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第五章 フィアンセ交代?!
令嬢ダナ・オブ・ブランドン
しおりを挟むシャーロットは栄光を勝ち取った愛する猟犬騎士を遠くから見詰めている。感動はひとしおで、涙が滲む。
(素晴らしいわ。毎晩遅くまで練習されていた甲斐がありましたね……)
今日の彼女はバターブロンドの巻き髪をポニーテールにしている。結び目には青いリボンが巻かれ、可愛らしい。ドレスは濃紺である。小さな耳たぶにはブルーダイアモンドのイヤリングが光っていた。
「ブランドンさん、おめでとうございます! この喜びを誰に伝えたいですか?」
表彰式が終わると、複数の瓦版記者がオリヴァー達を取り囲んだ。彼は慣れた手つきで煙草に火をつける。
「愛する婚約者に」
オリヴァーは微笑んだ。周囲の者達がまたワアッと騒ぐ。その時、人混みを掻き分けって、黒髪の美女が駆け寄ってきた。
「オリヴァーお兄様ぁっ」
黒髪の美女は人混みを掻き分けて、オリヴァーの首にしがみついた。それからひと目も気にせずに彼に頬ずりをする。
「さすがダナの騎士様ですわぁ。格好良かったですぅ。猟犬騎士という名は、伊達じゃないですわぁ! ダナ、あんまりお兄様が強くてびっくりしちゃいましたぁ」
「おや、ダナ。来ていたのか」
オリヴァーは嬉しそうにダナと呼ばれた美女に微笑みかけた。彼女の年はシャーロットより五つ上の二十五歳だ。
「七連覇なんて本当にすごいですわぁ。自慢の旦那様ですぅ。ダナ、お兄様のこと大好きぃ」
語尾を伸ばすような甘ったるい話し方である。
「あはは……おいおい、俺はダナの旦那様じゃないだろうが」
「違いますわ。ダナはお兄様のフィアンセですっ」
「おいおい……。それは小さい頃にした約束だって言っただろ?」
「ひどーい! お兄様はダナとの約束を破るつもりですわねっ」
「こらこら……困ったな。分かったよ、好きにしろ」
「良かったですわぁ! ダナはいつだってお兄様の婚約者ですう」
(ダナさん……)
二人の様子を遠くから見ていたシャーロットは、不快感でいっぱいになった。ダナが来ているとは知っていたが、こんな風に記者達の前に姿を現すとは思わなかったのである。
(あの人、本気でオリヴァー様の婚約者になるつもりなのかしら……。私の代わりに……)
シャーロットはぐっと唇を噛んだ。
彼女の名はダナ・オブ・ブランドン。公爵令嬢である。ダナの父とオリヴァーの父が兄弟で、二人はいとこ同士だ。
ダナはお嬢様そのものといった容姿だった。
小柄で、手入れされた黒いストレートヘアに、ぱっつんと切りそろえた前髪、吊り上がった紅いの瞳を持っていた。フリルのたくさんついたドレスも、髪と同じ闇色だ。全体的に上品で可愛らしく、年齢より若い印象を与える。
「えっと、もしかして貴女がブランドンさんの電撃婚約をしたフィアンセですか? 先程の話しに出た」
近くにいた記者がダナの発言を聞いて勘違いしたのか、とんでもない質問をした。
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