
俺が連行されて今居る部屋は、『あの頃』住んでいた部屋じゃない。いつ引っ越したかは知らないが、引っ越しの際にも捨てずに持ってきたのだろう。俺の私物なんか捨ててくれてもよかったのに…。
この六年、本当に俺を待っていたというのだろうか。
そんな価値、俺にはないのに……。
「…大和…」
小さく、愛しい人の名前を呟いた…。
「…あったかいな…」
膝を抱き込むように抱え直した時、大和が風呂場から戻って来た。
そしてー。
「メシは?」
「…え?」
「メシだよ。ご飯。あそこでメニュー見てたって事は、腹減ってたんだろ?」
「…あ…」
ぐぅ~………
大和に指摘されて思い出した瞬間に、空腹を訴えて腹の虫が鳴いた。
…は…恥ずかしい………
「…朝食べてから、何も食べてない…」
俺が白状すると、大和はわざとらしく大きな溜め息を吐き、「ちょっと待ってろ」と言って、リビングと一体の対面キッチンに立った。
冷蔵庫から食材を出して手際良く調理していく大和。話の流れから、俺の為に何かを作ってくれているのだろう。程なくして良い匂いが漂ってくると、僅か十分足らずで完成した料理が、ダイニングテーブルに並べられた。
メニューはチャーハンと生野菜サラダ。
「有り合わせで悪いが、食べろ」
俺は素直に席に着いた。
「いただきます」、と手を合わせてから食べ始める。
空腹だった事を抜きにしても、美味しかった。夢中で食べ進め、完食。「ごちそうさまでした」、ともう一度手を合わせてから箸を置いた。「お粗末様」、と大和も返してくれた。
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