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【一章】『運命の番』編
1 予期せぬ再会
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『俺』は一年振りに、その駅に降り立った。
小さなボストンバッグ一つを手に駅のホームを出た俺は、視界に飛び込んできた陽射しの眩しさに目を細める。
十九歳まで住んでいた街、高校生の頃は学校に通う為にほぼ毎日利用した駅、卒業してからも度々利用したその駅は、二十五歳になった今は年に一度だけ『とある目的』の為に訪れるが、生まれ育った故郷でもある街なのに、俺の胸にはいつも、懐かしさより苦い思い出が去来した。楽しい思い出だって数え切れないくらいあった筈なのに…。
十二月初旬。季節は冬ー。
年に一度の帰郷の目的は『墓参り』。一般的には夏の盆辺りにするものだと思うが、俺はとある事情から毎年冬にしていた。
腕時計で時刻を確認すると午後二時を廻ったところ。まだ陽は高いが、墓参りは明日にしたほうがいいだろう。何しろ、目的の霊園までは二時間のバス移動の後、徒歩でさらに一時間。今の時期、到着する頃には辺りは薄暗くなっているだろう。場所はかなり田舎なので、戻って来る前に暗闇で動けなくなってしまう。
そもそもこの墓参り目的の帰郷、昨年までは夜だったのだ。夜に街に到着して格安のホテルに一泊。朝早くに霊園に向かっていたから。
生まれ育ったこの街には、少ないながらも当然知り合いがいる。出来れば知り合いには会いたくなかったのだ。特に『彼』にはー。
それなのに、今年は『何故か』この時間を選んでしまい…。
とはいえ、既に到着してしまったものは仕方がない。
朝食べたきり何も口にしていないせいか、体が空腹を訴えている。宿泊先を探すのは後回しにして、取り敢えず空腹を満たしてくれる飲食店を探す為に、歩き出す俺。
今思えばこの時既に『運命』の歯車は廻り始めていたのかも知れないー。
駅を離れてしばらく歩くと、どこからか風と共に流れてきた空腹を刺激する良い匂いに、俺は足を止めた。匂いの元を辿るように視線を巡らせれば、路地の片隅に建つオシャレな外観の小さなレストランに目が留まる。「あそこにしよう」とレストランの前まで歩を進め、入店前にメニューを決めようと壁に貼られていたメニューの看板を見ている時だった。
「……渚……!?」
「……っ……‼」
不意に名前を呼ばれ全身が震えた。
振り返るまでもない。この声を知っている。憶えている。何年経っていようと、忘れられるわけがない。
だってこの声は…。
俺はゆっくりと声の主を振り返り…。
「………。やっぱり…渚……」
「………。…大和……」
その姿を視界に認めてその名前を小さく口にした俺は、次の瞬間、反射的に駆け出していた。『彼』から逃げるように…。背後から叫ぶように呼ぶ声が聞こえるが、無視して振り向かずに走った。
知り合いには会いたくなかったのに、よりによって『彼』に会うなんて…。
かつての恋人、一ヶ瀬大和にー。
小さなボストンバッグ一つを手に駅のホームを出た俺は、視界に飛び込んできた陽射しの眩しさに目を細める。
十九歳まで住んでいた街、高校生の頃は学校に通う為にほぼ毎日利用した駅、卒業してからも度々利用したその駅は、二十五歳になった今は年に一度だけ『とある目的』の為に訪れるが、生まれ育った故郷でもある街なのに、俺の胸にはいつも、懐かしさより苦い思い出が去来した。楽しい思い出だって数え切れないくらいあった筈なのに…。
十二月初旬。季節は冬ー。
年に一度の帰郷の目的は『墓参り』。一般的には夏の盆辺りにするものだと思うが、俺はとある事情から毎年冬にしていた。
腕時計で時刻を確認すると午後二時を廻ったところ。まだ陽は高いが、墓参りは明日にしたほうがいいだろう。何しろ、目的の霊園までは二時間のバス移動の後、徒歩でさらに一時間。今の時期、到着する頃には辺りは薄暗くなっているだろう。場所はかなり田舎なので、戻って来る前に暗闇で動けなくなってしまう。
そもそもこの墓参り目的の帰郷、昨年までは夜だったのだ。夜に街に到着して格安のホテルに一泊。朝早くに霊園に向かっていたから。
生まれ育ったこの街には、少ないながらも当然知り合いがいる。出来れば知り合いには会いたくなかったのだ。特に『彼』にはー。
それなのに、今年は『何故か』この時間を選んでしまい…。
とはいえ、既に到着してしまったものは仕方がない。
朝食べたきり何も口にしていないせいか、体が空腹を訴えている。宿泊先を探すのは後回しにして、取り敢えず空腹を満たしてくれる飲食店を探す為に、歩き出す俺。
今思えばこの時既に『運命』の歯車は廻り始めていたのかも知れないー。
駅を離れてしばらく歩くと、どこからか風と共に流れてきた空腹を刺激する良い匂いに、俺は足を止めた。匂いの元を辿るように視線を巡らせれば、路地の片隅に建つオシャレな外観の小さなレストランに目が留まる。「あそこにしよう」とレストランの前まで歩を進め、入店前にメニューを決めようと壁に貼られていたメニューの看板を見ている時だった。
「……渚……!?」
「……っ……‼」
不意に名前を呼ばれ全身が震えた。
振り返るまでもない。この声を知っている。憶えている。何年経っていようと、忘れられるわけがない。
だってこの声は…。
俺はゆっくりと声の主を振り返り…。
「………。やっぱり…渚……」
「………。…大和……」
その姿を視界に認めてその名前を小さく口にした俺は、次の瞬間、反射的に駆け出していた。『彼』から逃げるように…。背後から叫ぶように呼ぶ声が聞こえるが、無視して振り向かずに走った。
知り合いには会いたくなかったのに、よりによって『彼』に会うなんて…。
かつての恋人、一ヶ瀬大和にー。
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