卵が先か鶏が先か

三章

青天の霹靂

「諒。お父さん来月から１０年間アメリカに赴任することになった」
「は？」
日曜日の昼下がり。
部活を終えて帰宅した俺に親父は開口一番こう言った。
「夫婦で行く事が条件でな。高校生のお前一人置いて行くわけにもいかないから、せっかく入った高校だが今月いっぱいで退学してもらう。学校には通達済みだ」
「ちょっ、勝手に決めんなよ！」
「そうは言ってもな。この家社宅だから出なきゃならないし、寮も一杯で空きがないだろう？未成年者をひとり置いて行くわけにいかないし仕方ないじゃないか。アメリカでもバスケはできる。むしろバスケの本場だぞ」
「いや、そうなんだけど、さ！そんな突然！」

拓海と会えなくなる、それだけで胸が張り裂けそうになる。…あれ？ちょっと待て、俺はノン気だ！そういうアレじゃない。そうだ、尊敬する先輩とバスケができなくなることが辛いんだ！と心の中で葛藤していることなんか全く知らない親父は、溜め息一つ吐くと、言葉を続けた。

「急な事で悪いとは思うが。昨日辞令が出たんだから仕方ないじゃないか」
「…そうだけど…でもっ！」
「まあ、もう決まったことだから。そのつもりで準備しておきなさい」

この話はもう終わりだと言わんばかりに席を立つ父親を、俺はただ呆然と見送るしかなかった。