溶けだす頃に

蜜

六

「ふぁ～」
退屈で仕方がない。
最初は我慢していたが、もう我慢することなく堂々とあくびすることにした。
「今回はテストの結果が全クラス悪かったという報告を受けて、次回のテストに向けての対策プリントを今から皆さんに作ってもらいます。終わった生徒から帰ってください」
今回のテスト、1～6組までの成績があまり良くなかったらしく、急遽学級委員で集まることになった。
次回のテストまで、学級委員が作った問題が書かれたプリントを朝の時間に配ってやらせるというものだ。
どうせやる生徒が少数って分かってんのにやらせる意味が理解できない。
そもそもこんなの最初からやる奴は好成績のやつに決まってる。
馬鹿な奴はプリントが配られた瞬間丸めて捨てるか、紙飛行機にして学校外に飛ばして遊び出すだろう。
ま、これが終わればさっさと帰れるけど......
自分は馬鹿なフリをしているからこれを早く終わらせたらめんどくさいことになりそうだ。
とりあえず、最後まで残ってるかなぁ。
馬鹿なフリも大変だ。つくづくそう実感する。
「木端、早くやれよー」
「こんなん、馬鹿な自分に任せるのがそもそも間違ってるっすよ」
しかし、馬鹿キャラで通れば、先生に敬語で話さなくても罪悪感が多少はなくなるからそこがメリットかな。
「みんなもう終わるぞ。お前だけ居残りになるぞ」
はーいと適当に返事をして携帯をいじり始める。
メッセージが届いているか確認したが、どうでもいいキャンペーンやクーポンからのお知らせだったり、京介からの求めてもないメッセージしか届いていなかった。
景加と全く話さなくなったな。
なんだかさみしい感じがした。
前まではずっと授業中でも話していたのに。
自分が無視していても、なぁなぁと勝手に景加からメッセージが送られてくるのだ。
あれもこれも、全部何か裏があるに違いない。
と言っても、大方検討はついている。
京介から聞いた、戸川と景加の話だ。
確か、テスト明けから景加が戸川に呼び出されて2人で放課後残るようになったんだったな。
景加とメッセージのやり取りを全くしなくなったのもテスト明けくらいからだった。
となれば、完全に戸川に何かしら原因があるはず。
最悪の考えが頭をよぎるがそんなわけないよな。
男好きの戸川に襲われて言いなりになってたりしないよな、景加。
景加と自分は長い付き合いなんだ。親友、というか幼馴染を信じなくてどうするんだ。
にしても、京介にテストの結果を見られて本当は馬鹿ではなかったとバレた時はさすがに焦ったな。
見られないと思って普通に机の上に置いといたんだけど、見られてたし。
あの後、見てしまった自分が悪いとばかりにずっと謝ってきてたし。
ちゃらちゃらしてるし、女癖も悪いと聞くけど、実際変な噂も聞かないし本当はいい奴なんだろうな。
自分のことを馬鹿にしてきたこともないし、なんなら勉強会とか言ってみんなで勉強を教え合おうとしてくれたし。
あいつこそ、景加のそばにはふさわしいのかな。
自分がどれだけ馬鹿なフリをして景加と仲良くしていても、景加の顔色を伺って遊んでいても、景加に合わせてサボっていても、素で接してるやつには勝てないよな。