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1章

6. 洞窟の中

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 祝福――祝福――。

(なんか聞き覚えあんだよな……)

辞書に載っているような意味とは別に、もう一つ。
少し考えた後で、はっとした。

(昔やってたゲーム! 確か……モンクエだ!!)

 モンクエ――正式名称モンスタークエストは、悠人が初めてプレイしたRPGゲームだった。無名とまでは言わないが有名とも言えず、続編が二本作られてから自然消滅した古いゲームである。そのモンクエの中では『祝福』という設定が重要な役割を果たしていた。

(なんとかって神サマから祝福を受けて生まれてきた人間は身体能力がめちゃくちゃ高かったり魔力とか神通力を持ってんだよな。そんでそういう人間は勇者とか魔法使いとかそれぞれの特性にあった役職について、世界を滅ぼそうとする魔王を倒しに行くんだよな)

 なぜかそんな、今必要のないことばかりを考えてしまう。無意識のうちに現実逃避してしまっているのだろうか。
 入るまではどこまでも深く闇が広がっていそうだと思った洞窟だったが、背後にまだ微かな光を感じるうちに、奥のほうから巨大な獣の吐息のような音と、巨大な何かがズルズルと地面を這いまわる音がいくつも聞こえてくる。

「当たりだ」

 ガスパルの低い声が囁く。

 すぐ目の前にある壁のように大きな背中。背後にいる悠人を庇うように左手を横に伸ばし、右手ではしっかりと剣を構える。

 ドクン、ドクン。

 やけに喉が渇く。
 縋るように短剣を握る両手が、知らず知らずのうちに震え始めていた。

「俺が合図をしたら明るくなる。お前は壁に突き当たるまで左に走れ」

 かろうじて聞き取れるくらいのガスパルの命令。
 奥の暗闇の中、対になった赤い光がポツポツと順番に灯るように悠人たちに向けられる。

 ガスパルが声を張り上げた。

「今だ!」

 ピカッと目がくらむほどの白い光が闇を塗り替える。
 目が光りに焼かれるまでのほんの一瞬。
 巨大な口を開けて咆哮をあげる山のような巨蛇の群れと、そこに真っすぐ突っ込んでいくガスパルの背中が見えた。その光景を目に焼き付けたまま、悠人も左に向かって一直線に走った。

(壁に、突き当たるまで!!)

 眩しすぎてほとんど見えない。
 けれども頭までマントにくるまり、半ば転げるようにして隅の方にたどり着いた。
 はあっ、はあっ、はあっ……。
 地面に這いつくばり、肩で息をする。そして目を細め、マントの隙間から恐る恐る外を覗いた。
 明るい。けれど、もう何も見えないほどではない。
 一つの部屋のようになっている巨大な空洞が広がっていた。その空間の最奥のほうで、一人剣を構えるガスパル。向き合うようにして、昨日の巨蛇が一匹、二匹、三匹――。

 最後まで数えてぞっとした。
 十二匹だ。二メートル近くありそうな巨漢のガスパルよりも、さらに倍はある大蛇が十二匹。絡まりあうように一か所に集まり、ガスパルに向かって交互に噛みつくような真似をして威嚇する。

(いやいやいやいや……。あんなん十二匹も一気に相手するとか無茶だろ。ぜってぇー殺される……)

 蛇たちの開いた口からはぼたぼたとよだれのような液体が漏れてくる。それが地面に落ちるたび、ジュッと焼けたように湯気のようなものが立ち上るのも不気味だった。
 だがガスパルは全くひるむ様子はない。体ほどの大きさもある剣をしっかりと構え、何かを待つように、蛇たちのフェイントにも一切動じずにじっと動かない。
 どれくらいの間にらみ合っていたのだろうか。
 突然、一匹の大蛇が大口を開けてガスパルに食らいつく。

(殺られる―ー!!)

 思わず目を閉じた。

『ぐぎゃあああああああ!!』

 巨大な咆哮が一つ。
 ドスン!!  
 何か巨大な岩でも落ちたような激しい音がして、地面が揺れた。
 とっさに開けた悠人の目に飛び込んできたものは、青緑色の液体にまみれて地面に横たる一匹の巨大な蛇。

『ぎぃいいいいい!!!』
『うぎぃいいい!! ぎぃいいいい!!』

 残りの蛇たちが狂ったように騒ぎ出す。
 最早威嚇なんてレベルではない。
 真っ赤な目を血走らせ、全身を覆う硬い鱗の隙間から黄色っぽい液をじわじわと滲ませながら体をゆらゆらと揺らす。
 統率さえも忘れ、蛇たちからしてみれば玩具のような大きさしかないガスパルに向かって一斉に飛び掛かった。

(ヤバい! 助けに――!!)

 しかし、ガスパルは巨体からは想像もつかない素早さで横に飛び、食らいつこうとする蛇の頭を躱す。

 また噛みつかれそうになり、躱す。

 振り下ろされる尻尾。
 飛び散る黄色い液体。
 次々に食らいついて来ようとする鋭い牙。

 躱す。躱す。躱す。

 そして、ガスパルを食らい損ねて体制を崩した一匹の蛇の首の後ろあたりに飛び乗った。
 力強く、蛇の首に大剣を突き立てる。

『ぐぎぃいいいいいいい!!』

 ひときわ大きな雄たけびと共に、突き立てられていた剣身が横に薙ぐ。ぱっくりと裂けた切り口から、青緑の液体と黄色い液体が一斉に噴出した。

『ぎぃいいいいいいい!!! ぐぎぃいいい!!』

 騒ぐ蛇たち。
 地面に倒れる一匹の体。
 ガスパルはもう見えなくなっていた――いや、いた。
  
 どうやって上ったのか、天井近くまで体を伸ばしている蛇の頭に乗っていた。
 気づいた蛇たちの視線が一斉に向かう。
 それよりコンマ数秒早く、蛇の後頭部に剣を突き立てる。そしてそのまま、突き立てた大剣と共に蛇の背後から飛び降りる。

 ズパァっっっっ!!

 縦にぱっくりと裂ける蛇の背中。
 勢いよく噴き出す青緑色の体液。
 落ちていく途中で剣を引き抜き、崩れ落ちようとする蛇の背中を蹴って別の蛇に飛び乗る。
 そして再び首の後ろあたりを切り付けた。

(バケモンかよ……)

 思わず心の中でつぶやいていた。
 あまりにも人間離れしている。
 跳躍力も、岩のように硬そうな蛇の体に剣を突き立てる腕力も。
 この場にいる人間はガスパルただ一人だというのに、そのガスパルこそが一番人間という言葉から遠く離れて見えた。
 悠人はいつの間にかマントから頭を出し、目の前で繰り広げられる現実離れした光景を呆然と目で追っていた。だから気づかなかった。

(すげぇ……。もうあと六匹……)

 このままなら勝てる。ごくりと唾を飲み込んだ、そのときだった。
 カサカサカサ――。
 背後から突然聞こえてきた、何かが素早く動くような渇いた音。
 悠人は反射的に飛び退いた。

「っ――!!」

 振り返り、飛び出しそうになった悲鳴をぎりぎりで堪える。
 蜘蛛だ。ゴツゴツとした岩肌を素早く歩く、手のひらくらいの大きさをした蜘蛛だ。
 もちろん普通の蜘蛛ではなく、体のわりに異様に脚が長く、背中にあたる部分にハエの目のようなものが無数についた気持ち悪い姿をしている。間違いなくモンスターだろう。
 蜘蛛のモンスターはボトッと落ちるようにして地面に着地した。そして無数の目をギョロギョロと動かし、腰が抜けたようにしてへたり込んでいる悠人の方に一斉に視線を向けた。

(コイツ、俺のこと狙ってる!?)

 逃げなくては――いや、逃げ切れるのか?
 このモンスターがどれだけの速度で動き、どのような攻撃をしてくるのか、悠人は何も知らない。
 もしかしたら毒でも持っているかもしれない。一撃でも攻撃を食らったら死ぬかもしれない。何もわからない。セーブポイントもリセットボタンも存在しない。これはゲームの世界ではないのだ。

(……落ち着け。こっちだって丸腰ってわけじゃねえんだ)

 ガスパルに渡された短剣ならずっと右手に握っていた。マントの中、こっそりと短剣を鞘から抜く。
 何かあれば俺を呼べ、とガスパルからは言われていたが、後ろから聞こえてくる音からして、ガスパルはまだ蛇のモンスターと戦っている。それなのに余計なことに気を取らせて、そのせいでガスパルが殺されでもすればこっちまで共倒れだ。……だいたい、本当にガスパルが悠人を助けてくれるなんて保証はどこにもない。

(他人なんて全然当てになんねえ。最後に自分を助けられんのは自分だけだ)

 蜘蛛が身構えるように脚を広げたまま体を低く伏せる。
 悠人も短剣を強く握りしめ、体の前で構えた。

(落ち着け。モンスターって言っても相手は犬よりちっちぇえ蜘蛛なんだ。ビビんなきゃ俺でも殺れる)

 蜘蛛はギョロギョロと無数の目を動かすと、突然悠人に向かって飛びかかってきた。

(クソっ!!)

 咄嗟に目を閉じ、蜘蛛に向かって全力で短剣を振った。
 ズバッ。肉の塊を切り裂くような確かな手ごたえ。
その瞬間、前の人生で体にナイフを突き立てられた瞬間の映像がカメラのフラッシュのような速さで頭をよぎった。

「っ……!!」

 反射的に目が開く。
 短剣の刃にべったりとこびりついた黒い液体。長い脚をばたつかさえながら、ぱっくりと裂けた体でのたうちまっている蜘蛛。
 倒したのだろうか……そんなことを考えている余裕もなかった。

(あれ……?)

 いつの間にか、短刀を握る手が震えていた。――手だけじゃない。全身がガタガタと、自分でもわかるくらいはっきりと震えていた。

(なんだ? どうして……?)

 おかしい。
 息が苦しい。それなのに、どんなに息を吸おうと思ってもうまく吸えないのだ。

 はっ、はっ、はっ――大げさなくらい呼吸が荒くなる。 

 まるで耳のすぐ横で鼓動しているかのように心臓が激しく悲鳴をあげる。

(なんだ、これ? 苦しい。息、できない)

 震える手から短刀が落ちた。地面に落ち、カシャンと音を立てた。
 肉に刃が入った瞬間の嫌な感触が手に蘇っている。
 消したくて消したくて、両手でかきむしるようにマントを握った。呼吸はますます苦しくなった。

(何……なんで……? なんだよ、これ?)

 大きく口を開け、なんとかして息を吸い込もうとする。ふと目の照準が目の前の蜘蛛に合ったとき、悠人はハッとして目を見張った。

(再生してる!?)

 自分のことでいっぱいいっぱいで全く気が付かなかった。悠人が切り裂いたはずの蜘蛛の体からかすかな湯気が立ち上り、裂けた肉と肉の間の部分からブクブクと泡があふれるように肉が盛り上がっていたのだ。

(まずい……! 武器が……!!)

 拾わなくては。そう思うのに体が凍り付いたように固まって動かない。そのときだった。

 ビュン、と何かが風を切る。その瞬間、再生しかけていた蜘蛛の体がグチャっとつぶれた。

 何が起きたのかわからなかった。
 地面を転がって動きを止めた石。
 その石を目で追い、急に視界が暗くなって顔をあげる。

 ガスパルがいた。

 悠人のすぐ前に、悠人に背を向け、分厚い筋肉に血管が浮き出るほどに全身の力を絞り出して立っていた。

「立て!!」

 ガスパルは振り返ることなく怒鳴った。
 ガスパルの前には大きく口を開けた巨蛇がいる。今にも二人まとめて飲み込んでしまいそうな口だが、そこで止まっているのは、ガスパルが両手で握る大剣が顔と押し合ってそれ以上進ませまいとしているからだ。

 力と力のぶつかり合い。
 小刻みに震える刀と巨大な蛇の牙がぶつかりあってカチカチと小さく音を立てる。
 ガスパルの腕は驚くほど太く力強い。しかし、力勝負となるとさすがにモンスターには敵わないのか、大剣は少しずつガスパルの方に押され始めていた。

「立て、淫売!!」

 もう一度怒鳴られ、はっとした。
 悠人はよろよろと立ち上がる。次の瞬間、巨蛇の顔が突っ込んできた。

「うわぁっ!!」

 終わった――咄嗟に目を閉じる。
 終わりではなかった。
 ふわりと体が宙に浮き、目を開ける。
 鼻の高い端正な横顔がすぐ目の前にあった。
 太く力強い腕で、分厚く筋肉が盛り上がった胸に抱きしめられていた。

 蛇は顔から岩壁に突っ込んでいた。ガスパルは悠人を抱えたまま、その背中を蹴るようにして後頭部の方に向かっていく。
 蛇が岩から顔を出した瞬間、蛇の頭よりも高く飛び上がる。そして釣られて上を向いた蛇の後頭部よりも少し下のあたりに剣を突き刺し、落下に合わせてその体を引き裂いた。

『ぐぎゃあぁああああああああ!!』

 この世のものとは思えないような雄たけびが洞窟内に響いた。
 剣を引き抜きながら地面に着地し、ガスパルは蛇から離れた。
 蛇は数秒暴れ、その後、ドスンと強い地響きを起こしながら倒れた。そのままもう二度と動くことはなかった。

「終わったぞ。すべて始末した」

 低い声で言って、ガスパルは悠人の体を離した。
 よろけて倒れそうになる。それをすかさず支え、今度は座るような形で地面に下ろしてくれた。

「っ……」

 礼を言わなくてはと思った。だけど喉からはひゅーひゅーとおかしな音が漏れ、言葉が出てこなかった。
 全身ががくがくと震え、相変わらず息がうまく吸えない。
 ガスパルは目を細め、冷たいまなざしで悠人を見下ろす。しかし数秒した後、蛇の体液に塗れた大剣を握ったまましゃがみ、悠人の顔を自分の胸に抱き寄せた。

「っ……!!」

 逃げようとする。が、さらに強い力で後ろ頭を押さえつけられて余計に悪くなった。鼻がつぶされるほど強く胸に押し付けられてしまい、口がふさがって息ができない。

「んんっ……!!」
「落ち着け。興奮しているだけだ。ゆっくり息を吸って、ゆっくり吐け。すぐに収まる」

 地を這うような低い声が頭のすぐ上から降ってくる。
 汗で湿った分厚い胸板。どんなに押し返そうとしてもびくともしない強い力。全身で感じる、悠人の体をすっぽりと覆えてしまうような大きな体。驚くほど熱い体温。

――馬鹿みたいに苦しいのに、胸に妙なものがこみ上げてくる。

(嫌だ……。違う……)

 浮かびかけていた感情を咄嗟に否定し、悠人は拳を強く握る。
 相変わらず強く抱きしめられているが、もう抵抗はしない。その代わり縋りつきもしない。
 拳を握ったまま腕をだらりと垂らし、無抵抗の意思を表明する。すると徐々にガスパルの力も弱くなってきて、ついに悠人の頭を離してくれた。

「……はっ、はっ……」

 悠人は荒く息を整える。
 大丈夫だ。少し苦しいが、ちゃんと呼吸はできる。
 まだ肩を上下させながらガスパルを見上げる。ガスパルは男臭いながらも整った顔を相変わらず顰めていた。

「どうして俺を呼ばなかった」

 助けてもらった礼をするよりも早く、ガスパルは責めるように言った。

「何かあったら呼べと言ったのを聞いていなかったのか? 俺があと少しでも気づくのが遅れていたら死んでいたぞ。どうして呼ばなかった」
「だ……だって……」
「だって、なんだ?」
「迷惑……かける……」
「迷惑というならお前が足りない脳みそを使った結果ぎりぎりで助けに入らなくてはならなくなったことのほうがよほど迷惑だ」

 ガスパルは苛立ちを隠しもせずに吐き捨てる。
 悠人がいくら男だからと言っても、自分よりもはるかに体格に恵まれた巨漢から詰め寄られ、いら立ちをぶつけられれば恐怖を覚えないわけがない。まして、一度は襲われた相手だ。謝らなければと思うのに、体が強張り、言葉がうまく出てこなくなる。

「……ご、め……」

 ちっとガスパルが舌打ちした。その音にさえ、体がビクッとはねた。

「…………」

 ガスパルはうんざりしたように息を吐いた。そして一度、怯える悠人の頭から足先までを眺めた後、言った。

「股を開け」
「……こ、ここで?」
「当たり前のことをいちいち聞き返すな。俺が股を開けと言ったら、お前は黙って股を開けばいいんだ」

 すぐそばで、離れたところで、洞窟のあちこちに巨大な蛇の体が転がっている。なんだか生臭い臭いも感じる。それなのに、ふと見下ろした先にあったガスパルの下腹部は露骨にズボンを押し上げていた。

(いやいやいや……! さっきまであの化け物と殺し合いしてたんじゃねーの? そんでその死体がゴロゴロしてるし、またいつ変なのが出てきて襲われるかもしんねーのに、こんなとこで発情とかどんだけイカレてんだよコイツ……!)

 だが悠人に拒否権なんてものは与えられていない。抵抗したところで、殴られて無理矢理犯されるだけだ。

(……大人しくしてさっさと終わらせた方が楽だな)

 セックスなんてものはただ粘膜をこすり合わせるだけの摩擦運動でしかない。それ以上の意味なんてない。――そうでも思わなければ、頭がおかしくなってしまいそうだった。
 悠人は俯いて奥歯をかみしめる。
 かろうじて下腹部を隠す、履いている意味もないような下着。この世界に転生してすぐに見知らぬ男たちから履かされた、今の悠人の存在価値を表したような下品な布切れに手をかけ、膝のあたりまで一気に下ろした。なんてことはないようにその役目を演じることだけが、今の悠人に残された最後のプライドだった。
 膝のところでひっかかっている下着を、今度は脚をこすり合わせるようにして完全に脱いだ。
 尻もちをつくような恰好で、ガスパルに向かって両脚を広げる。瞬間、後ろの穴が抵抗したようにキュッと窄まる。

「っ……!」

 ぴくっと小さく体が震える。
 完全に無意識だった。 
 昨日初めて犯されたときの、体の中を太い杭でえぐられるような恐怖と不快感と死にたくなるような屈辱が蘇ってくる。

(死ねよ、変態野郎……!)

 心の中で悪態をつきながらガスパルを上目遣いににらみつける。

(あ……れ?)

 驚き、しばし呆然とした。
 ガスパルのことだから、女子高生に鼻の下を伸ばすスケベな中年オヤジのように性欲をむき出しにした顔でこれから犯すはずの場所を見ていると思ったのだ。
 だが違った。ガスパルは目を細め、穴が開くほどの強さでジッと悠人の顔を睨みつけていた。
 目が合ってさえ、ガスパルは悠人の顔を見つめたままだった。悠人が下を脱いだことにも気づいていないかもしれない。何かを堪えるような顔で、ただじっと悠人を見つめていた。

(……ンだよ。見てんじゃねーよ、変態)

 あまりの圧力に悠人の方が先に目を逸らした。それでもなおガスパルは悠人を見つめ続け、一分くらい経った。ようやくガスパルが動いた。

「さっさとするぞ」

 そう言ってズボンと下着を下ろす。悠人の数倍はありそうな太さと大きさで反り返った凶悪な見た目をした性器に、思わず息をのんだ。
 改めて見てみると、あんなものが後ろに入ったことがとても信じられない。

(……普通に……無理だろ)

 弱気になる悠人に向かってガスパルの体が近づいてくる。悠人に上着を貸したせいで、防具以外は上半身裸の体だ。
 押されるように悠人は後ろに向かって体を倒す。その上からガスパルが覆いかぶさってくる。
 咄嗟に閉じそうになる脚を無理矢理開かれ、後ろの場所に性器の先端があてられた。ガスパルの先端は先走りでもう濡れていた。

「力を抜け」

 言うのと同時だった。閉じていた穴の入口を、硬い塊がこじ開ける。

「っ……!!」

 入ってきた。
 二回目だ。
 硬く太く異様なほどに熱い男の性欲の象徴が、避妊具の覆いさえなく、直接悠人の粘膜を犯しながら入ってきた。
 吐き気がするほどの圧迫感。
 しかし、今回は初めてのときとは違った。痛みがほとんどないのだ。
 すでに一度犯されてこじ開けられたせいなのか、それとも昨日からずっと中で残っているような気がしていた塗り薬が潤滑剤の代わりになっているのか。ガスパルのペニスは悠人の内側をこすりながらズブズブと深いところに入ってくる。そしてあっという間に最奥までたどり着いた。

「やっ……、め……」

 黙って犯されるつもりだったのに、思わず口にしてしまった。
 苦しい。馬鹿みたいに苦しい。それなのに、なぜか深く杭を打ち込まれた内側が、ムズムズするようなゾワゾワするような変な感じがするのだ。

「ちょっ、むりっ……、まずい……って……」
「…………」

 ガスパルは鼻から深く息を吐いた後、「……淫売が」と忌々しそうに吐き捨てた。
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