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第五章 フィアンセ交代?!
G(※害虫注意)
しおりを挟む(いけない。風邪を引いてしまうわ)
シャーロットはガタガタ震える身体を押さえた。早く湯浴みをしなくては、と立ち上がった時、鏡台の後ろの壁をサワサワサワッ、と黒茶色の何かが這いあがった。
(あれはもしかして……)
間違いない。ごきぶりだった。
「――!」
シャーロットはピキンと固まった。あまりの衝撃に大きな瞳を見開いている。
(どうしてこんな所に!)
数秒がとても長く感じた。
「――キャアアァァァァァッッ!!」
婚約者の叫びに気がついて、オリヴァーがドアを開けた。
「どうした!?」
オリヴァーは青ざめるシャーロットを抱きしめ、寝室の外に連れ出した。長い廊下に蝋燭の明かりが点々と続いている。
「濡れているじゃないか。それに、今の悲鳴は何だ? 大丈夫なのか?」
「ご、ごき……!」
その名を口にするのも恐ろしい。
「ごきぶりか?」
シャーロットは首を縦に何度も振った。
「おいっ誰か居ないか! 寝室に害虫が出た! すぐ来てくれっ、あとタオルも用意しろ!」
オリヴァーの大声に近くにいた使用人達が急いで集まってきた。
「何!? ごきぶり?」
「どうして? 毎日掃除をしているのに……」
使用人達は不思議に思いながらも、大慌てで捕り物を始めた。幸いにもすぐに退治した。
「大丈夫かい? 怖かっただろう」
オリヴァーは自身のカーディガンを脱ぎ、シャーロットの肩にかけた。鮮緑色の瞳が心配そうにこちらを見詰めている。彼女は必死に笑みを浮かべた。
「平気ですわ。驚いただけです」
「良かった。しかしなぜ急に害虫が……」
二人が当惑していると、騒ぎを聞きつけたのか、ダナがやって来た。鴉{からす}の羽根のようなショールを身につけている。彼女の部屋からここまで来るのに、随分早い。蝋燭の明かりのせいで、整った顔の半分に、はっきりと濃い闇がついている。
「あら~、ごきぶりが出たんですって? 大変ですことぉ」
「ダナ」
オリヴァーがダナを見た。
「だけど珍しいですわねぇ、ブランドン公爵家にごきぶりが現れるなんてぇ。この綺麗で清潔な屋敷にはネズミ一匹いないはずなのに。きっとごきぶりが好むような、貧乏な生まれの方がいらっしゃるからよぉ」
「……っ」
シャーロットの心臓がナイフで刺されたようにズキッと痛んだ。胸の前でぎゅっと手を握る。
(貧乏な生まれ……。きっと私のことだわ)
――没落貴族の娘だから。
「ダナ。何が言いたい」
むっとしたようにオリヴァーが言った。さりげなくダナからシャーロットを庇うように立つ。
「別に~。ほんの冗談ですわぁ」
「俺はそういうジョークは好きではない」
「分かっておりますよ~。――シャーロットちゃん、災難でしたわね。慰めて差し上げますぅ」
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