上 下
42 / 113
第三章 オリヴァー誘惑作戦

第三章 祖父母訪問

しおりを挟む



「オリヴァー様、起きて下さいまし……オリヴァー様」

 爽やかな夏の陽が差すゲストルームで、シャーロットの澄んだソプラノが響く。時はもう昼に近い。大きな天蓋付きのベッドには、上半身裸のオリヴァーと、シルクの夜着を纏ったシャーロットが並んで毛布にくるまっている。

 ここはブランドン公爵領にある、オリヴァーの祖父母の屋敷である。二人は正式な婚約を交わし、その挨拶として昨日から祖父母の元を訪れていた。
 未来の夫婦が利用している客間は、歴史を感じさせる内装で、重厚感があり、上品だ。高い天井、今はひっそりと眠るシャンデリア、マホガニーのテーブル、木目の美しいキャビネット等が設えられている。奥には化粧室やバスルームも完備されていた。

 大きな窓からはオリヴァーの祖父母であるブランドン老夫婦の自慢の庭が見渡せる。夏の強い陽を浴び、どこまでも伸びる緑の絨毯は、一日中歩き回っても終わりにたどり着けないくらいだ。深紅やピンクの薔薇が咲き乱れ、風に乗って甘い匂いが漂い、まるで香水のシャワーを浴びているかのようである。

 昨日の午後、二人はブランドン老夫婦と共にこの庭でピクニックをした。美味しいサンドイッチを食べ、食後に紅茶と焼き菓子を頂きながら、この素晴らしい庭を愛でるという最高の一時だった。
 ブランドン老夫婦は溺愛する孫であるオリヴァーの婚約者として、シャーロットを大変気に入ったらしい。「品が良く心根の優しい素晴らしい女性だ」と、絶賛していた。
 婚約者として認めてもらえて、シャーロットは心から安堵した。自身が没落貴族の出であるということで、婚約を反対されるのではと心配していたのである。
 そう不安がる彼女に対し、オリヴァーは、

 ――例え誰かに何か言われたとしても、俺が君を守る。安心してくれ。

 と言ってくれた。その気持ちがシャーロットは嬉しかった。
 というわけで、無事に婚約報告を終えた二人は、こうして甘い朝を過ごしているのである。幸い王立騎士団のナンバー2で超多忙なオリヴァーだが、長期の休みを貰うことが出来たのだ。

「オリヴァー様……起きて下さい。オリヴァー様……」
「ん……」
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

地味女で喪女でもよく濡れる。~俺様海運王に開発されました~

あこや(亜胡夜カイ)
恋愛
新米学芸員の工藤貴奈(くどうあてな)は、自他ともに認める地味女で喪女だが、素敵な思い出がある。卒業旅行で訪れたギリシャで出会った美麗な男とのワンナイトラブだ。文字通り「ワンナイト」のつもりだったのに、なぜか貴奈に執着した男は日本へやってきた。貴奈が所属する博物館を含むグループ企業を丸ごと買収、CEOとして乗り込んできたのだ。「お前は俺が開発する」と宣言して、貴奈を学芸員兼秘書として側に置くという。彼氏いない歴=年齢、好きな相手は壁画の住人、「だったはず」の貴奈は、昼も夜も彼の執着に翻弄され、やがて体が応えるように……

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

婚活に失敗したら第四王子の家庭教師になりました

春浦ディスコ
恋愛
王立学院に勤めていた二十五歳の子爵令嬢のマーサは婚活のために辞職するが、中々相手が見つからない。そんなときに王城から家庭教師の依頼が来て……。見目麗しの第四王子シルヴァンに家庭教師のマーサが陥落されるお話。

森でオッサンに拾って貰いました。

来栖もよもよ&来栖もよりーぬ
恋愛
アパートの火事から逃げ出そうとして気がついたらパジャマで森にいた26歳のOLと、拾ってくれた40近く見える髭面のマッチョなオッサン(実は31歳)がラブラブするお話。ちと長めですが前後編で終わります。 ムーンライト、エブリスタにも掲載しております。

泡風呂を楽しんでいただけなのに、空中から落ちてきた異世界騎士が「離れられないし目も瞑りたくない」とガン見してきた時の私の対応。

待鳥園子
恋愛
半年に一度仕事を頑張ったご褒美に一人で高級ラグジョアリーホテルの泡風呂を楽しんでたら、いきなり異世界騎士が落ちてきてあれこれ言い訳しつつ泡に隠れた体をジロジロ見てくる話。

お見合いから始まる冷徹社長からの甘い執愛 〜政略結婚なのに毎日熱烈に追いかけられてます〜

Adria
恋愛
仕事ばかりをしている娘の将来を案じた両親に泣かれて、うっかり頷いてしまった瑞希はお見合いに行かなければならなくなった。 渋々お見合いの席に行くと、そこにいたのは瑞希の勤め先の社長だった!? 合理的で無駄が嫌いという噂がある冷徹社長を前にして、瑞希は「冗談じゃない!」と、その場から逃亡―― だが、ひょんなことから彼に瑞希が自社の社員であることがバレてしまうと、彼は結婚前提の同棲を迫ってくる。 「君の未来をくれないか?」と求愛してくる彼の強引さに翻弄されながらも、瑞希は次第に溺れていき…… 《エブリスタ、ムーン、ベリカフェにも投稿しています》

日常的に罠にかかるうさぎが、とうとう逃げられない罠に絡め取られるお話

下菊みこと
恋愛
ヤンデレっていうほど病んでないけど、機を見て主人公を捕獲する彼。 そんな彼に見事に捕まる主人公。 そんなお話です。 ムーンライトノベルズ様でも投稿しています。

5分前契約した没落令嬢は、辺境伯の花嫁暮らしを楽しむうちに大国の皇帝の妻になる

西野歌夏
恋愛
 ロザーラ・アリーシャ・エヴルーは、美しい顔と妖艶な体を誇る没落令嬢であった。お家の窮状は深刻だ。そこに半年前に陛下から連絡があってー  私の本当の人生は大陸を横断して、辺境の伯爵家に嫁ぐところから始まる。ただ、その前に最初の契約について語らなければならない。没落令嬢のロザーラには、秘密があった。陛下との契約の背景には、秘密の契約が存在した。やがて、ロザーラは花嫁となりながらも、大国ジークベインリードハルトの皇帝選抜に巻き込まれ、陰謀と暗号にまみれた旅路を駆け抜けることになる。

処理中です...