スパダリ猟犬騎士は貧乏令嬢にデレ甘です!【R18/完全版】

鶴田きち

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第二章 ドキドキの同居生活

贅沢な生活

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「おほほほほ、そうお気になさらず。若奥様は初々しいですねえ」
「そういう訳にはいかないわ。恐れ多いの」

 シャーロットはつぶやいた。

(複雑だわ……)
 ――この間まで贅沢とは無縁の生活をしていたのに。

 彼女は四人くらいは楽に眠れるほど、ゆとりのある天蓋付きのベッドから降りた。絨毯はもちろんふかふかである。ひだの寄る上品なカーテンがかかる大きな窓からは、明るい陽が差し込んでいる。それが彼女用に誂{あつら}えられた、サファイヤがはめ込まれたドレッサーの鏡を反射して、キラキラと光る。
 彼女が着ているのは、羽化したばかりの蝶のように柔らかいシュミーズである。胸元と裾には繊細で豪華なレースがこれでもか、とついている。

(慣れるなんて無理よ)

 シャーロットは、ふと羽根枕の側に置かれた本に目を止めた。まだ発売されていない外国の恋物語だ。オリヴァーがシャーロットが暇をしないように、と特別に用意させたものである。

(オリヴァー様……)

 彼女は恋しい彼のことを思い出す。

 ――地上に退屈した天使が、空に帰ってしまうと困るからね。

 と、オリヴァーはこの本をプレゼントしてくれた。初めて貰った贈り物に、シャーロットは感激した。それから毎晩本を抱きしめて眠っている。
 しかしそのような気遣いが出来る、優しい彼はまだ、ここに入ったことがない。未来の夫婦の寝室は別なのだ。

「私は没落貴族の娘なのよ。若奥様なんて身分じゃないわ」
「そうお気になさらず。オリヴァー様のご両親である旦那様ご夫妻も、『とうとう息子に花嫁がやって来た』と大喜びでしたよ」

 中年のメイドはさくさくとシャーロットにガウンを羽織らせた。シルクで出来ていて、細かな薔薇の刺繍が施されている。ひんやりとした質感で、梅雨が明けた今の時期にちょうどよい着心地だ。

「花嫁だなんて……まだ仮なのよ、仮」
 シャーロットは戸惑いながら腕を通す。こうやって着替えを手伝われることにも未だに慣れない。

「はいはい。さ、若奥様。湯浴みにいたしましょう。今朝は隣国の新しい髪軟膏が入ったんですよ。若奥様の御髪{おぐし}に塗って差し上げますね。そうすればもっとしっとりツヤツヤになりますよ。んもう、若奥様ったら素材がいいから手入れのしがいがあるってもんです。若旦那様も素晴らしい花嫁を見つけられましたよ」
「だからあのね、花嫁じゃないのよ。まだお試し婚約ってだけで……」
「はいはい。――エマ、ここはもういいから学校の準備をしなさい」

 中年メイドは脇に控えていた七歳くらいの少女に告げた。

(あ……エマ)

 エマは黒い髪を三つ編みにして、エプロンをつけている。瞳も同じ色だが、陰気な感じだ。少女はこくりと頷くとのそのそと歩き出した。

「エマ、大丈夫かしら」
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