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第五章 フィアンセ交代?!
フィアンセ交代?
しおりを挟むダナの心を察したのか、オリヴァーは低い声で優しく言う。
「ありがとう、ダナの気持ちは分かっている。嬉しいよ。でも、俺ではダナに釣り合わないよ。こんな中年野郎よりも、相応しい若い男がたくさんいる。ダナのことは妹のように思っているんだ。幸せになってくれ」
「お兄様ぁ……」
オリヴァーに諭されて、ダナはしばらく何か考えるように黙っていたが、しかし急にふっと表情を変えた。一転明るい声になる。
「……分かりましたわぁ。ダナ駄々をこねるのは止めますぅ。これ以上嫌われたくありませんからぁ」
「ダナ、ありがとう」
オリヴァーは安心したように息をついた。
「ええ。お兄様を困らせたくありませんものぉ。あ、一つ確認してもよろしいでしょうかー?」
「なんだい?」
「婚約というのはまだ内々のことなのでしょうー? ほら、お二人は指輪もしていないようですしぃ」
ちら、とダナはオリヴァーとシャーロットの指に目を走らせる。
「婚約指輪ね……。今作らせているところだ。工房が魔物に襲われてしまってね、完成が遅れている。正式な婚約発表は指輪を贈ってからの予定だ」
オリヴァーはわずかに表情を曇らせた。
「やっぱり……。では正式発表するまでは、フィアンセ交代、ということも充分あり得るのですわね」
ボソリとダナが言った。その瞳には暗い光が宿っている。
(えっ……? 今、なんて……)
――フィアンセ交代?
シャーロットは耳を疑った。しかし隣のオリヴァーには聞こえなかったらしい。ダナは血のように赤い目を弓にしてニッコリと笑った。
「シャーロットちゃん、と呼ばせて下さいね。よろしくぅ。ダナ一人っ子だから妹が出来たみたいで嬉しい~」
「えっ……、は、はい……。よろしくお願いいたします」
シャーロットは戸惑いながら答える。
「ダナ、俺の大切な婚約者に迷惑をかけるんじゃいないぞ」
「はぁーい」
「シャーロット、ダナはお嬢様育ちでわがままな所もあるが、根はいい子なんだ。仲良くしてやってくれないか」
「えっ、ええ、もちろんですわ……」
三人が話していると、応接間の扉を執事がノックして、中に入ってきた。
「マイ・ロード。王立騎士団の方がいらっしゃっております。何やら、急ぎでサインが欲しい書類があるそうです」
「分かった。今行く。――すまない。仕事が入ったようだ。二人はゆっくりしていてくれ」
「分かりました。いってらっしゃいまし、オリヴァー様」
「お兄様~、お仕事頑張って下さぁい」
オリヴァーは女性達に小さく微笑むと、すぐに踵を返して部屋を出て行った。残された二人に気まずい沈黙が流れる。
「……」
ちら、とシャーロットはダナの横顔を見た。睫毛の長い綺麗な女性である。公爵令嬢なので、着ている物も立ち振る舞いも上品だった。特にオリヴァーと同じ漆黒の髪が天の川のように艶めいている。
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