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第八章 涙のプロポーズ
俺と結婚してくれ
しおりを挟む「クソ、ココマデカ……! コノママ、オ前ヲ勝タセハシナイ。コノ女ヲ食ッテヤル」
魔王ギリェルモが彼女を口に入れようとした。
「シャーロット!」
「オリヴァー様ぁ――っ!」
オリヴァーがしなやかな獣のようにジャンプする。高い。魔王ギリェルモの攻撃を紙一重でかわす。しかし鋭い爪が彼の腹部を縦に切り裂いた。大量の血が噴き出す。だがオリヴァーは倒れなかった。
グサッ! 魔王ギリェルモの心臓を一突きにした。致命傷である。
「ギャァァァァァ――……!」
魔王ギリェルモが絶叫した。肉体が黒い灰になって消えていく。オリヴァーが勝ったのだ。
親玉が死んだおかげで、屋敷を襲っていた他の魔物達も共に消滅した。
「オリヴァー様っ!」
シャーロットは地面に倒れ込んだオリヴァーに駆け寄った。必死で手を取る。冷たい。顔も土気色だ。血がどんどん流れ出し、今にも気を失いそうである。
「いやっ死なないで、オリヴァー様……!」
「シャー、ロット……」
エメラルドの瞳が彼女を捉える。
「お願い、私を置いて行かないで下さい、オリヴァー様、オリヴァーさまぁ……!」
「泣かないでくれ、愛しいひと……」
オリヴァーがそっと彼女の頬を手で包んだ。真っ白な肌に赤黒い猟犬騎士の血がついた。
「だって、こんなに傷ついて……!」
シャーロットの蒼い瞳からいくつも涙が零れ落ちる。
「そんなことは、いいんだ……。なぁ、ポケットの中の物を……出して、くれないか……?」
「……? 分かりましたわ」
シャーロットがオリヴァーのズボンのポケットをさぐると、血で汚れた小箱が出てきた。
中を開けると、豪華な婚約指輪が入っていた。ハート型にカットされた、大きなダイアモンドがついている。リングの部分はプラチナで、台座はシルバーである。夜空の下でも、幾重にも反射して輝く様は、魅入られそうなほど美しい。これ一つで家が何軒買えるのか、途方もつかない位高価な物だった。
「遅くなった、が……君へ贈りたい。この世にひとつしかない、特注品だ……。俺の妻に……なってくれないか、シャーロット……。俺と結婚してくれ」
オリヴァーが弱々しく微笑んだ。
「私、に……?」
「もちろんだ、君以外に……誰がいる」
「でも、私は婚約を辞退するつもりで……」
「それは……本気なのか?」
ここで嘘はつけない、とシャーロットは思った。
「いいえ……! ダナさんにフィアンセを辞退しろ、と脅されていたのです。私だって本当は貴方様と結婚したかったのです……!」
「そんな、ことだろうと思ったよ……。良かった、嫌われたんじゃ、なくて……」
オリヴァーは安堵の溜息を漏らし、続ける。
「ダナは、死んだよ」
「えっ!」
「瓦礫に、押しつぶされたんだ……。間に合わなかった……」
オリヴァーは悲しげに目を細める。
「そんな……」
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