上 下
89 / 113
第八章 涙のプロポーズ

俺と結婚してくれ

しおりを挟む


「クソ、ココマデカ……! コノママ、オ前ヲ勝タセハシナイ。コノ女ヲ食ッテヤル」

 魔王ギリェルモが彼女を口に入れようとした。

「シャーロット!」
「オリヴァー様ぁ――っ!」

 オリヴァーがしなやかな獣のようにジャンプする。高い。魔王ギリェルモの攻撃を紙一重でかわす。しかし鋭い爪が彼の腹部を縦に切り裂いた。大量の血が噴き出す。だがオリヴァーは倒れなかった。
 グサッ! 魔王ギリェルモの心臓を一突きにした。致命傷である。

「ギャァァァァァ――……!」

 魔王ギリェルモが絶叫した。肉体が黒い灰になって消えていく。オリヴァーが勝ったのだ。
 親玉が死んだおかげで、屋敷を襲っていた他の魔物達も共に消滅した。

「オリヴァー様っ!」

 シャーロットは地面に倒れ込んだオリヴァーに駆け寄った。必死で手を取る。冷たい。顔も土気色だ。血がどんどん流れ出し、今にも気を失いそうである。

「いやっ死なないで、オリヴァー様……!」
「シャー、ロット……」

 エメラルドの瞳が彼女を捉える。

「お願い、私を置いて行かないで下さい、オリヴァー様、オリヴァーさまぁ……!」
「泣かないでくれ、愛しいひと……」

 オリヴァーがそっと彼女の頬を手で包んだ。真っ白な肌に赤黒い猟犬騎士の血がついた。

「だって、こんなに傷ついて……!」

 シャーロットの蒼い瞳からいくつも涙が零れ落ちる。

「そんなことは、いいんだ……。なぁ、ポケットの中の物を……出して、くれないか……?」
「……? 分かりましたわ」

 シャーロットがオリヴァーのズボンのポケットをさぐると、血で汚れた小箱が出てきた。
 中を開けると、豪華な婚約指輪が入っていた。ハート型にカットされた、大きなダイアモンドがついている。リングの部分はプラチナで、台座はシルバーである。夜空の下でも、幾重にも反射して輝く様は、魅入られそうなほど美しい。これ一つで家が何軒買えるのか、途方もつかない位高価な物だった。

「遅くなった、が……君へ贈りたい。この世にひとつしかない、特注品だ……。俺の妻に……なってくれないか、シャーロット……。俺と結婚してくれ」

 オリヴァーが弱々しく微笑んだ。

「私、に……?」
「もちろんだ、君以外に……誰がいる」
「でも、私は婚約を辞退するつもりで……」
「それは……本気なのか?」

 ここで嘘はつけない、とシャーロットは思った。

「いいえ……! ダナさんにフィアンセを辞退しろ、と脅されていたのです。私だって本当は貴方様と結婚したかったのです……!」
「そんな、ことだろうと思ったよ……。良かった、嫌われたんじゃ、なくて……」

 オリヴァーは安堵の溜息を漏らし、続ける。

「ダナは、死んだよ」
「えっ!」
「瓦礫に、押しつぶされたんだ……。間に合わなかった……」

 オリヴァーは悲しげに目を細める。

「そんな……」
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

地味女で喪女でもよく濡れる。~俺様海運王に開発されました~

あこや(亜胡夜カイ)
恋愛
新米学芸員の工藤貴奈(くどうあてな)は、自他ともに認める地味女で喪女だが、素敵な思い出がある。卒業旅行で訪れたギリシャで出会った美麗な男とのワンナイトラブだ。文字通り「ワンナイト」のつもりだったのに、なぜか貴奈に執着した男は日本へやってきた。貴奈が所属する博物館を含むグループ企業を丸ごと買収、CEOとして乗り込んできたのだ。「お前は俺が開発する」と宣言して、貴奈を学芸員兼秘書として側に置くという。彼氏いない歴=年齢、好きな相手は壁画の住人、「だったはず」の貴奈は、昼も夜も彼の執着に翻弄され、やがて体が応えるように……

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

婚活に失敗したら第四王子の家庭教師になりました

春浦ディスコ
恋愛
王立学院に勤めていた二十五歳の子爵令嬢のマーサは婚活のために辞職するが、中々相手が見つからない。そんなときに王城から家庭教師の依頼が来て……。見目麗しの第四王子シルヴァンに家庭教師のマーサが陥落されるお話。

森でオッサンに拾って貰いました。

来栖もよもよ&来栖もよりーぬ
恋愛
アパートの火事から逃げ出そうとして気がついたらパジャマで森にいた26歳のOLと、拾ってくれた40近く見える髭面のマッチョなオッサン(実は31歳)がラブラブするお話。ちと長めですが前後編で終わります。 ムーンライト、エブリスタにも掲載しております。

泡風呂を楽しんでいただけなのに、空中から落ちてきた異世界騎士が「離れられないし目も瞑りたくない」とガン見してきた時の私の対応。

待鳥園子
恋愛
半年に一度仕事を頑張ったご褒美に一人で高級ラグジョアリーホテルの泡風呂を楽しんでたら、いきなり異世界騎士が落ちてきてあれこれ言い訳しつつ泡に隠れた体をジロジロ見てくる話。

お見合いから始まる冷徹社長からの甘い執愛 〜政略結婚なのに毎日熱烈に追いかけられてます〜

Adria
恋愛
仕事ばかりをしている娘の将来を案じた両親に泣かれて、うっかり頷いてしまった瑞希はお見合いに行かなければならなくなった。 渋々お見合いの席に行くと、そこにいたのは瑞希の勤め先の社長だった!? 合理的で無駄が嫌いという噂がある冷徹社長を前にして、瑞希は「冗談じゃない!」と、その場から逃亡―― だが、ひょんなことから彼に瑞希が自社の社員であることがバレてしまうと、彼は結婚前提の同棲を迫ってくる。 「君の未来をくれないか?」と求愛してくる彼の強引さに翻弄されながらも、瑞希は次第に溺れていき…… 《エブリスタ、ムーン、ベリカフェにも投稿しています》

日常的に罠にかかるうさぎが、とうとう逃げられない罠に絡め取られるお話

下菊みこと
恋愛
ヤンデレっていうほど病んでないけど、機を見て主人公を捕獲する彼。 そんな彼に見事に捕まる主人公。 そんなお話です。 ムーンライトノベルズ様でも投稿しています。

5分前契約した没落令嬢は、辺境伯の花嫁暮らしを楽しむうちに大国の皇帝の妻になる

西野歌夏
恋愛
 ロザーラ・アリーシャ・エヴルーは、美しい顔と妖艶な体を誇る没落令嬢であった。お家の窮状は深刻だ。そこに半年前に陛下から連絡があってー  私の本当の人生は大陸を横断して、辺境の伯爵家に嫁ぐところから始まる。ただ、その前に最初の契約について語らなければならない。没落令嬢のロザーラには、秘密があった。陛下との契約の背景には、秘密の契約が存在した。やがて、ロザーラは花嫁となりながらも、大国ジークベインリードハルトの皇帝選抜に巻き込まれ、陰謀と暗号にまみれた旅路を駆け抜けることになる。

処理中です...