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第二章 ドキドキの同居生活
自分の身体で確かめてみると良い
しおりを挟む「まあ、後でじっくりしっかり話させてもらうから。ひとまず許す」
その“ひとまず”が怖すぎる。
「それでさ、ひなが魔力をコントロールするのに、魔力を感知しなきゃいけないのが必須で。そのコントロールの訓練に、カルにも参加してほしいんだよね」
俺? と言いたげに、カルナークが自分を指さす。
アレックスがうなずき、「お前がやらかしたおかげでの副作用みたいなもんだ」とニヤリと笑う。
強面の笑顔、ある意味怖い。
普段はすごくあったかい視線で見てくれるけど、なにかされそうな笑顔に見えてしまう。今日は。
「陽向の魔力だけだと、誰かの魔力に引っ張ってもらってっていうのがなかなか難しいらしい。特殊な魔力だからな。だが、お前は魔力の扱い関係に関しちゃ、相当に巧い。しかも、ちょっとずつ違和感がないように、まわりにもバレないようにと少量ずつ混ぜていった。陽向の体を覆っている魔力の至る所に、カルナークの魔力の痕跡が残っているらしい。ようするに、馴染んでいるから、カルナークがその魔力を操作して、陽向に意識させたりコントロール訓練のサポートをするのに準備万端な状態になっている。……ということだ」
「それと、それだけ馴染ませてあったら、カルがひなのサポートしてても、ひなにかかる負担も少ないだろうし、ひなが上手く扱えなくなった時に抑え込むことも可能だろう? ……ね? 出来るよね? カルだったら」
アレックスの説明の後に、ジークの命令に聞こえなくもないお願いっぽいのが含まれている。
こ、怖い。
カルナークは大丈夫かなと心配になって顔を覗きこめば、意外な顔をしていた。
「……カルナーク?」
キリリと、今まで見たことがない引き締まった表情。
真剣に二人の話を聞いている姿に、驚いた。
自分が怒られているって、やらかしたって、オロオロしているとばかり思っていたから。
「陽向……」
不意にあたしへ体ごと向きを変え、カルナークが頭を下げる。
「悪かった。悪意はなかった。これは本当。嘘じゃない。謝ったからって、やったことが帳消しになるとかぬるいことは望んでいない。陽向に言っていたように、お前の魔力が心地よすぎて、一回触れたら“もっともっと”って陽向の魔力に触れたくなっていって。――――止められなかった俺が悪い。でも……今後は陽向が魔力の訓練をするのに、俺が一番支えてやれる! こんなことになることを望んで馴染ませてきたつもりはなかったけど、陽向の力になれるなら俺の力を使いたいだけ使ってくれ。お前にだったら、俺のすべてをやってもいい!!!」
“お前にだったら、俺のすべてをやってもいい”
「な…………な、んってこと、いうのぉ……」
言い返したいのに、無自覚な爆弾発言の破壊力がすごすぎて、言葉の最後は蚊の鳴いているような声になってしまった。
「…………もう、やだあ」
両手で顔を覆って、三人に顔が見えないように隠す。
こういう台詞に免疫なし、異性にこういう感情を投げつけられたこともない、自分だけ特別扱いをされたこともない。
「カルナークのばかぁ…」
顔の熱が引かない。
「えぇー。なんでばかって言われてるの? 俺」
投下した本人は、ばかと言われた理由をわかっていない。
天然無自覚系ですか、この人。
「……ばか」
もう一回繰り返すと、「よくわかんないけど、ごめん。悪気ないんだよ、ほんと」って困ったような声で呟いた。
どうしていいかわからなくなって、顔を隠したままジークに聞いてみる。
「説明はわかったから……戻ってもいい? お部屋」
一人になりたい。今はこの場所にいるのは、ちょっと耐えられない。
「んー、まあいいけど。カルはまだ話があるから、部屋に帰るなよ」
とジークがいえば「俺が部屋まで送ろう」とアレックスの声がした。
すこし考えた後に、一回だけうなずく。
「顔を見せたくないんだろう? 俺が抱きあげていってやろうな」
なんて優しげな声が聞こえたと同時に、体がふわりと浮く。
これはこれで予想よりも、恥ずかしい。もう、なんでこうなるのー。
「あ、ちょっとアレク。動きがずいぶん早くないか?」
ジークがドアの前に立ちふさがり、部屋に戻るのを止められる。
「今は俺たちの感情よりも、陽向がどうしたいかを優先すべきだろう。それにジークはカルナークとここで待っていてくれた方がいい。部屋へ送っている間に、残りの話をしておいてくれないか」
抱きあげられて、耳のすぐそばでイケボが優しくあたしを護ってくれている。
(夢みたいなイベントが起きている気がする。ボイスレコーダーで撮っておきたいくらいいい声だった)
この場には不謹慎なことを脳内で考えつつ、アレックスの上着の胸元をちょっとだけつまむ。
「お願い、部屋に行かせて?」
胸元のシャツをつかんでいるあたしの手に、アレックスの手が一瞬重なる。片手で抱きあげているたくましさに、すこしドキドキした。
ドアノブに手をかけてアレックスが「すぐに戻る」と告げて、二人が残る部屋を出ていく。
高身長で、もちろん脚が長いアレックスは歩くのも速い。
……のに。
あたしの部屋までが、ずいぶんと遠い気が。
「アレックス?」
顔を隠していた手を外して、間近にあるアレックスの耳元に囁く。
強面の顔が、目が合った瞬間ふにゃりとだらしなく崩れる。
「へ?」
動揺を隠せないあたし。
アレックスって、こんな顔も出来る人だったの?
「自分で歩くよ、やっぱり」
身をよじって降りようとするけれど、たくましい腕の中から降ろしてはもらえないみたいだ。
「俺にまかせて、たまには甘えてくれていいんだからなっ」
すこし弾んだ声で告げたその言葉に、機嫌がいい時のお兄ちゃんを思い出してしまった。
「…………う、ん」
でも、上手に甘えることは出来ないあたしが返せる、精いっぱいの返事がこれだ。
遠回りしたような気がしたものの、部屋にちゃんと送り届けてくれた。
「それじゃ、またな」
ベッドにそっとあたしを運んで、少し乱れた髪を撫でて整えてくれ。
「ありがとう、アレックス」
あたたかくなった胸の奥。その気持ちを笑顔に込めて、感謝を伝えたら。
「イイコにしてるんだぞ?」
耳元で囁かれて、声の余韻が残ったのかと思うような感覚で。
頬に、キスされてた。
ピシリと固まってしまったあたしに気づくことなく、アレックスは鼻歌まじりで部屋を出ていく。
どの人も、日常のあいさつ感覚でいろんなものを投下しないでほしい!
抱えきれない情報を処理しきれないまま、ベッドで意識を手離した。
――――その日の夜。この世界に来て初めて、熱を出した。
気づいたのは、カルナーク。
あたしに馴染ませていた魔力のおかげで、というのは、若干複雑。
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